基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 19 I テクノファ

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キャリアコンサルタントが知っているべき知識の一つとして、企業組織の雇用に関することを取り上げます。経営資源のなかで、もっとも重要で、他とは性質を異にする「人」について、ここでは、雇用管理の大切さと集団管理、個別管理それぞれの違い、ねらい、注意点などを諸理論を使って説明していきます。

1.他の経営資源と大きく異なる「人」
企業経営の資源は「人」、「モノ」、「カネ」、それに「情報」と「時間」と言われますが、「モノ」「カネ」「情報」「時間」を扱うのは「人」ですから、「人」がもっとも重要な資源であるということキャリアコンサルタントは理解する必要があります。そのため、従来は「人事・労務管理」と呼んでいましたが、最近では人材を人財(Human Capital)と呼んだり、人事・労務管理という一括した呼び方ではなく、人的資源管理(HRM : Human Resource Management)と人的資源開発(HRD : Human Resource  Development)と分ける場合があります。

人事・労務管理を簡潔に言えば、経営管理の内の「人」に関する部分と言うことができます。いわば、採用から退職に至る雇用に関して行う一連の管理施策ということです。その際、もっとも重視しなければならないことは、「人」と他の資源とはまったく異なるという点です。「人」は資源としてとらえると労働力ということになりますが、一人ひとりの労働者は感情を持った生身の人間であり、一人ひとりにはそれぞれの人生があり、一人ひとりは成長しようとする存在です。したがって、「人」を単なる労働力という認識しかできない場合には、一人ひとりの労働者の意思や気持ちを無視あるいは軽視することになります。キャリアコンサルティングは、そのような大きな誤りを招かないように個人と組織の共生が実現するよう支援することでもあります。そのため、キャリアコンサルタントには人事・労務管理のあり方について正しく理解することが求められます。

2.集団管理と個別管理
人事・労務管理には、大きく分けて集団管理と個別管理という2つの側面があります。集団管理とは、年齢別による管理、性別による管理、職種別による管理、職歴別による管理などのように、一括して管理することです。年功序列などはその典型で、他にも福利厚生管理、 労使関係管理、労働条件管理、安全衛生管理、賃金管理などは集団管理に該当します。一方、個別管理とは一括して扱うことができず、文字どおり個別に管理せざるをえないものです。採用、退職、異動、教育、訓練、育成、評価、目標管理、キャリア開発などは個別管理の対象となります。いわば、経営資源としての「人」を労働力として扱うのが集団管理、一人ひとりの成長に目を向けるのが個別管理と言うこともできます。

このように集団管理と個別管理に分けるのは、分類するのが目的ではありません。それぞれにはそれぞれのねらいがあり、それを間違えないためのものです。たとえば、福利厚生管理には福利厚生の施設あるいは制度、健康管理、各種の社会保険、財形制度、共済制度などが含まれ、制度設計の際には一括してとらえ、検討しますが、実際に運用するにあたっては個別に対応することが求められます。福利厚生制度のカフェテリアプランなどはその一例です。教育・訓練でも、レベリングを目的とした教育・訓練は集団管理的なものとなりますが、一人ひとりの能力を引き出したり、あるいは能力の向上を目的とする場合には個別管理的なものとならなければなりません。

しかしながら、日本の企業においては人事・労務管理は集団管理としてしか認識されていない場合が多く、それが原因で労働者のニーズと制度のミスマッチを招き、組織の活性化を阻害していることが多いようです。
たとえば、人事・労務管理はA.マズローの欲求5段階説との関連で理解しておく必要があります。生理的欲求、安全欲求、社会的(愛情・帰属)欲求を対象としているのが集団管理であり、自我(自尊・承認)欲求、自己実現欲求を対象とするのが個別管理ととらえることができますが、日本の場合には社会の大勢としても個別の企業においても、福利厚生に対するニーズが成長のために満たさなければならない欲求という状況はすでに終わっていますし、年齢が同じなら同じような処遇をしなければならない状況でもなくなっています。

3.マズ口-の欲求5段階説との対比
日本の人事・労務管理状況は、マズローの成長段階で言えば、集団管理に重きを置かなければならない段階は終わっており、今は自分らしく働きたい、自分らしさを発揮したい、あるいは自分の持ち味を生かしたい、自分にとって意味のある仕事をしたいという欲求(自尊欲求あるいは自己実現欲求)を満たそうというニーズが高まっています。このような多様化したニーズに応えようとするのが個別管理ですが、企業がこのニーズに的確に応えられない場合には一人ひとりのモティベーションは上がらず、創造性も発揮されず、自立性あるいは自律性も低く、組織の活性化も望めず、結果として生産性も向上しないということになります。

さらに、F.ハーツバーグの動機づけ・衛生理論との関連からとらえると、集団管理は衛生要因を対象としたものであり、個別管理は動機づけ要因を対象としたものということになります。つまり、衛生要因である賃金にしても福利厚生にしても、あるいは総合的な労働条件にしても満たされないと不満の要因になるものであり、ある程度満たされたとしても不満がなくなるだけのことです。一方、自分にとって意味のある仕事を担当することができ、権限も適切に委譲されれば、おのずと自分の成長につながるような高い目標を設定し、高い業績を目指すようになります。その人にとって意味のある仕事や適切な権限委譲が動機づけ要因となる所以です。つまり、自分が設定した高い目標を達成し、それが正当に評価された場合には達成感あるいは満足感につながることをキャリアコンサルタントは理解しましょう。その達成感あるいは満足感がその人を次のステップへ向かわせる動因になります。これがMBO(目標による管理)という経営理論の目指すところです。

その際、自分の仕事が自分にとって意味があるかどうか、あるいはどれだけの価値があるかを判断する基準は、自分の将来、つまりキャリアです。自分のキャリア開発を考えたとき、それにつながる場合は自ら動き、自分の能力をフルに発揮しようとしますが、自分にとってあまり意味や価値を感じられない場合には義務としてこなす程度になりかねません。言い換えれば、個別管理の柱となるのはMBO(目標による管理)とキャリア開発ということになります。したがって、企業の人事部門がMB0(目標による管理)という経営理論とキャリア開発の理念を理解し、それを反映した人事・労務管理が実践されるよう組織を支援することもキャリアコンサルタントの重要な役割ということになります。
(つづく)A.K

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