実践編・応用編

海外の社会福祉施策(アメリカその5)|キャリコン応用編15テクノファ

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■アメリカの社会保障施策(その5)

6 近年の動き・課題等
(1)年金
イ:社会保障年金近年、ベビーブーマー世代の大量退職等の要因で収支のバランスが崩れており、特に障害年金については、2016年には基金が枯渇し、現行の給付水準を維持できない状況に陥っていた。このため、2015年11月に成立した超党派予算法(BipartisanBudgetActof2015)により、2016年から2018年の3年間、社会保障税の税率のうち老齢・遺族年金に充てる分と障害年金に充てる分の配分を変更し、障害年金への歳入を増やすことにより枯渇を防いだ。ただし、これも一時的な問題の先送りに過ぎず、既述のとおり、2022年時点の推計では、老齢・遺族・障害年金全体でみると2035年に枯渇するとされている。2021年1月に就任したバイデン大統領は、経済的弱者に対する社会保障年金の増額と高所得者に対する社会保障税の税率引き上げ、低・中間所得者層の労働者に対する確定拠出年金へのアクセス向上等を掲げているが、これまで目立った動きは見られなかった。今後どのような議論が展開されるかは現時点では不明であるが、2021年11月の中間選挙で共和党が下院過半数を奪取し、議会が上下院でねじれた状態となった中で、調整はこれまで以上に難航することが予想される。

ロ:企業年金
(イ)DBプラン
特に複数事業主プラン(Multi employer Plan)の救済が課題となっている。当該プランは、複数の事業主が共働で単一の年金プランを提供するものであり、一事業主が単独で実施するプランに比べて、管理コストや事務負担等が軽減されるため、中小事業主にとっては導入しやすい年金プランである。同一産業内の事業者によって構成されることが多いことから、労働者にとっても同一産業内で転職する場合に影響を受けないというメリットがある。当該プランのマネジメントについては、通常の企業年金が受ける規制の適用が除外され、参加する複数の事業主とその労働組合の団体交渉によって規定される点に特徴がある。近年、数理の見込みの甘さや対象労働者の減少、投資損失等により、2020年の米労働省の年次報告では、約1,400のプランのうち約120のプランが危機的又は衰退的状況にあり、今後20年以内に破綻する可能性があるとされていた。

プランが破綻した場合に一定限度まで給付の保証を行う年金給付保証公社(PBGC)の資金も2026年には枯渇するとされ、警鐘が鳴らされていた。こうした課題に対して、長年、超党派で打開策が探られてきたものの、給付金の削減、保険料の引上げ、プランのガバナンスの改善を主張する共和党と、税金投入による労働者や退職者への犠牲の軽減等を主張する民主党との間で成案が得られることはなかった。しかし、2021年1月に下院上院ともに優位に立った民主党政権は、財政調整制度を活用し、同年3月、資金難に窮する複数事業主プランへの支援(860億ドル)を含む総額1.9兆ドルの「American Rescue Plan」を成立させた。当該支援により、各プランは2051年まで必要な給付を行うことができるようになるとされているが、複数事業主プランに内在する課題に正面から取り組んだものではなく、単なる問題の先延ばしでしかないとの指摘もあり、引き続き予断を許さない状況が続くものと予想される。

(ロ)DCプラン
近年、米国の確定拠出型プランの1つである401(k)プランでは、自動加入制度にターゲットデイトファンドやリエンロールメント制度を組み合わせることで、被用者の加入を促進し、老後の所得保障の確保を図っている。自動加入制度は、労働者が加入を明確に拒否しない限りは自動的に確定拠出型プランへ加入するという制度であり、確定拠出型プランへの加入率は、導入しない場合に比べ、飛躍的に上昇する。しかし、これにより、従業員の加入率が上昇するものの、加入後のプラン選択や拠出額などは、従業員次第となってしまうため、従業員の間で退職後の資金に差が出てしまうという問題がある。このため、自動加入制度と併せてターゲットデイトファンドを運用方法として提供している企業も多い。こうした取り組みによって老後の所得保障の向上を図っているものの、小規模事業主を中心に普及が十分でないといった課題があり、2019年12月に成立したSECURE法(Setting Every Community Up for Retirement Enhancement Act)では小規模事業主が自動加入制度を導入した場合の税額控除枠の拡大等が盛り込まれた。これに関連し、州レベル(オレゴン州やカリフォルニア州等)では、事業主が企業年金制度を提供していない場合、州独自のIRAに自動登録させる制度を設けているところもある。

オバマ政権時代の米国労働省は、このような州の取り組みを後押しする規則を示していたが、公的主体に不当に競争上の優位を与えるものである等とする金融機関等の反対の声も根強くあったため、共和党政権時に、当該規則は撤回された。バイデン大統領は、大統領選時の公約等において、自動加入制度等の退職後所得保障の充実を掲げており、オバマ政権時代の方針を再び志向していくことが予想されるものの、既述のとおり、連邦上下院のねじれた状況下にて、超党派の理解を得て成案をまとめることができるか注目される。

(2)医療保険・医療制度関係
2020年大統領選挙においても、医療制度改革のあり方は引き続き重要な争点となった。現職の共和党トランプ大統領は、「自由市場型のヘルスケアによる選択と競争の促進」(2020年大統領経済報告)において、①オバマケアは廃止し、医療保険の選択肢を拡大、②反競争法の強化、後発医薬品の承認の促進、価格及び品質の透明化、ワクチン製造の促進、医療提供者の裁量の強化等を進める考えを公表している。すなわち、法律による保険加入促進の義務付けや増税に頼らず、医療保険者や医療提供者間での競争原理の促進を徹底することで、雇用への悪化を避けながら、国民の負担を抑えつつ質の高い医療サービスを提供できると訴えた。これを裏打ちするように、選挙戦の最中、2020年7月と9月に薬価の引き下げを狙った大統領令を発出していた。一方、オバマ政権で副大統領を務めていた民主党のバイデン候補は、現行の従来のオバマケアを維持・拡充する「バイデン計画」を公約として打ち出した。バイデン計画は、現行のオバマケアでもカバーされていない層への適用拡大とともに、すでに民間保険でカバーされている層に対する様々な支援策も含まれていた。
主な項目は以下のとおりである。
①現在民間保険に加入している層も無保険の層も加入することができる新たなメディケアのような公的保険の新設。これにより、中小企業の救済にもつながる。
②税額控除の拡充による、事実上の保険料の引き下げと自己負担額の軽減。これにより、貧困層から中産階級にも及ぶ財政的な支援が拡充される。
③医療制度改革法(ACA)に定められたメディケイドの対象者拡充を拒否している14州が存在することで発生している推定490万人に対応するための公的オプションを提供。
④医療提供者による、患者が事前に知らされていない医療費の請求「サプライズ請求」を禁止する措置を導入。
⑤医療制度全体に独占禁止法を活用した競争原理の導入による価格の低下。
⑥メディケアが製薬会社と価格交渉することを禁止する法律を廃止。
⑦消費者が他国から薬を購入できるようにする。

なお、選挙戦当初、民主党内では、自己負担を無料で、国民全員が加入する単一保険者を創設する「Medicare for All」も提案されたが、現時点で民主党の総意となっているわけではなく、選挙公約である「バイデン計画」では、現行の民間保険の仕組みをなくしてしまうことになる「Medicare for All」のような抜本的な改革案ではなく、現行の仕組みを生かす現実的な公的保険の仕組みを新設する提案となっている。

大統領選挙が終了した11月10日、共和党が優勢の18州が提訴している医療制度改革法(ACA)の違憲性をめぐる連邦訴訟の審理が連邦最高裁で開かれた。この訴訟は、2017年12月に成立した税制改革法の附則において、医療制度改革法(ACA)の一部であった、個人が医療保険に加入しない場合に課される連邦税の罰則が廃止されたことにより、同法の全体が違憲になったとして、2018年2月にテキサス州が主導して提訴した連邦訴訟である。2審で同法の一部が違法であると判決され、2020年1月に連邦最高裁に上告されたが、2021年6月に訴えは棄却されている。また、2022年8月には、インフレ削減法(Inflation Reduction Act of 2022)が成立し、これまでにない薬価削減策が導入された。メディケア・パートB及びDにおいて支出の大きい一部の医薬品について保健福祉長官が価格交渉を行うことや、インフレ率を超える価格引き上げにリベートを求めること、メディケア・パートDの患者自己負担の年間上限を2,000ドルにすることなどが順次施行されることとなっている。

(3)新型コロナウイルス感染症の主な対策
米国における新型コロナウイルス感染症の累計感染者数は、2023年1月現在で約1.02億人、累計死者数は約110万人となっており、ともに世界最大である。感染状況については、2022年初頭には、BA.1系統を中心とするオミクロン変異による感染が急拡大していたが、3月以降は大幅な感染者の急増に直面することはなくなった。5月から8月にかけては、BA.4及びBA.5系統のオミクロン変異が1日当たり約10万人程度の感染拡大をもたらしたが、秋以降には、全米の陽性者数の報告が1日当たり数万人前後に落ち着いて推移している。2023年1月現在で感染の主流となっている変異は、BQ.1、XBB系統である。このような状況の下、バイデン政権は、2022年3月に「米国コロナ準備計画」を発表し、ワクチン接種による予防・治療薬による治療に重点を置いた平時(ニューノーマル)への移行に舵を切った。同時期に、各地方都市も、マスク義務やワクチン証明提示義務を次々に解除した。2022年8月には、CDCが新たな予防ガイダンスを発表し、濃厚接触者の隔離や6フィート(約1.8メートル)のソーシャルディスタンスの推奨を撤廃した。このような流れの中で、2022年6月には、米国入国前の検査義務も解除されるに至った。さらに、2023年1月には、コロナ国家緊急事態宣言及び公衆衛生上の緊急事態宣言を5月11日に解除することが発表された。また、ワクチンについては、2022年6月に、今後のワクチン接種の在り方について、FDAやCDCで議論が行われ、オミクロン対応型の更新されたワクチン(ファイザー/モデルナ)をブースターとして接種する方針が決定し、9月からその接種が開始された。一方で、米国民のオミクロン対応型ブースター接種状況は、人口比で15.3パーセントと低迷している。2023年1月現在では、ワクチン接種スケジュールの複雑さを簡素化するため、1年に1回、更新型ワクチンをインフルエンザワクチンと同時期に接種する方針を、FDAが検討している。

以上

(つづく)Y.H

(出典)
厚生労働省 2022年 海外情勢報告

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