実践編・応用編

アメリカ労働市場における新型コロナの影響|キャリコン応用編16テクノファ

投稿日:2023年12月2日 更新日:

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■アメリカにおける新型コロナウイルス感染症の労働市場への影響

今回は、番外編として、米国における新型コロナウイルス感染症の労働市場へのインパクトについて概観する。
米国では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中、「大辞職(The Great Resignation)」と呼ばれるような事象が発生した。しかし、その事象を確認するとそれは必ずしもパンデミックとともに始まったわけではなく、長期的な傾向にパンデミックが拍車をかけたということ等が指摘されている。

1 パンデミックの中での離職
米国労働統計局(U.S.Bureau of Labor Statistics, BLS)によると、2021年に4,700万人以上のアメリカ人が自発的に離職し、新型コロナウイルスによって拍車のかかった今までに例を見ない大量離職となった。これは広く「大辞職(The Great Resignation)」と呼ばれている。しかし、過去十数年の就業者数を振り返ると、2021年の経験はパンデミックによる短期的な混乱ではなく、むしろ長期的な傾向の継続であることがわかる。2009年から2019年において平均月間離職率は年々上昇し、その後、2020年には新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした不透明感のために、多くの労働者が自分の仕事にとどまり離職率が低くなった。だが、2021年に景気刺激策が実施され不透明感が和らぐと、記録的な数の労働者が離職していわゆる「大辞職(The Great Resignation)」が発生した。これには、もしパンデミックが発生していなかったなら2020年に離職していたかもしれない多くの者が含まれていた。この「大辞職(The Great Resignation)」には、次の5つの要因が組み合わさって影響をもたらしていることが指摘されている。

①引退(Retirement):高年齢労働者の早期退職が増加した。家族とより多くの時間を過ごすことや仕事以外の楽しみを見つけることがその理由となっており、また、コロナの健康への深刻なリスクもその一因となっている。

②移転(Relocation):地方への移転はそれほど重要な位置を占めるわけではない。2021年における全体の移転率はここ70年以上で最も低くなっている。

③再考(Reconsideration):パンデミックによってもたらされた多くの死や重篤な疾病は、人生における仕事の役割を考え直すきっかけとなった。男性よりも女性の方が、また年配者よりも若年層の方が多くの影響を受け、離職を決意した。コンサルティングや金融などホワイトカラー業界の若手には燃え尽き症候群も見られた(コロナ禍以前であれば仕事にやりがいを感じた顧客とのやりとりの喪失等)。

④やり直し(Reshuffling):すべての労働者が労働市場から去るわけではなく、多くの労働者が同じ業界内での異なる仕事への転職等を行っている。多くの業界で入職率が離職率を上回っており、これは賃金上昇率が高いために新たな応募者が欠員の出た仕事に集まったり、十分に魅力のある仕事であれば引き受けてもいいと思う有能な労働者が大勢いることを表している。

⑤嫌気(Reluctance):職場での新型コロナウイルスへの感染に対する恐れから復帰したがらない労働者が多く存在している。在宅勤務を選択する人やハイブリッドな働き方が認められなければ仕事を辞める人もいる。

2 離職の業種別の傾向
このパンデミックの中での離職は、業種によっても傾向が異なる。以下、製造業/建設業とレジャー産業を比較した分析がなされている。これによると、「大再配置(The Great Reallocation)」と呼ばれるような事象がレジャー産業において見られる。2021年の1月~11月の状況を見ると、製造業/建設業の転職者の増加は離職者の増加よりかなり少ない。一方、レジャー産業の転職者は離職者と同等の割合で増加している。このことから、レジャー産業のほとんどの離職者は転職によるものと考えられる。また、製造業/建設業の名目賃金の伸び率は約4%にとどまるのに対して、レジャー産業では13%近くも増加している。実質賃金では製造業/建設業は約2%減少したが、レジャー産業は6%近く伸びている。転職による労働市場の流動性の上昇は賃金上昇を促す効果がある。2021年1月以降離職者数はかなり増加したが、レジャー産業など特定の業界ではこの離職者数の増加は転職の増加によるものであり、実質的な賃金の上昇をもたらしている。これにより、製造業/建設業は「大辞職(The Great Resignation)」であるのに対し、レジャー産業は「大再配置(The Great Reallocation)」であると言えよう。

3 労働者の意識の変化
パンデミックの中での離職は、労働者の意識にも変化をもたらしている。例えば、2022年5月のABCニュースの記事では、次のようなことが紹介されている。2021年には記録的な最高値となる4,700万人以上が離職し、2022年3月には450万人以上が離職している。そして、「大辞職(The Great Resignation)」と呼ばれるような状況となり、人々の労働観にも変化が起きたと考える人も多くなった。パンデミックにおけるリモートワークには「大辞職(The Great Resignation)」に弾みをつける働きがあり、(リモートワークであれば転職の際に住居を移動する必要がなく、)転職に対する障壁が低くなった。今回のパンデミックで、根本から人々の働き方は変化した。

ここでは4つのシグナル(退職予備軍、燃え尽き症候群の蔓延、仕事との関係を見直す人々、リモートワークの機会)が指摘されており、パンデミックから脱却しつつある中、多くの人々が仕事の意味を考え直し、離職の計画を実行に移すのは理にかなっていると考えられている。そして、労働者が望むものと組織のリーダーが望むものの間に大きな隔たりが生じていると指摘されている。パンデミックにおいてはリモートワークが仕事の仕方として主流になったが、リモートワークが可能な人もいる一方で、第一線で働く人はパンデミックにおいても実際に現場で働き続けなければならず、かつ、一般的に現場で働く仕事はリモートで行う仕事よりも賃金が低い。そこで働く多くの人は不当な扱いを受けていると感じて嫌気がさしており、別の仕事が見つかり同時に昇給もしてもらえるので仕事を辞めていく。これに対応するため、会社は半永久的なリモートワークやハイブリッドな働き方を取り入れ、才能ある者を採用、維持しようとしていると指摘されている。また、同じく2022年5月のニューヨーク・タイムズの記事では、次のようなことが紹介されている。2021年には4千万人以上もの人が離職し、その多くが小売業や接客業の人々であった。
こうした状況は「大辞職(The Great Resignation)」と呼ばれ、その後「大再交渉(The Great Renegotiation)」「大再配置(The Great Reshuffle)」「大再考(The Great Rethink)」とも呼ばれるようになった。しかし、人々は完全に退職したわけではなく、より高い収入、安定した時間、柔軟な働き方など、収入を得るのによりふさわしい方法に気づいた。そして、会社により多くを要求し徐々に獲得しつつあるようであると指摘されている。アメリカの至る所で就職する機会はいくらでもあり、以前であれば我慢しなければならないことも拒否できるようになった。これは仕事に対する拒否反応ととれるが、豊富にある転職の機会を利用していると考えられる。2021年の離職者の多くが実際には転職者なのは、離職率と転職率の相関関係がほぼ1対1であることに表れている。転職はレジャー産業、接客業、小売業で多く、転職するとたいてい収入は増える。完全に退職してしまったのはごく一部の人で、その大部分は退職間近の高齢者であることが指摘されている。また、実際に離職するのではなく、離職するぞと強気な態度がとれる従業員は、自分たちの交渉力を自覚し、特に柔軟性のある働き方について交渉力を行使していることが指摘されている。

4 米国労働統計局(BLS)による分析
パンデミックの中での離職については、以上のようなことが報じられているところであるが、最後に、米国労働統計局(BLS)による分析をいくつか紹介する。

2022年6月の「U.S. labor market shows improvement in 2021, but the COVID-19 pandemic continues to weigh on the economy」においては、2021年では人口動態調査での雇用や失業に関する主要な指標は改善を見せていること、2021年のどの四半期においても全米の失業率は低下傾向をたどり、年末には4.2%となったこと、また失業率はすべての主な人種と民族において、また、男性及び女性のいずれにおいても低下したことが指摘されている。また、すべての職業で失業率は低下しており、サービス業で最も急激に低下したと指摘されている。また、2022年7月の「The “Great Resignation” in perspective」においては、最近の離職率の上昇すなわち「大辞職(The Great Resignation)」と呼ばれる現象に関して幅広い見方が提供されている。そして分析された過去のデータから、最近の離職率は確かに21世紀としては高いが、歴史的に見ると最も高いわけではないこと、それにも関わらず、離職の速度は労働市場の逼迫度のみから予想されるよりも速く上昇したようだと指摘されている。さらに、2022年11月の「Empirical evidence for the “Great Resignation”」においては、新型コロナウイルス感染症のパンデミック時に米国で展開された「大辞職(The Great Resignation)」現象の検証が行われ、経済成長率をコントロールした上で分析を行った結果、今回のパンデミック時(2020年3月から2022年1月まで)の離職者数と離職率は、大不況(リーマン・ショック)時(2007年12月から2009年6月まで)やドットコム不況時(2001年3月から2001年11月まで)に見られたものと比べて加速度的な上昇が見られる等、統計上有意な差があることが明らかとなった。

また、パンデミック時の離職者数は、経済全体で見た場合に限らず、米国国勢調査の4地域別や、企業規模別においても高い水準にあることが確認された。大不況(リーマン・ショック)及びドットコム不況という過去のマクロ経済の混乱と比較した今回の「大辞職(The Great Resignation)」の経験を考えると、コロナ禍で生じた人件費率の上昇圧力が継続することは、テクノロジーによる省力化策などへの投資を加速させるきっかけになるかもしれないことが指摘されている。将来の別のパンデミックの発生に敏感になった公共機関や企業のリーダーは、現在のパンデミックと同様の経済的影響の再発を防止するため、省力化技術への投資を増やす可能性があるのではないか、したがって、組織は、リスクマネジメントと業績目標を満たす方法で、ポストパンデミックの従業員に対応するために仕事の再構築や職場の再設計をする必要があると指摘されている。

以上

(つづく)Y.H

(出典)
厚生労働省 2022年 海外情勢報告

-実践編・応用編

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