実践編・応用編

海外の労働施策(フランスその1)|キャリコン応用編17テクノファ

投稿日:2023年12月4日 更新日:

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■フランス共和国(French Republic)の労働施策(その1)

2022年5月に成立した第2期マクロン政権は、アフターコロナの経済回復を受けて、任期中に完全雇用を達成するという目標を掲げ、失業保険・労働市場改革や職業教育の拡充、雇用関連行政サービスの刷新などに取り組む姿勢を見せている。一方で、ロシアのウクライナ侵略に伴い、天然ガス等のエネルギー価格を始めとする資源、原材料、食料、物流費等の価格上昇により、急激なインフレが家計だけでなく、企業の利潤を圧迫しているため、政府は対策の拡充を余儀なくされている。
同年8月には「購買力確保のための緊急措置法(loi portant mesures d'urgence pour la protection du pouvoir d’achat)」およびそれを可能とする今年度修正予算が成立した。また、新型コロナウイルス感染症拡大以来、テレワークの急速な普及やプラットフォーム労働など、労働環境が大きく変わりつつあり、新たなトレンドへの対応を迫られている。

1.概要
(1)経済情勢
2022年はオミクロン株の感染拡大と、ロシアのウクライナ侵略によるエネルギー価格の高騰等がフランスの経済活動の足かせとなり、第一四半期は前期比-0.2%と落ち込んだ。第二四半期には観光需要の増加などで0.5%の伸びを達成したが、第三四半期は再び鈍化し、0.2%となった。フランス国立統計経済研究所(INSEE)は10月6日に発表した定期経済予測で、第4四半期は前期から横ばい(0.0%)で安定すると予測し、2022年通年の実質GDP成長率を2.6%から2.5%に下方修正した。これは政府が予算法案で示した公式予測よりも0.2ポイント低い。

(2)所管省庁等
労働・完全雇用・社会復帰省(Ministère du Travail, du Plein emploi et de l’Insertion)が管轄している。

2.雇用・失業対策
(1)雇用・失業情勢
2022年のフランスの労働市場は、インフレの亢進やロシアのウクライナ侵略の影響にもかかわらず堅調で、INSEEは7月に発表した推測で、2022年中に26万件の新規雇用を達成できるとしており、そうなれば2019年末から雇用が100万件近く増えたことになる。とくに政府が力を入れている若者の交互訓練契約支援が奏功しているとみられている。一方で製造業やサービス、建設の分野では、雇用困難が続いており、政府は失業保険改革や労働市場に即した求職者支援を通じて、さらなる失業率の低下を目指している。

(2)実施機関等
国の機関である雇用局(Pôle emploi)が職業紹介、求職者登録及び失業保険の給付業務等を行っている。失業者は雇用局で求職者リストに登録を行い、個々の状況によりカテゴリーA~Eに分類される。職業紹介相談員とカウンセリングを行い「個別就職計画(PPAE: projet personnalisé d'accès à l'emploi)」を作成し、同計画に基づいて職業訓練等の各種支援を受ける。また、正当な理由なく個別就職計画の作成や雇用局が提案した求職活動支援サービスの利用を拒否し、2度にわたり適切な求人を拒否した場合は、求職者リストから削除され、雇用復帰支援手当(ARE:allocation d'aide au retour à l'emploi)の支給が停止されることになっている。政府は雇用局と雇用関連の行政サービスを一体化して、フランス・トラヴァイユ(France travail)に改編すると予告している。

(3)フランスの主要な雇用形態
イ 期間の定めのない労働契約(CDI:contrat de travail à durée indéterminée)
雇用期間を定めない通常の雇用形態。労働法典において「雇用関係の標準的かつ一般的な形式」と規定されており、期間の定めのある労働契約や派遣労働契約など他の雇用形態をとることが正当化できない限り、期間の定めのない労働契約を用いることが必要である。使用者は雇用するに当たり、原則2か月の試用期間を設けることができる。3つの要件(①労働協約に規定がある ②雇用契約に記載されている ③被用者の了解)を満たした場合、最大2か月の延長が可能。

ロ 期間の定めのある労働契約(CDD:contrat de travail à durée déterminée)
不在労働者の代替や一時的な事業規模の拡大等による労働力の不足等を理由に認められる雇用形態。雇用期間は原則として更新を含めて18か月以内。契約期限が到来した時点で自動的に契約は終了するが、期限終了後も業務が継続している場合は期限の定めのない労働契約に移行する。なお、契約を終了する場合は雇用の不安定性を補償するため給与総額の10%以上の手当を支給することとされている。

ハ 派遣労働契約(contrat de travail temporaire)
不在労働者の代替や一時的な事業規模の拡大等による労働力の不足等を理由に認められる派遣会社(entreprise de travail temporaire:ETT)を介した雇用形態。雇用期間は派遣内容によって異なるが、原則として更新を含めて18か月以内。派遣先の従業員と同等の賃金を支給するほか、契約終了時に派遣先と期間の定めのない労働契約が結べない場合や次の派遣先が決まっていない場合は雇用の不安定性を補償するため給与総額の10%以上を支給することとされている。

(4)雇用維持・促進施策
長期失業者等の就職困難者に対して国と企業等が連携して各種支援を行っている。主な施策は以下のとおり。

イ 雇用能力経路(parcours emploi compétences)
国が非営利事業者に雇用助成金を支給し、就職困難者の雇用や職業訓練を促進する制度。就職困難者は非営利事業者と期間の定めのない労働契約または9か月~12か月の期間の定めのある労働契約を締結し、就労しながら職業訓練等を受ける。国は事業者に対して法定最低賃金の30%~60%を助成するとともに、職業訓練費用を負担する。

ロ 経済活動を通じた社会参入支援(IAE:insertion par l’activité économique)
社会参入支援を専門に行う事業者への助成制度。事業者は国と協定を締結して、就職困難者を受け入れ、就職困難者が社会的能力・職業能力を身に着けられるように支援する。国は事業主に対して就職困難者に提供するポストに応じた助成金を支給する。

(イ)参入支援企業(EI:entreprise d’insertion)による社会参入支援
就職困難者は社会参入を支援する企業と最大24か月の期間の定めのある労働契約を締結し、週20時間以上、35時間以内の労働に従事しながら、職業訓練やその他のサポートを通じて社会参入を目指す。参入支援企業は社会保険料が減免されるほか、1ポストにつきフルタイム換算で年間11,381ユーロが助成される(2022年5月1日時点)。助成金の額は年1回、法定最低賃金(SMIC)を考慮に入れて改訂される。

(ロ)参入支援派遣企業(ETTI:entreprise de travail temporaire d’insertion)による社会参入支援
就職困難者は派遣労働のあっせんを行う企業と最大24か月の派遣労働契約を締結し、派遣先で就労する。参入支援派遣企業は社会保険料が減免されるほか、1ポストにつきフルタイム換算で年間4,366ユーロが助成される(2022年5月1日時点)。

(ハ)参入支援作業所・現場(ACI:atelier et chantier d’insertion)による社会参入支援
就職困難者は地方自治体や非営利団体等が管轄する施設と4か月以上24か月以内の期間の定めのある労働契約を締結し、週20時間以上、35時間以内の労働やその他のサポートを通じて社会参入を目指す。参入支援作業所・現場は1ポストにつきフルタイム換算で年間21,850ユーロが助成される(2022年5月1日時点)。

(ニ)仲介団体(AI:association intermédiaire)による社会参入支援
就職困難者は非営利の仲介団体と最大24か月の派遣労働契約を締結し、紹介された派遣先で就労する。仲介団体は社会保険料が減免されるほか、1ポストにつきフルタイム換算で年間1,479ユーロが助成される(2022年5月1日時点)。

ハ 新型コロナウイルス下における主な雇用維持政策
2020年3月以降、新型コロナウイルス感染拡大に伴う特例措置がとられていたが、一部の例外を除き、2022年中に順次終了した。主な政策とその変遷は下記の通り。

(イ)一時帰休補償助成金(allocation d’activité partielle)
不景気や災害など経済情勢悪化を理由として、企業が事業運営の短縮あるいは一時停止を余儀なくされ、労働時間の削減や事業所の一時閉鎖を実施した場合に、国が事業主に対して助成する制度。2020年2月までの制度では、企業は従業員に賃金総額の70%を支払う義務があり、国(及び失業保険)から最低賃金に基づいた金額7.74ユーロ/時間(従業員数により異なる)を助成していた。
新型コロナウイルス感染拡大が本格化した2020年3月以降、感染状況に伴い、休業補償割合と国の助成率が調整された。

一時帰休保証助成金特例措置による給付内容の変遷においては、2020年3月から特例措置が設けられた。観光、宿泊、外食、文化、運輸、スポーツ、イベント、その他売り上げが著しく低下している業種(売上8割減)は特定業種と定められ、他業種より優遇された助成率が適用された。特定業種はリスト化され、感染状況に伴い改訂された。また、行政上の感染防止策が実施された地域において事業活動が停止した企業を対象に、特定地域企業として優遇助成が得られる特例措置も講じられた(2022年4月まで)。国からの助成として2020年は255億ユーロ、2021年92億ユーロが支出された(財源は失業保険(社会保障会計を含む)および一般財源)。新型コロナウイルス感染拡大による特例措置は、2022年7月末に終了した。

(ロ)長期一時帰休制度(Activité partielle de longue durée)
2020年6月からコロナ禍当初の特例措置の対象が限定され、それ以外の企業に対しての助成率が引き下げられた。その代替として、2020年7月から、より高い水準の賃金を保証するために「長期一時帰休制度」が導入された。制度利用の条件として①産業別・グループ・企業又は事務所レベルでの団体合意が必要、②雇用維持の確約が必要、③労働時間短縮はフルタイム労働時間の40%、等がある。

企業は総額賃金の70%を最低補償し(法定最低賃金の4.5倍を上限、時給額はネットで8.37ユーロ以上)、政府は企業が支払った時給額の85%を補填する。この制度により解雇手続きをすることなく、また、新型コロナウイルス危機終息後の活動再開に向けた待機期間中に、戦力を失うことなく時間短縮を導入できる。適用期間は36ヶ月間で最長24ヶ月(連続・非連続を問わない)。この制度の適用申請は2022年12月末に終了した。

(5)若年者雇用対策等
イ 交互訓練契約

(イ)見習い契約(contrat d’apprentissage)
職人の育成を目的とした「見習い技能者養成センター」(CFA:centre de formation d’apprentissage)に所属する訓練生が使用者と見習い契約を締結し、職場や同センターでの訓練を通じて職業資格の取得を目指す制度。契約期間は職種や目指す職業資格に応じて通常1年~3年で、年齢や見習い期間に応じて法定最低賃金の27%~100%の給与が支給される。原則として16歳~29歳の若年者を対象とした制度であるが、障害のある者及び起業を目指す者の場合は年齢の制限はない。

(ロ)熟練化契約(contrat de professionnalisation)
学業を修了した若年者が使用者と期間の定めのない労働契約または原則6~12か月(資格によっては36か月)の期間の定めのある労働契約を締結し、職業訓練を受けながらその職業資格に関連する仕事に従事する。年齢や能力に応じて法定最低賃金の55%~100%(または労働協約で定められている最低給与の85%のうち高額な方)が支給される。16歳~25歳の若年者または26歳以上の求職者で積極的連帯収入(RSA)、特別連帯手当(ASS)、成人障害者手当(AAH)のいずれかを受給している者などが対象となる。

(ハ)職業訓練生を受け入れる事業主への助成制度
18歳未満の若年者と見習い契約(contrat d’ apprentissage)または熟練化契約(contrat de professionnalisation)の契約を結んだ事業主に対して一律5,000ユーロ、18歳以上の若年者と同契約を結んだ事業主に対して一律8,000ユーロの助成金をそれぞれ支給する特別制度。コロナ禍の若者支援として導入され、2022年末まで延長された。

ロ 雇用と自立に向けた支援コース(PACEA:parcours contractualisé d’accompagnement vers l’emploi et l’autonomie)
若年者の自立と就労に向けたサポートのため、16歳~25歳の若年者に24か月を上限に、若年者向け社会参入・雇用相談機関となる地域ミッション(missions locales)を介して複数の支援プログラムを提供する制度。

(イ)若年者雇用契約(CEJ:Contrat d’engamement jeune)
「若年者向け所得補償(Garantie jeunes)」に代わり、2022年3月から始まった制度。PACEAの中でも、とくにニート対策に特化したプログラム。早期の就業を目指し、併走型の支援を提供する。2022年9月末時点で、制度開始以来、都市政策優先地区(Quartiers prioritaires de la politique de la ville:QPV)および農村活性化地区(zone de revitalisation rurale:ZRR)を中心に178,000人の若者が契約を結んだ。契約した若者は、平均して週16時間の併走型支援を受けている。

a 対象者
・16~25歳の若年者、あるいは30歳未満の障害者
・現在就職しておらず、教育・職業訓練にも参加していない者

b 特長
・個々人に合わせたコースを6~12か月提供。
・就職するまで専任相談員がつく
・週15~20時間の、さまざまな活動(資格取得、社会貢献活動、インターンシップ、等)からなる集中プログラム
・ひと月当たり最大520ユーロの手当

ハ 経済活動を通じた社会参入支援(IAE jeunes)
生活に困窮した若年者は経済活動を通じた社会参入支援を優先的に利用することができる。

以上

(つづく)Y.H

(出典)
厚生労働省 2022年 海外情勢報告

-実践編・応用編

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