実践編・応用編

海外の労働施策(フランスその2)|キャリコン応用編18テクノファ

投稿日:2023年12月6日 更新日:

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■フランスの労働施策(その2)

雇用・失業対策(つづき)
(6)高齢者雇用対策
労働法典によって広範な年齢差別が禁止されているが、その一方で使用者は労働者が70歳に達した場合に本人の意思に関係なく退職を強制することができる。70歳未満の労働者については、原則として年金の満額支給開始年齢(1955年以降に生まれた者であれば67歳)に達した労働者が承諾した場合にのみ退職を推奨することが認められる。しかし、労働者はこれを受け入れる義務はない。

・シニアCDD(CDD senior)
高齢者を対象とした期間の定めのある労働契約で、雇用局(Pôle emploi)に3か月以上登録して就職活動をしている者、または経済的理由により解雇され職業安定化契約(CSP:contratde sécurisation professionnel)を締結した57歳以上の者が最長18か月まで(1回のみ更新可能)民間企業と締結することができる。なお、シニアCDDは一般の期間の定めのある労働契約とは異なり、対象業種や期間の定めのある労働契約を利用する理由は問われない(農業部門は別規定あり)。

(7)障害者雇用対策(OETH:obligation d'emploi des travailleurs handicapés)
労働法典では障害を理由にした直接的・間接的差別が禁止されている。従業員20人以上の企業では全従業員の6%以上の障害者を雇用することが義務付けられている。
達成できない場合は障害者職業参入基金管理運営機関(Agefiph: association de gestion du fonds pour l'insertion professionnelle des personnes handicapées)により、達成できなかった障害者雇用数×基準額分の負担金が徴収される。2020年より法定障害者雇用率が事業所別から企業別に変更になったとともに、労働力人口に占める障害を持つ労働者の割合に照らして5年ごとに見直すこととなった。また、従業員20人未満の企業も、障害者雇用実績の開示義務が課せられた。

(8)失業保険制度等
政府が2019年から着手していた失業保険制度改革は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて導入が延期されていたが、経済状況の改善により、2021年10月~12月にかけて実施された。2021年12月1日以降に雇用契約が終了した場合の規定は次の表の通り。

(9)職業能力開発
イ 「能力開発投資計画(PIC)」
「能力開発投資計画(PIC)」はフランス政府が2017年末に発表した「2018~2022年大型投資計画」の柱の一つ。無資格者や若年者、特に障害者、QPVやZRRの住人に対する職業教育の充実を図り、長期的雇用を実現する。さらに、フランスにおける今後の経済を支えるため、将来性のある職種に対象を絞る。とりわけエコロジー化関連分野、デジタル化関連分野、および介護・医療分野、新型コロナウイルス感染症からの再興に際し躍進が期待される分野(観光、メーカー、農業、農産物加工など)に係る職業教育を拡充する。これにより2020年以降、毎年10万件の職業教育プログラムを提供することとしている。

ロ 訓練を受ける権利
職業訓練を受講する権利が付与される制度として、労働時間に応じて付与される個人訓練口座(CPF:compte personnel de formation)及び職務の危険性に応じて付与される予防職業口座(C2P:compte professionnel de prévention)がある。両者を一括管理する「活動個人口座(CPA:compte personnel d'activité)」を開設すると、ウェブサイトや携帯電話のアプリを通じて保有する権利の確認及び利用が可能となっている。

(イ)個人訓練口座(CPF:compte personnel de formation)
個人の発意で職業訓練を受講することができる制度で、フルタイム労働者には年間500ユーロ(低技能者、障害のある労働者には800ユーロ)分の訓練を受講することができ、5,000ユーロ(低技能者、障害のある労働者は8,000ユーロ)まで貯蓄できる。パートタイム労働者もフルタイムの2分の1以上の勤務時間であれば、フルタイム労働者と同額の支給を受けることができる。

(ロ)予防職業口座(C2P:compte professionnel de prévention)
夜間勤務や極端な低・高温下での勤務など労働法典に規定されたのリスク因子にさらされた実績に応じて、配置転換のための職業訓練の受講や、休息をとるためのパートタイム労働、年金受給開始を早めるといった措置を利用できる。

ハ 雇用局による失業者向け制度
(イ)「提携職業訓練(AFC:action de formation conventionnée)」
雇用局が求職者の職業能力と地域で求められている職業能力を考慮して選定した提携教育機関で訓練を受講できる制度。求職者は「継続職業訓練生(stagiaire de la FPC: formation professionnelle continue)」という身分で1人当たり平均600時間の訓練を受講する。訓練費用は雇用局が全額負担する。

(ロ)「採用準備訓練(AFPR:action de formation préalable au recrutement)」
応募可能な短期契約(6か月以上12か月以内)の求人要件を満たす職業能力を身につけるための訓練制度。企業と雇用局との間で、訓練の目的、内容、期間、費用負担、訓練後の雇用について協定を結び、求職者は「継続職業訓練生(stagiaire de la FPC)」という身分で訓練を受講する。訓練時間は最長400時間。自社あるいは訓練機関の訓練終了後に求職者を採用した場合、雇用局が訓練費用を支給する。

(ハ)「即戦力養成訓練(POE:préparation opérationnelle à l’emploi)」
応募可能な長期契約(12か月以上またはCDI)の求人要件を満たす職業能力を身につけるための訓練制度。企業と雇用局との間で、訓練の目的、内容、期間、費用負担、訓練後の雇用について協定を結び、求職者は「継続職業訓練生(stagiaire de la FPC)」という身分で訓練を受講する。訓練時間は最長400時間。自社あるいは訓練機関の訓練終了後に求職者を採用した場合、雇用局が訓練費用を支給する。

ニ 在職者向け制度
(イ)職業移行のための訓練休暇(projet de transition professionnelle)
24か月以上の就業経験のある労働者が、個人訓練講座(CPF)を利用してキャリアアップなどを目的とした職業訓練を受ける際、有給休暇を取得できる制度。2019年に廃止された職業訓練休暇(congé individuel de formation)の後継制度で、休暇期間は受ける訓練により異なる。職業移行のための訓練休暇に関わる負担金は、2020年1月からは地域圏全産業協議会(commission paritaire interprofessionnelle régionale)が管理している。

(ロ)職種転換/キャリアアップのための交互訓練(Pro-A)
職種・職業変更やキャリアアップのために、個人訓練口座(CPF)を利用して勤務しながら訓練機関や企業実習を受け、職業資格を取得する制度。原則として期間の定めのない労働契約の労働者で、本人の職業資格が学士レベルより低い者が対象。訓練期間は原則6~12か月。労使によって設立された職業能力開発指導機関(OPCO:opérateurs de compétences)が管理運営する。

ホ IT教育
コロナ禍で、若者はもちろん成人の間でもデジタルデバイドが浮き彫りになったITスキルの欠如は仕事上、大きなハンディキャップになりかねず、政府は「就職のためのITパス計画」を導入し、仕事で使えるITスキル習得の促進を図っている。オンラインITスキル診断(PIX)を受け、不十分と診断されると、個人訓練講座(CPF)に自動的に初歩コースの受講料がプラスされ、当コースを受講するとビジネスで必要な基礎知識を身につけることができる。また、資格や職歴のない若年者にグランド・エコール・ニューメリック(Grande École du Numérique:GEN)でのIT教育を提供し、社会参加の促進や将来性のあるIT分野の資格取得の実現を目指す。2021年のGEN課程の修了者および在籍者は13,612人、2016年以来の受講者数は39,233人に達している。

ヘ 職業訓練負担金(contribution formation)
企業は職業訓練制度を支えるために一定の職業訓練負担金を納付する必要があり、従業員10人以下の企業では前年度の賃金総額の0.55%、11人以上の企業については1.00%となっている。2022年より社会保険料徴収機関(URSSAF:unions de recouvrement des cotisations de sécurité sociale et d'allocations familiales)が負担金の徴収と管理を行っている。企業から徴収された職業訓練負担金は訓練の運営費や外部の教育訓練機関が提供する訓練コースを受講した際に支払う受講料、訓練期間中の従業員の給与等に充当される。

(10)外国人労働者対策
フランスでは第二次世界大戦後の経済成長期にスペインやポルトガル、マグレブ諸国(特にアルジェリア)等から積極的に外国人労働者を受け入れてきたが、第一次石油危機を契機に新たな流入を抑制しつつ、正規滞在移民の社会統合を柱とした政策を実施した。その後、2006年に成立した移民及び統合に関する法により、フランスの経済・社会発展への貢献が期待できる高度外国人材については積極的に受け入れる一方、それ以外の移民については滞在条件を厳格化する方針をとっている。

イ 労働を目的とした滞在許可証
(イ)「賃金労働者」資格の滞在許可証(賃金労働者、臨時労働者)(carte de séjour 《salarié》《travailleur temporaire》)
フランスで就労する一般労働者向けの滞在許可証。使用者が事前に内務省のサイトで雇用申請し、受入許可を得る。賃金労働者は滞在許可証の有効期間は12か月で、更新可能(更新時にCDIで雇用されていれば、4年間の滞在許可が与えられる)。更新時に失業中で、雇用局に登録して手当を受給している場合、有効期限1年の臨時滞在許可証が与えられる。1年後に就業していなければ、失業手当の受給期間が切れるまで、再度臨時の滞在許可証が支給される。臨時労働者は滞在許可証の有効期間は12か月で、契約期間または出向・派遣期間と同期間まで更新可能。

(ロ)「季節労働者」資格の滞在許可証(catre de séjour pluriannuelle《travailleur saisonnier》)
3か月以上の季節労働契約を交わした労働者向けの滞在許可証。使用者のオンライン事前申請と内務省の受入許可が必要。1年間に通算6か月まで滞在・就労できる。有効期間は最高3年間で、更新可能。

ロ 高度人材パスポート(passeport talent)等の創設
とくに高度な資格を有する者、投資家、起業家、著名人など、フランスの競争力に貢献する可能性のある外国人に対して、最大4年まで滞在を認める滞在許可証。高度人材パスポートは職業に応じて分類されており、主なものは以下のとおり。

(イ)「高度人材パスポート:欧州ブルーカード(carte bleue européenne)」
高等教育を3年以上修了したまたは職業経験が5年以上あり、1年以上の雇用契約を締結し、年間給与が法定最低賃金の1.5倍以上の者が対象。有効期間は雇用契約と同期間で最高4年。更新可能。

(ロ)「高度人材パスポート:出向労働者(salarié en mission)」
グループ内企業・機関への転勤でフランスに滞在し、同グループでの職務経験が3か月以上あり、年間給与が法定最低賃金の1.8倍以上の者が対象。有効期間は雇用契約と同期間で最高4年。更新可能。

(ハ)「高度人材パスポート:研究者(chercheur)」
マスター(修士課程)修了以上で、受入機関と本人との間で受入協定を交わした上で博士号取得準備、研究または教育のために1年以上滞在する者が対象。有効期間は受入期間と同期間で最高4年。更新可能。

(11)雇用における平等の確保
イ 差別禁止事項
労働法典L.1132-1条により、出自、性別、家庭状況、妊娠、外見、障害、性的指向、年齢政治的主張などを理由に、採用、企業での研修への参加、懲戒、解雇、報酬、利益分配、職業訓練、再就職のあっせん、配属、職能資格、職階、昇進、異動、契約の更新、その他各種処遇において、直接的・間接的な差別が禁止されている。

ロ 違反時の措置
労働法典L.1132-1条に列挙される差別は、個人の場合、3年の禁固刑及び45,000ユーロの罰金刑が科される可能性がある(刑法典225-1~4条)。法人の場合、罰金額の上限が個人の5倍(225,000ユーロ)に設定されている。

ハ 職業平等指数「エガプロ(Index de l’égalité professionnelle)」
フランスでは「職業における将来を選択する自由のための法律」(2018年施行)により、2020年3月1日から、従業員50人以上のすべての企業が以下の事項を公表しなければならない。

・男女間賃金格差
・昇進格差
・昇給格差
・母親休暇から復職する女性の処遇
・自社の高額報酬上位10位以内の女性の人数

指数は100ポイント満点で、3年連続で75ポイントに満たない企業に対しては、最高で総賃金の1%の罰金が科される。2022年に発表された指数では、92%の企業が罰則の対象外となる75ポイント以上を獲得した。

以上

(つづく)Y.H

(出典)
厚生労働省 2022年 海外情勢報告

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