実践編・応用編

キャリアコンサルタント実践の要領 7 |  テクノファ

投稿日:2020年11月6日 更新日:

この記事は「キャリアコンサルタント実践の要領4」に引き続きキャリアガイダンスの実践についてお話しをします。これから社会に出る高校生、大学生に向けての職業紹介から、企業に勤め今の仕事に適性を感じない人に向けてのキャリア開発・形成の支援までいろいろな実践分野があります。この領域でのキャリアコンサルティングでは、クライアントの自己実現を基本におくことが重要です。
文科省は、高校学習指導要領で「将来の生活において自己を実現する能力を育てる」などの表現を用いて、自己実現の能力の重要性を強調しています。

2.職務分析と職務調査
職務分析は、その職務の担当者、管理・監督者、あるいはその職務に詳しい人に面接をして、一定の法則に従って記述します。記述する際の法則は、「5W1H + S」の法則と呼ばれるものです。何を(What)、 なぜ(Why)、誰が(Who)、どこで(Where) 、いつ(When)、どのように(How)、技能度(難しさSkill) について確認し、記述します。
その他、広い意味での職務分析に含まれるものとして、職務調査があります。職務調査はその事業所において期待される人間像を把握することに重点を置いた職務の調査です。日本賃金研究センターによれば、職務分析は仕事像を分析するのに対して、職務調査はあるべき人材像であるとしています。
職務分析は採用、配置、処遇(賃金)などを決定するためのものであり、職務調査は能力開発、能力評価・育成などのためのもの、ということができます。職務分析に基づき、職務が変われば賃金が変わるというのが職務給であり、職務調査に基づき、能力が変われば賃金が変わるというのが職能給ということになります。

また、職務分析が職務を分析するのに対して、仕事の内容のみならず入職・離職の状況、労働条件なども含めて広く職業全体を調査するのが職業調査です。この調査結果が、厚生労働省が2020年3月から運用する職業情報提供サイト日本版O-NETに反映されています。なお、アメリカの総合的なデータ・システムである O*NETは最大規模の職業調査といえます。ちなみに、O*NET、日本版O-NETともにインターネット上で情報が公開されています。

(1) 職業能力開発に関する理解
近年の職業能力のミスマッチ拡大に対応するため、2001年に職業能力開発促進法が改正されました。また2016年にはキャリア開発・支援に大きな影響を持つ改正が実施されています。ここでは改正を中心に、職業能力開発の基本を説明します。

(2) 職業能力開発促進法の改正のポイント
近年、IT技術をはじめとする技術革新が進み、産業構造も大きく変化し、働く人の意識も多様化したことによって労働移動が増加し、職業能力のミスマッチが拡大しつつあります。このような状況に対応すべく、2001年に職業能力開発の基本法である職業能力開発促進法が改正されました。改正のポイントは、以下の4点です。
①労働者の職業能力の開発および向上は、経済環境の変化による労働者の業務内容の変化に対する適応性を増大させ、および円滑な再就職に資するような労働者の職業生活設計に配慮しつつ行う。
②必要な職業訓練等を受ける機会が確保され、必要な実務訓練が行われ、これらによって習得された職業に必要な技能、知識の適正な評価を行う。
③事業主は、そのための情報提供、相談その他の援助および労働者の配置などの雇用管理について配慮する。
④職業能力評価基準の整備、評価方法の充実に努め、技能検定制度について民問機関等に委託する方法等により職業能力評価の普及を図る。

このような職業能力開発促進法の規定改正趣旨に基づき、職業能力の開発に関する基本となるべき計画を策定したのが、第7次職業能力開発基本計画です。そこでは、
a.労働需給調整機能の強化
b.キャリア形成の促進のための支援システムの整備
c.職業能力を適正に評価するための基準、仕組みの整備
d.職業能力開発に関する情報収集・提供体制の充実強化
e.能力開発に必要な多様な教育訓練機会の確保
という5つの労働市場のインフラ整備に、力点が置かれています。

また、改正された職業能力開発促進法に基づき、指針が定められました。そのなかには、労働者の職業生活設計に即した自発的な職業能力開発・向上を促進するために事業主が講ずべき措置として、
①情報の提供、相談その他の援助
②配置その他の雇用管理についての配慮
③休暇の付与
④教育訓練を受ける時間の確保
があげられています。このなかの①は、キャリアコンサルタントが行うキャリアコンサルティングに該当します。

なお、上記①の「情報」には、景気動向、雇用動向、能力開発の方向性、採用動向、求職ニーズ、キャリア開発・形成の支援ニーズなどの労働市場全体に関する情報、公・民の教育訓練情報、各種教育訓練補助金情報、大学等のプログラム情報、機関や企業でのキャリア開発・形成支援情報、資格情報などの能力開発の支援に関する情報、仕事の内容、資格条件、労働条件などの職業に関する情報などが含まれます。

職業能力開発基本計画は第10次(期間平成28年度から平成32年度)まで策定されキャリア開発・形成支援を行う人材育成戦略の方向性を示してきました。
2016年の職業能力開発促進法改正では、
・労働者に自身のキャリア開発における責任を課すことが明記された。
・事業主に対して、労働者が自らキャリア開発の設計・目標設定、そのための能力開発を行うことの支援を(努力)義務としている。
・事業主が必要に応じてキャリアコンサルティングの提供を行うことを規定している。
・キャリアコンサルティングを提供するキャリアコンサルタントが国家資格化(名称独占)された。
などそれ以降のキャリア開発・形成支援に大きな影響を持つ改正が行われました。

労働市場に関する情報は、公的機関あるいは民間機関が行う調査結果や統計データから収集するのが基本です。能力開発に関する情報は、個別の教育・訓練機関の他に高齢・障害・求職者雇用支援機構、職業能力開発協会等の公共機関からも入手することができます。職業に関する情報は、厚生労働省が2020年3月から運用する職業情報提供サイト(日本版O-NET)から検索することができます。
(つづき)A.K

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