前回に続きキャリアコンサルタントの基本的スキルの積極的傾聴に関して説明します。
■ラポールの構築(関係構築)
相談場面では、来談者がキャリアコンサルタントを信頼して話す気にならなければ始まりません。そのため、まずは信頼関係を構築しなければなりません。その信頼関係をラポールといいます。相談はラポールの構築から始まります。そのためには、領いたり、あいづちを打ったりすることが効果的です。相手の話をきちんと聴いていなければ、うなずいたり、あいづちを打ったりすることができません。うなずいたり、あいづちを打つたりすることは、相手の話を聴いていることの証でもあります。
■パラフレージング
キャリアコンサルタントは、話し手が伝えようとしているメッセージが、話の3要素のうちのどれかを正確に理解するために、話の区切りで相手が言ったことを確認する必要があります。その際、相手が言ったことを一言一句そのまま繰り返すことをエコーイングといい、相手が言ったことを自分のことばに置き換えて返すことをパラフレージングといいます。
パラフレージングをすることにより、聴き手の理解が正しいかどうかを確認することができ、同時に話し手にとっては、自分が言ったことが相手に正しく伝わったかどうかを確認することができます。さらには、話し手にとっては自分の表現と違う表現で返してもらうことによって、新たな気づきにつながる可能性もあります。
■積極的傾聴の3つの条件
キャリアコンサルタントは、相手の言わんとしていることを正確に理解しようとするには、うなずき、あいづち、エコーイング、パラフレージングなどを的確に行えるようにならなければなりません。また、積極的傾聴ができるための条件が3つあります。それは、受容的態度、共感的理解、自己一致です。
①受容的態度
受容とは、相手の話を評価や解釈や判断を加えずに、ありのまま受け入れることです。たとえ、相手の話が間違っていようと、自分の考えと異なっていようと、あるいはまどろっこしい話だろうと、いったんそのまま受け取るということです。面談におけるクライエントとのやりとりはキャッチボールのようなものですが、その際に相手が投げてきたボールが曲がっていようが、まっすぐであろうが、右にそれていようが、左にそれていようが、あるいは高すぎても低すぎても、きちんと受け取るのが受容です。相手が投げてきたボールが、自分にとって受け取り難いボールなので受け取らないというのは普通の日常会話です。どんなボールでも受け取れるスキルが傾聴のスキルです。もちろん、受容はキャリアコンサルタント自身にもあてはまります。つまり、自分自身をありのまま受け入れることを自己受容といいますが、自己受容ができていなければ相手を受容することもできないからです。
②共感的理解
共感的理解とは、相手の話を自分の枠組みで理解するのではなく、相手の枠組みで理解することです。人間は誰でもその人なりの枠組み(Frame of Reference)を持っています。それは、その人の価値基準であったり、人生観であったり、キャリア観であったり、人間観であったり、経験であったり、さまざまです。それらは1人ひとり異なります。それが「その人らしさ」であり、多様性でもあります。話し手は、自分の枠組みで判断したこと、あるいは感じたことを話します。したがって、相手の気持ちや考えを正確に理解するというのは、相手の枠組みでその気持ちや考えを理解するということであり、それができなければ、キャリアコンサルタントは相手のことを正しく理解することはできません。
その際、パラフレージングは、相手の枠組みを確認するうえで、すなわち共感的に理解するうえで非常に効果を発揮します。しかし、そのためには受容が前提になります。相手の枠組みを受け入れることができなければ、共感的に理解することはできないからです。
③自己―致
自己一致とは、自分に対して誠実であることです。自己不一致の場合を考えみると理解しやすいので、自己不一致の例をあげてみます。
これは、誰かに同意を求められたときに、嫌な顔をしながら「いいですよ」と言っているような場合です。つまり、自分の気持ちと言動がー致していません。面接において、キャリアコンサルタントがこのように自分の気持ちに対して不誠実な言動をとってしまうと、来談者は混乱してしまいます。どちらのメッセージを受け取ればいいのかわからないからです。このように、表情や態度と言動がまったく逆のメッセージを送ることをニ重拘束(ダブル・バインド)といいます。
二重拘束は極端な例ですが、自己不一致はまったく逆のメッセージを送る場合のみとは限りません。本当に言いたいことを言っていないという場合も自己不一致です。自分自身の気持ちや感情を受容できていなければキャリアコンサルタントが自己一致していないことになり、来談者にとって的確なフィードバックにもなりません。したがって、来談者の自己理解を深めるうえでも効果的な面接にはならなくなってしまいます。
このように、受容、共感的理解、自己一致はそれぞれが独立したものではなく、関連しています。この3つが自分の中で統合されてはじめて、来談者中心となります。リスニング・トレーニング(傾聴訓練)のねらいはここにあります。
(つづく)平林良人