キャリアコンサルタントAさんは、子供の不登校をきっかけに自分の居場所を作りにと、周辺地域から県内、全国組織へとキャリアコンサルティング情報交換の場を広げました。
Aさんは、校門の前で立ち止まっている自分の子供を見ては、学校に居心地の悪さを感じているのだろうと暫くの間注意深く観察した後子供と話し合う、そんな経験を何回も重ねてきました。
キャリアコンサルタントAさんは中小企業に勤めている、不登校の小学生と4歳半の子供をもつ女性です。下の子供は公立保育園に預けているので、6時までには迎えに行かなければなりません。しかし、働き方改革で週休2日制が導入され、彼女の職場ではその分、平日の勤務時間が20分延長されてしまいました。
「 事務服を着替えている暇もないので、冬はそのまま上にオーバーを着て、今はボタンのないトレーナーなんかに着替えて、とにかく急ぐのです。」この中小企業に勤める女性たちのグループが、職場の既婚女性にアンケートを実施したところ、 働くお母さんにとっては「たかが20分」では済まされない問題であることが明らかになりました。「20分の延長でバス1本の違いが出てしまい、結局帰宅が1時間遅くなる」「タ食もお風呂も時間が無くなり、子供に対して怒ることが多くなった」「なんのための週休2日なのか。勤務時間を延長するのは暗に退職を迫られているような気がする」「既婚女性はどんどん働きにくくなっていくようだ」 。キャリアコンサルタントAさんは自由回答欄を見て、そんな意見がびっしりと書かれていてびっくりしました。
「1日の労働密度が濃くなり、土曜日には疲れはてている」という声は、男性職員からも出てきました。「週休2日制になっても、それがゆとりにつながっていない。また、年間でみるとわずかの労働時間短縮になっていたとしても、女性が働き続けにくいような状況になるようでは、本末転倒としかいいようがない」と言う意見が多くあります。
Aさんは、上の子供が小さかったころは、朝、子どもの世話もあまりできずに家を飛び出し、職場につけば仕事の連続で、昼食さえ満足にできない日が多く、家に帰れば家事をこなして、ただ予定の連続の中に一日が終っていったような気がすると述懐します。
そんな中でキャリアコンサルタントの資格を取りながら育ててきた子どもが、小学校2年になると不登校ということになってしまいました。子供をせかせては「早く」、「しっかりして」ばかり言い、本来そこに子どもがいるだけで楽しく幸せな思いになるはずが、そんな思いを感じることが無く今日に至ってしまったと言います。
キャリアコンサルタントになって、子どもは子どもで、宿題や試験に追われ、自然の中を友達とかけまわって遊んだり、冒険を楽しんだりする余裕もなく、学校の管理にあえいでいる状況が見えてきたと話します。その子どもの教育費のために多くの主婦はパートに出かけて、親子の会話はいよいよ少なくなり、一人で孤食をする子どもが増えているといいます。主婦がパートに出る理由として、教育費、住宅ローン、老後のためがいつもトップにあげられます。地域社会でも、近所の人たちと、よい人間関係や、生活環境を作り出すようなゆとりを持つ人は稀になり、老人の相手をする人もなく、入院した家族のために乳呑児をつれて病院通いをする若い母親の姿をみても、手をさしのべる人は、めったにいません。キャリアコンサルタントになって、それは人間が意地悪になったり、欲ばりになったからではないかと思ったりもします。
クライアントの相談に応じる際に、キャリアコンサルタントがまず行わなければならないことは,ラポール形成だと言われます。Aさんは、キャリアコンサルタントとして未熟な頃は、こちらが緊張して前のめりの態度故に、クライアントとの距離を縮めることができず、主訴を勝手に思ったり、依存させてしまうという傾聴に当たらない対応を取っていたと、今になってよく分かると言います。キャリアコンサルタントの現場では、他人では想像し得ない経過を言葉にしていく作業を続けていくことで、クライアントがそうせざるを得なかった理由が物語として自然と受け止められる、そんな時間が訪れる時があります。キャリアコンサルタントになる前に、Aさんもつまずいた自分、うまくいかなかった自分、低評価され落ち込んでお腹が痛くなったあの時、周囲に相談出来る人もいなく、どうしたらよいか分からなかったことをクライアントに話します。こんな話をするとクライアントも自分がダメだったから、自分が出来なかったから自分が悪いと語る人もいます。あるいは、自分を理解してくれない、評価してくれない周囲が悪いと話し続ける人もいます。
(つづく)T.N