キャリアコンサルタントへの今回の相談者は、高齢者のデイホームに勤めているAさん40歳代の男性社員です。その職場は雇用更新の特別社員の所長(60歳代男性)を筆頭に、男性4名(30歳と40歳代)と女性1人の小さな拠点です。
所長は、打合わせや会議等でよく不在することが多く、相談者は女性と3人の男性と日々の業務を主に担っています。
キャリアコンサルタントへの相談内容は、所長との人間関係がうまくいかないことです。所長は、いわゆる頭脳明晰で有名進学校から国立大学を卒業しています。ただ、自身の能力を少し鼻にかけるところがあるようで、Aさんに言わせると自分を小ばかにしているとのことです。
具体的には、所長から「こんなこともお前には分からなのか」などと、たびたび言われますし、昔のことをダラダラとしゃべり、ただでさえ忙しいのにその話し相手になるたびに時間が無くなり苦痛になります。彼の話はこんな調子だそうです。
「俺が40代の頃から、豊かさに憧れた日本は、豊かさへの道を踏みまちがえたのだ。富は人間を幸せにせず、かえって国民の生活を抑圧している。たとえば、ありあまるカネは地価を暴騰させて、つつましい我々の住居を地方へと追いやった。子どもたちは効率社会の大人たちに管理されて主体性を失い、受験技術費は家計を圧迫している。富は分配されず、福祉の保護を願い出る者は辱しめられる。
環境汚染もひどい。酸性雨やフロンガスはもちろんのこと、産業廃棄物や使いすてのゴミで、自然は汚染され、人びとは核の恐怖の前に立ちすくみながら、エネルギーの乱費におし流されている。もともと経済活動は、人間を飢えや病苦や長時間労働から解放するためのものだったのに、ゆとりある福祉社会は実現されない。人びとは先進国で最も長い労働時間、子どもは偏差値で選別されている。効率を競う社会の制度は、個人の行動と、連鎖的に反応しあっているから、やがては生活も教育も福祉も、経済価値を求める効率社会の歯車に巻きこまれるようになる。競争は人間を利己的にし、一方が利己的になれば、他の者も自分を守るために利己的にならざるを得ないから、万人は万人の敵となり、自分を守る力はカネだけだ。」
彼の話はまだ続きます。
「そんな社会では、人間の能力は、経済価値をふやすか否か、で判定され、同じように社会のために働いている人であっても、経済価値に貢献しない人は認められることが少ない。ある経営者は、日本は企業の優劣を、利潤の大小によって序列づけしてしまい、たとえ良心的、個性的、創造的というような独特な社風を持つ企業があっても、利益が大きくなければ、 評価されない、と嘆いていた。
そんな日本で、福祉のために献身的に働く人を高く評価するわけがない。この仕事が、どんなに社会的に必要なものであっても、経済価値に無縁な老人や身体障害者や精神障害者のために働く人への社会的評価は、きわめて低い。福祉事務所で、保護を必要とする人たちのために親身になって働く職員よりも、生活保護を申請する困窮者を水ぎわ作戦として追いはらう職員の方が有能と評価される。それはつまり、経済価値にとってマイナスである社会保障に対して、財政支出を抑制する方がいい、という考えに立っているからである。」
「政府もそのような価値観にお墨つきを与え、その流れを社会的に促進している。それは一言でいえば、自然環境の保護とか、福祉社会とかは、経済価値を減らし、怠け者をつくり出し、日本を先進国病にする。経済の活力を維持するためには、カネは、カネを生むことにのみ使われるべきで、国民の一人ひとりは、自分の生活に自分で責任を持たなければならない、というものだ」そうです。
こういうケースの場合、キャリアコンサルタント私自身がその会社の社員であった場合には、この所長にコミュニケーションを取ることができるがそれはもちろん不可能です。キャリアコンサルタントの立場で、相談者には次のようなアドバイスを行いました。1つ目は、まず所長に無駄話について今の自分の気持ちを率直に話してみる。2つ目は、所長の態度が変わらない場合、思い切って本社の人事担当者に相談する、というものです。
いずれにしろ、重要なことは誰かに自分の気持ちを分かってもらうことであり、このような事例は、あちらこちらの現場でおこっていることかもしれません。
他人は、たった6人の事業所だから、みんな気持ちを一つにして仲良くやればいいのにと言うかもしれません。100人~200人位規模の事業所になると、1人や2人位嫌な人がいても、無視して仕事ができるでしょう。しかし6人の少人数だからこそ、その中の1人の人とうまく向き合えないと、気持ちよく毎日の仕事ができなくなってきます。
その相談者が現在その事業所で、仕事を続けているかは定かではありませんが、キャリアコンサルタントとしては、例え転勤したとしても何とか同じ会社で仕事を続けていることを祈っている、という話です。
(つづく)Y.H