実践編・応用編

キャリアコンサルタント実践の要領 18 I  テクノファ

投稿日:2020年12月9日 更新日:

このシリーズではテクノファのキャリアコンサルタント養成講座を卒業された方のキャリアコンサルティング実践についてお伝えします。今回お伝えするのはキャリアカウンセラーとして活躍している「キャリアコンサルタント」のH.Sさんです。

滋賀県における中学生の自殺をきっかけに、「イジメ」が社会的な問題であるとの認知がようやく成されつつあるようです。亡くなった中学生が、自らの命を断ってしまったことはとても残念なことですが、彼の想いを無駄にしないためにも我々は前に進まなくてはならなりません。私はキャリアコンサルタントですが、滋賀県教育委員会に身を置く「スクールソーシャルワーカー(以下SSWとする)」として県内各地の小中学校を訪問する仕事をしています。

SSWをご存知ない方のために一言で説明させて戴くと、SSWとは不登校や問題行動、または児童虐待など、児童・生徒が何らかの問題を抱え、学校並びに家庭での生活に支障をきたしている状況を打破・改善するために、福祉や心理などの専門的知見をもって学校を支援し、教師たちとの協働によってより良い体制づくりを行う者ということができます。すでに15年以上前から中・高に配置されたスクールカウンセラー(SC)と混同されがちですが、SSWは個人面談だけではなく、ケースカンファレンスによって医療や福祉、または司法などの地域における諸機関との連携も行うことにより、具体的かつ効果的な支援を行うところに特徴があります。

そのような使命を持つ私たちは、キャリアコンサルタントとしてもちろんイジメ問題についても積極的に関わるべき立場に在ることは言うまでもありません。このような立場に在る私が持つ違和感は、実際に現場を観て得ている様々な感触と新聞やテレビ等で語られている内容との間に、大きな認識のズレがあることです。それはおそらく、有識者とよばれる研究者の方々が実際に現場を観ることなく掴んだ情報を基に、推察や憶測で語られているが故のことであろうと思われます。

これまでの研究では、個人というよりも全体的な傾向として「数量化」による評価的水準がひとつの目安になっていたわけですが、不登校や問題行動、そしてイジメ問題で大切にされるべきは、対象となる当事者をあくまでも「個人」として観ることや、脈絡的プロセスを一人称的かつ質的に捉えようとする姿勢です。

問題解消への取り組みにおいて重要なことは、キャリアコンサルタントとして個人の内的な世界感を如何に理解(アセスメント)し、その理解の上において対策(プランニング)を立てることの必要性をしっかりと認識することだと思います。というのは、彼が(彼女が)、なぜ、そのような行為を働くのか・・または、そのような行為によっていったい何を得ているのか・・こういった心情的な背景を観ずに頭から力により押さえつけても改善が難しいからです。よくよく事情を知れば、意外にも「加害者」とよばれている側こそが、他の場面において被害者の場合もあります。また、怒りに見える様子は溢れ出した二次感情に過ぎず、じつは一次感情として深い絶望感を抱いていたり、寂しさを隠していたり、怖れていたりするものです。

しかし、本人はそれを自覚しているわけではありません。無意識な振る舞いであるが故に、自分でもどうしていいのかが分からないのです。このように、周囲から「困ったヤツだ」と思われていた加害者こそが、意外にも「自分の感情を持て余し、困っている状態」であったりすることもあるのです。私たちキャリアコンサルタントがそのような心情的背景を観ずに短絡的な理解だけで頭ごなしに指導を行えば、さらなる悪化を招くのは必至でしょうし、これまで為されていたイジメが次には目に見えない水面下に隠されて継続するだけなのです。

もうひとつ言えば、最も危険なのは教師や支援者が以前に出会った“似かよったケース”を連想することで、「はは~ん、なるほど・・」と分かったつもりになってしまうことです。その意味では過去に数多くの子どもを観てきたベテラン教師であるほど危険でしょうし、連想的な思いこみによる決めつけによって、目の前にいる個人を観ず、「こういうヤツは・・」とばかりにタイプ別に分類して対応すること、つまりマニュアル化してしまうことこそが問題なのかもしれません。しっかりと個人を観るためにも「イジメ対応マニュアル」など作ってはいけないのです。

さて、このことはキャリアコンサルタントとして特にイジメ問題などの対応に限ったことではなく、こと心理的な支援に携わるありとあらゆる職種に共通することではないかと思われます。私は常々、高校や大学キャリアセンターにおける「進路指導」という言葉に大きな違和感を覚え、また疑問に思っていました。「指導」という言葉がこれほど当てはまらないものは他にないだろうとさえ思うのです。

希望する進路は?と問われた学生が、ある特定の職種を挙げたとき、そこには必ず何らかの動機があるはずです。この場合、「志望の動機」とは内的な興味から発展した現実化の過程とも言えるでしょうが、そもそも、なぜ自分がそれに興味を抱くのかについて何らやりとりが為されないまま進行してしまい、後になってから混乱が起きるといった例が後を絶たないようです。

少なくとも、職業というものが自己実現のための手段であることを理解せず、動機の背景が曖昧なまま就職してしまった場合、おそらく2年もしないうちに空中分解し、結果として仕事を辞めてしまうことが懸念されます。それは、本人が「手段」を「目的」と誤認し、錯覚していたからに他なりません。キャリアコンサルタントは、就職はゴールではなく、職業に就いた日がスタートラインなのだという指導は欠かせません。私たちキャリアコンサルタントは自らの将来について自分に対して責任を持つために「自己決定」は欠かせません。

しかし、自己決定が成されるための前提として、今度は 「自己理解」が必要条件となります。自己理解が成されないままでは自己決定などできるはずがないからです。つまり、私たちキャリアコンサルタントの必要な支援とはクライエントの本質への関心から発せられる問いかけであり、相対するクライエントは問いかけに応答しようとすることによって自己理解が深まっていくのです。私は、イジメ問題の解消にしろ、キャリア形成に向けた支援にせよ、関わりにおけるキャリアコンサルタントの重要なポイントとは、あくまでも動機や行動の奥にある「心情的な背景に対する自己理解」ではないかと思っています。もちろん、それを支援する側に在ろうとする者に必須の条件は、いま自分がどんなことをしようとしているかについて自己覚知ができていることです。それは、自分にどのような傾向があるかを自覚できていなければ相手の姿は見えないからです。すなわち、支援者こそが自己理解に努めなくてはならないのということです。

(つづく)K.I編集

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