初めまして、
私がテクノファのキャリアコンサルタント養成講座を卒業してから14年が経ちました。
当時、大手企業の有望な若年層の受講者が多い中、私のような50代の中年女性が何とか無我夢中で講座を受け、無事卒業できたことは多くの先生方のお陰だと思っております。主任講師であられた今野先生(故人)には、各種アセスメントの演習が仕上がるまで「皆さん、待ちましょう」と、私の遅いペースに合わせていただき、恐縮したことを思い出します。出来の悪い受講生でしたが、客観的な自己特性や対人関係のスキル、習得能力などを無意識から意識レベルに引き出していただきました。
この講座を受講しようと思ったのは、2005年当時、小中学生の不登校の支援を10年来行なっていた事がきっかけでした。現在は、15年前よりは不登校に対する理解が進み、多くの機関が各方面で支援活動をする時代になりました。また、教育機関の対応もそれなりに進んでいると感じていますが、当時はまだ発達障害の概念が海外から紹介され始め、児童精神科医の意見が少しずつ世の中に浸透していくような時期でした。自分の子供の不登校をきっかけに、児童心理学に関する情報にアンテナを張り、さまざまな活動を見聞きし、それらを自分で取捨選択しておりました。
周辺地域から県内、全国組織へと情報交換・共有を広げながら、自分の居場所を作り、複数年、地域でフォーラムを開催して教育機関へ働きかけながら、講演、助言などを行ってきました。校門の前で立ち止まっている子供を見て、学校に居心地の悪さを感じているのではないかと、しばらくの間注意深く観察した後話し合う、そんな経験もしました。その経験を車座で話し合う機会を設けるなどする中から、自主的で自然な感性が重要だと感じ、支援する側にも多くのことがあると感じる事も多々ありました。親にとってみれば、学校に通わない子どもたちの将来は、自分たちの不安そのものに他なりません。支援活動を通して、子どもたちを信じる力が如何に大人に不足していることかを感じざるを得ませんでした。
私は現在ハローワークの職業相談員として、日々様々な状況にある求職者の方や在職中の方の相談をさせていただいております。キャリアカウンセリングは直面した問題だけに関わらず、人が生き方を全うしようと試行錯誤する時、お互いが少しでも明るい未来を考える気持ちを根底に持っていることが大切だと思っています。例えば、転職の相談一つでも、相談者を取り巻く諸事情を聴きとる事から始めます。自己都合、家庭の事情、勤務先の事情、一人一人の背景を探りながら、自分の言葉で今の課題である荷物を降ろしてもらいます。
キャリアカウンセリングの第一歩は,ラポール形成だと思います。相談員として未熟な頃は、こちらが緊張して前のめりの態度故に、相談者との距離を縮めることができず、主訴を勝手に解釈したり、依存させてしまうという傾聴に当たらない対応を取っていたと、今になってよくわかります。と言いながら、今でも未熟であることに変わりはありませんが ……。15年前は普遍的な常識から自由になれないところが出てしまい、相談者の可能性を見ようとしない、ただの世間話に終始していたような気がします。
ハローワークに来る多くの相談者は、それまでの環境に信頼して聴いてもらえる人がいなかった故に、自己開示を諦め、可能性の糸口をつかめず、狭い範囲で判断して、自分で納得できないまま方向を決めてしまう経過をたどっています。ある程度の阻害要因は、相談者はそれなりに分かっていますので、その時その場所でどう感じて来たか、少しずつ振り返っていただき、その時の感情の絡まりをほどいていくことで、自分自身を語っていただきます。そして、過去のその時の自分は「そうだったんだよね」と肯定していくようにしていただきます。
相談の現場では、他人では想像し得ない経過を言葉にしていく作業を続けていくことで、そうせざるを得なかった理由が物語として自然と受け止められる、そんな時間が訪れる時があります。つまずいた自分、うまくいかなかった自分、低評価され落ち込んでお腹が痛くなったあの時、周囲に相談出来る人もいなく、どうしたらよいか分からなかったことを話します。自分がダメだったから、自分が出来なかったから自分が悪いと語る人もいます。自分を理解してくれない、評価してくれない周囲が悪いと話し続ける人もいます。
この場所は、なんでも語ることができる所、と思っていただけることが一番大事なのではないかと思います。どのような内容であっても、相談員が経験から培ってきた考え方で受け止めると、今ならもっと他に方法があったのに、と振り返る事が出来ます。また一方で、生活のために苦しくとも頑張り続けてきた姿も浮かび上がってきます。試行錯誤を繰り返しながら、自分の希望と現実との折り合いをつけようと進んでいく様子が伺えるようになると、不安はあっても、ダメもとで行なってみようかなと踏み出していきます。踏み出すことができたのは、ほかでもない相談者自身に元々備わっていた力があったからです。相談者が自分を信じてみようと行動に移す時は、相談員は心底から応援をしたいと思うようになってしまいます。今日も私はキャリアコンサルタント養成講座で勉強したことを基に同じようで、違う毎日を送っています。お読みいただきありがとうございました。(T.N)
(つづく)