実践編・応用編

キャリアコンサルタント実践の要領 20 I テクノファ

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テクノファのキャリアコンサルタント養成講座を卒業し、キャリアカウンセリングの実践で活躍しているキャリアコンサルタントの方からの近況や情報、及び実践の様子などをお伝えします。今回はM.Sさんです。

人は、いかに奇妙な家庭(特別な環境)で育ったとしても、本人にとっては「住み慣れた我が家」であり、そこで身につけた生活習慣は「ふつう」以外の なにものでもありません。
むろん他人の家庭がどのようなものかなどまったく知らないで育つわけですから、自分の家族に対しても何ら疑問が湧くことはなく、たとえ日々どんなに 過酷な状況下で暮らしていようとも、本人にとっては「ありふれた日常」でしかないのです。

よく言われる「ふつう」とか「常識」などというものは実体がなく、あくまでも一人称的な主観に過ぎません。そこに生まれ落ちた彼(彼女)は、とにかく必死になって環境(家庭の状況)に適応しようとします。
母親が気分屋であれば、彼女の顔色を窺いながら、いま自分がどのように振る舞えば怒られずに済むかを考えて行動するでしょうし、兄や姉の行動や親の反応を観て育った末っ子は、自分がどうすれば叱られず有利に事が運ぶかも分かっています。

そこで身につけたコミュニケーションのパターンは家庭の外にまで持ち出され、どの場所でも誰に対しても、常に無意識的に自分の家庭における「ふつう」を投影しています。
ということは、この「ふつう」を一時的にでも脇に置いて投影を、遮断できなければ、目の前の相手に対しても親に対して行っているのと同様に「かけひき」をしてしまうでしょうし、キャリアコンサルタントも自分がそういった色メガネをかけ いることに気づけなければ、相手がどんな人間なのかを観察することや状況を分析することも叶わないのです。

昨今、児童虐待が話題に取り上げられることが増えましたが このような社会問題がなぜ最近まで大きく取り上げられなかったかと言えば、親子関係において特に問題がない家庭で育った教師や司法の関係者たちが、「親が子に暴力を振るうことなどありえない」という思いこみを持っていたためだと言われています。

このように、人は何かについて観察したり、考察を行なおうとする場合、一時的にでも自分の認識を脇に置かなくては為し得ないことを理解せねばなりません。もちろん自己分析や自己理解についても同じことが言えます。多くの人は、「自分のことは自分が一番よく知ってる」と思いこんでいますが、それはどうでしょう・・キャリアコンサルタントはいちど疑ってみる必要があるかもしれません。

よく「自分に正直でありたい」と言う人がいますが、自分の本意を知らずして正直であることができるでしょうか。分かりやすくするために、子どもの言動を例に挙げてみましょう。私が仕事上で出くわす「不登校児童・生徒」の多くは、よく「学校に行きたいけど、行けない」といった妙な言い方をします。むろん、本人も行きたいと思いこんで困っているわけです。不登校では、この矛盾的な応答に大人たちがどう対応してよいのやら、参ってしまっているケースが多いものですが、じつのところ「行きたくないから、行かない」というのが本音かと思われます。

でも、子どもはそんなことを言ってはならないと勝手に思いこんでいますし、大人たちは登校できない理由として、受け入れてくないことを知っているということに他なりません。このような例は、いくらでも挙げることができます。算数の答案用紙を前にした子が、「こんなのやりたくない!」と言ったとしましょう。これとて「やりたくない」のではなく、そのほとんどが「解けないことを知られたくない」という想いがあり、評価されることへの怖れを隠すために遣われる防衛的な言動である場合が多いのです。
これもまた、子どもが自身の気持ちを明確化できているわけではなく、たいてい無自覚です。しかし、大人たちは子どもが放った言葉の奥にある防衛的な背景を観ないで、そのまま真に受けてしまうのです。

心理的防衛は、相手に対してよりも先に、まず自分自身を欺きます。もちろん、そのように思いこんでいるわけですから、自分ではウソを言ってるとは思っていません。
キャリアコンサルタントがここで問題にしたいことは、自分が生まれ育った環境を客観的に観ることができなくては、自分を知ることなどできないということです。また、自己理解が成されないまま親になれば、このような世代間連鎖が継続されるということでもあります。

キャリアコンサルタントがいずれにしても言えることは、「自分を知ること」が疎かにされていては、自分の人生が始まらないということです。自分の本音を知らずして自己決定はできません。自己決定できない間に時間だけが経過して歳をとっていく・・・納得できる人生にするためにも自己理解は欠かせないものなのです。

(つづく)M.I編集

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