基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 25 I テクノファ

投稿日:2020年12月12日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜2

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は3回忌になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に14年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせてきました。
先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。
先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

先生には多くの著者がありますが、キャリアコンサルタントが知っておくと良いものの中から「個立の時代の人材育成」-多様・異質・異能が組織を伸ばす-の核となるところを紹介したいと思います。

今回は引き続き「個立の時代の人材育成」からの紹介です。
―人材育成とトップの意識―
経営上の重要課題に対するトップマネジメントの意識とコミットメントのありようが、その課題の達成に決定的な影響を与えることはいうまでもない。人材育成の課題ももちろんその例外ではないが、いささか他の課題と趣を異にする側面もある。それは、人材育成がトップマターであることを、言葉で唱えないトップは皆無といってよいほどである反面、その実体については文字通りピンからキリまで 「人材育成」があることである。人材育成についてのトップの言葉は言葉だけではまったく当てにならないのである。私の感触で勝手にいわせてもらえば、上場企業の経営トップ層のおそらく三分の二は、モノ、カネの革新に示した英知と決断を、ヒトの育成については示し得ていない。人材の質は時代と環境の変化と共に変わる、という基本的な認識すら不確かなようにみえる。未曽有の不連続変化の時代には、かつてないほどの国際感覚と複眼的な価値観、あるいは異質・異能の才能に富んだ個性的な人材が求められるはずである。しかし、これらの新しい人材像を明確に打ち出したトップは少ない。多くのトップが自らの率いる組織人に求めるホンネは、依然として、”組織の人的秩序の維持と平和”であり、”組織への忠誠心の高揚による団結”であるかのように思われてならない、つまり、調和とバランスの舵とりによる団結の上に乗ろうとするトップである。

これでは21世紀に通用する人材の育成は到底間に合いそうもない。
住友信託銀行のトップが「いまの若い人に会社への忠誠心を求めるのはおかしい、企業という舞台で自分を活かす”活私奉公”の機会を提供するのだ」といわれたそうである。胸のすくような台詞である。こうしたいい方は評論家なら珍しくもないが、現役の、しかも保守性の濃い銀行のトップがおっしゃるところに意味がある。これからのトップの姿勢はこうありたい。現状では住信トップの姿勢は少数派に違いないが、21世紀にはこれが中心的な考え方になるであろう。
要するに、21世紀に向けての人材育成は、単に従来のやり方(先輩の体験にもとづくOJTや各種のグループ別集合研修)を強化するだけでは効果があがらないことをトップは早く悟ってほしい。

かつての成功体験のすべてが無効だとはいわないが、組織外の環境変化(自由化、国際化)と組織人の質的変化(新人類抬頭)に対応する、個別化・個立化に焦点をおかないかぎり、新時代に即応した人材育成はすすまない。
今までのやり方を土台にして若者達を「育ててやる」ことはでき難くなった。新しい人的素材が「自ら育つ」ことをいかに阻害せず、いかに促進するかに考え方を変えることこそが必要なのだ。不幸にして、新時代の若者達と直接交流の機会のほとんどないトップの方達は、「自ら育つ」個立指向ヤング(第1章参照)の存在すらよく知らない。「今どきの若い者はいわなければ何もすすんでやろうとしません」などと、先入観による一律集団扱いしかできない教育研修担当者の報告を真に受けてはならない。新人全員の”鍛え直し”を命じたトップがいるなどという話すら、耳にするのはおぞましくも情けない話である。いまさら旧人類型の組織人の鋳型に一律にはめ込み直そうとでもするのだろうか。新時代の組織を継承、発展させる頼もしい素材(個立指向群)を無視した時代錯誤としかいいようがない。こういう会社では元気で異質感のある「個立」群ははじめから不採用とされ、「帰属・順応型」と「モラトリアム型」のみが採用されているのかもしれない(図1)。間われるべきはトップと人事教育部の意識そのものであろう。

また、某一流大手商社では数年間連続して相当な数の若手社員を他社に流出している。このことは人材斡旋機関では周知の事実であり、”人材供給源”などと呼ばれひそかに感謝されている。事実を知ったトップが、人事部長に対策を講じることを命じたというのだが、トップも人事部長も果たして若年層の実態をどのくらい認識しているのだろうか。幸か、不幸か同社は知名度が高いので、新規卒業者を有名校から採用することは容易である。これが問題への気付きと取り組みとを遅くしたといえる。退職者の多くは他ならぬ個立群であることが予想され、同社の人事施策(育成、異動など)の今日的な問題点が顕在化してきたことを物語っている。自業自得とはいえ、もったいない話である。人事制度の個別化の一層の促進と、できれば個立化のレベルまでの転換をはかることが時代の流れであることに早く気付かなくてはならない。「個別化するとチームワークが乱れる」とか、「個立化すると転職を幇助することになる」とかもはや迷い言である。判断があべこべである。ご時世が変わったことに、有能な経営者や人事部長の気付きが遅れているのはなぜか。気付いていても新時代の幕開けに応じた人事管理、人材育成の策がとれないとすれば、それはなんらかの社内特殊事情によるものか、変化に対する抵抗の心理を自ら悟れないためか。いずれにしても個別化、個立化の遅れは人材育成の遅れとなり、経営の遅れとなろう。トップは人材育成をコトバでのみくりかえすことをやめ、人事部門担当役員に、新たな個別・個立管理の実行案の提出を求めてみてはどうか。また、横断的、序列的な人事的統制の強い組織にあっては、人事関係部門そのものに権力的な体質が泌みついていることが多い。その体質の見直しにトップが自ら手をつけてみてはどうか、人事部の専門的、戦略的スタッフ機能の新たな確立と、それを個立の時代の人材育成にいかに噛み合わせるかについて、トップ自身も考えてみてはどうか。人事部長、人事担当役員に任せておいては進捗しないトップマターではないか。トップ自身の意思決定と行動力の問題ではないのか。

―人事機能の役割分担の見直しをー
トップは、人事関係部門の責任・権限・役割の見直しを指示すると共に、ライン各部門の長(以下ラインの長と略す。スタッフとしての人事部門の長に対応させ、人事部以外の全職能部門の長をここではラインの長と呼ぶ)は、自分のラインに所属する従業員全員についての個別的人事管理(人材育成)責任を負うことを明確にすべきである(第5章参照)。ラインに主体性を持たせる新体制の準備と発足は唐突にはできないが、少なくともその方向に向かうことをトップが断言することは早急に必要であり、それによって、人事部門とライン部門双方の長のベクトルが揃う。詳しくは第5章で述べるが、個別の人事管理はラインの手によらなくてはできない。ラインの、ラインによる、ラインのための管理である。一人ひとりの実績の推移、能力の向上、意欲の動向、私的条件の変化などを日常的に把握し、個別的な育成をはかるためには、ラインの上司が主役であらねばならず、人事関係者は脇役、協力者となるべきである。そしてラインの個別管理責任を間うからには、それに伴う人事管理上の権限もラインに移す。権限の適切な行使による人材の育成はラインの長、ラインの上司の基本的な仕事であり、当然業績ともなる。この基本構想を全社員に明らかにすること。これはトップの仕事である。人材流失の甚だしいラインの長と人事部長の共同責任を問うなどの手段をとるのもトップの仕事ではなかろうか。そして、責任のなすりあいをじっくりとご覧になってみてはいかが。本当の責任はトップ自身にあることに気付かれるかもしれない。”仕事はライン”、”人は人事(教育)部”の誤まった図式では個別・個立の人材育成は困難である。人事部にできる個別のヒトの把握は過去の記録と記憶とであり、現在の意欲、将来への予測(ァセスメント)はラインの長を主役とする個別のCDPシステム (キャリア・ディベロップメント・プログラム)などに依存せざるを得ない。
(つづく)平林良人

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