基礎編・理論編

キャリアコンサルティングとキャリアカウンセリング 9-2 | テクノファ

投稿日:2020年12月23日 更新日:

キャリアコンサルタントとスーパービジョン

前回に引き続き、キャリアコンサルタント(キャリアカウンセラー)が受けるスーパービジョンについてお話を続けます。
SVはスーパービジョン、SVorはスーパーバイザー、SVeeスーパーバイジー(スーパービジョンを受ける人、キャリアコンサルタント)の略です。

(2)目的
SVの目的は、次に記す①~④に評価介入し、SVeeをキャリアコンサルタントとして養成し成長を支援することにあります。

  • コミュニケーション マネジメント
カウンセリングのうちかなりの部分が、カウンセラーとクライエントとの関係ができることによって成立しているといわれるほど、カウンセリングでは、キャリアコンサルタントのクライエントへのかかわり方が重要なものであることは間違いありません。
そのため、SVでは、個別ケースおける特定のクライエントに対するSVeeのかかわり方についてSVorが評価的介入を行います。

これは、面接における関係促進のための技法や技術(共感、支持、励ましなど)、あるいは、介入のための技法や技術(質問、診断、強化、変化の促進、対決(confrontation)など)等について行われます。例えば、診断について、SVorは、クライエントを多様な方向から理解できるかという観点からキャリアコンサルタントとしてSVeeを評価し、一定の基準に達するまで指導します。

②ケース マネジメント
カウンセリングにおいて、キャリアコンサルタントがケースをどのように理解するかということと、どのような方針を立てるかということは極めて重要です。このため、キャリアコンサルタントにはカウンセリング実践中のできごとの説明能力とカウンセリングの構成能力を備えていることが求められます。これらの基礎となるのがケース理解、ケース概念化と呼ばれる能力です。
ケース理解、ケース概念化に関するSVの観点は次のようにまとめられます。
・クライエントの問題としていることの理解。
このために、SVではキャリアコンサルタントに共感性の養成が行われる。

・クライエントのパーソナリティの理解。
ここでいうパーソナリティとは、心的外傷体験、心理的能力・病理、自己実現の志向性などを含む。SVではこれらのことを理解習得することの必要性をSVee(カウンセラー)に動機付ける。

・クライエントと家族や社会などの環境とのかかわりの理解。
SVでは、例えば、会社で働くクライエントの場合その人は会社に向かって自分の思いをどの程度主張できるのかということをキャリアコンサルタントとしてSVeeが分かるようになることを支援する。

キャリアコンサルタント自身とクライエントとの相互作用の理解。
③システム マネジメント
カウンセリングをシステムとして捉えるとき、このシステムにおいてキャリアコンサルタントは専門職としてのカウンセリングシステムをマネジメントする役割を遂行できる人である必要があります。したがって、SVorにはSVeeがカウンセラーとして次の事項を当然にできるかという観点から評価して一定の基準に達するまで指導することが求められます。
・クライエントのエンパワー
・外的リソースの活用、および連携
・専門職としての倫理の遵守
・ケースの記録
・現場のルール・手順の学習
・自己研鑽

④セルフ マネジメント
SVeeにおけるキャリアコンサルタントとしての持続的な成長力を養成するために、SVorは、SVeeの自己内的・対人的気づきの深まりを支援することに注力します。具体的には、SVorは次のような観点から、SVeeのキャリアコンサルタントとしての自己理解と未解決な問題についてSVeeが客観視できるように評価介入します。

スーパーバイジーにおける
・自分と他者の感情、思考、行動の仕事に対する影響への気づき。
・自分史と「今・ここ」でのクライエントおよびSVorとの関係への気づき。
・自己の能力の長所と限界の自覚。

(3) SVorの役割、機能の役割、機能
SVにおけるSVorの役割、機能、およびパワーについて①~⑤に記します。

なお、それら全ての基調は異質同型性の尊重にあります。これは、SVeeのカウンセリングプロセスとしてのケースについてSVorが考えたいことは数限りなくありますが、SVorはキャリアコンサルタントとしてのSVeeが聴きたいこと、関心を持っていること、そして考えたいことを最優先した上で、彼が伝えたいことを伝えるということです。このことはSVを実施するにあたって極めて重要なことと思われます。

  • 監督・評価

このことは、あたかも上司と部下の関係であるかのごとく、SVorは上司として部下たるSVee(カウンセラー)の仕事を見極め、基準に従った正式の評価をすることといえます。ただし、評価の基準は、その仕事の専門性、トレーニング・プログラム、SVeeのSVに求めることに合わせて決められるものです。

なお、監督・評価することは責任をとることであることを心に刻み込むことが重要です。SVeeはカウンセラー資格を持っていない場合もあり、このような人が行っていることにSVorは責任を取らないといけない場面が生じることもあります。

  • 指導・助言

SVorは、SVeeに時としてカウンセリングの専門家としての知識・技法を基盤として、情報、意見、示唆を与えます。

  • モデリング

SVorは、その指導の仕方や役割の遂行そのものがSVee(カウンセラー)にとってエキスパートとしての言動や振舞のモデルとなります。

  • コンサルテーション

SVorは、SVeeから情報、意見、あるいはアドバイスを求められたとき、それらを提供し、問題解決を促進するコンサルテーションの役割を果たします。また、SVorは力関係から見るとほとんどの場合SVee(カウンセラー)よりも専門家としての力を有しています。しかし、力が上回ることが正しいこととは限りません。したがって、SVorは、このような力関係が及ぼす影響を考慮しながらコンサルテーションする必要があります。

  • 支持・分かち合い

SVorは、訓練中のSVeeの言動、情緒、態度などに対して共感的関心を持ちつつ、時には励ますことも交えながらSVeeに指導者としての深い認知を伝えます。これらのことも前述と同様に、SVorには力関係が及ぼす影響を配慮しつつ、「こういうものの見方があなた(SVee)にとって役立つでしょうか」といった建設的な直面化が求められます。

SVorは専門家であり、専門分野をより深く知り、技術も高く、そして、研究している人です。しかし、専門家であるからといって万人に通用する真実に常に触れているとは限りません。誰もが事象を自分の色眼鏡を通してみており、専門家も例外ではありません。専門家がもつ色眼鏡を通して見たことが常に正しいとは言い切れません。従って、SVorはSVeeがカウンセラーとして自分なりのものの見方を作っていくことを支援することを根底に持ってSVに臨む必要があります。
(続く)次回は、2. SVを受けるにはどうすればよいのかを記します。
キャリアコンサルタント 1級技能士 上脇 貴

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