実践編・応用編

キャリアコンサルタント実践の要領 30 | テクノファ

投稿日:2021年1月18日 更新日:

今回もキャリアコンサルタントとして活躍している方の近況や情報などを発信いたします。

「褒めて育てる・・」に関する誤った認識について

「褒めること」が、いかに人の自信を失わせ、ヤル気を削いでしまうかについて書いてみたい。このことについては意外に思われる方が多いだろう。というのは、書店に行けば「ほめる子育て」とか、「ほめ方」について書かれている本が多く、そのどれもが「褒めることは良いことである」といった前提に立っているからだ。

人は多くの場合、「結果」を褒める。よくできたね」、「頑張れたね」、「偉いね」・・といった具合に。むろん、出来ていない!と過度な叱責を受けたり、達成できていない不足の部分を貶されるような ” 減点法 ” 的に関わるよりも、どちらかといえば” 加点法 ” 的な意味で「褒められる」ほうが幾分マシではある。それゆえ、社会的な通念として「まだ幼い子どもに対しては、できるだけ褒めて育てるのが望ましい」とされている。

高校受験にしても、「数学がこの点数では、希望する高校には到底受からんぞ!」などと脅されるよりも、「他の科目は出来ているのだから、あとは数学の点数さえ取れれば合格できるぞ!もう受かったも同然だな!」とでも言われたほうがヤル気も出るだろう。

同じ状況ではあっても、人はどのような言われ方をされるかによって、受け取る認識が大きく異なるものである。たとえば、よく遣われる「いい子だね」という言葉がけについて考えてみよう。このような言葉がけにおいては、「私にとって都合が・・」という前提が無言のまま省略されていることを知っているだろうか。

「あいつ、いいヤツだ」→友人としてつきあってる自分にとって都合が・・
「あの子、いい生徒よ」→教師である俺にとって都合が・・
「この子は、とてもいい娘(息子)なんです」→親である私にとって都合が・・
「あの人って、とてもいい人なんだよ」→周囲のみんなに対して、に気を遣ってくれるから・・
という意味である。

これらは所詮、「条件つきの承認」でしかない。そのどれもが「関わる側に在る自分の都合による勝手な評価」でしかなく、無理をして「いい人」を演じている本人としては、周囲に気を遣うことによって疲弊し切っているかもしれない。つまり、褒めるという行為は、あくまでも「こちら側の主観に拠る評価」であり、その基準もまたひじょうに曖昧で、気分や状況によって左右されるような ” いい加減なもの” なものなのである。

少なくとも、気を遣うにしろ、頑張ったにしろ、そのことを実感しているのは紛れもない本人であり、本人しか知りえないはずである。ならば、そのことを誰かによって判定される類のものではないと言えるだろう。たとえば、ある子がテストで100点を取ったとする。ハナマルのついた答案用紙を親に見せたときに、「おお、100点か!よく頑張ったな!」と言われたとしよう。

キャリアコンサルタントの方はこのコンテキストは、何かがおかしいことに気づかないだろうか?この「今回、おまえは頑張れた」という評価は、100点を取れたという結果によって初めて成立することなのだろうか?そうではないはずだ。頑張ったからこそ100点が取れたのである。

もし、いつもと同じように頑張ったとしても、たまたま95点しか取ることができなかったとしたら、頑張ったことは認められないのだろうか?取り組んだ本人としては懸命に努力し、これ以上ないくらい頑張ったつもりであっても、結果が出なかったというだけでその苦労が報われることもなく、「頑張った甲斐がなかった・・」と感じてしまうのは当然である。

おそらく、次回以降は取り組む気力も失せてしまうと思われる。しかも、それだけには留まらない。「結果が全て」と思い込んでしまうと、100点を取れそうにない(うまくやれそうにない)ことが予想される場面では、やるだけ無駄だという想いから最初からチャレンジしないで棄権しようとするような” オールORナッシング ” (ゼロか100か・・)的な萎縮した性質が身についてしまうだろう。

このように、「成果主義的な評価」、つまり結果を褒めることは、時にモチベーションの低下を招く危険があるのだ。もし、どうしても評価する必要があるならば、「結果を褒める」のではなく、「そこに至るまでのプロセスを認めること」が重要である。たとえば、子育ての場面で言えば、「お手伝いができて、えらい子だねえ。」などと褒めるのではなく、その代わりに、「お手伝いしてくれてありがとう。助かったよ。」と、自発的に動いた子どもの行動力を認め、尊重し、こちら側としての感謝の気持ちを伝えるほうがよほど価値がある。年齢は関係ない。大人とて湧く想いは同じである。

成果主義において、なんとか結果を出せた者にとっては、「不利な立場にならずに済んで安心した」だけで終わってしまうだろうし、逆に良い結果を出せなかった者にとっては、これまで努力してきたことの全てが無駄であり、頑張り抜いたことも無意味だったように思えて落胆してしまうことになる。このような関わり方は、人材育成の過程ではけっして好ましいとは思えないし、実際的に機能するとは考えにくい。明確な目標を持つことや、それを達成するために真剣になることは大切だが、育てるという観点で捉えるならば、「褒める」から「認める」へと、その対応を変える必要がある。

キャリアコンサルタントとして知っておきたいのは、プロセスがあって結果があることである。重要なのはプロセスである。結果は、プロセスの後に付いてくるものではないだろうか。さらに言えば、たとえ望んだ結果が得られなくとも、ワークモチベーションを低下させないために、「いつも、あなたの頑張りを観ているよ」という上司からの無言のメッセージが確実に伝わっている必要がある。

これについては、親子関係も同じである。「あなたのことは常に気にかけているよ。頑張っている姿をいつも観ているよ」という、親側の姿勢にこそ価値がある。” 自分が大切に扱われている “ という子自身の実感が「存在の肯定」を生み、いずれ「自己肯定」へと変化する。そして、何かに取り組んでみようとするための動機づけになるのである。もちろん いずれは、他者から承認されることによって行動できるのではなく、自己承認と自己決断に従って行動を選べる段階へと成長していくことが理想ではある。

しかし、そこに至るためには前発達段階として「他者から承認されること」もまた、必要条件のひとつなのである。
(つづく)K.I

 

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