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実践編・応用編

キャリアコンサルタントのスーパービジョン

投稿日:2025年5月22日 更新日:

平成28年にスタートしたキャリアコンサルタント国家試験制度は目標10万人保有者登録に向けて順調に進んでいると評価できると思います。一方で、数が増えると質が落ちるというすべての世界に共通の現象がキャリアコンサルタント国家資格制度にも忍び寄っているのではないかと危惧します。

今回はスーパービジョンについて述べます。スーパービジョンとはキャリアコンサルタントのクライアントとのやり取りの一部始終を立ち会って終了後キャリアコンサルタントと話し合いを行い今後の改善案を話し合う一連の活動を言います。

1.スーパービジョンの形式
① スーパービジョンの形式は、スーパーバイザーとスーパーバイジーが1対1で行うものと、グループ形式(グループサイズは6 -10名程度、クローズド
メンバーの場合とオープンメンバーの場合がある)で行うものがある。
② 通信機器を活用したスーパービジョンも行われている。
③ スーパービジョンの1回当たりの時間は60分~90分程度が多く、1回2時間程度で実施している機関もある。
④ スーパービジョンの標準回数は、一人当たり1回、インテーク(初回面談)を含めて6回、特に標準回数は決めていないなど、設定回数は様々である。
⑤ スーパービジョンの1回当たりの料金は、10,000~30,000円程度で、スーパービジョン契約でスーパーバイザー(指導する側)とスーパーバイジー(指導される側:キャリアコンサルタント)間で決めるとしている機関もある。ただし、スーパーバイジーが指導を受けたい内容や、グループスーパービジョンに参加するなどのスーパービジョンの形式によっても料金は異なってくる。
⑥ スーパービジョンを希望する場合は、スーパーバイザーとスーパーバイジーの間での契約が必要。スーパービジョンの開始前に、スーパービジヨンの1回当たりの時間、実施回数、目標、修了要件、ケース記録のフオーマット、料金等を設定し、両者が契約の内容を十分に理解、合意しておくことが必要である。
⑦ スーパーバイジーは、スーパービジョンを受ける際は、契約に従ってケース記録等の必要資料(ケース記録、逐語記録又はその両方。録音、VTRが必要な場合もある。)を準備するとともに、スーパーバイザーへの質問、指導を受けたい内容等を整理しておくことが必要である。
⑧ スーパービジョンのケース記録等のフオーマットは、実施機関によって多少の違いはあるが、概ね次の事項を記載している。
1)クライアント(相談者)の属性(氏名、年齢、性別)、その他(服装や全体の印象)
2)面接年月日、面談の回数、面談場所、面談時間
3)クライアントとの関係性
4)クライアントの話した内容(可能な限りクライアントの話した事実ベースでクライ  アントの言葉をそのまま記入。キャリアコンサルタントの問
いに答えて出た言語の場合はキャリアコンサルタントの話した内容もそのまま記入。)
5)クライアントの状態把握
a.クライアントの課題
b.クライアント自身は何を課題と観て、それを自身はどう感じているかをクライアントの言動に基づいて記入。
c.キャリアコンサルタントの仮説
クライアントの言動を通して、キャリアコンサルタントの視点ではどんな課題があると捉えたか、根拠を添えて記入。
6)キャリアコンサルタントの方策
a.キャリアコンサルタントの示した方策
キャリアコンサルタントが提示した方向性や情報提供した内容などを具体的に記入。
b.クライアントの変化
クライアント自身の変化、環境や周りの変化について、クライアントの語った言葉や態度をそのまま記入。
c.自己評価
クライアントの状態把握、キャリアコンサルタントがとった方針や方策の実現が出来たかを記入。
⑨ 上記のスーパービジョンのほかに、主として資格取得後経験の乏しいキャリアコンサ ルタントを対象として、訓練を受けたクライアント役に対するキャリアコンサルティング実施場面(20分)を、複数のスーパーバイザーが標準化された実力判定基準に従って評価・診断し、その場でキャリアコンサルタントとしての成長課題を対話によってすり合わせしながら効果的な更新講習や学習機会等を指導するという形式(全体で1時間程度) もあった。

2.スーパーバイザー養成の考え方、養成方法
①スーパーバイザー養成プログラムを実施している機関のほか、スーパーバイザーの養成のための研修は行わず、経験と実績がある優れた会員の中から選任している機関がある。
②養成プログラム受講の条件として、キャリアコンサルティング実務を5000時間以上積んでいること、スーパービジョンを受けた経験が一定時間以上あること等、実務経験を条件にしている機関がある。これとは別に、養成講習プログラムの受講資格を設けて事前選考試験(面接およびキャリアコンサルティング実技)を行う等により、受講者を選別している機関がある。
③養成プログラムの受講期間は、実施機関によって異なるが、概ねスーパービジョン実施のための必要な視点を学ぶカリキュラムと、スーパービジョンの実践力をつけるための演習カリキュラムを組み合わせたプログラムを、1日概ね5時間~8時間、14日~18日程度の期間で実施している。
④その他、1年かけて集合研修、個別指導、個別学習、グループ学習を実施している機関、養成講習終了後にメンター制度を設けて長期間(2年程度)にわたるスーパービジョンメンタリング(※)によってスーパービジョン経験を重ねた後に資格認定している機関がある。
(※)スーパーバイザー認定委員会が認定した2名のスーパービジョンメンターが、スーパーバイザー養成講座修了者の実際のスーパービジョン場面についてスーパービジョンを行う。
⑤いずれの機関もスーパーバイザー養成プログラム修了者をすべてスーパーバイザーとして認定するのではなく、スーパーバイザーの資格試験を設けて一定基準をクリアした場合に認定したり、有識者から構成される審査委員会で審査したうえで認定する等、独自の認定方法を設けている。
⑥認定後は、3年~5年を目安に更新制度を設けている機関がほとんどである。

3.更新講習受講者の成長モデルの考え方、指導のポイント
①キャリアコンサルタント自身の主体的な学びと成長
キャリアコンサルタント自身が、自ら課題や目標を設定し、主体的に学び成長する能力を育てることが重要であり、養成講座においても、多くの資料を主体的に学習し、考えを取りまとめ表現する過程を重視している。
②自他の相違や多様性に気づく
自他の相違や多様性に気づくことが、学びの意欲となり、関係構築能力を高めるので、グループワークや対話を重視したカリキュラムを編成している。
③試験合格後の継続的な学び
キャリアコンサルタント養成講座では、ロールプレイ経験で受験資格が得られ、また国家資格試験に合格しても、専門家を目指して継続的に育成する必要があり、養成講座以降の学習支援(更新講習など)に力をいれている。

以下のような考え方を明示している機関がある。
④定期的に実力診断を受ける
自分に本当に必要な講習を選択するためには、まず実力診断によってキャリアコンサルタントとしての成長課題を明確化することが前提になる。
⑤「実践⇒実力診断⇒学習⇒実践」の成長サイクルをまわす
実践(D) ⇒実力診断・課題明確化(C)+効果的な学習メニューの選択(P) ⇒講習受講(A)⇒実践(D)のサイクル(持続的成長のためのD-CPADサイクル)をスパイラルに繰り返すことで、持続的な成長サイクルを実現することができる。
⑥科学的なスーパービジョンを受ける
スーパービジョンは、教育プログラムとして科学的で標準化された技術の元にシステマティックに実施されるものを受講する必要がある。またスーパービジョンは事例指導 (クライアントの見立てと支援の指導)にとどまらず、スーパーバイジー自身の課題に隹占を当てた教育的指導でなくてはならない。
⑦3つの学習を視界に入れる
継続的な学びに不可欠な学習は、「専門領域ごとに必要となる知識・技能・技法」「キャリアコンサルティングの土台であるキャリアカウンセリング基礎技術の練磨」「基礎コンピテンシーとしての『見立て』や『セルフモニタリング』を行う能力の向上」の3つである。

4.スーパーバイザー養成の考え方、養成方法
1.モデル実施
(1)モデル実施協力機関・スーパーバイザー・スーパーバイジーの選定
①モデル実施協力機関
選定条件を設定し対象機関を調整して選定。
②スーパーバイザー
1級キャリアコンサルティング技能士、団体認定スーパーバイザー等を要件とし、14 名(男女各7名)を選出した。
③スーパーバイジー
各モデル実施協力機関に所属するキャリアコンサルタントを原則として24名(男性 13名、女性11名)選出した。
(2)スーパービジョンのモデル実施
①実施概要:
期間 令和元年7月~9月
実施総数 41回
スーパーバイザー数 14名
スーパーバイジー数 24名
相談者数 37名
②実施パターン:
スーパービジョンモデル実施のバリエーションを想定し、クライアントが同一人物の場合、異なる場合、また実施回数での場合分けを行い、4パターンに分類した。
③実施形態:
スーパービジョンの実施形態は「個別」「グループ」等があるが、今回のモデル実施は全て「個別」 にて行われた。
④実施方法:
スーパービジョンの実施方法は「対面」や近年増加している 「Web会議システム」等があるが、今回のモデル実施は41回中、「対面」が39回(95%)、Web会議システム」 が2回(5%)にて行われた。
⑤使用記録:
スーパービジョンにおいて使用される記録は「逐語記録」「ケース記録」等があるが、 今回は「逐語記録のみ」が17回(41%)と最も多く、次いで「ケース記録のみ」が14 回(34%)、「逐語及びケース記録」が5回(12%)等だったが、それらに加えて「組織、背景の説明資料」が使用されているケースが計3回(7%)あった。

2.アンケート・実施報告書の分析
(1)アンケート・実施報告書等の実施と様式
①キャリアコンサルテイングの効果に係るアンケート(相談者向け)
者を対象としたアンケートは、面談後にキャリアコンサルタントが直接アンケー ト用紙を手渡し、回答はスーパービジョン検討委員会事務局(以降、事務局)宛の返信用封筒にて回収した。
②スーパービジョンのモデル実施に係るアンケート(スーパーバイジー用)
スーパーバイジー(キャリアコンサルタント)を対象としたアンケートは、スーパー ビジョン受講後、一回ごとに回答する形とし、パスワードで暗号化されたアンケートファイルを事務局宛にメール添付の形で一週間以内に送付することとした。
③スーパービジョンのモデル実施に係る実施報告書(スーパーバイザー用)
ーパーバイザーを対象とした実施報告書は、スーパービジョン実施後、一回ごとに回答する形とし、パスワードで暗号化された実施報告書ファイルを事務局宛にメール添付の形で、実施月の月末までに送付することとした。
④スーパーバイザーアンケート
スーパービジョンモデル実施後にスーパーバイザーに求められる水準を調査する目的で実施し、回答はパスワードで暗号化されたアンケートファイルを事務局宛にメール添付する形とした。
⑤スーパーバイザー追加アンケート
スーパーバイザーアンケート実施集計後、本委員会にて「組織領域に対応している」 と回答したスーパーバイザーに対し、カウンセリング中心のバックグラウンドからどのように組織領域へと対応を拡大したか確認のためのアンケート実施が決定し、追加で行った。回答はパスワードで暗号化されたアンケートファイルを事務局宛にメール添付する形とした。
⑥職務と学びの経歴書
本委員会にて指定のあった組織領域に対応している4名のスーパーバイザーに対し、今後のスーパーバイザー育成につなげるためのしっかりし確認が必要と決定し、ヒアリング及びパスワードで暗号化された職務と学びの経歴書ファイルを事務局宛にメール添付で回答する形とした。
(つづく)

-実践編・応用編

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