キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

基礎編・理論編

横山哲夫先生の「個立の時代の人材育成」からの紹介

投稿日:2025年5月24日 更新日:

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は6年になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に14年もの間先生の思想に基づいた養成講座を開催し続けさせてきました。

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがありはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。
先生には多くの著者がありますが、今回はその中からキャリコンサルタントに有用な「個立の時代の人材育成」-多様・異質・異能が組織を伸ばす-の核となるところを紹介したいと思います。

横山哲夫先生の「個立の時代の人材育成」からの紹介です。
W大ビジネススクールにおける「人材開発」 の授業の一環として、M社、K社CDC面接の事例に言及した。学生(企業派遣、平均二九歳)の大多数が異口同音にもらした感想は「うらやましい」であった。「役員や本社部長などは雲の上の存在。直接話をする機会など望めないのに、ましてや、自分自身のことをしゃべれるなんて」ということのようである。

どうやら、面接制度に対する被面接者の方の準備は、自からでき上がっているようである。企業側として、「面接制度だけ発足させても、それと連動させる個別の人事制度の準備がなければ…」の躊躇は無用にしたい。個別(立)の人事は、一つひとつつくっていくものである。先行させやすいものからはじめ、はじめたものと結びつきやすいプログラムを次につくってゆく。これが実務家の姿勢であろう。

M社CDC面接の概略

内容 コ メ ン ト
①面接は誰が行うか  まず面接に当たる人材開発委員会の構成は,正規委員は役員から,面接委員は,主要部長職から選任されている(任命はすべて社長によってなされる)。現在の正規委員(役員)は,営業分野から2名,製油,管理,人事分野各1名計5名の取締役。面接委員は,主要各部門の部長から8名が任命され,計13名で構成されている。委員長には人事総務担当取締役が任命されている。

面接は通常,役員と部長の組み合わせによる2名で行なう。面接時間は,通常1時間だが,面接資料を事前に読み,面接後の委員間の意見調整やラインへのフィードバック作成時間を入れると,1人の社員の面接に平均2 時間はかかっている。

②面接対象者は誰か  対象者は原則として全社員である。この原則をあいまいにすると,エリート選別プログラムになってしまう。原則は,全社員対象であり,面接対象からの脱落は主として従業員側のキャリアプランに起因する。たとえば,勤務地として自分の生まれ育った土地から,離れることのできない者。あるいは,当初から短期勤務を予定している者(女性社員に多い)は,長期的,全社的見地から継続的に展開されるCDPとかみ合わないことになり,したがってCDPの一環として推進される委員会面接の対象になり難いことになる。これらの場合にはもっばらラインの指導,ラインの面接にゆだねられることになる。通常,面接は入社後数年を経験したあとで始められ,課長職レベルの者までで,おおよその年齢でいえば20代後半から40代前半ぐらいである。この間に数度の再面接を受ける。キャリア指向の女性は当然面接の対象となる。
③面接の組み合わせ  被面接者は面接に当たる役員,部長のライン系列に属さないことを原則とする。たとえば販売系列に属する支店勤務社員は,製油担当取締役と企画部長によって面接され,経理部員は販売担当取締役と人事部長による面接を受ける。長期的視野に立つ多面的観察によるガイダンスとアセスメントが委員会面接の趣旨であることからいって当然の原則である。
④面接,再面接の指名  ラインの長の委員会に対する要請が優先する。しかし,再面接の時期については,前回面接時の申し送りを,委員会コーデイネーター(専従)がとり上げ,ライン長の同意を得る形になることも多い。また数は多くないが,当人の希望(自己申告書の記載,上司への働きかけなど)がいれられる場合もある。
⑤面接の頻度と実績  委員会面接が始められてからの15年問を通し,毎週,誰かが(委員2人)誰かを(社員)をどこかで面接し続けてきているといってよい。主たる面接室は委員会専用の本社面接室であるが,時として,委員2人(役員と部長)が支店に赴くこともある。年間平均の面接実数は再面接を含め約100件である。

ローテーション―柔構造と剛構造
いわゆるキャリア・パス(進路)についてM社は柔構造的な考え方をとる。細かくパスを定め、あるいはパスの組み合わせを定型的に考えて、それにヒトを当てはめてゆく、という剛構造的な考えをとらない。ヒトの側からの選択を重んずる姿勢があるからであり、ヒトの選択を重んずると、パスを複雑に構造化しては、ヒトも組織も柔軟に対応できない。剛構造でもヒトの選択を重んずることは可能ではあるが、いったん決めると変更が容易に認められないのが実情のようである。きちんとコースが決まっていて、順番や基準年数があるところに、安心感があり、選択のしやすさもあるとは思う。しかし、この激変の時代に定型ないしはモデルコースの耐用年数がいつまであり得るかと思うし、なによりも、考えが変化し、成長するのがヒトの本質であるから、ヒトの育成と活用には、できるだけ融通のききやすい、弾力的な方法をとりたい。私はそう考えたし、M社の幹部も同様に考えた。ラインもCDCもその考え方であった。キャリア・パスを細かく規定せず、ラインジョブとスタッフジョプ、執行業務と分析業務の組み合わせを重視すれば充分という考えである。この間に海外業務、出向業務、留学、タスクフォースへの派遣・参加などを随時取り入れる。こうしたやり方の中から、ゼネラル・マネジメントを目指す者、スタッフ・スペシャリストを働きがいにする者が分かれてくる。

キャリア・パスに捉われすぎるとCDPが硬直化する、と私見を述べて稿をすすめる。
(つづく)平林良人

-基礎編・理論編

執筆者:

関連記事

キャリアコンサルタントの活動領域

厚生労働省の「キャリアコンサルティング研究会」の「キャリアコンサルタント自身のキャリア形成のあり方部会」の報告書では、キャリアコンサルタントの働く分野に「活動領域」という言葉が使われ、企業領域、需給調整機関領域(就職支援領域)、教育領域、地域領域として分類されています。 キャリアコンサルティングの制度を構築するにあたり想定した活動領域、制度実施後の実際のキャリアコンサルティングの活動領域を、中央職業能力開発協会の熟練検討委員会が整理した、実践フィールドの違いによる熟練レベルのキャリアコンサルタントの特長、中央職業能力開発協会の指導レベルキャリア・コンサルタント制度設計の必要性、労働政策研究・研 …

民間教育訓練機関における職業訓練サービスガイドライン5

厚労省はISO29990を踏まえ、民間教育訓練機関が職業訓練サービスの質の向上を図るために取り組むべき事項を具体的に提示したガイドラインを発表しています。テクノファで行っているキャリアコンサルタント養成講座は、民間教育訓練機関におけるサービスの質の向上のガイドラインである「ISO29990(非公式教育・訓練のための学習サービス事業者向け基本的要求事項)」のベースであるISO9001に沿って行われています。 ●「民間教育訓練機関における職業訓練サービスガイドライン」 URL:2r985200000277tu.pdf PowerPoint プレゼンテーション サイト内検索結果|厚生労働省 以下、厚 …

相談者の面接目標達成ヘルピング技法_キャリアコンサルティングとキャリアカウンセリング2

ヘルピング技法について(1)かかわり技法(事前段階)(2)応答技法(第1段階)(3)意識化技法(第2段階)を解説してきました。第2段階までに用いられてきた技法は、自己理論、精神分析理論、そして論理療法を伏線としており、ヘルピーが自分の実態「現在地」に気づき、なりたい自分の「目的地」に気づくことをサポートするためのものでした。 これから解説する(4)手ほどき技法は、既に記したように行動療法が伏線になっています(國分康孝1996年「カウンセリングの原理」)。しかしながら、行動療法というと治療的意味合いが強くなってしまうので、これを意識して以下の解説では行動カウンセリングと記します。これは、私たちの …

キャリアコンサルティントの相談のポイント

キャリアコンサルタントの相談実施においておける7つのポイントについて説明しますが、すべてを実行するとは限りません。クライエントのニーズに合わせて必要なものを実行します。 キャリアコンサルティングにおける相談は、ガイダンスやカウンセリングなど他の相談と重なるところや類似するところがありますので、キャリアコンサルティングの特徴を理解しておく必要があります。 木村周氏は著書『キャリアカウンセリング(改訂新版)』のなかで、キャリアガイダンスとキャリアカウンセリングについて、その他広く行われているガイダンスやカウンセリングと比較して、その特徴を述べています。それらを参考にキャリアコンサルティングの特徴を …

傾聴とは積極的に聴くこと キャリアコンサルタント養成講座

ドラッカーは近代経営学の父と呼ばれた人ですが、彼は経営者が効果的にマネジメントする8つの慣行を提案しました。その中に「最初に聴き、最後に話す」というものがあります。リーダーシップの本質は「信頼を獲得して結果を得ること」ですが、 信頼を得る行動で最大効果を生むものが聴くことであると述べています。驚くべきことに、多くの指導者は聴くことをうまくやれません。多くの調査で「指導者の聴く能力」は、評価項目で最も低いレベルに位置付けられています。最初に聴いて、最後に話しすることは大変重要なことです。 それはとても単純ですが、多くの人々はそれを理解することができません。 聞くと聴くとは違います。積極的に聞く、 …