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実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_スウェーデン_労働施策 2

投稿日:2024年7月25日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

前回に続き、スウェーデンの労働施策の2回目です。スウェーデンは、「北欧の中の日本」と言われるほど両国の国民性には幾つかの共通点があります。例えば、几帳面で真面目・シャイな我慢強い性格のところです。また、グループ内の和の尊重や謙虚さも日本人に通じるところがあります。社会保障制度が手厚い北欧諸国の中でも、スウェーデンは特に育児に対する支援が手厚く、子供の大学までの教育費や18歳までの医療費が無料で、育児休暇などの制度も充実しています。スウェーデンに進出している日系企業の拠点数は、約160社です。なお、2024年3月に北大西洋条約機構(NATO)に正式加盟しました。

■若年者雇用対策
16歳以上25歳未満の若年失業者には、雇用準備支援、能力開発を内容とする若年者雇用保障プログラムが提供されている。また、事業主への助成を通じた支援として、若年者もニュースタートジョブ制度の対象となっているほか、2014年からは若年者を訓練付雇用で雇った場合の補助が導入された。さらに、2018年5月から導入されたイントロダクションジョブ制度は、20歳以上であって若年者雇用保障プログラムに少なくとも200日以上参加した者も対象としている。

2015年には、国とコミューン(市)の協定に基づき、就労と国民高等学校等での教育を組み合わせて提供する教育契約(Utbildningskontrakt)も導入された。①高校又はそれと同等の教育を修了していない20歳以上25歳未満の失業者で、②雇用仲介庁に登録しており、③国と協定を結んだコミューンに居住している、の条件を満たした場合に対象となり、フルタイムの50%以上就学した場合、中央就学支援機構(Centrala studiestödsnämnden: CSN)から補助金を受けることができる。また、2019年8月から、15歳以上18歳未満の若年者を雇用する場合、支払賃金に応じて政府に支払う事業主税(2022年の税率31.42%)について、この代わりに年金保険料(2022年の税率10.21%)のみ支払えば良いとされる軽減措置(月25,000クローナまでの賃金を対象とする。)が導入された。なお、新規の高校・大学卒業者のための新卒一括採用市場は基本的に存在せず、各人は一般の労働市場の中で求職活動を行っている。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■高齢者雇用対策
雇用継続の保障に関して、一定の措置が講じられています。雇用保護法において、希望する者に対しては68歳まで雇用を保障することが事業主に義務づけられています。また、整理解雇の際の人選や再雇用優先権の付与について、長期雇用者・高齢者を有利に取り扱うルールが雇用保護法上設定されています。なお、事業主が支払賃金に応じて政府に支払う事業主税(2022年の税率31.42%)において、65歳以上80歳未満の労働者に関しては事業主税の代わりに年金保険料(2022年の税率10.21%)のみが賦課され、80歳以上の労働者については賦課されていません。

“■障害者雇用対策
障害により就労能力が恒久的に減退している者に対しては、一般的な労働市場政策に加えて特別の対策がとられている。障害者はまずは公共職業安定所に求職者として登録し、個人の状況に応じた支援への結び付けが行われる。企業に対して障害者の法定雇用率を定める等の制度は導入していない一方、具体的な支援策として、
①障害者を雇用した事業主に対する一定割合(最大月額20,000クローナ)の賃金補助(最長2年)、
②国営企業サムハル(Samhall)による雇用、
③社会的企業等による障害者の能力開発も含めた保護雇用(原則1年)、
④短期の訓練を目的とした能力開発雇用(原則1年)、
⑤障害者に適応させるための職場改造等に対する補助(原則年最大10万クローナ)、
⑥職場で障害者を補助する者(パーソナルアシスタント)に係る補助(最大1時間当たり358クローナ)、
⑦訓練が必要な者に対する職場での特別コンサルタントによる支援、
などが講じられている。このうち、国営企業サムハルは、保護雇用実施組織を再編して1980年に基金として設立された(現在は政府系企業)。雇用機会の提供による障害者の成長促進・外部への就職支援を目的・目標とし現在約2.6万人を雇用し、機械等の製造・組立て、清掃・洗濯、高齢者向けサービスの提供などを行っている。サムハルにおける雇用期間に制限はないが、外部への就職支援が任務となっており、サムハルで就労経験を積んだ上での一般労働市場での就職を促進している。

なお、障害者に対しては、国の社会保険制度の下、活動補償金(Aktivitetsersättning)・傷病補償年金(Sjukersättning)により就労能力の減退に応じた所得保障がなされている。また、障害者の生活支援全般はコミューンが担っており、作業所での活動(少額の金銭を支給)などはコミューンが住民所得税を主たる財源として実施している。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■傷病者対策
労働者が傷病により就労できない場合、原則として初日から14日間は雇用主による傷病給与、その後は国の社会保険制度である疾病手当により所得保障がなされています(最大364日は従前所得の80%相当額、その後は申請すれば従前所得の75%相当額(傷病が重篤である場合には80%相当額)が給付されます)。疾病手当については失業者も受給可能です。疾病手当の支給期間が満了した失業者に対しては、労働市場への復帰を支援するため、公共職業安定所の職員と理学療法士や作業療法士等の専門家による導入プログラム(最大3か月)、それを踏まえての個別就労支援プログラムが提供されています。プログラム参加中は活動支援手当が支給されます。

■失業保険制度
1974年に失業保険に加入していない者や加入期間の足りない者に一定額の給付を行う労働市場支援金が導入されました。また、1998年には失業保険と労働市場支援金を合わせた包括的な失業保険制度の導入により、所得比例給付と基礎給付という現在の仕組みが構築されました。この制度においても、失業保険基金による管理・運営という枠組みは維持され、労働組合が大きく関わる仕組みとなっています。

また、各労働組合は、失業保険とは別に所得保険を設け、収入が一定以上あり、失業手当の上限額に達する失業者等に対して、補足的な給付を支給しています。スウェーデン政府は2020年4月に失業手当の給付日額の上限の引上げを行ないました。2020年の失業保険の受給者数は2019年の1.4倍(34万人)に増加しています。なお、2020年10月に成立した中道右派政権でも、この引き上げ水準を2023年も維持する方針を示しています。

■職業能力開発施策
● 失業者に対する職業訓練等
労働者の能力向上・再就職促進及び労働市場が求める人材の不足を防ぐため、雇用仲介庁の管理の下、失業者に対し、雇用準備支援、職業訓練、インターンシップ、企業支援などの能力開発のためのメニュー・プログラムが提供されています。長期失業者に対しては個々の特性を踏まえつつ設計される雇用能力開発保障プログラムが適用されます。

失業保険の受給(300日又は450日)が終了した者、失業保険の受給資格がなく14か月間継続して失業者として登録されていた者、若年者雇用保障プログラムを終了した者等が対象となります。支援内容としては、失業者としての登録期間にかかわらず、個々人の状況に応じて、ガイダンス、職業訓練、職業紹介等のほか、人材不足の業種に関する専門教育コースの提供、雇用能力開発保障プログラムに参加しつつパートタイムで大学等での成人教育に参加する機会の提供、スウェーデン語学習の機会の提供など、様々なサービスを提供することとしています。若年失業者に対しては早い段階で支援を行う若年者雇用保障プログラムが適用されます。対象は、16歳以上25歳未満の若年失業者で公共職業安定所に3か月間失業者として登録されていた者等です。詳細なアセスメントにより職業復帰計画を見直した上、最初の3か月はガイダンス、カウンセリングなどの雇用準備支援が行われます。その後は職業訓練やインターンシップ、国民高等学校での特別コース、起業支援(20歳以上の者のみ)などが提供され、15か月で終了します。

これらのプログラムは、フルタイムの就労、就学、育児休暇、傷病休暇に入った場合、原則として終了します。また、プログラムへの参加を怠った場合、適切な理由なく求人への応募を断った場合、求職活動の状況について公共職業安定所への報告を怠った場合等には支援が取り消されます。プログラム受講中の所得は、活動支援手当又は能力開発手当により保障されます。

  • 再学習の環境整備
    完全雇用を達成するためには変化し続ける労働力のニーズに労働者を適合させることが極めて重要であり、職業教育に力を入れるとともに、義務教育(9年間)、高校(3年間)、大学を卒業して労働市場に入った後、いったん休職・退職して学び直し、新たな専門知識や能力を身につけた上で再び労働市場に戻るための環境が整備されています。
    職業教育については、大学において専門教育が行われるほか、高校では建築、工業、保育、保健等卒業後の職業につながる専門課程が設置されており、実地教育を含めた職業教育が実施されています。また、成人に対して労働市場で必要とされている職業教育を提供する職業高等学校プログラム(2年間)も実施されています。

労働者には教育を受けるために休暇(無給)を取得する権利が保障されており、退職せずに学び直しを行うことが可能となっています。18歳以上55歳未満の学生は、政府から奨学金を受けることが可能です。スウェーデンでは大学まで学費は無料であり、これらは生活費に充てられます。原則として、奨学金の3分の1は無償、3分の2は貸与として卒業後低利子を付して返済します。

(つづく)Y.H

-実践編・応用編

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