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経産省CX研究会に見る日本製造業の今後3

投稿日:2025年12月6日 更新日:

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお届けします。出典 経済産業省 meti.go.jp

技術力・製品力以外の領域で競争力を高める狙い

前述の通り、CX研究会はあえて技術力や製品そのものの競争力を議題のスコープ外とした[6]。これは決してそれらを軽視するものではなく、日本の製造業が依然として高い技術的優位を持つとの前提に立ちつつ、「優れた製品を作れば売れる」だけでは通用しない時代において不足している要素を補強する狙いがあったと言える。事実、日本企業は品質や職人技術で高い評価を受ける一方、それをビジネスとして展開する戦略・収益モデルの面で後れを取ってきた歴史がある。例えば、同じ技術力を持っていても米欧企業は高い利益率を実現しているケースがあり、その差はブランド戦略やサービス化、グローバル市場での価格主導権、経営効率など「非技術的な競争力」の差異に起因する[37]。経産省がCX(企業変革)を唱える背景には、まさにこの非技術系競争力(経営力)の強化が必要との認識がある。

具体的には、(1)戦略策定力・資源配分力(どの事業に投資し何を捨てるか決める力)、(2)組織運営力(多様な人材・拠点をまとめ上げ機能させる力)、(3)データ活用力(現場発の知見を経営に活かす力)、(4)ガバナンス力(透明性・説明責任を伴う統治と意思決定)などが挙げられる。これらは一見地味だが、グローバル市場で持続的に高収益を上げる企業ほどこの部分が強靭である。逆に日本企業は、この見えにくい部分の弱さが原因で「良い製品を作っても儲からない」「海外で組織が思うように動かない」という事態に陥ってきた。例えば日本企業の多くが海外M&Aで規模を拡大したものの、その後の統合作業に手間取りシ energiesyを出せないことがある。また、日本本社の意思決定に時間がかかり、市場変化への対応が遅れてビジネスチャンスを逃すケースも指摘されている。こうした反省から、技術・製品以外の「経営インフラ」こそ競争力強化のボトルネックになっているという問題設定がなされたのである[13]

CX研究会は、日本企業に対し「技術偏重から脱し、経営インフラを磨け」というメッセージを発したとまとめられる。これは決して技術開発投資を疎かにするものではなく、むしろ技術力を真に価値創造につなげるための受け皿を整備するという発想である。前述のとおり斎藤経産相はCXを「現場力や優れた製品の付加価値を利益に変える処方箋」と表現した[8]。つまり、技術力×製品力というを飛ばすための(経営力)が弱ければ、どんな鋭い矢も的には当たらない。日本製造業の将来像として、製品イノベーションと経営イノベーションの双方に優れた真の総合力企業を目指す必要性が示唆されている。

政策的意図・示唆: 制度設計への展開可能性

CX研究会の成果は一企業の経営改革提言に留まらず、産業政策・制度設計にも影響を与える可能性が高い。実際、経産省は本研究会の議論を踏まえ、令和7年度(2025年度)予算に企業変革を後押しする具体策を盛り込む方針を示している[12]。これは政策的意図として、国が企業のCXを支援するための予算措置(補助・奨励策等)を講じる意思があることを意味する。たとえば以下のような制度・政策への展開が考えられる。

  • 人的資本経営・ガバナンス改革の推進: 既に経産省は「人的資本可視化指針」や「人材版伊藤レポート2.0」[38]を通じて企業の人的資源管理の高度化を促している。CX研究会の議論を踏まえ、CHRO(最高人事責任者)の設置促進社外取締役による組織改革モニタリングなどをコーポレートガバナンス・コードに盛り込む可能性がある。また、多様な人材登用やリスキリング(学び直し)支援策、グローバル人材育成プログラムへの助成といった政策展開も考えられる。これらは第3回テーマ(HR・組織)の延長線上にあり、企業内部の人材ポートフォリオ転換を促進する枠組みとなる。
  • 攻めの投資・構造改革へのインセンティブ: 第1回テーマ(ファイナンス)での議論を受け、内部留保の有効活用や不要資産の処分を促す制度設計が示唆される。具体例としては、設備投資減税・DX投資減税の拡充、企業結合・分割に係る税制優遇、あるいは過剰な手元資金を抱える企業へのガバナンス強化(資本コスト開示の義務化等)などが考えられる。実際、日本政府は近年「新しい資本主義」の文脈で企業の賃上げ・投資を促す政策を打ち出しており、CX研究会の提言も「守りから攻めへの転換」[17]を制度面で後押しする施策につながる可能性が高い。
  • デジタルインフラ整備支援: 第2回テーマ(DX基盤)を受け、産業横断的なデジタル基盤整備への政策支援が検討される。例えば、中堅・中小企業を含めたクラウドERPやサプライチェーン管理システムの導入支援、データ標準化のガイドライン策定、サイバーセキュリティ強化補助などである。日本の産業界全体のデジタル化度合いを底上げしないと、一部大企業のみがDXを進めてもサプライチェーン全体の非効率に足を引っ張られる恐れがあるため、業界ぐるみのDX推進政策が予算要求に含まれる可能性がある。
  • グローバル経営人材の育成とネットワーク構築: 研究会メンバーにはCFO・CIO経験者が参加していたことから、財務・ITなど専門人材の育成支援策にも示唆が得られる。例えばCFO候補人材向けの研修プログラム、デジタル人材のリスキリング支援、企業間でのCxO人材交流ネットワーク構築支援などだ。また、多国籍企業経営の知見共有の場(シンポジウムやラウンドテーブル)の定期開催も考えられる。実際、2024年6月には本研究会の成果を広めるCXシンポジウム」が開催され、40社へのヒアリング結果が共有されている[39]。今後も官民連携で知見を蓄積・発信し、日本企業全体の底上げを図る狙いがある。
  • 法制度・会計制度の見直し: コーポレート機能の発揮を妨げる制度的課題にもメスを入れる可能性がある。例えばグループガバナンスに関する会社法・金商法上の規制緩和・強化(親子上場の在り方や内部統制基準の整備)、企業結合会計基準の見直し(M&A後ののれん償却ルール等)などが議論される余地がある。また、人事面ではジョブ型雇用への転換を促す労働規制の柔軟化や、高度外国人材の受け入れ促進策(ビザ要件緩和等)も検討課題となろう。これら制度変更は直接研究会で議論された事項ではないが、「日本的経営のOSアップデート」[27]というビジョンを実現するために必要な環境整備として、政策当局が今後取り組む可能性がある。既にコーポレートガバナンス・コード改訂や企業会計基準の見直し等は進行中であり、CX研究会の提言はそうした流れを後押しする理論基盤となる。

総じて、グローバル競争力強化に向けたCX研究会の示唆するところは、「企業自身が変革に取り組むべき点」「政策的にその取り組みを促すべき点」の双方が含まれている。企業内部でパーパス経営の確立やコーポレート機能の刷新に動くことが第一義だが、同時にそれを支える産業政策(資金的・人的支援、ルール整備)も不可欠だろう。本研究会報告書は民間企業に向けた指南書であると同時に、政策立案者にとっても次の一手を考える上での参考指針となっている。

おわりに: 日本製造業の未来に向けて

「グローバル競争時代に求められるCX(企業変革)」というテーマは、日本製造業が直面する構造転換の核心を突くものである。技術力・現場力という伝統的強みに胡坐をかくことなく、経営の在り方そのものを変えていかなければ、人口減少や地政学リスクもある中で持続的成長は望めない。経産省製造産業局のCX研究会は、そうした危機感のもと日本企業の将来像を描き直す試みであった。そこから浮かび上がった今後の方向性は、「ワンカンパニーとして機能するグローバル企業」への変革であり、そのための経営インフラ(財務・人事・デジタル・組織)の再構築である[18]。この方向性は、多くの日本製造業企業にとって大きなチャレンジであるが、同時に停滞を打破しうる大きなチャンスでもある。現に、日本経済には30年ぶりの好機が訪れつつあり(2023~24年の日経平均株価上昇など)、これを活かすも殺すも企業の変革次第という状況にある[40]。政府としても産業政策の総力を挙げてCX推進を支援し、「稼げる産業構造」への転換を図ろうとしている[41]

最後に強調すべきは、本研究会報告書が企業自らの行動を促す呼び水である点だ。[42]にもあるように、経営層から現場まで「変えねば」「変えたい」と考える当事者の目に留まり、一歩を踏み出す契機となることが期待されている[42]。政策的支援策が用意されたとしても、実際に変革を成し遂げるのは各企業のリーダーシップと執行力である。日本の製造業が今後も世界で存在感を発揮し続けるためには、技術革新と並行して経営革新を進める二刀流の取り組みが欠かせない。グローバル市場で戦い続ける企業群を中核に据え、国内経済の活力を維持・向上させていくという国家的使命に照らしても、コーポレート・トランスフォーメーション(CX)は待ったなしの課題と言える[41]。本稿で論じた方向性と示唆が、その取り組みの一助となれば幸いである。

参考文献・出典: 本解説は経済産業省 製造産業局「製造業を巡る現状と課題~今後の政策の方向性」(2024年5月公表)[5][6]および同資料内の「グローバル競争力強化に向けたCX研究会」に関する記述[6][14]、ならびに経済産業省プレスリリース[2][18]、Forbes JAPAN記事[41][8]、官庁通信社記事[13]等を参照している。また、研究会報告書の概要についてはNewton Consulting社の速報記事[10][22]も参照した。以上の情報源に基づき、現状分析と解釈を行った。

[1] [8] [39] [40] [41] グローバル競争時代に求められる「コーポレート・トランスフォーメーション(CX)」とは | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

https://forbesjapan.com/articles/detail/72008

[2] [18] [26] [27] [28] [31] [32] [33] [42] 「グローバル競争力強化に向けたCX研究会」の報告書を公表します (METI/経済産業省)

https://www.meti.go.jp/press/2024/06/20240603008/20240603008.html

[3] [4] [15] [17] [37] 製造業を巡る現状と課題 今後の政策の方向性 ― 経済産業省 | ISO情報テクノファ

(つづく)Y.H

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