実践編・応用編

キャリアコンサルタント実践の要領  37 | テクノファ

投稿日:2021年2月8日 更新日:

今回は、キャリアコンサルタントととして活躍している方の近況や情報などを発信いたします。今回はS.Sさんからです。

最近、巷では「アドラー心理学」に注目が集まっているらしい。書店に行けば入口近くの棚に平積みしてあるほどである。
キャリアコンサルタントとして、「アドラー」といえばフロイトと共に研究を行なった心理学者の一人として知られているが、行き詰まりの様相を呈している教育界の危機的現状や個人レベルにおける「生きにくさ」からすれば、何らかのヒントを求めて、いま改めて取り上げてみようという気になったのかもしれない。
(注:ここで言う教育界とは単に学校や家庭に限定せず、社会や企業一般においても同様である。)

アドラー心理学の理論的な特徴としては、以下の項目を挙げることができる。
1.人間を分割できない総合的な存在として把握し、理性と感情・意識と無意識などの対立よりも全体論として扱う(全体論)
2.人間の行動を原因~結果でなく、動機の奥にある無意識的な目的を理解しようとする(目的論)
3.客観的な事実よりも、事実や出来事に対する個人が持つ主観的認知構造を重視する(認知論)
4.精神的な内界よりも、個々の対人関係における構図を理解しようとする(対人関係論)などである。

これらは、家族心理学・交流分析・システム論・ホリスティック教育(医学)といった具合に、どれを取っても様々なアプローチで語られている視点である。
アドラーは既に以前からこれらについて触れていたにもかかわらず、それらが統合的に整理されていなかったために分かりにくかったことや時代的な流れもあって、これまで注目されずにきてしまったのだろう。

ということで、今回はキャリアコンサルタントに向けて特に2.と3.を中心に深めてみたい。
僕は仕事柄、問題を起こす子どもたちの言動の奥にある「背景」について、深いアセスメントが要求されることが多い。
というのは、背景についてアセスメントを怠り、とにかく問題解決に向けた手立てを検討しても、無駄な結果に終わることが多いからである。

つまり、見立てに誤りがあれば、むろん手立ても間違えてしまうからである。とかく子どもが何らかの問題を犯した際に、親や教師が「なぜそんなことしたの!」と問い詰める光景を目にするが、彼らはそれを聞いてどうしようと言うのだろう。

なぜそれを知りたいかについて果たして自覚はあるだろうか。
もしかしたら、この聞き取り調査的な尋問は、とにかく自分が納得して落ち着きたいからなのかもしれないし、単なる興味に起因しているだけかもしれない。

だが、特に相手が子どもである場合、それが何らかの目論見や魂胆を持つ確信犯でもないかぎり、言動の多くは溢れる感情を処理しきれずに混乱し、反応的に為されたものがほとんどである。

およそ人とは自分の感情について自覚が浅いものだが、ましてや幼い子どもなど、自分の行為や吐いた言葉の奥にうごめく情動が意識化されているはずもなく、湧き上がった感情をもっとも簡単な「怒り」に変換し、それが行動に反映されているに過ぎないのである。

むろん意識化ができていないことを言語化することなど、そもそも無理な話である。
感情には何らかの目的があるとアドラーは言う。それは自覚できていないものの、何らかの出来事をきっかけとして、悲しみや絶望、または落胆や妬み、悔しさ、怖れ、など様々な想いが湧いているに違いない。

そして、反応は一律ではなく、それぞれが持つ固有の性質によって異なるものであり、本人にとっての背景(生育歴や生得的な気質)が反応の源泉となっているのである。
「背景」という言葉に馴染みがない方も多いだろうが、これは「理由」というほど明確に意識化されているわけではなく、「事情」という現実的状況に限ったことでもなく、「原因」というほど単純ではないもの・・といった掴みどころのない漠然としたものである。

だが、本人の言動に大きな影響を与えている根本的なものであることは確かなのだ。つまり、「背景を観る」というのは、様々な想いや個人的な気質、生育歴において刷り込まれ、それに囚われてしまった傾向(エゴグラムで見つけることができます。)、または、その出来事をどのように認識し、どう捉えているかなど、その人にとっての「世界観」を相手の側から理解しようとする姿勢を意味するのである。

むろん、そこに必要なのは、あえて意識的に相手に関心を持つことが重要であるのは言うまでもない。先述したように、聴き手側の心に湧く興味に拠るものであってはならないのである。

人は、自分について知らないことが多く、きわめて無自覚なまま反応的に行動しているものだ。

それゆえ、しでかしてしまった行為の理由など問うだけ無駄であるし、動機について尋ねてみても、自分が不利にならないようにと無為意識に合理化し、責任を回避するための言い訳を思いつくための「きっかけ」を提供するだけである。
人は、無意識な言動にまで責任を持てるのだろうか?といった疑問もあるが、少なくとも自覚のない反省など全く以て意味がない。

さらに言えば、聴き手側が相手を観察するにしても、自分というフィルターを通して観てしまいがちという問題もある。
過去に似たような経験を持つケースに出会ったカウンセラーが、「あなたの気持ちは痛いほど解ります。」などと、軽はずみな言葉を発してしまうのは、相手の世界観に関心を持たず自分の中で勝手に起こった「連想」と区別がつかないからである。
それは単に自分が体験的に知ってる「似ている事象」を思い出したに過ぎない。個別の肉体を持ち、違った環境で育ち、これまでに出会った人も違えば、食べてきたものも異なる。自分とは違う相手のことを尊重するならば「分かります」などと言えるはずがない。

このように、人が人を理解するというのは、とてつもなく大変なことなのである。そもそも、自己理解を怠り、自分の特性や傾向すら知らないまま相手のことを理解しようとすること自体が無理なのだ。
それゆえ、相手を知るには「自分にとっての普通や常識」は一時的にでも脇に置くことが必要なわけだが、自分について何も知らなければ、脇に置くことさえできないだろう。

傾聴にとって最も邪魔になるものは「連想に基づく思いこみや決めつけ」なのである。対人援助に関わる者は、自分の生育歴を丁寧に振り返り、過去のエピソードから自分の特性や傾向を知り、認知のクセを理解していなければならない。
もし、あなたがカウンセリングを学びたい、または相手の話が聴けるようになりたいと思うのであれば、先ずは自分の姿を客観的に知ることから始めなくてはならない。

しかし、これについては自分だけの努力ではなかなか難しいものだ。教育分析やスーパービジョン、カウンセリングは、自己理解のために用意されているとも言える
(つづく)K.I編集

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