キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

実践編・応用編

「アドラー」はフロイトと研究を行なった心理学者

投稿日:2024年11月23日 更新日:

今回は、キャリアコンサルタントとして活躍している方の近況や情報などを発信いたします。今回はS.Sさんからです。

ここ10年位の間に「アドラー心理学」に注目が集まっているらしい。キャリアコンサルタントとして、「アドラー」といえばフロイトと共に研究を行なった心理学者の一人として知られているが、行き詰まりの様相を呈している教育界の危機的現状や個人レベルにおける「生きにくさ」からすれば、何らかのヒントを求めて、いま改めて取り上げてみようという気になったのかもしれない。
(注:ここで言う教育界とは単に学校や家庭に限定せず、社会や企業一般においても同様である。)

アドラー心理学の理論的な特徴としては、以下の項目を挙げることができる。
1.人間を分割できない総合的な存在として把握し、理性と感情・意識と無意識などの対立よりも全体論として扱う(全体論)
2.人間の行動を原因~結果でなく、動機の奥にある無意識的な目的を理解しようとする(目的論)
3.客観的な事実よりも、事実や出来事に対する個人が持つ主観的認知構造を重視する(認知論)
4.精神的な内界よりも、個々の対人関係における構図を理解しようとする(対人関係論)などである。

これらは、家族心理学・交流分析・システム論・ホリスティック教育(医学)といった具合に、どれを取っても様々なアプローチで語られている視点である。アドラーは既に以前からこれらについて触れていたにもかかわらず、それらが統合的に整理されていなかったために分かりにくかったことや時代的な流れもあって、これまで注目されずにきてしまったのだろう。

ということで、今回はキャリアコンサルタントに向けて特に2.と3.を中心に深めてみたい。僕は仕事柄、問題を起こす子どもたちの言動の奥にある「背景」について、深いアセスメントが要求されることが多い。というのは、背景についてアセスメントを怠り、とにかく問題解決に向けた手立てを検討しても、無駄な結果に終わることが多いからである。つまり、見立てに誤りがあれば、むろん手立ても間違えてしまうからである。とかく子どもが何らかの問題を犯した際に、親や教師が「なぜそんなことしたの!」と問い詰める光景を目にするが、彼らはそれを聞いてどうしようと言うのだろう。

なぜそれを知りたいかについて果たして自覚はあるだろうか。もしかしたら、この聞き取り調査的な尋問は、とにかく自分が納得して落ち着きたいからなのかもしれないし、単なる興味に起因しているだけかもしれない。だが、特に相手が子どもである場合、それが何らかの目論見や魂胆を持つ確信犯でもないかぎり、言動の多くは溢れる感情を処理しきれずに混乱し、反応的に為されたものがほとんどである。およそ人とは自分の感情について自覚が浅いものだが、ましてや幼い子どもなど、自分の行為や吐いた言葉の奥にうごめく情動が意識化されているはずもなく、湧き上がった感情をもっとも簡単な「怒り」に変換し、それが行動に反映されているに過ぎないのである。

むろん意識化ができていないことを言語化することなど、そもそも無理な話である。感情には何らかの目的があるとアドラーは言う。それは自覚できていないものの、何らかの出来事をきっかけとして、悲しみや絶望、または落胆や妬み、悔しさ、怖れ、など様々な想いが湧いているに違いない。そして、反応は一律ではなく、それぞれが持つ固有の性質によって異なるものであり、本人にとっての背景(生育歴や生得的な気質)が反応の源泉となっているのである。「背景」という言葉に馴染みがない方も多いだろうが、これは「理由」というほど明確に意識化されているわけではなく、「事情」という現実的状況に限ったことでもなく、「原因」というほど単純ではないもの・・といった掴みどころのない漠然としたものである。

だが、本人の言動に大きな影響を与えている根本的なものであることは確かなのだ。つまり、「背景を観る」というのは、様々な想いや個人的な気質、生育歴において刷り込まれ、それに囚われてしまった傾向(エゴグラムで見つけることができます。)、または、その出来事をどのように認識し、どう捉えているかなど、その人にとっての「世界観」を相手の側から理解しようとする姿勢を意味するのである。むろん、そこに必要なのは、あえて意識的に相手に関心を持つことが重要であるのは言うまでもない。先述したように、聴き手側の心に湧く興味に拠るものであってはならないのである。

人は、自分について知らないことが多く、きわめて無自覚なまま反応的に行動しているものだ。それゆえ、しでかしてしまった行為の理由など問うだけ無駄であるし、動機について尋ねてみても、自分が不利にならないようにと無為意識に合理化し、責任を回避するための言い訳を思いつくための「きっかけ」を提供するだけである。人は、無意識な言動にまで責任を持てるのだろうか?といった疑問もあるが、少なくとも自覚のない反省など全く以て意味がない。さらに言えば、聴き手側が相手を観察するにしても、自分というフィルターを通して観てしまいがちという問題もある。過去に似たような経験を持つケースに出会ったカウンセラーが、「あなたの気持ちは痛いほど解ります。」などと、軽はずみな言葉を発してしまうのは、相手の世界観に関心を持たず自分の中で勝手に起こった「連想」と区別がつかないからである。

それは単に自分が体験的に知ってる「似ている事象」を思い出したに過ぎない。個別の肉体を持ち、違った環境で育ち、これまでに出会った人も違えば、食べてきたものも異なる。自分とは違う相手のことを尊重するならば「分かります」などと言えるはずがない。このように、人が人を理解するというのは、とてつもなく大変なことなのである。そもそも、自己理解を怠り、自分の特性や傾向すら知らないまま相手のことを理解しようとすること自体が無理なのだ。それゆえ、相手を知るには「自分にとっての普通や常識」は一時的にでも脇に置くことが必要なわけだが、自分について何も知らなければ、脇に置くことさえできないだろう。

傾聴にとって最も邪魔になるものは「連想に基づく思いこみや決めつけ」なのである。対人援助に関わる者は、自分の生育歴を丁寧に振り返り、過去のエピソードから自分の特性や傾向を知り、認知のクセを理解していなければならない。もし、あなたがカウンセリングを学びたい、または相手の話が聴けるようになりたいと思うのであれば、先ずは自分の姿を客観的に知ることから始めなくてはならない。しかし、これについては自分だけの努力ではなかなか難しいものだ。教育分析やスーパービジョン、カウンセリングは、自己理解のために用意されているとも言える.

Amazon.co.jp : アドラー心理学
(つづく)K.I

-実践編・応用編

執筆者:

関連記事

欧州連合の労働施策 3

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 欧州連合の労働施策の3回目です。日本と欧州連合(EU)とは、共に世界貿易の担い手であり、二者間の貿易関係は、双方にとって重要です。二国は、戦略的な貿易パートナーであり、2019年2月に発動した日・EU経済連携協定は多くの経済的メリットを生み出しています。また、安全保障から気候変動・エネルギー・デジタル等広範な分野において協力しています。 ■職業能力開発施策 ●欧州スキルアジェンダ 2020年3月、欧州委員会は、欧州スキルアジェンダを発表しました。内容は、2025年までの5年間で、気候変動やデジタル化の加速に対応できるような人材育成 …

安心できる年金制度の確立 2

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 前回に続き、安心できる年金制度の確立についてお話しします。少子高齢化は、老後生活を支える年金の支給水準に大きな影響を与えています。それは、年金を負担する現役世代が減少する一方で、年金を受け取る高齢者が増えるためです。国民の多くは、年金制度は今後どうなっていくのか、或いはまた将来自分がどの位年金を受け取ることができるのか、そんな不安を持っています。 ●年金積立金の管理、運用 〇年金積立金の管理運用の概要 年金積立金の運用は、「積立金が、被保険者から徴収された保険料の一部であり、かつ、 将来の保険給付の貴重な財源となるものであることに …

ドイツの社会保障施策について

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 日本とドイツは基本的価値を共有し、G7等において国際問題に対し強調して取り組むパートナーです。また、ドイツは日本にとって欧州最大の貿易相手国であり、21世紀に入って日独関係はますます重要なものとなっています。政治経済面での協力はもちろん、文化・学術分野でも市民レベルでの活動が活発に行なわれています。今回は、ドイツの社会保障施策についてお話しします。 好調な経済状況の一方で、少子高齢化が着実に進展するドイツでは、社会保障制度改革が進められ、安定的かつ持続可能な社会保障制度が運用されています。人口動態については、2022年の見通しとし …

健康で安全な生活の確保 2

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 前回に続き、健康で安全な生活の確保についてお話しします。国民の多くは、健康で安全な生活をすることを願っています。一方で、大規模な自然災害が発生しても、機能不全に陥らないで復旧復興に取り組まねばなりません。また、日常生活に潜む危険(感染症等)などから身を守る対策にも万全を期す必要があります。 ■インフルエンザ対策について ●2023/2024シーズンのインフルエンザの流行状況と総合対策について インフルエンザは冬季を中心に毎年流行する感染症の一つであり、その病原体の感染力強いため、日本国内では毎年約1,500万人前後が、つまり、国民 …

我が国の国土交通行政の展開 2

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 前回に続き、国土交通行政の展開についてお話しします。国土交通省は、陸海空にわたる諸活動の基盤に関して、国土の総合的な利用と保全、社会資本の整合整備、交通政策の推進、観光立国の推進,、海上の安全の確保などを任務としています。これらの多岐にわたる取組みの目指すところは、安心・安全で豊かな自立し活力ある暮らしを可能にすることにより私達の暮らしを支えることといえます。 ◆交通政策の推進 ■交通政策基本法に基づく政策課題 「交通政策基本法」に基づき、令和3年5月に閣議決定された「第2次交通政策基本計画」 は、3年度から7年度までを計画期間と …