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前回に続き、労働経済の推移について、お話します。2022年の我が国の経済を見ると、感染防止策と経済活動の両立が図られる中で、個人消費の持ち直しや設備投資に牽引され、実質GDPは小幅ながら前年より増加した。企業の業況は非製造業を中心に持ち直し、経常利益は高水準に維持する中で、設備投資は活発化した。一方で、企業の倒産は3年ぶりに前年を上回っています。
◆雇用情勢の動向
■雇用情勢の概観
〇雇用情勢は、求人が底堅く推移する中で改善の動き
雇用情勢の動向について概観します。 新規求人倍率、有効求人倍率、正社員の有効求人倍率及び完全失業率の推移をみると、リーマンショック後の2009年以降、新規求人倍率、有効求人倍率、正社員の有効求人倍率は長期的に上昇傾向、完全失業率は低下傾向が続いています。2020年4月に 感染症の拡大による影響により、雇用情勢は一時的に悪化したものもあります。その後は、経済社会活動が徐々に活発化する中で、持ち直しました。 2023年においては、新規求人数は、前年から横ばいで、感染拡大前の2019年の水準まで 回復していないものの、引き続き高水準で推移しています。その結果、雇用情勢は、求人が底堅 く推移する中で、改善の動きがみられました。引き続き、物価上昇等が雇用に与える影響に留意する必要があります。
〇就業率は約6割ですが、女性の非労働力人口のうち約160万人が就職を希望しています。2023年の我が国の労働力をみると、就業者は約6,740万人であり、就業率は約6割となっています。就業者の内訳をみると、雇用者が約6,070万人と、就業者の大半を占めており、雇用者の中では、正規雇用労働者が約3,610万人と約6割、非正規雇用労働者が約2,120万人と約3割を占めています。 完全失業者は約180万人であるが、求職活動をしていない非労働力人口には、「働く希望はあるが求職活動はしていない就業希望者」が約230万人含まれており、完全失業者数を上回 る水準となっています。人手不足の中、働く意欲と能力がありながらも働いていない方の労働市場への参加にも目を向ける必要があります。 男女別にみると、就業率については、男性は約7割、女性は約5割となっており、女性においては非労働力人口が男性に比べて1,050万人ほど多い状況です。女性の非労働力人口をみると、働く希望はあるが求職活動はしていない就業希望者は完全失業者の2.2倍の約160万人 となっており、女性においては、就業を希望している者のうち、多くが求職活動まで至っていないことが示唆されます。
■就業者・雇用者の動向
〇経済社会活動が活発化する中、労働参加は着実に進展
本節では、労働参加の状況や就業者・雇用者の動向についてみていきます。2012年以降、感染症の拡大の影響のある期間を除き、労働力人口、就業者数、雇用者数は増加していますが、自営業者・家族従業者数は、1980年代以降減少しています。また、完全失業者数は、リーマン ショック後の2009年以降、感染症の拡大の影響のある期間を除き、着実に減少しました。 2023年においても2021年以降に引き続き、就業者数及び雇用者数は増加傾向、完全失業者数、非労働力人口、休業者数は減少傾向にあり、経済社会活動が活発化する中、労働参加の着実な進展がみられました。特に、2023年の労働力人口と雇用者数は過去最高を記録しました。一方 で、完全失業者数は感染拡大前の2019年よりも依然として高い水準となっています。休業者数 については、出産・育児等による休業の増加を背景に長期的に増加傾向にあり、2020年は感染症の拡大による経済社会活動の抑制・停滞等の影響により一時的に大きく増加したが、2021年以降は落ち着きがみられます。
〇労働力率は女性や高年齢層を中心に上昇傾向
男女別・年齢階級別の労働力率の推移をみると、女性は全ての年齢階級、男女計では55歳以上の高年齢層で上昇傾向となっており、女性や高年齢層を中心に 労働参加が進んでいることが分かる。2020年には感染症の拡大の影響により、女性に労働力率の停滞の動きがみられたが、2021年以降再び上昇がみられている。
〇障害者の雇用者数・実雇用率は過去最高を更新
障害者の雇用状況についてみてみると、近年、障害者雇用は、ノーマライゼーションが進む中で、大きく進展しており、2023年の雇用義務のある民間企業3の雇用 障害者数は、前年比4.6%増の64.2万人と、20年連続で過去最高となりました。加えて、実雇用率は、前年差0.08%ポイント上昇の2.33%と12年連続で過去最高となり、初めて実雇用率が 雇用状況報告時点の法定雇用率を上回りました。 障害種別でみると、身体障害者は前年比0.7%増の36.0万人となりましたが、この数年は伸びが 鈍化しています。知的障害者は同3.6%増の15.2万人、精神障害者は同18.7%増の13.0万人と なっており、10年前と比較すると、知的障害者は2倍弱、精神障害者は約6倍とその伸びが 近年大きくなっています。 このように、雇用障害者数は着実に増加していますが、近年、障害者が能力を発揮して活躍することよりも、雇用率の達成に向け障害者雇用の数の確保を優先するような動きがあることも指摘されています。雇用者の数だけではなく、障害者が生き生きと個々の能力を発揮し、その雇用の安定につながるよう、障害者本人、事業主、就労支援や生活支援に携わる関係機関が協力 して、障害者雇用の質を向上させることが求められています。(出典)厚生労働省 令和6年版 労働経済の分析
〇障害者の法定雇用率の達成割合は、従業員数「1,000人以上」の企業で7割弱、1,000人未満の企業で4~5割程度
企業の障害者雇用の状況についてもみていきます。障害者の法定雇用率の達成状況についてみると、長期的には上昇傾向にあるが、2023年6月1日時点で、 2022年から1.8%ポイント上昇の50.1%となっています。 企業規模別に達成状況をみると、2002年に達成割合が最も低かった「1,000人以上」の企業は大きく上昇しており、2023年は全ての企業規模で上昇がみられ、特に従業員数「1,000 人以上」の企業では約7割近くにまで達しています。一方、1,000人未満の企業ではいずれも4 ~5割程度となっており、長期的には緩やかに上昇しています。2000年代半ばまで他の企業規模と比較して高い水準だった100人未満の企業は、ほぼ横ばいで推移しています。 達成割合は法定雇用率の改正によって変化することがあります。過去に改定された年では、全て の企業規模で達成企業割合の低下がみられました。2021年3月に法定雇用率が2.3%に引き上げられていましたが、2022年、2023年は上昇しています。法定雇用率は、2024年4月からは2.5% に引き上げられ、2026年7月からは2.7%とする改定が予定されており、こうした制度改正 が影響する可能性もあります。
“〇外国人労働者数は過去最高を更新
外国人労働者の状況についてみます。2023年10月末時点の外国人労働者数は約205万人となり、初めて200万人を超え、2007年に外国人雇用状況の届出が義務化されて以降、11年連続で過去最高を更新しました。感染症の拡大による入国制限等 の影響から、2020年以降は伸びが鈍化しましたが、2023年は前年比12.4%増で2019年の 13.6%増に近づきました。 在留資格別にみると「身分に基づく在留資格」が最も多い状況が続いており、次いで「専門的・技術的分野の在留資格」「技能実習」が多い。近年、2019年4月以降の「特定技能」の受入れなどにより、「専門的・技術的分野の在留資格」が大きく増加しており、直近4年間で約 24万人増加しています。 国籍別にみると、ここ数年、中国は減少傾向がみられる一方、フィリピンやベトナム等が増加しています。特に、ベトナムは「特定技能」の創設等により、直近4年間で約7万人増加して おり、4年連続で最多となっています。外国人労働者の在留資格については、2023年11月に出入国在留管理庁の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告書において、「国際的にも理解が得られ、我が国が外国人材に選ばれる国になるよう、①外国人の人権保護、②外国人のキャリアアップ、③安全安心・共生社会といった視点に重点を置いて見直しを行うこと」とされています。具体的には、「①技能実習制度を人材確保と人材育成を目的とする新たな制度とするなど、実態に即した見直しとすること、②技能・知識を段階的に向上させその結果を客観的に確認で きる仕組みを設けることでキャリアパスを明確化し、新たな制度から特定技能制度への円滑な移行を図ること、③人権保護の観点から、一定要件の下で本人意向の転籍を認めるとともに、監理団体等の要件厳格化や関係機関の役割の明確化等の措置を講じること」等とされていましす。 最終報告書を受けて関係閣僚会議で決定された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議最終報告書を踏まえた政府の対応について」等を踏まえ、2024年3月15日に技能実習制度にかわり育成就労制度を創設することなどを盛り込んだ法案が提出され、同年6月14日に成立しました。本法改正では、技能実習の在留資格を廃止し、「育成就労産業分野」 (特定産業分野のうち就労を通じて修得させることが相当なもの)に属する技能を要する業務 に従事すること等を内容とする「育成就労」の在留資格を創設するほか、育成就労計画の認定制度を設けてキャリアアップを図るとともに、転籍に係る制限を緩和するなどしています。労働者としての権利を適切に保護することで、我が国が「選ばれる国」となることを目指すものです。
我が国の外国人労働者は、10年前と比較して約2.8倍と、約130万人の増加がみられ、日 本に定着している外国人材も多く、身近な存在となりつつあります。国籍にかかわりなく、全ての人が安定した生活を送れるような賃金や労働条件等が確保できるようにするとともに、安心し て働き続けられるような職場や地域社会づくりが更に重要となるでしょう。
(出典)厚生労働省 令和6年版 労働経済の分析
(つづく)Y.H