基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 73 | テクノファ

投稿日:2021年6月15日 更新日:

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。
横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。
本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。
横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
(つづき)
文化の内容
もしグループの文化がそのグループの蓄積してきた学習(の結果)であるとしたら,われわれはどのようにその学習の内容を記述し,分類できるのだろうか?グループと組織理論では,あらゆるグループ(その規模の差を問わず)が取り組むべき,ふたつの主要な問題領域を区別している。すなわち,(1)その環境のもとでの生存,成長,適応,(2)日々の運用を可能にする内部の統合化,また適応し,学習を続ける能九 というふたつの問題領域だ。グループの機能に伴うこれらのふたつの領域は,そのグループが存在し,さらに現実,時間,スペース,人間の特性,人間関係の特性に関する広範で,深い基本的前提認識から生まれるマクロカルチャーのコンテクスト(関係)を反映している。それぞれの領域についてはのちに詳しく検討する。

社会化または文化適応のプロセス
あるグループで文化が形成されると,その文化の諸要素はグループメンバーの新しい世代に伝承される(Louis,1980;Schein,1968;Van Maanen,1976;Van Maanen & Schein,1979)。新しいメンバーがどのようなことを教えられるかを研究することはたしかに文化の一部の要素を見つけるためにすぐれた方法となる。しかしこの方法では文化の表層的な部分しか学ぶことができない。文化の中核を占める部分のほとんどは,新メンバーに教えられる行動ルールのなかではあきらかにされないことから,上記の傾向はさらに助長される。メンバーたちが永続的な地位を確立し,グループの秘密が共有されるグループの内部のサークルに迎え入れられたときにはじめて文化の中核部分が明かされるのだ。

一方で,どのように人々が学習するか,また彼らが対象となる社会化のプロセスが,より深いところに存在する前提認識をあきらかにすることもあり得る。このような深いレベルに到達するためには,重大な状況で生まれてくる認識と感じ方を理解することに努力し,また共有された深いレベルの前提認識の正確な把握に至るためには,正規のメンバー,あるいは古参のメンバーを観察し,面接することが求められる。
では文化はあらかじめ準備された社会化,あるいは自己による社会化努力を通じて学習することができるのだろうか? また新しいメンバーは自分たちで基本的な前提認識がどのようなものかを見極めることができるのだろうか?この問に対する答えは,イエスであり,ノーだ。われわれは,新しいメンバーが新しくグループに入ってきたときに示す主な活動は,グループ内で運用されている規範や決まった考え方を解釈することである,ということを理解している。しかしこのようにして解釈できるのは新メンバーがさまざまな行動をためす際に,新しいメンバーに対して古いメンバーが行使するリウォード(褒賞)や罰を通してのみ成功を収める。ということは,たとえ教育プロセスが目に見えず,無秩序のものであったにせよ,継続している教育プロセスはつねにあることを意味する。

またそのグループが共有される前提認識を備えていない場合にはこのようなケースも決して珍しいことではないけれども,新しいメンバーと古いメンバーとの交流は,文化を築くという,かなり創造的なプロセスとなることもたしかだ。しかしひとたび共有される前提認識が存在するようになると,その前提認識を新メンバーに教えることを通じて文化は生き続けることになる。この意味で文化が社会的なコントロールの手段となり,メンバーたちがある一定の方法で認識し,思考し,感じ取るように意識的に行動するベースともなる(Van Maanen & Kunda,1989;Kunda,1992)。文化を社会的コントロールの手段として認めるか否かは別の議論となるので,のちにさらに検討する。

文化は行動からのみ推察できるのか?
私がこれまで提案した文化の定義には明白な行動パターンは含まれていないことに注目して欲しい。もちろん一部の明白な行動,とくにフォーマルな習慣などは文化に含まれる前提認識を反映していることはたしかだが。むしろ私の定義では,共有される前提認識は我々がいかに認識し,思考し,感ずるかに関わっていると主張している。したがってわれわれは明白な行動のみを当てにすることはできない。何故ならその種の行動は文化の特性(パターン化された認識,思考法,感情)によって,さらに同時に直接的な外部環境から生ずる状況内の出来事によって決定されるからだ。

行動の規則性は文化以外の理由からも形成される。たとえば,あるグループのすべてのメンバーたちが大柄で大声を出すリーダーの前で萎縮しているのを見たとしても,これは音やサイズ,個人の学習,またはグループによる学習に対する生物学的な条件反射反応にもとづくものであるかも知れないのだ。したがってこの種の行動の規則性は,文化を定義する際のベースとして用いるべきではない。もちろんのちになって,ある特定のグループ内の経験として,萎縮する行動は間違いなく共有された学習の結果であり,したがってより深いところに存在する共有された前提認識の現われたものであることを発見することもあり得るが。上記を別の方法で言い換えると,われわれが行動の規則性を見いだしたとしても,われわれが文化の現われに対面しているのか否かはなお定かではないのだ。私が文化の中核(エッセンス)と定義した,より深い階層を見つけだしてはじめて,文化を反映する“artifact(人工の産物)”が何であり,何でないかを特定できるのだ。

職業には文化が備わっているのか?
先に提案した文化の定義では,それが適切に適用できる社会のユニットのサイズ,あるいは場所は特定されていない。われわれは,国,民族のグループ,宗教,その他の社会のユニットがこの意味の文化を備えていることは理解している。私はこれらの文化をマクロカルチャーと呼んでいる。われわれの大規模な組織における経験は,IBM社やユニリーバ社(Unilever)といったグローバルに拡大した企業にも「企業文化」が備わっていることを教えてくれている(もちろんこの種の巨大企業には数多くのサブカルチャーも同時に存在しているが)。

しかし,医療,法律,経理,エンジニアリングの専門職が文化を備えているということが適切であるか否かはあまり明確とは言えない。もし文化が,いかにものごとを遂行し,いかに内部でほかの人たちと働くかに関して共有される前提認識を生みだす共同の学習の産物であるとするならば,ほとんどの職業は文化を生みだしてきたと明言できる。もし教育訓練期間に強力な社会化のプロセスが存在し,かつこの期間に学習された信条や価値観が安定的で,疑問なく受け入れられるものとなれば,もしその人物がその職業のグループに直接的に所属していなくとも,それらの職業に文化が備わっていると明言できる。われわれの関心を引くほとんどの職業では,メンバーたちが同じ方法で同じスキルセットや価値観を訓練されるという点でこれらの文化は包括的なものとなっている。とはいえ,いかに職業が定義されているか,言い換えるとある特定の国でエンジニアリングや医療がどのように運営されるかについては,その国のマクロカルチャーが影響を及ぼしているということが確認できる。この側面で生ずる差異が,ある病院の文化を解読することを著しく困難にしている。つまりその文化は,国,民族,職業,あるいは組織固有の文化であるか否かを判別することが困難になるからだ。

本章の要約と結論
本章で私は,まず文化の概念を紹介し,さらに共通の歴史を備えたグループ,職業,その他の社会ユニットで何が進行しているのかについて,ますます分かりにくく,理屈に合わない側面を説明するためにこの文化の概念が役に立つことを論じた。またわれわれが「文化」であると認識する際に含まれるさまざまな側面も検討した。さらにグループや,組織メンバーたちによって共有され,当たり前のものとして受けとめられている基本的な前提認識に導く,共通の学習経験に重点を置いた,文化のフォーマルな定義を導きだした。

この意味で,安定したメンバーと共通の学習経験を備えたグループであれば,どのグループもあるレベルの文化を築いてきていると言える。しかしメンバーやリーダーの間の数多くの離脱,あるいは挑戦を含む出来事を経験してこなかった過去を持つグループには,共有された前提認識は生まれていない可能性も強い。人々がただ集まっただけでは文化は生まれない。その意味で,そこに十分な共有された歴史が存在し,ある程度の文化の形成が進んだ場合にのみ,「群集」,「人々の集合」という言葉に代えて,「グループ」,「ティーム」,「コミュニティー」という言葉を使うことが許されるのだ。
共有された前提認識がメンバーによって当たり前のものと認められると,それがグループ内の行動のほとんどを律しはじめ,さらに文化を反映する社会化のプロセスにおいて,新人に対して教えられるルールや規範を生みだす。文化を定義するためには,われわれは行動レベルよりも深いところへ至らなければならないことを学んだ。というのは行動の規則性は文化以外のフォースによっても生みだされるからだ。さらに大規模組織においても,もしその組織に共有の経験の歴史が十分に存在していれば,共通の文化を築き得ることも学んだ。

さらに文化とリーダーシップは,同じコインの裏表であることも学んだ。つまりまずリーダーがグループや組織を生みだしたときに文化の創造のプロセスが開始される。文化が形成されると,その文化がリーダーに対する基準を作り,その結果誰がリーダーにふさわしく,誰がふさわしくないかを決定する。しかし文化のある側面で不具合が生ずると,リーダーシップのユニークな役割が発揮され,既存の文化のなかでうまく機能をしている側面とうまく機能をしていない側面が識別される。さらにリーダーは変化を続ける環境のなかでその組織が存続できる方向に文化的改革と変化をリードする。リーダーにとっての最低限の要件は,彼らが身を置いている文化をしっかり意識していないと,文化のほうが彼らをマネジしはじめるという点だ。文化を理解することはだれにとっても望ましいことであることは間違いない。しかしリーダーが成功を収めるためには文化の理解こそ不可欠なものとなるのだ。
(つづく)平林良人

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