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基礎編・理論編

キャリアコンサルタントの行う相談過程6ステップ

投稿日:2024年11月15日 更新日:

キャリアコンサルタントの行う相談過程には6つのステップがあります。

第一ステップ :「自己理解」の支援
第二ステップ :「しごと理解」の支援
第三ステップ :「啓発的経験」の支援
第四ステップ :「意思決定」の支援
第五ステップ :「方策実行」の支援
第六ステップ :「新たな仕事へ適応」の支援

今回、開発した技法はキャリア形成の 6 つのステップ(自己理解・しごと理解・啓発的経験・
意思決定・方策の実行・新たな環境への適応)をベースにしつつ、ポストモダンの理論等も反
映させ、個人が未来を予測し、職業生活設計、職業選択、職業能力の開発・向上に取り組む動
機づけを与えることを目的として開発されています。
但し、開発された技法はあくまでも上述の考えを正しく理解し、自分の言葉で相談者に対し
て職業生活設計、職業選択、職業能力の開発・向上の必要性を伝えられるキャリアコンサルタ
ントが使用することを大前提としています。また、そもそもキャリアコンサルティング全体の
フローは、代表的なアプローチスタイルであるシステマティックアプローチ等で示されると
おり、相談者との関係構築に始まり、問題把握、目標設定、方策の実行等へと展開するもので
す。今回、開発されたいずれの技法も、主にこの問題把握において、相談者とキャリアコンサ
ルタントが共有した問題を整理し、明確化することや、相談者が問題解決への気付きを得るき
っかけを提供する助力となることを前提としています。そのため、開発された技法を相談者の
状況・情況や環境を十分検討しないままにマニュアル的に濫用したり、相談者との信頼関係の
構築がなされないまま技法が独り歩きをすることは絶対に許されません。キャリアコンサル
タントとして技法の意義を十分に理解し、適切な活用をされることを期待しています。

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今回は第1ステップ~第三ステップを説明します。
まず「自己理解」の支援についてですが、2つに分けて説明します。
■キャリアシート、及び「アイ(I)メッセージ」手法の活用
相談者にとっての「自己理解」の意味を説明します。そのうえで、「キャリアシート」を活用して職業経験の棚卸し、職業能力の確認、個人を取り巻く環境の分析をして、相談者の職業興味や価値観などを明確にします。この過程で相談者自身が自己理解を深めることを支援することが大切です。
そのためには、相談者に「I(アイ)メッセージ」 を書いてもらうことなども、自己理解を深める方法として効果的です。アイ・メッセージとは、「私」で始まる一行のセンテンスです。主語がすべて 「私」なのでアイ・メッセージといいます。ひとつのセンテンスには 1つのことしか書きません。そのセンテンスをいくつ書くことができるかで、その人が自分を、どのような自分として見ているか(セルフ・イメージ)がわかります。
センテンスの数が多ければ多いほど、その人は自分を多面的に見ていることになります。また、書いた内容が内的なものあるいは外的なもの、どちらが多いかによって、その人が自分の関心がどこにあるかがわかります。つまり、自分のキャリアを内的なもの(内的キャリア)としてとらえようとしているか、外的なもの(外的キャリア)としてとらえようとしているか、大まかな傾向がわかります。

■アセスメント・スキル
①アセスメントを実施するときの注意点
自己理解を深めたり拡げたりする方法として、アセスメントのツールの使用もあります。その際には、年齢、相談内容、ニーズなど、相談内容に応じて適切な時期に適切なアセスメントを選択・実施し、その結果の解釈を適正に行い、評価検査の限界も含めて相談者自身が理解するように伝えなければなりません。
しかも、アセスメントを実施するためには、相談者自身がそれを望んでいることが前提です。キャリアコンサルタントの勝手な判断で行うことは厳に慎まなければなりません。アセスメントはキャリアコンサルタントのためではなく、相談者のためにあるのです。

②GATBとVPI職業興味検査
これまで比較的多く使用されているアセスメントとしては、GATB (一般職業適性検査)やホランドの理論を応用したVPI職業興味検査があります。
GATBは
・知的能力、・言語能力、・数理能力、・書記的知覚、・空間判断力、・形態知覚、
・運動共応、・指先の器用さ、・手腕の器用さ、
という9つの性能と0AP(適性職業群)を組み合わせたものです。職業への適応性を把握することができますので、職業選択のための情報を得るのには役に立ちます。GATBはハローワークなどの公共相談機関や学校で受検することができます。

VPI職業興味検査はホランドの
・現実的(R:Realistic)、・研究的(I: Investigative)、・社会的(S:Social)、・慣習的(C:Conventional)、・企業的(E: Enterprising)、・芸術的(A:Artistic)
という6つのパーソナリティ類型と、職業的志向性として
・データ志向、・対人志向、・対物志向
の9いずれを志向しているかを見ます。

③キャリア・アン力―
GATBやVPI以外にも、本人の内的キャリアを探る手がかりとして効果的なものに、E.シャインのキャリア・アンカーがあります。これは、キャリア指向性を特定・専門、総合管理、自律・自立、安全・安定、創意・創業、奉仕・貢献、挑戦・克服、生活・様式という 8つのカテゴリーに分けて、自分の将来に向けてのキャリア開発を考えるうえでもっとも大切なものを確かめるためのものです。
キャリア・アンカーは、それがどれだけ大切かどうか(Value)、それができるかどうか(Competence) 、それをどれくらいやりたいか(Motive) という3つの要素の複合体であり、どのように状況が変わっても、どのように環境が変わっても自分にとっては絶対に捨てられない価値として大事なものとしています。アンカーとは船の碇ですが、船の碇はどんな嵐でも船が動かないようにするものです。つまり、それと同じように、自分のキャリア開発の拠り所という意味です。E.シャインは、自分のキャリア・アンカーがはっきりしている人は、あたかも自分の居場所がはっきりしたかのように気持ちが安定し、自分らしさを存分に発揮していると言っています。

続いて第二ステップ、「仕事理解」の支援について説明します。
先に説明した職業理解・仕事理解をもとに、相談者にとってのキャリア開発・形成を考える際の仕事を単なるジョブではなく、広くワークという枠でとらえるようにキャリアコンサルタントは支援します。
■ワークとジョブは違う
キャリアは、働くこと(ワーク)を中心にした人生展開、あるいは人生の中の働くということに関わっている部分です。人生そのものといってもいいでしょう。ワークには報酬が伴う「ジョブ」と報酬を伴わない「ノンジョブ」(典型的なものがボランテイア・ワーク)があります。ワークはジョブよりも広い概念です。
しかし、自分にとっての仕事はジョブだけという認識にとらわれていると、自分にとって働くということの意味がわからなくなってしまったり、自分がやりたい仕事がわからなかったりします。このように、キャリアコンサルタントは仕事の正しいとらえ方をきちんと伝えることができないと、相談者の仕事に対する理解を深めることができず、さらには相談者のキャリアの認識を歪めてしまうかもしれません。
以上のように仕事についての正しい理解をもとに、具体的な仕事や職業に関する情報を提供するために、さまざまなリソースを活用できなければなりません。
情報の媒体は印刷物や視聴覚情報、WEBなどのコンピュー タ・システムも含めて多様化しています。これらに関する情報の収集、検索、活用方法等について相談者に対して助言できるよう、キャリアコンサルタント自身が情報を収集しておかなければなりません。

次に第三ステップ、「啓発的経験」支援についてです。
職業経験があっても未体験の仕事に就く人や、職業経験のほとんどない学生にとっては、事前に職場を知る意義や目的を説明して、事前確認の実行について助言をします。
■相談者の内的キャリアと外的キャリアをつなぐ
学生の場合にはほとんど職業経験がありませんので、職場訪問、先輩訪問、職務調査、体験実習(インターンシップなど)、トライアル雇用、現場見学、アルバイト等など、事前に職業を体験してみることの意義や目的、あるいは職場を見て知ることの意義や目的について相談者に説明し、その実行について助言しなければなりません。
一方、職業経験のある人の場合にはすでに職場での仕事体験はありますが、非自発的退職によって再就職をする場合には未体験の仕事に就くこともありえますので、まったく必要が無いわけではありません。また、キャリアコンサルタントは相談者がそれぞれの経験を自分にとっての働く意味・意義の理解や選択の材料とすることができるように、助言する必要があります。
つまり、啓発的経験は相談者にとっての内的キャリアと外的キャリアをつなぐ行動ですから、経験や見学や訪問したことから得られた実際の情報が選択の手がかりとなっているかどうかの確認が、重要になります。
企業によっては、採用からの数年間はジョブローテーションとして複数の仕事を経験させるようにしているケースもありますが、このような企業の場合には、ローテーションの期間を啓発的経験の期間とみなすことができます。
(つづく)T.A

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