横山哲夫先生の思想の系譜
キャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳したものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。
<ここより翻訳:2010年シャイン著>
私は,かなり抽象的に,グループや組織に存在する文化に備わる複雑な概念をどのように考えたらよいかを説明してきた。そこで私は,人工の産物や信奉された信条や価値観という表層的なレベルを越えて,より深いところに存在している,当然のこととしてメンバーによって共有されている基本的前提認識のレベルまで到達する必要を説いた。この基本的前提認識は,グループメンバーによって表明される認知,認識,感覚のパターンを生みだす。この深いレベルで何が進行しているかを理解しない限り,より表層的レベルの現象の意味を解釈することは不可能なのだ。さらに悪いことに,われわれの文化的な偏見を,観察した現象に投影してしまうことから,それらを間違って解釈してしまう怖れもある。
本章では,私がかなり長い間仕事をしてきたふたつの企業を紹介して,多元的レベルの分析を試みたい。この分析を通じてこれらの企業の文化に伴う深い側面の一部を解明することが可能となった。もちろん,文化の全体像を描写することはほとんど不可能であることから,ここでは「側面」という言葉を使っている。しかしこれらの企業で起こっている主要な現象を解明するために十分な数の側面を記述,紹介できると考えている。
デジタル・イクイップメント社
デジタル・イクイップメント社(DEC)は本書を通じて紹介される主要なケースである。DECは組織文化を記述し,分析するうえでのさまざまな重要な側面を示しているだけでなく,同時にDECが世界で第2位のコンピューター企業に上りつめ,1990年代には急速に衰退した理由を説明する,文化のダイナミクス(力学)を表明しているからである(Schein,2003)。私自身は創設者のケン・オルソン,さらに数多くのコミティー(委員会),さらにエンジニアのグループに対してコンサルタントを務めてきた(1966~1992年)。したがって私は,長期間にわたり,文化のダイナミクスが実際に稼働している様子を観察できる,ユニークなポジションを占めてきた。DECは最初にインタラクティブな(対話式の)コンピューティングを開発した大企業のひとつであり,いわゆる「ミニコンピューター」の製造企業として大きな成功を収めた。最初は米国の北東部のマサチューセッツ州メイナードというところに本社を構えていたが,そのあと世界中にたくさんの支社を築いていった。ピーク時には140億ドルの売上高と10万人の従業員を擁していた。1980年代中半ばにはIBMに次いで世界で2番目に大きいコンピューター製造企業となった。1990年代にはいると深刻な財政難に陥り,1998年にはコンパック社に売却された。さらにこのコンパックは2001年にヒューレット・パッカード社に買収されている。
人工の産物:DECに足を踏みいれる
DECの数多くの建物にはいる際には,カウンターの後ろに座っている警備員のところでサインをしなければならない。この付近には通常幾人かの人たちがおしゃべりをしたり,数人の人たちが出入りしており,また警備員は建物にはいってくる従業員のバッジをチェックし,メールを受け取り,電話に応答したりしている。サインを済ますと,小さいながらきちんとしつらえられたロビーに案内され,あなたが訪ねる先の本人か,あなたを案内する秘書が降りてくるまでロビーで待たされる。
約40年余り前に私がこの企業を最初に訪問して以来,私がもっとも鮮明に記憶していることは,あちこちに散ばるオープンオフィスのレイアウト,きわめてくだけた服装としぐさ,忙しく動き回るという意味でのダイナミックな環境,また従業員間のひっきりなしの会話,さらには熱意,情熱,エネルギー,せっかちさを示す雰囲気であった。私は,小部屋や会議室を通り抜ける際,きわめてオープンであるという印象を抱いた。ほとんどドアはなかった。カフェテリアは大きくオープンに広がり,社員はテーブルに座り,またテーブル間をしきりに移動していた。明らかにランチの間でも,仕事に夢中になっている様子が観察された。またコーヒーサーバーと冷蔵庫が置かれた小さなスペースが随所に設けられ,飲食しながらミーティングを持つことが普通であるように観察された。
(つづく)平林良人