キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

基礎編・理論編

MBO目標管理3ーキャリアコンサルタントの知恵袋|テクノファ

投稿日:2024年4月27日 更新日:

横山哲夫先生(1926-2019)はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。先生は、キャリアコンサルタントに対して個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

―国際化の方向と一致する目標管理
MBOは外国人との共存共働下における人事管理、人材育成の場、つまり、異文化間に共有されるにふさわしい特徴を持っている。目的合理主義、個別性、具体性、能力育成、評価の客観性などがそれである。外国進出の日本企業、日本在住の外国系企業はこの視点をもっと重視すべきであろう。個別化への道程にまだ多くの問題を有する日本企業、集団目標達成へのチームワークを不得手とする外国企業、両者の考えるべき現実的目標管理は個別目標と集団目標の併設であろう。

ところで、高度成長下の第一次MBO導入に失敗した日本企業からは、新しい目標管理の実践体験について学ぶべきものは少ない。あるのは失敗体験へのいましめである。一方、原産地の米国では、概念はともかく、実施上の多くの困難さ、不徹底さから目標管理に反対の立場をとる実務家も少なくない。すべて、対決を意に介さない米国では、多くの実践経験をめぐる賛否、対立の論議がつづけられ、その中から本格的、実践的MBOの体験が豊かになりつつある。多民族国家、米国での経験は、わが国の急速な国際化の方向の中でのMBOの本格的な導入と実践に大いに役立つ。21世紀に、わが国にも本格的な復活と根づきをみせると思われるMBOへの期待は、これらの米国における実例をみるにつけても大きくふくらむ。当面は、米国の実践体験に依存しつつ、一刻も早くわが国の実務家の勇気ある試行錯誤を通じて新たなる目標管理の発展をみたいものである。

出典 個立の時代の人材育成 横山哲夫 生産性出版 2003年

人材の育成は仕事を通じてなされるのが王道だといわれます。一人ひとりの人材が、具体的な仕事を通じて自己の特徴(アイデンティティ)をつかみ、自分らしく成長します。MBOはまさにその土壌と枠組みを提供しています。その土壌と枠組みは、個人目標と集団目標の併設を弾力的に行なうことによってさらに本格化し、定着していきます。横山さんは大手企業のMBO導入を手伝った経験を次のように綴っています。

―目標管理 – M社の体験
概念の簡潔さに対比させて、目標管理実践上の困難さに何度か言及した。20年余の実践と、絶えざるMBO教育の積み重ねを経たM社にしても、その理解と実践上の徹底度は100点満点で70点ぐらいなものであろう。まだ完全ではないのかとの声も上がるかもしれないし、よくそこまですすんだという見方もあろう。M社自体はなお80点程度までの徹底度を期しながら、現在一応の満足感は持っている。その満足感は、同社のMBOが、総合的で個別(立)的な人事制度の体系の中で、核心的な位置を占め、他の主要な人事管理、人材育成のプログラムとのかなりの連動があり、相乗効果が得られているとの手応えから来ている。
事実、 この20年来の同社の人事戦略は、ラインによる個別人事とMBOを核に、全社的、総合的な個別(立)人事政策を展開することにあった。MBOに先んじて試行中であった自己申告制度、自由応募形式の留学制度、全社的統制と決定のためのキ ャリア開発会議、人材の発掘・確認と育成プランのためのキャリア開発委員会、個立促進のための自己開発ワークショップ、進路相談と職務適応のためのキャリア・カウンセリング などが相次いで導入された。また、個別管理の直接責任者としてのライン管理者の役割責任の自覚はとりわけ重要であるので、マネジメント・トレーニングに合わせて、人事管理・人材育成を主要テーマとするラインのための集合研修が、OJTと併行して実施されていった。

出典 個立の時代の人材育成 横山哲夫 生産性出版 2003年

どんな制度でも完全は望めません。その制度自体の完全性の追求にこだわりすぎるのは実務的には賢明ではありません。新制度が落ち着くまでの混乱や、一時的な能率の低下はある程度必要経費として割りきる考え方も必要です。ライン管理者が個別管理(育成)上の責任と権限を持つべきであるとするなら、その執行上の誤ちも認めなくてはなりません。誤ちを減ずるようにするには、絶えざる教育と忍耐によるラインの自覚の向上と、他の関連制度との連動による相乗効果の創出をはかることがよいのです。けっして執拗にラインの責任を追及、非難することをしてはいけません。目標管理そのものが導入時に思うようにすすまなくとも、ベクトルを均しくする関連プログラムを併行してすすめていけばうまくいくようになるのです。

(つづく)平林良人

-基礎編・理論編

執筆者:

関連記事

キャリアコンサルタントの活動領域4―地域領域

4.地域領域 キャリアコンサルタントの活動の領域4つめです。代表的なものは、公共職業安定所が設置されていない市町村数百か所に設置されているふるさとハローワーク(地域職業相談室)です。ふるさとハローワークは国と市町村が共同で運営しており、職業相談、職業紹介等を行っています。利用料等一切無料です。「わかものセンター」「マザーズセンター」として活動しているところもあります。地域職業相談室、わかもの支援コーナー活動の代表的なものが、キャリア開発支援であり、地域(県内)で働く人及び働きたい人を応援しています。 おおむね45歳未満の若年者、フリーター・ニートなど職業経験が浅い若しくは少ない若者、なんらかの …

MBO 目標管理ーキャリアコンサルタントの知恵袋|テクノファ

キャリアコンサルタントに有用なお話をしたいと思います。横山哲夫先生(1926-2019)がいたモービル社では、主要ラインの長(役員)を委員とする会議をトップが招集し、各種の人事資料を基にして幹部職位の後継可能者の一人ひとりについて論議をつくし、多面評価と育成プランの検討を行なっていました。この人材育成会議は、同社ではトップの交替にかかわらず継続されており、席上決定をみたプラン以外の異動、昇進、教育、配転が行なわれることはめったにありませんでした。密室や派閥の人事とはまったく無縁の年次定例会議が丸々二日間人材育成のみを討議する会議として全社員に周知されていました。モービル社はまた、例年、別の時期 …

傾聴とは積極的に聴くことである 

ドラッカーは近代経営学の父と呼ばれた人ですが、彼は経営者が効果的にマネジメントする8つの慣行を提案しました。その中に「最初に聴き、最後に話す」というものがあります。リーダーシップの本質は「信頼を獲得して結果を得ること」ですが、 信頼を得る行動で最大効果を生むものが聴くことであると述べています。驚くべきことに、多くの指導者は聴くことをうまくやれません。多くの調査で「指導者の聴く能力」は、評価項目で最も低いレベルに位置付けられています。最初に聴いて、最後に話しすることは大変重要なことです。 それはとても単純ですが、多くの人々はそれを理解することができません。 聞くと聴くとは違います。積極的に聞く、 …

目標管理と人事考課ーキャリアコンサルタントの知恵袋|テクノファ

横山哲夫先生(1926-2019)の「個立の時代の人材育成」からの紹介です。 キャリアコンサルタントすべての方に読んでいただきたい本です。 ―目標管理と人事考課 ― R大社会学部の私の授業の一つのテーマに、W大ビジネススクールと同様に、「目標管理」をとりあげている。R大の場合は学部の学生であり、アルバイト以外は勤務経験がないから、人事管理論その他の関連課目の授業から得た知識をもとにして討議させることになる。目標管理サイクルの 仕上げの部分、業績評価の段階で、業績評価がそのまま人事考課の最大主要部分となっている米国系多国籍企業M社と、同じく米国系大手多国籍C銀行の書式の実物をみせる。次に、MBO …

相談者の面接目標達成ヘルピング技法_キャリアコンサルティングとキャリアカウンセリング

ヘルピング技法のうち(1) かかわり技法(事前段階)の解説はご存知のことばかりで目新しくなく期待外れだったとの感想をお持ちの方がいらっしゃったと思います。 しかしながら、私はキャリアカウンセリングであってもキャリアコンサルティングであってもこの目新しくないという点がとても重要なことだと思っています。これは、実際の個々のキャリアコンサルティングの場面を重ねて、國分康孝1996年のカウンセリング技法論における『面接目標達成のために、カウンセラーがクライエントにどういう反応を重ねていくか。』を再考してみると、次のように考えられるからです。 まず、面接目標について担当したケースを振り返ってみると、似て …