基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 94 | テクノファ

投稿日:2021年8月11日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は3回忌になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に16年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
第1部では文化を構造的(structural)概念から規定し,記述した。形式的構造からすれば,マクロ文化であろうと,組織文化であろうと,職業的なサブカルチャーであろうと,さらにまた,小さなグループのマイクロ文化であろうと,形式的には,すべて同様にそれぞれの文化を記述し,表現することが可能である。しかし,それらの文化構造の中身(content)の問題となると一律にはいかない。観察可能な,規則,様式,価値と,それぞれの文化の基本的な前提認識(assumption)などが,かなり多様に異なる様相を見せている。どのコンテント次元が文化の理解にもっとも相応しいかということに併せて,これらのコンテント次元の,それぞれの文化のなかでの位置関係も問題になるかも知れない。たとえば,ある組織内の権限関係(その文化の基本次元)がどのようにマネジされているか。その進め方(次元の中の位置)が権威主義的か,平等主義的かなどはその組織文化を理解するうえでの決定的要因となるかも知れない。

構造分析から学ぶことは,組織の文化は,人工の産物と信奉された価値のレベルで自らを表明している。そのエッセンスは,それらの基底をなす前提認識にある。ではその前提認識とは一体何についての前提認識か,という問いかけに明確に応えなくてはならない。次章以下では,人類学者や組織論学者による多様な文化次元を紹介する。組織とリーダーシップを理解するために,どの次元がもっとも広範に有効かを見定めることも必要だが,理解の視点を絞って,マクロカルチャー,組織文化,マイクロカルチャーの相互の関係を理解するには,どの次元が最も役に立つかに注目する必要がある。文化をいかに定義し,「測定」するかということにはつねに混乱がつきまとっている。というのはわれわれが通常,文化という言葉を口にしているとき,それが国家,民族,職業,組織,小グループのいずれの次元を指しているかを不明確なままにしていることに起因しているのだ。

著者は,困惑するほど多様な文化の次元に取り組むに当たって,その根拠を機能的見地に置くことにした。その理由は対象とする組織を過去の歴史的な展開から分析し,文化的な前提認識(cultural assumption)がどのように形成されてきたかを,かなりの程度まで知ることができるからである。この見地からすると,およそ歴史の浅いすべての組織文化は,究極的に後述する次元の問題に対面させられることになる。つまり,「組織の生存と成長のための外的環境への対応」(第5章)と,「組織内部のインテグレーション(統合)のためのマネジメントの問題」(第6章)がそれである。そして組織をこれらの次元から理解することは重要ではあるが,それだけでは決して十分ではないことに注意したい。デジタル・イクイップメント社(DEC)とチバ・ガイギ一社(Ciba-Geigy)のケースで指摘したように,組織とは,国家的,職業的なマクロ文化として存在するとともに,そのマクロレベルの文化は,より深まったレベルの諸問題をあぶり出すことになる:真実,時間,空間,人間性,人間関係などがそれだ(これらの,より深まった次元の問題をどう考え,どう表現するかについては第7章,8章,9章で取り上げる)。国家文化と職業文化を反映させたマクロレベルの文化とは究極的にはテクノロジーの分野に属し,そのテクノロジーは組織の底流としてつねに組織を動かし続けている。DEC社が正真正銘のアメリカのコンピューター企業で電気エンジニアが創設した……とか,チバ・ガイギーが,これまた紛れもないスイス・ドイツの合弁化学会社であって化学エンジニアと化学者によって作り上げられた……,などの表現は大事な事実ではあっても両社の文化の説明には不十分である。克明な歴史的分析こそが両社の理解のために必要であり,理に叶っている。

組織文化なるものの悩ましきまでの多様な相違を理解しようとするなかから類型論的な取り組みが生まれてきた。これによると,いくつかの異なった組織を「タイプ」別にまとめることができる。そしてそのタイプはさらに簡素化された上位概念に類型化されうるという効用が期待できるが,抽象化が進むに伴い,特定の組織の文化を誤り伝える結果となることが増えてくる。多くの類型事例が第10章で検討される。そこにはマクロと組織の両文化の領域に起因す次元がある。注意しなくてはならないのは,マクロ文化と組織文化の類型化の誤用である。文化の「測定」に関する混乱は,測定の対象がグループか,組織か,職業か,国家かについての混乱に起因している。

そもそも組織文化の中身を「測定」したり「解読」したりすることができるものだろうか。リサーチャーやコンサルタント,あるいは組織のリーダーが実践を試みる解読の方法にどのような違いがあるのだろうか。第11章で筆者は多くの実践可能な方法を提供し,併せて筆者自身で「臨床的」と呼んでいる方法について議論を活性化してみたい。それは,当該組織のなかにいるメンバーが実践しようとしていることを重視,活用する方法なのだ。本書の基本的構成は組織にあり,組織のリーダーに洞察的な支援の提供を試みることにある。本書では学究的な人類学者,組織理論の研究者の理論展開との関連を重視しない。つまり著者の解読の方法は,主として組織内にあって組織目的の達成に尽力しているインサイダーと,そのインサイダーを支援する実務・実践家,コンサルタントに向けられているのである。

第Ⅱ部(第5章~第11章)の焦点はリーダーシップの概念よりも組織の概念に当てられている。とはいえ,あるグループが拠って立つ特定の文化の内容を築き上げてきたのはまさにリーダーシップの機能であることも忘れてはならない。組織の創始者としてのリーダー達はそれぞれがマクロ文化と特定の職業を自分自身の拠って立つ背景基盤としている。より広範なマクロ次元に進むか否か,さらに創造的に進むとすれば,それをどう具体的行動に移すか,あるいはそこまでで当面よしとするか等が,リーダーの頭のなかで描かれる。現実にはリーダー自身の実力とそのグループのマクロ文化の容認が入り混じった展開となる。この本の読者には,ここに記述される内容について自分自身の前提認識を十分に意識されることをお勧めする。その前提認識は,読者個人として一般的な組織文化の解読に役立つだけでなく,直接,個人的に関わりを有する組織に対する自分自身の影響力に関係することを強調しておきたい。本書のこれらの記述に対して読者がいくらか距離を置いて読むことは自由であるが,読み続けていただき,各章ごとに,自分の状況/次元は?と自分自身に問いかけていただければ収穫があるに違いない。自分自身の中の文化階層の状態に自分を発見しよう,と申し上げたい。
(つづく)平林良人

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