基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 77 | テクノファ

投稿日:2021年6月20日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。
今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
前回の両方のケースに事実の歪曲の可能性が含まれている。つまり批判的なマネジャーはその部下の一部はきわめて高くモティベートされているとは認めないだろうし,逆に理想主義のマネジャーは,そこには怠けもので,状況を好き勝手に利用している部下が存在するとは信じないだろう。かなり以前にマクレガーが述べたように,「人間の本性」についての上記のような仮説が,永らくマネジメントとコントロールのシステムの基本となってきた。言い換えると,人材がある一定の基本的な仮説のもとで一貫して処遇され続けると,彼らは自らの世界を,安定的で,予測可能なものに保つために,上記の仮説に合うように行動することになるのだ(McGregor,1960)。

意識されていない前提認識は,ときによってきわめて悲惨な状況を生む。アジア諸国に派遣された米国企業のマネジャーが経験した典型的な問題を紹介する。米国のプラグマティズムの伝統からやってきたあるマネジャーは,問題を解決することが最高のプライオリティーだと考え,それを当然のものとしてとらえていた。このマネジャーが,良好な人間関係を築き,上司の「顔」をつぶさないことが最重要と考える文化の伝統で育った部下と出会ったときに,次のような出来事が発生した。

このマネジャーがある問題に対してひとつの解決案を示した。その部下はただちにその解決案は成功しないということを理解したが,この部下の無意識下の前提認識がここでは沈黙を守るべきだと告げた。何故なら,上司の提案した解決案は間違っていると上司に告げることは,上司の顔をつぶすおそれがあったからだ。この部下にとっては沈黙を続ける以外のことは全く頭に浮かばなかった。たとえ上司から,部下としてその案をどう思っているか尋ねられたとしても,上司に案をそのまま進めて,アクションを取るように推薦してあげるにしても,いずれの場合にも沈黙以外の行動は考えられなかったのだ。

結局,その案が推進されたけれども,その結果は当然ながら失敗に終わった。上司は驚き,当惑しながらその部下であればどのように行動したか,いかに違った方法を取ったかを部下に尋ねた。この質問はその部下を逃げ場のない,迷路に追い込んだ。その答え自体が上司の顔をつぶすおそれを秘めていた。最初に彼が回避しようと心掛けた罰,つまり上司をはずかしめるという罰を犯さずに彼の行動を擁護することは不可能だった。あるいはこの時点でうそをつくこともできた。つまり,その上司は正しかった,しかし「不運」あるいはコントロール不能の状況が,その案の成功を妨害したと告げることであった。

この部下の立場からすると,上司の振る舞いは理解しかねるものであった。というのは部下に彼ならどのように行動したかを尋ねる行動は,この上司には誇りが欠如していることを意味したからだ。その結果,この上司に対する彼の尊敬の念が損なわれた。逆に上司にとっても,部下の取った行動に対する納得のいく説明は一切思い浮かばなかった。つまり,部下は効果的に成果を収めるということに対してほとんど関心を示しておらず,それ故にくびになっても仕方がないという前提認識に立っていれば,とても説明できる状況ではなかったからだ。しかしこの上司のほうは,部下の側に別の種類の前提認識,つまり「自分の上司に恥をかかせてはならない」という前提認識が働いていることには,全く思い至らなかった。一方,部下にとってはこの種の前提認識のほうが,「仕事をきちんと成し遂げる」ことより格段に重要なことであったのだ。

もしこの種の前提認識が個人レベルでのみ機能しており,その個人の固有の経験を反映したものである場合には,これらの前提認識はより簡単に変えることができる。何故ならそのような前提認識を抱いているのは自分だけだということにすぐに気づくからだ。ところが文化に伴うパワーは,それらの前提認識がメンバーたちによって共有され,それ故にお互いに補強し合っているという事実から生まれてくる。このような状況では,第三者のみ,もしくは多元的文化の経験者のみが,両方のグループがそれぞれに抱いている暗黙の前提認識を表面に導きだすことができるし,共通の地盤を発見することにも役立てるのだ。しかしたとえ両者の前提認識が表層に導き出されたあとにおいても,両方の前提認識は機能し続ける。そして上司と部下の双方に,それぞれの文化に従うことを可能にするような全く新しいコミュニケーションのメカニズムを作り出すことが求められる。たとえば意思決定を下し,上司が行動を起こす前に,部下の側は,上司の顔をつぶすおそれのない提言,あるいは事実関係のデータを提示することが求められるといったメカニズムに双方が合意するといった例だ。このソリューションではそれぞれの文化の前提認識はそのまま守られるということに留意すべきだ。このような状況では,どちらかの文化の前提認識が「間違っている」と決めつけることは不可能だ。双方が自分たちのインテグリティ(一貫性)を守ることができる,第3の前提認識を見つけだすことが求められる。

私は,暗黙の,意識されない前提認識の潜在能力を示すために,またこれらの前提認識が生命の基本的な側面に関わっていることを示すため,上記の長い例を紹介した。生命の基本的な側面には,時間とスペースの本質,人間の本性とその活動,真実の本質とそれをどのようにして発見するのか,個人とグループがお互いに関係し合うための正しい方法,仕事,家族,自己開発のそれぞれの重要性,男性と女性の適切な役割,さらに家族の本質といったものが含まれる。

これらの種類の前提認識がマクロカルチャーの中核を形成している。これらについては,第Ⅱ部「文化の次元」で詳しく検討する。われわれが参加するそれぞれのグループや組織のすべてが新しい前提認識を生みだしているわけではない。新しいグループに集まるメンバーは,先に所属していたグループ,教育,あるいは職業コミュニティーへの社会化の過程から得た自分自身の文化的学習を持ち込んでくる。しかし新しいグループが独自の共有する歴史を築きはじめると,そのグループはその経験の重要な領域に,修正された,新しい前提認識を作りだす。これらの新しい前提認識がこのグループの固有の文化を築くことに貢献するのだ。
(つづく)平林良人

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