基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 71 | テクノファ

投稿日:2021年6月3日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は3回忌になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に16年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。
横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。
横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。
今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。
本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山哲夫先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。
<ここより翻訳:2010年シャイン著>
(つづき)
文化:経験にもとづく抽象概念
概念としての文化は長く,多様な歴史を備えている。一般の人たちは,われわれが彼はとても「教養が深い」と表現するように,洗練さを表わす言葉として文化を用いている。文化人類学者は,さまざまな社会がその歴史を通して築き上げてきた習慣や伝統を示す言葉として使っている。過去数十年間に組織の研究者やマネジャーは,組織内で人材をマネジするために開発してきた規範や仕事の進め方を表わす言葉として,あるいは組織内で信奉される価値観または信条として文化という言語を用いはじめている。このような事情から,文化の概念と組織風土(climate)の概念との間,また文化の現状の姿とあるべき姿との間に混乱が生まれているのだ。
その結果マネジャーたちは「適切な文化」,「クオリティーの高い文化」,「カスタマーサービス重視の文化」を築くべきことを主張しはじめている。つまりマネジャーたちがその組織に植えつけたいと願っている価値観を備えた文化を提案しているのだ。またこの表現のなかには,より良い文化とより劣った文化,強力な文化と弱体の文化が存在し,また「妥当な」文化こそが組織の効果性に影響を及ぼすという考え方が示唆されている。マネジメントの書籍では,文化を築くことはすぐれた業績を上げるために不可欠であり,また文化が強力であればあるほど組織の生産性も高まる,ということがたびたび指摘されている。

研究者たちも,文化のある側面が財務的な業績と相関を示しているという研究結果を示して上記の考え方をサポートしている。しかしこの種の研究結果は評価を行うことが難しい。何故なら文化についてはあまりに多くの定義が存在し,業績を示す指標にもあまりにも多様な指標が用いられているからである(Wilderom,Glunk & Maslowski,2000)。コンサルタントと研究者も「カルチャーサーベイ(組織文化サーベイ)」を強く推薦し,彼らが組織内にある種の文化を築くことを支援できればその組織の業績を向上させることができると主張している。しかし彼らの主張は,本書で私が主張する文化の定義とはかなり異なった文化の定義にもとづいて行われている(Denison,1990;Sackman & Bertelsman,2006)。これから本書で検討するように,文化が「すぐれたものか,劣ったものか」,「効果的か,効果的でないか」は,文化そのものによって決まるわけではなく,文化とその文化が存在している環境との関係から決まってくるのだ。

概念としての文化に関してもっとも好奇心をそそる側面は,文化がわれわれを表面下に存在する現象に導くという点であろう。これらの現象からの影響は強力でありながら目に見えず,また多くの場合われわれに意識されないものなのだ。文化はわれわれのなかに,マーシャツク(Marshak,2006)が重要な隠されたプロセスのひとつとして見つけ出したマインドセット(思考傾向)と評価基準を生みだす。見方を変えれば,文化とはグループにとり,個人にとっての人格や性格に当たるものだとたとえることができるだろう。われわれは結果として現われた行動を観察することができる。しかしその行動を促した,底を流れるフォースを見ることはできない。とはいえ,われわれの人格や性格が行動をガイドし,ある場合には制約するように,文化がグループ内で保たれている共有された規範を通じて,グループのメンバーたちの行動をガイドし,制約しているのだ。
したがって概念としての文化は抽象概念である。もし抽象概念がわれわれの思考に役立っとすれば,それは観察可能であると同時に,通常では神秘的であり,十分に理解できないことがらについて理解を促すものでなければならない。この見方からすると,われわれは文化に対する皮相的なモデルは避け,もっと深い,もっと複雑な文化人類学モデルにもとづいて,文化は構築されるべきなのだと考えられる。これらのモデルは,次のリストに紹介する,数多くの観察可能な事柄や底を流れるフォースに関連している。

・人々が交流する際に観察される行動の一貫した傾向:人々が使う言語 形成される習慣や伝統,数多くの状況で人々が示す慣習(Goffman,1959,1967;Jones & others,1988;Trice & Beyer,1993;Van Maanen,1979b)。
・グループの規範(norms):職場で形成される暗黙の基準や価値観。たとえばホーソン研究のBank Wiring Roomの作業員の間に生まれた「平等な仕事に対する平等な賃金」といった規範(Homans,1950;Kilmann & Saxton,1983)。
・信奉された価値観(espoused values): 明確に,公に発表された原則や価値観。たとえば「製品のクオリティー重視」,「価格のリーダーシップ」といったように,そのグループが達成しようと目指していると述べている原則や価値観(Deal & Kennedy,1982,1999)。
・公式的理念:株主,従業員,カスタマー,その他のステークホルダーに向けてのグループの活動をガイドする広範なポリシーや理念的な原則。たとえば広く知られた,ヒューレット・パッカード社(HP)の「HP Way」(Ouchi,1981;Pascale & Athos,1981;Packard,1995)。
・ゲームのルール:組織内でうまく機能するための暗黙の,不文律のルール。メンバーとして受けいれられるために新人が修得するべき境界線,「ここではこのように行動すべし」という決まりごと(Schein,1968,1978;VanMaanen,1976,1979b;Ritti & Funkhouser,1987)。
・風土(climate): 物理的なレイアウトによってグループ内で保たれている感情。組織内のメンバーがお互いに,あるいはカスタマーやそのはかの外部の人たちと交流するときに取られる方法(Ashkanasy & others2000;Schneider,1990;Tagiuri & Litwin,1968)。
・定義したスキル:ものごとを達成するためにグループメンバーによって発揮される特定のコンピテンシー,文書に書かれていなくとも,世代間で伝承される,ものごとを成し遂げるための能力(Argyris & Schon,1978;Cook & Yanow,1993;Henderson & Clark,1990;Peters & Waterman,1982;Ang &Van Dyne,2008)。
・思考の習慣,精神的モデル,言語のパラダイム:グループメンバーによって使用され,初期の社会的プロセスで新しいメンバーに教えられる,認識,思考,言語をガイドする,共有された認知のための枠組み(frames)(Douglas,1986;Hofstede,1991,2001;Van Maanen,1979b;Senge,Roberts,Ross,Smith & Kleier,1994)。
・共有された意味(meaning): グループメンバーがお互いに交流する過程でメンバーによって生みだされる,しだいに形成されてくる理解。
・「起源についてのメタファー(暗喩)」,あるいは「統合を促すシンボル」:グ ループが自分たちの特徴を表現するために用いる方法,メンバーによって意識的に好まれることもあるし,好まれないこともある。しかし建物,オフィスレイアウト,その他の物理的構成物に反映される。このレベルの文化は,メンバーの認知的,評価的な反応ではなく,感情的,審査的な反応を反映することが多い(Gagliardi,1990;Hatch,1990;Pondy,Front,Morgam & Dandridge,1983;  Schultz,1995)。
・公式の習慣とお祝いの方法:重要な価値観や重要な「歴史」を表わす主要な出来事をグループが祝う方法。たとえば昇進,重要なプロジェクトの完成,歴史的な節目(milestone)のお祝い(Trice & Beyer,1993;Deal & Kennedy,1982,1999)。

上記の文化に関連する,ないしは文化を反映するすべての概念や現象は,グループのメンバーたちが共有したり,共通に保有したりしているものと関連しているけれども,それらのいずれも国,組織,職業,グループの文化としてとらえることは,あまり適切とは言えない。われわれは文化という概念ではないそのほかの概念 たとえば規範,価値観,行動パターン,慣行,伝統といった概念をたくさん有しているのに,何故われわれが文化という言葉を必要としているのかについて疑問を抱くはずだ。しかし文化という言葉は,共有という概念に,数々の重要な要素を付加しているのだ。つまり文化の概念は,構造の安定性,深さ,広さ,さらにパターン化と統合化を意味しているのだ。
(つづく)平林良人

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