キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

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基礎編・理論編

傾聴とは積極的に聴くことである 

投稿日:2024年5月17日 更新日:

ドラッカーは近代経営学の父と呼ばれた人ですが、彼は経営者が効果的にマネジメントする8つの慣行を提案しました。その中に「最初に聴き、最後に話す」というものがあります。リーダーシップの本質は「信頼を獲得して結果を得ること」ですが、 信頼を得る行動で最大効果を生むものが聴くことであると述べています。驚くべきことに、多くの指導者は聴くことをうまくやれません。多くの調査で「指導者の聴く能力」は、評価項目で最も低いレベルに位置付けられています。最初に聴いて、最後に話しすることは大変重要なことです。 それはとても単純ですが、多くの人々はそれを理解することができません。

聞くと聴くとは違います。積極的に聞く、すなわち傾聴を理解するには、まず「聞くこと」と「聴くこと」の違いを理解しなければなりません。簡単に言えば、「聞く」というのは単に聞こえているということであり、相手に意識を集中させる必要はありません。一方、「聴く」というのは、相手が言わんとすることに耳を傾け、相手の話を理解しようとすることで、相手に意識を集中させることが必要です。聞くという行動は受動的であり、エネルギーをあまり使いませんが、聴くという行動は能動的でかなりエネルギーを必要としますので、かなり疲れる行動です。

誰でも話をするときには、「事実」、「要望」、「感情」という3つの要素を混えながら話をしますので、お互いが今何を主としているかをキャッチすることが必要です。お互いの話が噛み合わない場合は、その3要素のうちのどれかがお互いに認識できず不毛なすれ違いをしていることに気が付く必要があります。話し手の話がよく分からないときは、話し手のメッセージがこの3要素のうちのどれか、あるいは3要素のどれかがわかっても内容が分からないなどいろいろな場合があります。

<クライアントの話を理解するには>
①クライアントの言いたいことに焦点をあて聴く。
・自分の聞きたいことではなく、クライアントが言いたいこと、伝えたいこと、わかってもらいたいことに注目する。
・クライアントの感情・気持ちに注目する
②クライアントが言いたいこと、気持ちを確かめて応答する。
・クライアントの要点を言葉で伝えて確かめる。
・言いたい、伝えたい、わかってもらいたいことは何かを把握する。

質問は、カウンセリングの過程で重要な役割を果たす。そのため質問の仕方には配慮が必 要である。質問の仕方には、大きく、開かれた質問(open question)と閉ざされた質問(closed question)に分けることができる。開かれた質問と閉ざされた質問をうまく組み合わせること で、対話は円滑に流れていく。カウンセリングの場面やその展開に応じて、それぞれが使い 分けられることが望ましい。

質問技法と同様、クライエントの発話を促すためには、クライエントが話した内容に対し て適切に応答することが求められる。また必要に応じて、話された内容をまとめたり確認し たりして、クライエントとともに明確にしていく必要がある。その際の技法を以下に挙げる。
①最小限のはげまし(minimal encourage):クライエントがどのような感情や態度を表現し ても、「ええ」「うんうん」「なるほど」「はい」などと『あいづち』を打ちながらそれを 受容すること。「わかりますよ」とか「もっと話し続けてください」とか「それからど うしたのですか?」という意味を表す。クライエント側からすると、十分に自分の話を 聞いてもらえているか、自分に関心を向けてくれているか、それとも事務的に聞き流さ れているかを感じとる重要な応答である。

②くり返し:クライエントが言った通りに、そのままを繰り返すこと。「おうむ返し」の技 法とも言われる。これによって、カウンセラーが積極的に傾聴し、共感的に理解しつつ ある姿勢がクライエントに感じられるようになる。また、クライエントがこんな話でよ いだろうかと不安なときや話につまったときに、言葉をそのまま返すことで、クライエ ントを支える(支持的)な役割も果たす。ただし、クライエントの話を全部おうむ返しにするのでは本当に聴いてもらっているように受け取れないので、合間にはうなずきや あいづち、促しなどの「最小限のはげまし」を入れながら応答するように心がける。
< 開かれた質問(open question)>
クライエントの自由な応答を促すような 質問。一言では答えられないようなものを言う。クライエントが、主体的に話すことができる。
⇒「いつ?」(When)、「どこで?」 (Where) 、「 誰が ?」 (Who )、「 何 を ? 」 ( What ) 、 「 な ぜ ? 」 (Why)、「どのように?」(How)
・それは、例えばどんなことですか? (What)
・これまでにカウンセリングを受けたこ とがありますか?(Did)
・その問題のことを、もう少し具体的に 話していただけませんか?(Could)
・寝る時間は早いほうですか、遅いほう ですか?(Which)
・それはどうしてですか?(Why)

③確認:話し手の曖昧な話をできるだけ具体的にしていく作業のこと。前に述べた、質問 技法やくり返し、この後で述べる要約などを用いて行う。場面を特定していくことで、 クライエント自身も曖昧にしか捉えていなかった内容が明確になり整理されていく。

④明確化:クライエントがある感情を抱いているのにその感情を曖昧にしか感じられないとき、 あるいは気づいていないときに、その気持ち(感情)をカウンセラーが汲み取って、カウン セラーの言葉でフィードバックする技法のこと。カウンセラーがクライエントの感情を言語 化することによって、クライエントは「ああ、そうなんだ」と自分の感情に気づき、気づく ことではじめて自分を理解することもできる。自己成長のために重要な手続きである。

⑤要約:カウンセラーが、ある程度聴いたクライエントの話のポイントをつかんで、自分が 理解した内容をカウンセラー自身の言葉で要約してクライエントに伝え返す作業のこと。 要約は、カウンセラーが理解した内容とクライエントが理解してもらいたいと思っている 内容とが一致しているかどうか、お互いに確認していく作業である。クライエント自身も 自分の話したいことを再確認でき、問題を明確化するような方向に動き出すことができる。

出典 資料シリーズNo.165 労働政策研究・研修機構(JILPT)
職業相談場面におけるキャリア理論及び カウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査

相談場面では、クライアントがキャリアコンサルタントを信頼して自分のことを話す気にならなければ、面接は始まりません。そのため、まずは信頼関係を構築しなければなりません。その信頼関係をラポールといいます。相談はラポールの構築から始まります。そのためには、領いたり、あいづちを打ったりすることが効果的です。相手の話をきちんと聴いていなければ、うなずいたり、あいづちを打ったりすることができません。うなずいたり、あいづちを打ったりすることは、相手の話を聴いていることの証しでもあります。

話し手が伝えようとしているメッセージが、話3要素のうちのどれかを正確に理解するために、話の区切りでクライアントが言ったことを確認する方法があります。その際、キャリアコンサルタントがクライアントの言ったことを一言一句そのまま繰り返すことをエコーイング(オウム返し)といい、相手が言ったことを自分のことばに置き換えて返すことをバラフレージングといいます。

パラフレージングをすることにより、キャリアコンサルタントは自分の理解が正しいかどうかを確認することができ、同時にクライアントにとっては、キャリアコンサルタントの言ったことから自分の言ったことが正しく伝わったかどうかを確認することができます。さらには、クライアントにとってはキャリアコンサルタントの表現と違う表現で返してもらうことによって、新たな気づきにつながる可能性もあります。

最後に、山本五十六の語録「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば、人は動かじ」という格言を紹介します。これは傾聴とは違いますが、人と人とのコミュニケーションの本質を説明する言葉として今に至るまで世に伝わる金言です。
(つづく)Y.H

-基礎編・理論編

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