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実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_韓国_職業能力開発、外国人労働者対策

投稿日:2024年4月15日 更新日:

昨今は海外進出している企業で働く日本人も多数います。彼らを取り巻く状況を知っていることもキャリアコンサルタントには有用なことです。今回は韓国の職業能力開発、外国人労働者対策についてお伝えします。

韓国の職業能力開発についての政策は次の通りです。

職業能力開発
イ 実施主体
雇用労働部が職業能力開発政策の策定、訓練機関の指定、訓練コースの認可、訓練助成等を所管し、訓練機関の拡大推進及び評価、公的訓練機関の管理、民間訓練市場の育成を行っている。また、韓国産業人力公団が職業能力開発支援、国家職業資格テスト、職業訓練促進事業等を行っている。職業高校や短大などで行われる職業教育については、教育科学技術部(教育関連分野を広く所管する韓国の中央官庁 Ministry of Education, Science and Technology:MEST)が所管している。職業訓練実施機関としては、韓国ポリテク大学や韓国技術教育大学といった国の公的職業訓練機関、地方政府等の公的職業訓練機関、雇用労働部指定民間訓練事業者及び雇用労働部認可のNPO団体等による民間訓練機関があり、政府委託の訓練コースには民間事業者に助成金が支給される。主な公的職業訓練機関には以下のものがある。

(イ)韓国ポリテク大学(Korea Polytechnic University:KPU)
雇用労働部が設立した中級技術者養成の職業訓練機関で、全国に41か所(2022年3月現在)のキャンパスがある。6か月~1年の課程と2年課程があり、6か月~1年の課程は、技能労働者養成で、15歳以上の失業者や進学しない若年者を対象に、インフラストラクチャー分野の技術教育を実施している。1年間の課程を修了すると国家技術資格の筆記試験免除の特典がある。訓練費用、寮費は政府負担で、訓練生には月20万ウォンの手当が支給される。2年課程は、多技能技術者養成で、修了時に産業学士学位が授与される専門大学課程であり、一般専門大学と違い現場実務中心の教科課程によって、企業で直ちに活躍できる技術者を養成している。そのほかに在職者の実務能力向上のための多様な向上訓練プログラムを運営している。2008年から大学と企業の間で、学位取得学生の雇用を促進する契約を締結し、産業側から求められる技術等を基にしたオーダーメイドの訓練プログラムによる訓練を実施している。

(ロ)韓国技術教育大学(Korea University of Technology and Education : KOREATECH)
職業教育訓練指導員養成のため雇用労働部が1991年に設立したもの。4年コースで、訓練内容は理論と実習が半々の割合で構成される。

(ハ)韓国商工会議所(Korea Chamber of Commerce and Industry:KCCI)が運営する訓練センター
15歳以上の未就職者を対象に職業訓練を行っており、全国に8か所(2018年1月現在)訓練センターがある。

上記(イ)~(ハ)の公的職業訓練機関の他、民間の訓練機関が訓練を実施している。訓練費用は、①被用者及び就職経験のある失業者は雇用保険基金から、②就職経験のない者(脱北者を含む。)、自営・創業支援、社会補助受給者の自立支援は一般会計から支出される。

ロ 最近の施策
構造変化や多様化する労働市場の変化に対応するため、全国民の生涯にわたる職業能力開発と未来志向の人材育成に重点を置いた政策を推進している。2021年9月、雇用労働部は生涯職業能力開発支援策を発表し、すべての国民が職業生活を通じて多様な職業能力開発の機会を得ることができるようにするとともに、新たな能力の需要に応じた訓練プログラムを提供するための主要な課題を段階的に実施してきた。その一環として、職業訓練のための個人口座として2020年に国家訓練カード制が従来失業者と雇用者を区別していた制度(明日の学びカード制)を統合する形で新設された。また、新しいスキル開発の需要に応えるため、訓練プログラムを拡大し、官民の協力に基づく新しいデジタル技術のための訓練プログラムである「K-デジタルトレーニング」を通じて、2021年から2025年の間に新しいデジタル技術分野で18万人の育成を目指している。その他、国家職務能力標準(National Competency Standards :NCS)へのAIスマートロジスティクスなどの新たな技術分野の追加や、遠隔訓練や新しいトレーニング方法の採用を支援するSmart Training Education Platform(STEP)の導入を行っている。さらに、2022年からは、労働力の移動を支援するため、訓練プログラムの新設を行うとともに、定着・キャリア支援センターの設置も進めている。

(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■外国人労働者対策
外国人が韓国で就業する場合は、大統領令に基づき、就業活動ができる滞在資格を得なければなりません。

1.高度外国人材(専門職人材)の受入
2000年以降、専門的・技術的能力を持つ外国人労働者を受け入れるための措置が導入されています。対象となる査証の種類は教授(E-1)、会話指導(E-2)、研究(E-3)、技術指導(E-4)、専門職業(E-5)、芸術興行(E-6)、特定活動(E-7)であるが(滞在許可期間は査証の種類により2年から5年)、最先端産業の発展に資する人材や、理工系の教授・研究者を対象に、入国時の手続等について特恵を付与する制度として、ゴールドカード制度(E7の中の一定の専門分野)、サイエンスカード制度(E-1、E-3の中の一定の経歴を有する者等)が導入されています。また、2010年には、専門職人材の外国人労働者を対象に、ポイント制により居住・永住資格が付与される制度が実施されています。

2.非専門労働者の受入
産業研修生制度に代わる雇用許可制度により、国内の労働市場を保護した上で、外国人労働者の権利の保護を強化し、生産労働者が不足している企業に生産労働者をより体系的に供給することを目指しています。また、韓国に滞在する外国人労働者に合わせた教育とカウンセリングを提供するなど、韓国社会によりよく適応できるように様々な施策を実施しています。

在留外国人労働者の韓国滞在支援・就労支援として、非専門労働者に該当するH-2就労ビザ保持者及びE-9ビザ保持者を対象に、苦情相談、韓国語教育などの各種サービスを提供し、韓国滞在をサポートするための日常生活に関する法律教育などを実施しています。

・苦情相談、韓国語教育、日常生活のための基本的な韓国法の知識、デジタル技術の訓練を提供することを目的とした、合計9つのハブセンターと36の小規模センターを運営
・外国人労働者相談センター:電話相談により、外国人労働者の悩みを迅速に解決
・事業主教育:外国人労働者の雇用を初めて許可された事業主に対して、外国人労働者の権利をより一層保護するため、労働法や人権に関する研修を受講することを義務付け
・外国人就業者向け職業能力開発研修:就業中の外国人労働者を対象に、職場への適応力を強化し、企業の生産性向上に資するための職業能力開発研修を実施
・外国人労働者の権利利益保護協議会の運営:各地方労務局に協議会を設置し、外国人労働者の権利と利益の保護のために、外国人労働者と他の従業員との間の対立を解決するための措置及び外国人労働者により良い支援を提供するための措置を議論

■雇用における平等の確保
1.背景
ジェンダー平等や労働重視の国家戦略に伴い、政府は女性のための仕事を拡大することを目指しており、経済成長の潜在力を高め、差別のない公平な社会の実現を目指しています。

2.現状
韓国における女性の雇用は増えてきているが、未だなお、OECDの平均や男性と比較すると低く留まっており、出産や育児によるキャリアの中断があり、そのことが女性の労働力率のM字カーブにつながっています。

3.対策
政府は2017年12月に導入した「ジェンダー平等のための基本計画」に基づき、女性のためのより良い労働環境の創出を図っています。

・セクシャルハラスメントの防止
・両親休暇の取得
・マタニティ保護システムの活用
・家族休暇の取得
・公共の育児センターの設立

また、その他各種施策として、以下が実施されています。
・健康保険や雇用保険の情報を活用したスマート勤労監督の実施
・セクハラ自己診断アプリの公開
・有期雇用社員や派遣社員の産休期間中に雇用契約期間が終了した場合に、産休給付相当額等を支給する制度を新たに導入(2021年7月施行)。
・妊娠中の労働者の保護を強化し、キャリアを中断せずに労働市場に参入できるようにするため、育児休暇を取得し、勤務時間を変更できる制度を設立(2021年11月施行)

(つづく)Y.H

 

-実践編・応用編

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