実践編・応用編

海外進出日本企業で働く人々_韓国_労働条件対策

投稿日:2024年4月15日 更新日:

昨今は海外進出している企業で働く日本人も多数います。彼らを取り巻く状況を知っていることもキャリアコンサルタントには有用なことです。今回は韓国の労働条件対策についてお伝えします。

■労働条件対策
雇用労働部は、職場における適切な労働条件を確保し、公正な労働市場を実現するために、法執行権限を持つ労働検査官の数を大幅に増やすために取り組んでいます。さらに、大韓労使協会と委託契約を締結し、従業員数が20人未満の職場や新設された職場など、労務管理能力が不足している職場に対して、労務管理能力に問題があるかどうかを自主的に確認するための支援を行っています。

1.賃金・労働時間及び労働災害の動向
2013年以降賃金上昇率は概ね2%台後半から3%台後半で推移しており、2020年は1.1%となっている一方、法定労働時間は、2004年7月から段階的に週40時間制に移行(2011年に完全移行)したこともあって減少傾向にあり、2020年は月160.6時間となったが、依然としてOECD諸国の中でも極めて長く、労働時間の短縮及び労働生産性の向上が課題となっています。労働災害被災者数及び発生率は、直近では上昇傾向にある。死亡者数については、2021年は2,080人と前年比18人増加しています。

2・労災保険制度
1963年に制定された産業災害補償保険法(1964年施行)をもとに開始され、保険事業は当初、国が直接運営していたが、専門性と効率性を高めるために、1995年に、韓国勤労福祉公団を設立し、管理を同公団に委託しています。産業災害補償保険については、保険の適用対象となる特殊形態労働従事者の職種について、2020年7月から、現行の9職種を14職種に拡大しました。

3.労働安全衛生制度
産業安全保健法(1981年制定)では、産業安全・保健に関する基準を確立し、その責任所在を明確にして、産業災害を予防し、快適な職場環境を造成することにより、労働者の安全と保健を維持・増進していくことを目指しています。2020年には、産業災害から労務を提供する者をより手厚く保護すべく、28年ぶりに産業安全保健法が全面改正されました。変更点としては、法の保護対象を「勤労者」から特殊形態労働従事者を含む「労務を提供する者」への拡大、代表理事等の産業災害予防責任義務の新設等があげられ、2022年1月から重大災害処罰法が施行されています。重大災害処罰法では①死者が発生、②同一の事故により6か月以上の治療が必要な負傷者が2人以上、③同一の有害要因により大統領令で定める職業性の疾病に罹った者が1年以内に3人以上、のいずれかに該当する場合を重大な労働災害としています。

会社の経営責任者等に対して、労働者や市民の安全保健確保を行うことを直接に義務付けており、当該義務の違反によって重大な事故が発生した場合には、法人だけでなく代表理事等の経営責任者個人に対して刑事処罰等の法的責任を問うことができることとされています。また、雇用労働部では、2021年10月に安全衛生管理体制を確立するための施行法を制定し、重大労働災害を直接調査することとしました。また、ガイドブック、マニュアル、ブリーフィング、現場支援団体等による安全衛生管理のコンサルティング等により、事業者への支援を実施しています。

■最低賃金制度
1.最低賃金の決定
最低賃金法に従い、毎年最低賃金委員会で決定され、韓国における最低賃金は全国一律で適用されます。最低賃金の決定方法として、これまでは、雇用労働部長官(労働大臣に相当)による要請を受けた公労使各9名の委員からなる最低賃金委員会の審議を経て決定されてきましたが、最低賃金の大幅引上げにより社会的関心の高まりと労使間の意見相違が深刻化していたことから決定方法をより合理的かつ客観的にすべく1988年の制度施行以来初めての改編が、2019年2月27日に発表されました。

改編により、最低賃金決定は、「区間設定委員会」と「決定委員会」の二段階方式になります。「区間設定委員会」が最低賃金引き上げ率の上下限を設定し、「決定委員会」が範囲内で議論し、最低賃金を決定します。両委員会の構成は、「区間設定委員会」が専門家委員9名(政労使の推薦に基づき選定)、「決定委員会」が労・使・公益委員各7名、合計21名で構成され、公益委員の推薦は、多様性確保のため従来の政府単独推薦権を廃止し推薦権を国会にも付与します。また最低賃金の決定基準として、現行の労働者の生活保障(労働者の生計費、所得分配率、賃金水準、社会保障給付現況等)に雇用・経済状況(労働生産性、雇用に及ぼす影響、経済成長率含む経済状況)を追加し、決定した最低賃金は翌年1月1日より適用されます。

政府は、新しい最低賃金のソフトランディングを支援するため、労務管理に関する継続的な検査と指導を実施しているほか、2020年に実施された雇用安定基金プログラムに続き、2021年には1兆2,000億ウォンの支援を実施しています。

2.最低賃金の算入範囲に係る最低賃金法の改正
最低賃金法の改正により、2019年1月から毎月1回以上定期的に支給される賃金のうち、賞与は月額最低賃金の25%を超える部分、現金で支給される福利厚生費は同7%を超える部分が最低賃金に算入されることとなりました。算入されない範囲については段階的に縮小されており、2024年以降は全額が最低賃金に算入されます。

労働時間制度
イ 法定労働時間
法定労働時間として、1週間の労働時間は休憩時間を除いて40時間を超過しないこと、1日の労働時間は休憩時間を除いて8時間を超過しないこととされている。なお、「1週間」とは、休日を含んだ7日をいう。

ロ 時間外労働
時間外労働時間の上限については、当事者間で合意したときは1週間に12時間を限度として延長することができる。上記の時間外労働時間の上限の12時間を超えて超過労働をさせることができる特例業種として、①陸上運送業(「旅客自動車運輸事業法」の路線旅客自動車運送事業を除く)、②水上運送業、③航空運送業、④その他運送関連サービス業、⑤保健業、がある。時間外労働、深夜労働(22時から6時まで)及び休日労働の割増賃金については、通常賃金(勤労者に定期的、一律的に所定勤労または総勤労に対して支給することと定めた時間給金額、月給金額等)の50%以上を加算しなければならない。休日労働の割増賃金については、8時間以内の休日労働に対しては通常賃金の50%を、8時間を超える休日労働は100%を加算する。なお、労働者と事業主が合意すれば、割増賃金を支払う代わりに所定労働時間に代償休暇を与えることもできる。

ハ 弾力的労働時間制度
(イ)変形労働時間制
事業主は、就業規則に定めることにより2週間以内を単位とする変形労働時間制を採用できる。その際、単位期間の週当たり平均労働時間が40時間を超えないこと、どの週においても労働時間が48時間を超えないことが要件となる。事業主は労働者の代表と書面で合意すれば、6か月以内を単位とする変形労働時間制を採用できる。その際、単位期間の週当たり労働時間が40時間を超えないこと、どの週においても労働時間が52時間を超えないこと、どの日においても労働時間が12時間を超えないことが要件となる。

(ロ)フレックスタイム制、裁量労働制
労働者の代表と事業主が書面で合意すれば、1か月以内を単位とするフレックスタイム制を採用できる。また、事業場外での労働が含まれ労働時間の管理が難しい場合や専門的な業務の場合に就業時間を労働者に任せることが適当な場合など、仕事の性格上裁量労働が必要であると大統領令で定められている業務については、労働者の代表と事業主が書面で合意すれば裁量労働制を採用することができる。

ニ 休憩・休日
(イ)1日当たりの休憩時間
事業主は、労働時間が4時間の場合には30分以上、8時間の場合には1時間以上の休憩時間を労働時間途中に与える必要がある。休憩時間は、労働者が自由に利用することができる。

(ロ)1 週当たりの休日
事業主は、労働者に1週間に平均1日以上の有給休日を与えなければならない。また、労働者に大統領令で定める休日を有給で保証しなければならない。ただし、勤労者と書面で合意した場合は特定の労働日に振り代えることができる。

ホ 年次有給休暇
1年の所定労働時間の80%以上勤務した労働者に対して、年間最低15日間の有給休暇が付与される。日数は勤続年数2年あたり1日を加算して最大25日間まで付与される。また、事業主は未使用の休暇に対して金銭補償をしなければならないが、以下の積極的な休暇使用の促進措置を講じたにも関わらず労働者が有給休暇を使用しない場合には、事業主の休暇の金銭補償義務が免除される。

① 年次有給休暇使用可能期間(付与されてから1年間)が終了する6か月前を基準に10日以内に事業主が労働者別に未使用休暇日数を示し、労働者がその使用時期を決めて事業主に通知するように書面で要求する。

② ①の要求にも関わらず、労働者が通知を受けたときから10日以内に未使用休暇の全部又は一部の使用時期を決めて事業主に通知しない場合、年次有給休暇使用可能期間が終了する2か月前までに事業主が未使用休暇の使用時期を決めて労働者に書面で通知する。

ヘ 労働時間短縮に向けた取り組み
政府は、労働時間に関する制度整備を行うとともに、主要な産業や長時間労働を行う事業所に対して年間を通じて検査を実施している。雇用を創出することも目的の一つとして、労働時間短縮、シフト制勤務体系の改革、定期的な教育・訓練の提供、サバティカル休暇の付与などを行っている事業主に助成金を支給している。また、ジョブ・シェアリング・マニュアルの作成・配布や説明会の開催などを通じて、中小企業の自主的な時短の実現を支援しているほか、働き方の改善を目的とした全国キャンペーンや優良企業の認定などを通じて、社会的合意の形成と意識の向上に努めている。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■非正規労働者対策
嘱託・パートタイマーの保護等に関する法律、派遣労働者の保護等に関する法律が制定・施行され、非正規労働者の保護が強化されています。非正規労働者は2019年8月時点で全賃金労働者の36.4%を占めています。有期雇用契約は原則として2年までに制限されていますが、プロジェクトや特定のタスクを完成するまでの期間が定義されている場合や、労働者が一時的に離職している場合の代替要員として用いられる場合などの客観的・具体的な理由がある場合にはその限りではありません。政府は、民間部門の企業が非正規労働者を積極的に正規労働者に転換することを奨励するために、税額控除を実施しているほか、非正規労働者の比較対象を拡大するなど、現在の差別是正制度の改革を図っています。

■解雇規制
事業主は、正当な理由なく解雇、休職、停職、降格、減給、その他の懲罰(不当解雇等)をすることはできません。事業主は、勤労者が業務上の負傷若しくは疾病の療養のために休業した期間及びその後30日間又は産前・産後の女性がこの法律により休業した期間及びその後30日間は解雇できませんが、事業主が一時補償をした場合又は事業を継続できなくなった場合には、この限りではありません。

(つづく)Y.H

-実践編・応用編

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