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実践編・応用編

  ドイツの労働施策 5

投稿日:2024年10月10日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

前回に続き、ドイツの労働施策についてお話しします。日本とドイツは基本的価値を共有し、G7等において国際問題に対し強調して取り組むパートナーです。また、ドイツは日本にとって欧州最大の貿易相手国であり、21世紀に入って日独関係はますます重要なものとなっています。政治経済面での協力はもちろん、文化・学術分野でも市民レベルでの活動が活発に行なわれています。

◆労働条件対策
■賃金・労働時間の動向
●賃金
2020年のフルタイム被用者(製造業及びサービス業)の平均年収(特別手当を含む総額)は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの企業が操業短縮を実施した影響などから、統計開始(2007年)以来初めて前年比で減少したが、2021年は再び増加に転じ、前年比で3.2%増の8,666,000円となっています。なお、操業短縮中の労働者に支給される操業短縮手当は、統計上の年収には含まれていません。
●労働時間
2021年のフルタイム被用者(製造業及びサービス業)の週平均労働時間は38.4時間でした。
■最低賃金制度
2014年、「協約自治強化法」の中で「最低賃金法」が制定され、2015年1月1日、全国一律の法定最低賃金(時給1,360円、当時)が導入されました。
●法定最低賃金
〇最低賃金額の改定
2020年1,496円であった法定最低賃金は、2021年1月に1,520円、同年7月に1,536円に引き上げられ、さらに2022年は1月に1,571円、7月に1,672円、10月に1,920円と3回にわたり引き上げられました。このうち1月と7月の引き上げは、従来どおり最低賃金委員会の勧告に基づくものでありましたが、10月の引き上げは最低賃金委員会の勧告を経ず、政府提出の法改正による引き上げでした。ショルツ政権はこれにより政権発足時の公約(連立協定)の1つを実現しました。なお、政府主導による引き上げは今回1回限りで、今後は従来どおり最低賃金委員会の勧告に基づいて改定するとしています。
〇適用除外
・一部の企業実習生(学校教育法で受講が義務づけられている実習や、職業養成訓練開始時又は大学入学時の最長3か月までのオリエンテーション実習など)
・ボランティア
・1年以上失業していた長期失業者のうち、雇用後最初の6か月間の就労
・職業訓練生:ただし2020年1月1日以降は、訓練手当に関しても法定最低基準が導入されました。
〇効力
最低賃金額を下回る合意はその部分について無効です。最低賃金額以上の賃金を支払わない使用者には、8,000万円以下の罰金が科されます。
〇監督機関
事業主の遵守状況は、連邦税関が監督しています。
〇職業訓練生への最低訓練手当
職業訓練生は、労働者に適用される法定最低賃金の適用対象外ではあるが、2020年以降は訓練時に支払われる訓練手当に関しても法定最低基準が導入されました。職業訓練1年目の最低訓練手当は、2020年に月額82,400円、2021年に88,000円、2022年に93,600円、2023年に99,200円へと4年かけて段階的に引き上げられることが決定しており、2024年以降は連邦教育研究省が毎年の最低手当額を決定することになっています。最低手当額には訓練年数に応じ、訓練2年目に18%、3年目に35%、4年目に40%の上乗せ手当が加算されます。

●労働協約法に基づく労働協約上の最低賃金の適用
労働協約によって規定された最低賃金等の労働条件の適用は、原則として当該協約を締結した労働組合の組合員に限定されます。しかし、労働協約の当事者双方からの申し出があり、公共の利益のために必要であると判断される場合は、連邦労働大臣が労働協約法に基づく「一般的拘束力宣言」を行うことで、当該 協約を締結した当事者以外の非組合員に対しても拡張適用させることができます。

●労働者送り出し法に基づく労働協約上の最低賃金の適用
労働者送り出し法(Arbeitnehmer-Entsendegesetz:AEntG)は、EUの海外労働者派遣指令(1996年成立、2018年改正)の国内法整備に該当し、ドイツ国外の企業からドイツ国内に派遣された労働者の労働条件等について規定している。事業主は、国内企業か国外企業かに関わらず、ドイツ国内の各業種の労働協約で定められた最低賃金を支払わなければならないとし、ドイツ国外の事業主に対しても、報酬に関する規則の平等な適用(ドイツ国内の労働者との均等賃金)を義務づけている。こうした業種別最低賃金の義務づけは、従来特定の業種のみを対象としていましたが、2020年7月の同法改正以降、すべての業種が対象となり得るようになった。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

■労働時間制度
●法定労働時間
〇法定労働時間の原則
1日の労働時間は8時間を超えてはならないことになっています。ただし、6か月又は24週間以内の期間で、平均労働時間が1日8時間を超えなければ、1日10時間まで労働時間を延長できます。
〇原則の例外
業務上定期的に長時間の待機時間がある場合、労働協約または事業所協定に規定すれば、1日10時間を超えて労働時間を延長できます。こうした一定の例外を設けることはできますが、その場合、12か月平均の週労働時間が48時間を超えることはできません。このほか、非常事態等が発生した場合や監督機関の許可がある場合にも、一定の例外が認められます。なお、超過労働に対する割増賃金は、法令ではなく労働協約において定められています。
●休息・休日
〇休息時間
労働者には、1日の労働時間の終了後、連続11時間以上の休息時間が確保される必要があります。
〇日曜・祝日の休息
日曜日及び法定祝日は、労働者を就業させることはできません。ただし特定の業種で例外が認められています。
●年次有給休暇
継続勤務6か月以上の労働者は、1年につき24日(週6日制の場合。週5日制の場合は20日)以上の年次有給休暇を取得することができます。有給休暇はまとめて取得するものですが、差し迫った事業上の理由や労働者個人の事情がある場合は分割取得も可能です。ただし、労働者が12日を超える有給休暇の権利を有する場合には、分割された有給休暇の一部は、12日以上連続していなければならないことになっています。休暇は年内に取得するものとし、差し迫った事業上の理由か労働者個人の理由により正当化される場合に限り、翌年への繰り越しが認められます。
●病気休暇
病気で就労不能となった労働者は、最長6週間まで、賃金の継続支払いを事業主に請求できます。病気で新たに就労不能となった場合には、①新たに就労不能となる前に、病気のために6週間以上就労不能になっていない、②病気で就労不能となった最初の時点から12か月が経過している、のどちらかに該当すれば、再度6週間までの賃金継続支払いを請求できます。こうした請求権の取得には、雇用関係が中断することなく4週間以上継続していることが条件です。なお、就労不能の間に支払われる賃金は、通常の就労時と同額となります。労働者は事業主に対し、予想される就労不能日数を即時に伝えなければならず、就労不能日数が3日を超える場合には、それについて医師の診断書を提出する必要があります。

●母性保護(母性保護法(Mutterschutzgesetz))
事業主は、産前の6週間と産後の8週間の保護期間に、女性労働者を就労させてはならない。早産又は多胎出産の場合は、産後の保護期間は12週間に延長される。妊婦又は授乳期間中の女性は、20時から6時までの深夜労働、日曜日及び祝日の労働等が禁止されている(ただし、当該女性の同意を得るなど一定の条件を満たせば、22時までの労働が可能)。妊娠期間、妊娠12週目後の流産の後の4か月、産後最低4か月間の女性への解雇通告は、事業主が解雇通告の時点で妊娠、流産又は出産を知っていた場合、又は解雇通告後2週間以内に知らされた場合は認められない。産前産後の保護期間中(出産日を含む)は、母性手当(Mutterschaftsgeld)及び事業主からの補助金(Arbeitgeberzuschuss)が支給される。
母性手当は、当該女性が公的医療保険に加入している場合に疾病金庫(Krankenkasse)から支払われる給付金で、その上限は日額13ユーロ。加えて、母性手当と平均賃金との差額分について、事業主から補助金が支払われる。公的医療保険に加入していない場合は、連邦社会保障庁(Bundesamt für Soziale Sicherung)から最高210ユーロの母性手当が一括支給される。加えて、日額13ユーロと平均賃金との差額分について、事業主から補助金が支払われる。産前産後の保護期間以外で、同法に規定されている就労禁止項目に該当し、部分的又は全く働くことができなかった者に対しては、妊娠前の過去3か月の平均賃金が、母性保護賃金(Mutterschutzlohn)として事業主から支払われる。なお、2018年1月1日より新たな母性保護法が施行され、職業訓練生も母性保護の対象となった。受け入れ先の企業には、上記規定の遵守が義務づけられている。

●小売業における労働者保護
労働者の長時間労働を防ぐため、小売店の営業時間を制限する「閉店法」(Gesetz über den Ladenschluss)がある。原則として、①日曜日及び祝日、②平日(月曜から土曜)の20時から翌日の朝6時まで、③12月24日が平日の場合の朝6時までと14時以降については、営業が認められていない。ただし、薬局やガソリンスタンド、駅の販売店等は規制対象外とされており、日曜を含む全ての日で営業時間に制限はない。なお2006年の基本法(日本の憲法に相当)改正により、小売店の営業時間を定める権限が連邦政府から州政府に委譲され、州が営業時間を独自に規定できるようになった。その結果、現在はベルリンをはじめ多くの州で、平日の営業時間に特段の制限を設けていない。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

●パートタイムからフルタイムに復帰する権利
家庭等の事情でフルタイムからパートタイムへ移行した労働者が、のちに再びパートタイムからフルタイムに復帰できる権利を保障する、「パートタイム労働に関する権利向上のための法律」が2018年に成立し、2019年1月から施行されています。一定規模の企業(従業員数46人以上)で働くフルタイム労働者は、1年以上5年以内の期間限定でパートタイム労働に従事した後、元のフルタイムへの復帰を要求できます。ただし、フルタイム復帰権の権利行使には、企業規模によって人数に上限があり、従業員数46人以上200人以下の企業では15人に1人の割合で権利を行使できます。従業員数201人以上の企業では人数制限なく復帰権が保障されますが、従業員数45人までの企業では、こうした復帰権はありません。

(つづく)Y.H

 

 

-実践編・応用編

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