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実践編・応用編

ドイツの社会保障施策について

投稿日:2024年9月26日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

日本とドイツは基本的価値を共有し、G7等において国際問題に対し強調して取り組むパートナーです。また、ドイツは日本にとって欧州最大の貿易相手国であり、21世紀に入って日独関係はますます重要なものとなっています。政治経済面での協力はもちろん、文化・学術分野でも市民レベルでの活動が活発に行なわれています。今回は、ドイツの社会保障施策についてお話しします。

好調な経済状況の一方で、少子高齢化が着実に進展するドイツでは、社会保障制度改革が進められ、安定的かつ持続可能な社会保障制度が運用されています。人口動態については、2022年の見通しとして、出生数・死亡数の傾向に変化は無いものの、新型コロナウィルス感染症の影響が減少したことに加えウクライナ危機等の影響により、2022年の純移民数が140万人程度と前年の4倍以上となっています。このため、人口数は2021年の約8320万人から大幅増の約8430万人程度となる見込みです。

◆社会保険制度
■年金制度
●概要
連邦労働・社会省が所管しており、連邦ドイツ年金保険組合等が運営主体となっています。
・財源
2018年11月に成立した「公的年金保険給付改善及び安定化法」により、保険料率は2025年まで20%を超えないことが規定されました。国庫補助については、1992年の年金改革により、保険料引上げ率に応じて自動的に改定されることになっています。
・給付
年金単価は2012年以降、好調なドイツ経済による賃金の上昇と顕著な雇用の伸びに伴い上昇傾向で推移し、2023年には、旧東独地域と旧西独地域の水準が同額になることが決定しています。保険料控除後・税控除前の平均労働報酬に対する標準年金の比率は49.4%(ドイツ年金保険2021年レポートにおける2022年推計値)ですが、少子高齢化の進展により水準の低下が見込まれているため、「公的年金保険持続法」により、2020年までは46%を、2030年までは43%を下回らないこととされていました。
2018年11月に成立した「公的年金保険給付改善及び安定化法」により、新たに、2025年までこの水準について48%を維持することとされました。また、2021年に成立した新政権の連立協定においても、恒久的に48%を下回らないように維持する旨が記載されています。

■医療保険制度
●概要
連邦保健省が所管しており、疾病金庫が運営主体となっています。保険料率はかつては疾病金庫ごとに定められていましたが、2009年1月より公的医療保険の財政が医療基金の創設によって統一されたことに伴い、保険料率も統一されました。更に、2014年6月に成立した「公的医療保険の財政構造及び質の発展に関する法律」によって、保険料率の見直しが行われ、公的医療保険の一般保険料率を15.5%から14.6%に引き下げ、7.3%ずつを労使折半で負担することとし、従来、労働者のみが負担していた0.9%の特別保険料が撤廃されました。

医師の組織
州医師会と州保険医協会とがあり、両者はいずれも公法上の団体で、これらに加えてそれぞれ連邦レベルの組織として連邦医師会及び連邦保険医協会が存在しています。保険医協会の主な業務は、保険医の利益を代表して診療報酬に関し疾病金庫と交渉を行い、診療契約を締結し、その配分を行うこと等です。
■介護保険制度
●概要
連邦保健省が所管しており、介護金庫が運営主体となっています。被保険者は、原則として医療保険の被保険者と同じ範囲であり、年齢による制限はありません。したがって、障害等で要介護状態になった場合には、若年者であっても介護保険給付を受けることができます。保険者は介護金庫となるが、医療保険者である疾病金庫が別に組織し、運営しています。

介護保険の財源は保険料であり、国庫補助は行われていません。

●給付内容
①介護現物給付、②介護手当(現金給付)、③組合せ給付(介護現金給付と介護手当を組み合わせた給付。支給限度額は、給付割合に応じて按分される。)、④代替介護(介護者が休暇や病気で一時的に介護困難である場合に、代わりの介護者を雇うための費用を給付。)⑤部分施設介護(日中又は夜間に、介護施設において一時的に要介護者を預かる給付(デイケア・ナイトケア))、⑥ショートステイ(短期入所生活介護。)、⑦介護補助具の支給・貸与(技術的介護補助具と消耗品に分類されます。技術的介護補助具は通例貸与の形態で支給され、自己負担は当該費用の10%。)⑧住宅改造補助、⑨完全施設介護等があります。

●サービス提供者
介護金庫や州介護金庫連合会とサービス提供の契約を締結した事業者・施設によって行われる。施設としては、老人居住ホーム、老人ホーム、介護ホーム等が存在する。老人居住ホームは、高齢者がなるべく自立した生活を送ることができる設備を有する独立型住居の集合体であり、入所者が共に食事をとる機会等が設けられている。老人ホームは、自立した生活を送ることが困難である高齢者が居住し、身体介護や家事援助などのケアを受けることができる施設で、多くの場合それぞれ独立した住居となっている。介護ホームにおいては、入所者は施設内の個室又は二人部屋において、包括的な身体介護や家事援助を受ける。

高齢者・要介護者の状況
少子高齢化が進展するドイツにおいては、全人口が約8320万人(うち外国籍約1090万人)に対して65歳以上の高齢者が約1840万人で高齢化率は22.1%、80歳以上の者が約610万人で7.3%と、高齢化の傾向が年々増加している(2021年12月末現在)。平均寿命は,男性78.5歳,女性83.4歳である。2021年の人口推計によると、年金受給開始年齢である67歳以上高齢者は、2060年には27%に達すると見込まれている。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

◆公衆衛生施策
■行政組織等
連邦保健省が所管しており、各州及び市単位で実施されています。さらに郡、市の保健所が、伝染病の予防、水質・大気等の監視、病院・薬局等の監視、食品・医薬品等の流通の監視、健康管理等を行っています。

■医療施設
外来医療を担う診療所(開業医が運営)と入院医療を担う病院があります。診療所を経営する開業医は、家庭医、専門医、歯科医等に分類されます。病院は大きく分けて、市町村や州が運営する公立病院、財団や宗教団体等によって経営される公益病院及び私立病院の3種類があります。2021年における病院数は、ドイツ全域で1,887、設置主体別の内訳は、公立病院が547、公益病院が607、私立病院が733となっています。近年の傾向を見ると、私立病院の数が微増する一方、公立・公益病院の数は減少し、全体としての病院数は緩やかに減少しています。

■医療従事者
医師の養成は、①大学の医学部で6年間の医学教育を修了し、その間に第一次・第二次の国家試験に合格し、②医学教育修了後、第三次国家試験に合格することによって医師免許が交付されます。さらにその後、③各州の医師会から資格を与えられた専門医の指導の下、大学病院等において行われる卒後専門医研修(通常5~7年)を修了することにより、専門医の認定を受けられます。また、開業医には、5年間で250単位(1単位は1時間の講義に相当)の継続教育が義務づけられています。医師数は2021年現在41.6万人です。

◆公的扶助制度
連邦労働・社会省が所管しており、各州及び市単位で実施されている。

■社会扶助(Sozialhilfe)全般
親族等からの支援がなく、かつ、就労が不能な生活困窮者に対して給付される公的扶助として、社会扶助(社会法典第12編)がある。社会扶助の内容には、必要不可欠な生計費等を保障する生活扶助と、疾病、障害、要介護等様々な生活上の特別な状況にある者に対して援助を行う特別扶助がある。これらの給付については、いずれも資力調査が要件とされている。社会扶助の管理運営主体は地方自治体であり、財源は地方自治体の一般財源であるが、高齢期及び稼得能力減少・喪失時の基礎保障について、2014年以降は連邦政府が100%負担する等、段階的に地方公共団体へ交付する連邦負担が引上げられている。

■生活扶助
給付内容は、食料、住居、衣服、身体衛生保持、家具、暖房及び日常生活上の個人的需要(一定限度内での交際や文化生活への参加等)に係る費用(必要不可欠な生計費)である。児童及び青少年は、特に成長及び発達に伴う特別な需要(教材等)に係る費用を含むものとされている。給付額は、必要不可欠な生計費から手取り収入や他制度からの現金給付等の合計を差し引いた額を基本に算定される。生活扶助の受給者数は、約21.5万人(2021年末現在)であり、そのうち65歳以上は主に後述(4)の給付対象となるため約7.0万人に留まる。なお、低所得者の居住費用への支出を支援するため、社会扶助の枠組みとは別に、住宅手当がある(59.5万世帯(2021年末))。

■特別扶助
特別扶助は、医療扶助、障害者のための社会統合扶助、介護扶助、特別な社会的困難を克服するための扶助、その他の境遇における扶助の5種類で構成され、各々の境遇に応じた措置・支援が実施されている。※2020年以降は、障害者のための社会統合扶助については、社会法典第9巻に根拠法令が移行した。

■高齢期及び稼得能力減少・喪失時の基礎保障
高齢期及び稼得能力減少・喪失時の基礎保障は、高齢や稼得不能を理由に十分な生活の原資を得ることが期待できない者に対する給付である。受給者は、生活困窮者のうち、65歳以上の者又は18歳以上で稼得能力が減少・喪失した者とされており、2019年末現在の受給者数は約110万人である(うち高齢給付受給者(65歳10か月以降)は約58.9万人)。同給付は生活扶助と異なり、親族等に対する事後の償還請求を行わない(扶養義務者の年間収入が10万ユーロを超えない限り、扶養義務の履行は追及されない)という点において違いがある。資力調査についても、基本的に本人及び同居の配偶者に係るもの以外は行わないが、子又は親の所得が年間10万ユーロを超える高額所得者である場合には、例外的に本人は基礎保障を請求することができない。(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

(つづく)Y.H

 

 

-実践編・応用編

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