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実践編・応用編

日本における労働経済の推移 4

投稿日:2025年7月11日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。
労働経済の推移についての最終回です。2022年の我が国の経済を見ると、感染防止策と経済活動の両立が図られる中で、個人消費の持ち直しや設備投資に牽引され、実質GDPは小幅ながら前年より増加した。企業の業況は非製造業を中心に持ち直し、経常利益は高水準に維持する中で、設備投資は活発化した。一方で、企業の倒産は3年ぶりに前年を上回っています。

◆労働時間・休暇等の動向
■2023年の一般労働者の労働時間は、前年から増加、パートタイム労働者では横ばい圏内
●次に、一般労働者の労働時間の推移をみると、2018~2020年まで減少、2021年以降は経済社会活動の正常化とともに増加がみられた。詳細にみると、2021年以降は、所定外労働時間は増加したが、2023年 においては、所定内労働時間は増加、所定外労働時間は横ばいであった。また、パートタイム労働者の労働時間の推移をみると、2013年以降、減少傾向で推移している中、感染拡大の影響により、2020年に大きく減少しており、それ以降は横ばい圏内となっている。

■パートタイム労働者比率は長期的に上昇傾向。一般労働者の所定内労働時間がプラスに寄与したことから、労働時間は増加
●就業形態別の労働時間の変化は、全体の労働時間の増減に、どの程度、影響しているのだろ うか。2023年においては、一般労働者の所定内労働時間がプラスに寄与したことから 労働時間が微増した一方、パートタイム労働者の構成変化とパートタイム労働者の労働時間が マイナスとなっている。これは、相対的に労働時間が短いパートタイム労働者比率が上昇して いることに加え、パートタイム労働者の労働時間も短くなっていることが背景にある。 そこで、パートタイム労働者比率をみると、長期的に上昇傾向にある。 2020年には感染症の影響を受けて女性を中心にパートタイム労働者が減少したことにより、 一時的に低下したが、2021年以降は上昇が続いており、2023年は過去最高水準の32.2%と なった。これは、経済社会活動が正常化したことに伴う労働力需要の増加に加え、最低賃金引上げや処遇改善のほか、多くの労働者が働きやすい環境整備が進んだことなどにより、女性や高齢者の労働参加が進み、パートタイム労働者が増加したことによるものと考えられる。
(出典)厚生労働省 令和6年版 労働経済の分析

■一般労働者では「建設業」「運輸業,郵便業」「宿泊業,飲食サービス業」、パートタイム労働者では「製造業」「運輸業,郵便業」の労働時間が長い。
●続いて、産業別に労働時間をみてみよう。産業別労働時間について、一般労働者では、「建設業」「運輸業,郵便業」「宿泊業,飲食サービス業」、パートタイム労働者においては、「製造業」「運輸業,郵便業」が他の産業と比べて労働時間が長く、これらの産業は、いずれも所定外労働時間が長い。また、「情報通信業」においては、DXなどのIT関係の需要増に伴い、一般労働者、パートタイム労働者とも感染拡大前の2019年の水準を上回っているが、「宿泊業、飲食サービス業」においては下回っている」

■週60時間以上就労雇用者の割合は近年低下傾向にあり、2021年以降横ばい傾向で推移
●長時間労働の状況を確認するため、週60時間以上就労雇用者」というの割合の推移をみると、男女ともに 2020年までは低下傾向で推移している一方、2021年以降は横ばい圏内となっている。年齢階級別の週60時間以上就労雇用者の割合をみると、長期的にはおおむね全ての年齢階級において低下傾向で推移しており、2018年以降、全ての年齢階級で 10%を下回っている。特に、比較的高い水準で推移している25~54歳までの年齢階級において低下傾向が顕著である。働き方改革における労働時間の上限規制が中小企業にも適用された ことなどにより7、2020年に大きく低下しており、2021年以降、ほぼ全ての年齢階級で横ばい圏内となっている。   (出典)厚生労働省 令和6年版 労働経済の分析

■年次有給休暇の取得率は働き方改革の取組を背景に上昇傾向。2023年調査で過去最高を更新
●ここでは、年次有給休暇の取得率についてみていく。2016年調査(2015年の状況)以降、働き方改革の取組の進展もあり、取得率は男女計では 8年連続で上昇しており、2023年調査(2022年の状況)は、1984年の調査開始以降初めて 6割を超えた。男女別にみると、2016年調査(2015年の状況)以降、男女ともに上昇傾向 となっている。 また、企業規模別にみると、2016年調査(2015年の状況)以降、全 ての企業規模で取得率が上昇傾向となっており、2023年調査(2022年の状況)も、全ての 企業規模で取得率が上昇している。規模が大きい企業ほど取得率が一貫して高い傾向にある が、30~99人規模企業が2020年調査(2019年の状況)で5割を超えるなど、近年、中小企 業においても取得率が上昇している。 産業別にみると、この10年間で、特に「医療,福祉」「建設業」「卸売 業,小売業」「宿泊業,飲食サービス業」等の取得率が大きく上昇していることが分かる。

◆賃金の動向
■現金給与総額は3年連続で増加。所定内給与は、一般労働者では月額約5,000円増で1997年以降最大の増加幅、パートタイム労働者も月額約2,500円増で2000年以降最大の増加幅
●本節では、賃金25の動向をみていこう。まず、労働者一人当たりの賃金を示す現金給与について確認していく。2023年の現金給与総額は、就業 形態計、一般労働者、パートタイム労働者のいずれも3年連続で増加した。 一般労働者の現金給与総額の状況を月額でみると、長期的には増加傾向にあり、2021年以 降は、所定内給与、所定外給与の増加が続いている。2023年においては、特に所定内給与と 特別給与の増加が大きく、所定内給与については、春季労使交渉での賃上げ幅が30年ぶりの高水準となったことなどから、前年を上回る月額約5,000円(前年比+1.6%)の増加と、1997年以降最大の増加幅となった。特別給与については、経済社会活動の活発化に伴い、経常利益拡大がみられたことから、堅調に増加している。
パートタイム労働者についてみると、所定内給与については、長期的に増加傾向にある。 2023年においても、所定内給与が月額約2,500円(前年比+2.5%)と大きく増加しており、 前年に引き続き、2000年以降で最大の増加幅となった。この背景には、最低賃金の引上げや 同一労働同一賃金の取組の進展のほか、労働力需給の引き締まりなども考えられる。特別給与については、2023年においては若干の減少がみられる。 続いて、就業形態別賃金をみると、2023年においては、2022年と同様、所定内給与の増加により、全ての就業形態において、全ての月で前年よ りも賃金が増加した。就業形態計では24か月連続、一般労働者では33か月連続、パートタイ ム労働者では26か月連続の増加となっており、ここ数年名目賃金の上昇が続いている。 (出典)厚生労働省 令和6年版 労働経済の分析

■2023年の名目賃金は前年比で増加がみられた一方、実質賃金は物価上昇により減少
●ここまでみた就業形態別の賃金の増加は、全体の賃金の増減に、どの程度影響しているのだろうか。また、物価が上昇する中、実質賃金はどのように変化しているのだろうか。 2023年の現金給与総額の変動について要因をみると、パートタイ ム労働者の増加により、パートタイム労働者比率が上昇し、マイナス寄与となっている一方 で、一般労働者の所定内給与、所定外給与、特別給与はいずれもプラスに寄与した。 実質賃金の変動要因について、名目賃金と物価に分けてみると、 2022年以降は、円安や原材料価格高騰等の影響により物価高が続き、物価要因によるマイナ スの寄与分が名目賃金の増加の寄与分を上回り、実質賃金は前年に続き減少した。 加えて、名目賃金と実質賃金の月次の動きをみると、名目賃金は、 2023年においても、年間を通じて前年よりも増加しており、24か月連続の増加となったが、 実質賃金は、年間を通じて減少しており、21か月連続の減少となっている。 こうした状況を踏まえ、政府としては、「経済財政運営と改革の基本方針 2023」に基づき、物価高を上回る賃上げに向け、賃上げ促進税制の拡充、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の徹底活用、省力化投資の支援等を行っている。加えて、我が国の多くを占める中小企業の賃上げのための支援に加え、中小企業の「稼ぐ力」を高めるための投資支援等、幅広い支援を行っている。

■産業別賃金は、「運輸業,郵便業」「宿泊業,飲食サービス業」等は増加
●産業別賃金は、2021年以降、「運輸業,郵便業」「宿泊業,飲食サービ ス業」等で伸びている。「運輸業,郵便業」「宿泊業,飲食サービス業」は、経済社会活動の回 復に伴い、人の移動が活発化する中で、サービス需要が好調となったことなどが要因と考えら れる。 就業形態別・産業別にみると、パートタイム労働者においては 「建設業」「製造業」「情報通信業」等多くの産業で増加がみられており、一般労働者を上回る伸びとなった産業もあった。
(つづく)Y.H

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