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実践編・応用編

今日から始めるミドルシニアのキャリア開発(前編)

投稿日:2025年10月3日 更新日:

キャリアコンサルタントの皆さんに有用な情報をお届けします。

1.はじめに
「今の仕事に満足していますか」「あと何年働き続けますか」――本書は、こうした問いかけから始まります。著者は、法政大学教授の田中研之輔氏、NTTコミュニケーションズ人材開発課長の浅井公一氏、ミドルシニア研修講師の宮内正臣氏であり、第一線の研究者、大手企業で50代社員と数多く面談してきた人材開発の専門家、シニア層のキャリア支援を専門する研修講師といった、多様な知見と経験を持つ共著者たちです。

本書では、キャリアを考える出発点として「まず自分に視点を向ける」ことの重要性が強調されています。組織内の昇進や昇格に一喜一憂するのではなく、「自分はどう働きたいのか」「これからどのように生きていきたいのか」といった価値観を軸に、今後のキャリアを自ら主体的に形成していく必要があると説かれています。

キャリアコンサルタントにとって、本書は「個人と組織のより良い関係性に基づいたキャリア開発」を考える上で大変参考になる一冊といえます。

2.キャリアを自ら開発する
2019年、経団連の中西会長は「終身雇用は制度疲労を起こしている」と発言しました。これは、大量の社員を抱える大企業が、急速な環境変化に柔軟に対応できるほど身軽ではなくなっている現実を示しています。同時に、長寿社会を生きる私たちが、一つの企業に人生を委ねることが難しい時代に入ったことを意味します。
したがって、キャリアを組織に預けるのではなく、自らがそのオーナーシップを持ち、責任をもって自分自身のキャリアを開発していくことが不可欠となります。
これまで多くの人は、企業での勤務を通じて金銭的報酬を得るだけでなく、財務・経理・人事といった知識や、営業力・プレゼン力といった対人スキルを「ビジネス経験」として蓄積してきました。しかし今後求められる能力は、社会変化に応じて常に更新されるものです。そのため、従来の経験にない分野については、ゼロから「ビジトレ(ビジネストレーニング)」を始める意識が重要になります。ビジトレは到達点を目指すものではなく、継続的なトレーニングのプロセス自体に意味があるといえるでしょう。
ビジトレに取り組む際には、次の5つのルールを意識することが求められます。

1)現状把握を行う
まず自分が抱える課題と正面から向き合うことです。100人いれば100通りの課題があります。働くことを生活の一部として捉え、自分のライフ状況に応じて課題を見える化し、対応策を考えることが重要です。
2)目標を設定する
実現可能な中期目標を設定し、1年から3年のスパンで着実に取り組む姿勢を持つことです。
3)適度な負荷を与える
日々の業務をこなすだけでなく、経営者や上司の視点に立ち、業務の意味や価値を考える習慣を身につけます。また、毎朝30分間の情報収集も有効なビジトレになります。
4)徐々に強度を高める
たとえば資料作成にかける時間を短縮するなど、レスポンスを速く、かつ的確に行う力を意識的に鍛えます。
5)日常的に継続する
継続的に学習を積み重ねることが何より大切です。ビジトレは、ビジネスパーソンの能力を最大限に高める実践的なメソッドといえます。
現実には、ミドルシニア層は挑戦の機会を与えられず、キャリアの停滞感(キャリア・プラトー)に陥ることが少なくありません。その停滞を打破するためにも、明確な目的意識を持ち、適度な負荷を計画的に課すビジトレの実践が欠かせないのです。

3.社内研修を自己客観化の機会にする
1)50代問題

近年「50代問題」が職場の課題として注目されるようになっています。これは、社内で豊富な経験を積んできたベテラン社員が、十分なパフォーマンスを発揮できず、会社に「しがみついている」と見られる状況を指します。「働かないおじさん」「お荷物」といった揶揄する言葉が広がり、モチベーション低下と成果不振が結び付けられて語られています。
「日本の人事部 人事白書2019」によれば、モチベーションが高い50代社員(非管理職)は全体の3割に満たず、7割の社員が低いモチベーションのまま働いている状況が報告されています。
この問題の代表例が「役職定年」に伴うモチベーションの低下です。50~55歳で役職を外れると同時に、年収が3~5割減となることもあり、収入の減少が仕事への意欲低下に直結しています。さらに、部下を持たなくなることで勤労意欲が急激に下がり、長年働いてきた職場での居場所も失われがちです。そのうえ、親の介護や子どもの就職といった家庭面での負担も重なり、精神的な不安定さが増していきます。
こうした背景から、50代には「働き方」だけでなく「生き方」を含めたキャリア開発が求められます。仕事とライフイベントは切り離せない関係にあり、両者を見据えたキャリア設計が不可欠といえるでしょう。

2)ベテラン社員研修の立ち上げ
著者の一人である浅井氏は、ベテラン社員1,800人との面談を重ねる中で、「はたらかない」「お荷物」といったレッテル貼りは誤りであると確信しました。

2012年、人事開発部門に在籍していた浅井氏は、副社長から「ベテラン社員の活性化」に取り組むよう依頼を受けます。当初は面談のみでスタートしましたが、より効果を高めるための仕掛けとして「ドラマ視聴型の社内研修」へと発展していきました。

NTTコミュニケーションズは1985年の民営化以降、電気通信事業をはじめ、ネットワーク、アプリケーション、クラウド、SIなど幅広い分野で事業を展開してきました。2018年度の社員年齢構成は、20代11.4%、30代12.0%、40代33.4%、50代37.0%であり、40歳以上が70.4%を占める、いわばミドル・シニア層中心の企業です。

アンケート調査からは、50代社員の8割以上が誇りを持って働いている一方で、同年代にロールモデルが少なく、将来を描きにくいという課題が浮き彫りとなりました。
研修の冒頭では、次のような強いメッセージが参加者に伝えられます。
「再雇用、社会保障、セカンドライフは本研修の対象外です。皆さんはこれから20年、会社を支える存在です。スキルの伝承と後進への手本を示すこと。50歳のあなたに、会社は未来を託しています。」

研修の挑戦課題として掲げられたのは「ダブルメジャー」と「デリバラブル」の2点でした。

  • ダブルメジャー:1つの専門性に加え、異なる領域に視野を広げ、柔軟かつ複合的に業務を推進できる人材になること。
  • デリバラブル:自分の成果が「誰に」「どのように」役立っているかを意識すること。

この研修の効果は大きく二つありました。第一に、同世代の非管理職社員が集まり、心情を分かち合うことで「自分はダメではない」「これで良いのだ」と確認し合い、心理的ストレスを和らげることができた点です。第二に、ドラマ視聴とグループ・ディスカッションを通じて、多くの参加者が「キャリアは自ら考え、育て、築いていくもの」であると実感できた点でした。

4.面談によるキャリア開発の推進
同社では、研修受講後にキャリア面談を受けることが義務づけられています。キャリア面談の目的は、通常業務における自律的な取り組みを促すとともに、幸福感の高いキャリアデザインの構築を支援することにあります。
そのうえで、ポジティブな行動変容を実現することをミッションとしています。

1)行動変容への具体的ステップ
面談を受けた人の中には「このままでよいのだろうか」と悩む人が少なくありません。浅井氏は、そのような人々が行動変容を起こすためのステップを次のように整理しています。

行動変容のステップ

  1. 自分を変えなければと感じる。
  2. 「これから何をすればよいか」と相談を始める。複数の選択肢があることを理解する。
  3. 複数の選択肢の中から、自分がまず取り組むものを見つける(成長①)。
  4. 複数の選択肢を持ち続けるのか、一つに絞るのかを自ら決める必要性に気づく(成長②)。
  5. 選択は、複数の大事な要素を天秤にかける作業でもある。
  6. 「自分はどうなりたいか」と考えるようになるが、まだ具体的な幸福のイメージは描けない。
  7. 「なりたい姿を考える」ことが習慣化する(成長③)。
  8. 願望だけでなく、目的や行動計画を自問するようになる。
  9. 達成時のメリットやリスク、必要な時間や能力を踏まえ、「実現可能性」を検討するようになる(成長④)。
  10. 「実現可能ななりたい姿」を具体的に思い浮かべ、目標設定と行動計画を立てられるようになる。

このプロセスを経ることで、自分自身の成長度合いを把握し、マネジメントできるようになるのです。

2)キャリア・アンカーの確認
キャリア・アンカーとは、「現在の仕事の中で何に意味や価値を見いだしているのか」を言語化し、キャリアの軸
として明確化したものです。
この概念はエドガー・シャインが1973年に提唱したもので、以下の8つのカテゴリーから構成されます。

  1. ① 専門・職能別コンピタンス
  2. ② 全般管理コンピタンス
  3. ③ 自律・独立
  4. ④ 保障・安定
  5. ⑤ 起業家的創造性
  6. ⑥ 奉仕・社会貢献
  7. ⑦ 純粋な挑戦
  8. ⑧ 生活様式

キャリア・アンカーは、誰もがいずれかのタイプに分類されます。これは生い立ちだけでなく、社会人としての経験を経ることで確立されていくものです。

3)キャリア・アンカーを理解せずに適切な面談はできない
キャリア開発においては、モチベーションが極めて重要です。人は、自分が望む報酬を「得られるだろう」と予測できるときに、最も意欲的に行動します。そのため、自分にとって何が最も重要で、逆に何なら諦められるのかを理解しておくことが欠かせません。キャリア・アンカーを把握することは、最善の選択を可能にする前提条件であり、適切な面談には不可欠なのです。

参考文献:
田中 研之輔・浅井 公一・宮内 正臣(2020)「ビジトレ 今日から始めるミドルシニアのキャリア開発」金子書房

吉末直樹(つづく)

-実践編・応用編

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