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前回に引き続き、健康で安全な生活の確保についてお話しします。
国民の多くは、健康で安全な生活をすることを願っています。一方で、大規模な自然災害が発生しても、機能不全に陥らないで復旧復興に取り組まねばなりません。また、日常生活に潜む危険(感染症等)などから身を守る対策にも万全を記す必要があります。
■厚生労働省の取組みについて
感染症対策においては、発生後速やかに患者を治療し、まん延を防止することが重要であるため、国や都道府県では、感染症法上のエボラ出血熱を含む一類感染症の患者の入院を担当する特定感染症指定医療機関や第一種感染症指定医療機関の整備を進めており、2019(平成31)年4月1日時点で全ての都道府県において設置が完了しています。(2024(令和6)年4月1日時点で、特定感染症指定医療機関は4医療機関10床、第一種感染症指定医療機関は56医療機関106床)
また、海外の研究機関から分与されたエボラ出血熱ウイルス等の一類感染症の病原体をもとにJIHS(BSL-4)において患者の診断のための検査法の整備を行いました。
加えて、エボラ出血熱を始めとした、国内でほとんど経験することのない感染症について海外で医療研修を行う「一類感染症等予防・診断・治療研修事業」を実施しており、さらに、国際的に脅威となる感染症の危機管理対応で中心的な役割を担う将来のリーダーを育成するため、2015(平成27)年度から「感染症危機管理専門家(Infectious DiseaseEmergency Specialist:IDES)養成プログラム」を開設し、国立健康危機管理研究機構やWHO等の国内外の関係機関と連携して、人材育成に努めています。
また、2025(令和7)年1月24日には、厚生労働大臣が長崎大学を特定一種病原体等所持者に指定しました。これにより、長崎大学の指定された施設(BSL-4)ではエボラウイルスを含む特定一種病原体等の試験研究を行うことが可能となりました。
その他、国際的には、アフリカ大陸におけるエムポックスの流行を受けて、2024年8月15日に、WHO事務局長が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。これを受けて、我が国においても、8月16日及び20日に「エムポックスに関する関係省庁対策会議」が開催され、関係省庁の対応について改めて確認を行いました。
また、エムポックスの感染拡大が認められているコンゴ民主共和国政府よりエムポックスワクチン及び接種針の供与の要請があったことから、エムポックスワクチン及び接種針について同国への供与を行っています。
■インフルエンザ対策について
◆2024/2025シーズンのインフルエンザの流行状況と総合対策について
インフルエンザは冬季を中心に毎年流行する感染症の一つであり、その病原体の感染力が強いため、日本国内では毎年約1,500万人前後が、つまり、国民の約10人に1人の割合で、インフルエンザに罹患しています。
2009(平成21)年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)については、2011(平成23)年3月31日以降季節性インフルエンザ対策の一環として対応しています。
2024/2025シーズンについては、2024(令和6)年第44週(10月28日の週)に、定点医療機関当たり報告数が流行入りの基準である1を上回り、第52週(12月23日の週)に、当該報告数が64.39まで上昇し、流行のピークを迎えました。ピーク時の定点医療機関当たり報告数は、現行の調査手法となった平成11年以降最多でした。
厚生労働省では、インフルエンザの流行に備えて、「今冬のインフルエンザ総合対策」を取りまとめ、厚生労働省のホームページにインフルエンザに関する情報を掲載した専用のページを開設し、流行状況や予防接種に関する情報を提供するとともに、日常的な予防を啓発するポスター、SNS、動画などを用いた感染予防の普及啓発を行っています。
◆新型インフルエンザ等対策特別措置法等について
新型インフルエンザ対策については、2009(平成21)年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)の経験などを踏まえて、対策の実効性を高めるために、特措法が2013(平成25)年4月13日に施行されました。
特措法は、病原性が高い新型インフルエンザや同様の危険性がある新感染症等に対して、国民の生命・健康を保護し、国民生活・国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的とし、新型インフルエンザ等の発生時における措置の法的根拠の整備を図るものです。
また、政府行動計画は、特措法に基づき、新型インフルエンザ等による感染症危機が発生した場合に、国民の生命及び健康を保護し、国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるよう、平時の準備や感染症発生時の対策の内容を示すものとして、2013年に策定されました。新型コロナウイルス感染症対応の経験を踏まえ、2024(令和6)年初めて政府行動計画を抜本的に改定し、各省庁においては、政府行動計画に基づく取組を進めています。
◆新型インフルエンザ対策としての医薬品の備蓄等について
新型インフルエンザ対策として、抗インフルエンザウイルス薬について、全罹患者の治療その他の医療対応に必要な量を目標とし、国や都道府県などにおいて備蓄を行っています。
また、新型インフルエンザの発生初期に医療従事者や国民生活・社会経済活動の安定に寄与する業務に従事する者等に対する予防接種が行えるよう、プレパンデミックワクチンの製造・備蓄を進めています。
■予防接種施策について
◆予防接種施策の現状について
感染症の発生とまん延の予防を目的として、一定の疾病に対しては、市町村を実施主体とした定期の予防接種が、予防接種法(昭和23年法律第68号)に基づき行われています。その対象は、ジフテリア、百日せき、急性灰白髄炎(ポリオ)、麻しん、風しん、日本脳炎、破傷風、結核、Hib感染症、小児の肺炎球菌感染症、ヒトパピローマウイルス感染症、水痘、B型肝炎、ロタウイルス感染症(以上の疾病をA類疾病という。)やインフルエンザ、高齢者の肺炎球菌感染症、新型コロナウイルス感染症、帯状疱疹(2025(令和7)年度より)(以上の疾病をB類疾病という。)の18疾病であり、接種する年齢、接種回数、接種間隔、接種に用いるワクチンの種類などを関係政省令に規定しています。
予防接種は、感染症の発生とまん延の予防に大きな効果を持つ反面、ワクチンの性質上ごくまれにではあるが重い副反応の発生を避けられないため、予防接種の効果や安全性、健康被害が生じたときの救済制度などに関して、接種を受ける者やその保護者の十分な理解と同意の下に実施するべきものです。そのため、厚生労働省や各地方公共団体では、ホームページやリーフレットなどの各種媒体を通じて適切な情報提供に努めています。
また、同法第3条第1項に基づき、「予防接種に関する基本的な計画」を定めている中で、基本計画制定時からの予防接種施策を取り巻く状況の変化を踏まえ、2025年4月の改正において予防接種事務のデジタル化の推進による接種事務の効率化、ワクチンの有効性や安全性に対する評価の充実など科学的知見に基づいた予防接種施策の推進、コロナ禍での経験を踏まえた予防接種の普及啓発の推進及び予防接種の健康被害救済制度の救済の迅速化等について記載の充実を図っています。
◆定期接種に追加するワクチンについて
「予防接種制度の見直しについて(第二次提言)」(2012(平成24)年5月、厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会)において他の先進諸国と比べて公的に接種するワクチンの種類が少ないとされる、いわゆるワクチン・ギャップの解消に取り組むこととされたことや2013(平成25)年3月の予防接種法改正法の衆議院、参議院両院の附帯決議などを踏まえ、「広く接種を促進していくことが望ましい」とされた4つのワクチン(水痘、おたふくかぜ、高齢者の肺炎球菌感染症、B型肝炎)のうち、2014(平成26)年10月から水痘と高齢者の肺炎球菌感染症のワクチンが、また2016(平成28)年10月からB型肝炎のワクチンが定期接種化されました。
おたふくかぜのワクチンについては、より高い安全性が期待できるMMRワクチンの薬事審査の状況を注視する必要があるものの、海外での使用実績等を踏まえ、ワクチンの評価に必要な知見が一定程度集積していると考えられるとの厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会などでの結論に基づき、定期接種化に向けた課題の整理、検討を行っています。
また、ロタウイルス感染症のワクチンについては2020(令和2)年10月から、また新型コロナウイルス感染症のワクチンについては2024(令和6)年4月から、予防接種法に基づく定期接種となっています。
2025(令和7)年4月からは、帯状疱疹のワクチンが予防接種法に基づく定期接種に追加されました。
国民の健康増進の取組み
■国民健康づくり運動の展開
がん、循環器病、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの生活習慣病は、日本人の死因の約5割を占めるなど、日本人の健康にとって大きな課題となっています。また、死亡のリスク要因として、喫煙などの個人の生活習慣と、これらと関係する高血圧、高血糖などが上位となっています。厚生労働省では、2000(平成12)年から、一次予防の観点を重視した「21世紀における国民健康づくり運動」(「健康日本21」)を開始しました。2003(平成15)年には健康増進法が施行され、2011(平成23)年からは、幅広い企業連携を主体とした取組みとして「スマート・ライフ・プロジェクト」を開始するなど、様々な取組みを進めてきました。2013(平成25)年度からは、「健康日本21(第二次)」を開始し、健康寿命の延伸と健康格差の縮小を最終的な目標として掲げました。健康寿命とは、「日常生活に制限のない期間の平均」の値を国民生活基礎調査と生命表を用いて推計したものであり、直近の2022(令和4)年の健康寿命は男性72.57年、女性75.45年となっており、2010(平成22)年(男性70.42年、女性73.62年)と比べ、男性で2.15年、女性で1.83年延伸しています。これは同期間中の平均寿命の延び(男性1.50年(79.55年→81.05年)、女性0.79年(86.30年→87.09年))を上回るものとなっています。
「健康日本21(第二次)」の最終評価の結果等を踏まえて次期国民健康づくり運動プランの検討を行い、2023(令和5)年5月に「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」(令和5年厚生労働省告示第207号)を告示しました。当該方針に基づき、2024(令和6)年4月から「健康日本21(第三次)」を開始しました。「健康日本21(第三次)」においては、「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」に向けて、①健康寿命の延伸と健康格差の縮小②個人の行動と健康状態の改善③社会環境の質の向上④ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり、を基本的な方向として取組みを推進していくこととしています。
近年、がん、循環器病、糖尿病、COPDなどを非感染性疾患(Non CommunicableDiseases:NCDs)という概念で一括りにとらえ、包括的な社会政策として取り組むことが国際的な潮流となっています。これは、NCDsの発症や重症化は、個人の意識や行動だけでなく、個人を取り巻く社会環境による影響が大きいため、地域、職場等における環境要因や経済的要因等の幅広い視点から、社会政策として包括的に健康対策に取り組む必要があるという考えに基づくものです。「健康日本21(第三次)」の推進に当たっては、こうした視点に立った対応が求められています。
◆栄養・食生活
栄養・食生活は、生命を維持し、子どもたちが健やかに成長し、また人々が健康で幸福な生活を送るために欠くことのできない営みであり、生活習慣病の予防のほか、生活の質の向上及び社会生活機能の維持・向上の観点から重要です。このため、「健康日本21(第三次)」では、生活の質や社会環境の質の向上のために、食生活、食環境の双方の改善を推進する観点から目標を設定しています。こうした目標の達成に向けて、厚生労働省では、これまで、乳幼児期から高齢期までの全ライフステージだけでなく、傷病者や被災者も対象とした取組みを通じて、「誰一人取り残さない栄養政策」を推進してきました。
また、活力ある「人生100年時代」の実現に向けて、自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた産学官等連携の在り方を検討するため、「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」を開催し、2021(令和3)年6月に報告書を取りまとめました。この報告書では、栄養は、活力ある持続可能な社会の基盤となるものであり、そうした社会の実現に向けて、全世代や生涯の長きにわたり国民に大きく影響し得る栄養課題を改善・解消していく必要があるとしています。具体的には、国民にとって特に重要な栄養課題となっている「食塩の過剰摂取」への対策として「減塩」に優先的に取り組みつつ、「若年女性のやせ」や「経済格差に伴う栄養格差」も対象に、産学官等が連携して取り組んでいく必要があるとしています。この取りまとめを踏まえ、厚生労働省では、2022(令和4)年3月に、関係省庁の協力を得て、産学官等連携による食環境づくりの推進体制として「健康的で持続可能な食環境づくりのための戦略的イニシアチブ」を立ち上げました。本イニシアチブでは、事業者がビジネスを通じて栄養課題等に取り組むことについて、産学官等が連携して支援するとともに、各事業者の行動目標、進捗、成果等を社会に広く見える化する仕組みとしています。本イニシアチブの特徴として、環境・社会・企業統治(ESG)評価など、事業者の社会的評価の向上や、それを通じた更なる事業機会の拡大と連動して、栄養課題等の解決を図っていくことを目指していることが挙げられます。
食環境づくりを全国各地で効果的に推進するには、国の取組み(本イニシアチブ)と、地域特性を踏まえた都道府県の取組みを相補的・相乗的に展開していくことが重要であるため、「健康日本21(第三次)」では、本イニシアチブと各都道府県の食環境づくりの取組みを連携させていくことを目標としています。この目標の達成に向けて、2024(令和6)年6月に「健康的で持続可能な食環境づくりのための国・都道府県等アライアンス」を立ち上げ、都道府県等での新たな食環境づくりを支援しています。
(つづく)Y.H
(出典)厚生労働省 令和7年版 厚生労働白書