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実践編・応用編

製造業を巡る現状と課題  ガイドラインの対象領域

投稿日:2026年6月5日 更新日:

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。

前回に続き、経済産業省製造産業局が2024年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課題について今後の政策の方向性」からスライド45ページ「ガイドラインの対象領域」について、詳細な解説をします。

(出典)経済産業省 016_04_00.pdf

図表の全体像

図表の上部には、「本ガイドラインでは、サービスチェーン、エンジニアリングチェーン、サプライチェーンの3つのチェーンを包含する、マニュファクチャリングチェーンを対象とする」と記されています。ここが、この図表の最も重要なメッセージです。

製造DXというと、多くの場合、工場内の生産設備、製造工程、作業者、品質管理、在庫管理などを中心に考えがちです。しかし、この図表では、製造DXの対象を単なる「製造現場」や「工場内の工程」に限定していません。製品やサービスの企画、設計、調達、生産、物流、納品、保守、回収、顧客接点までを含む、広い業務連鎖として捉えています。

その広い業務連鎖を、この図表では「マニュファクチャリングチェーン」と呼んでいます。つまり、製造業の価値創造活動を、製造工程だけではなく、設計、調達、販売、サービス、顧客情報の蓄積まで含めて一体的に見ることが、このガイドラインの基本的な考え方です。

マニュファクチャリングチェーンとは何か

マニュファクチャリングチェーンとは、製造業における価値創造の流れ全体を表す考え方です。図表では、中央の大きな枠の中に、複数の業務機能が配置されています。そこには、販売促進、案件探索・商談、需要予測、供給計画、製品開発・設計、工程設計、生産準備、リソース調達、量産製造、物流、納品・施工、サービス提供、回収・リユース、技術情報の蓄積・管理、顧客接点からの情報蓄積などが含まれています。

これらは、それぞれ独立した業務のように見えますが、実際には密接につながっています。たとえば、営業部門が得た顧客ニーズは、製品開発・設計に反映される必要があります。設計部門が決めた仕様は、工程設計や生産準備に影響します。生産準備の内容は、リソース調達や量産製造に影響します。製造された製品は物流を通じて納品され、納品後にはサービス提供や保守、場合によっては回収・リユースにつながります。

このように、製造業の活動は、単純な直線的な流れではありません。情報、モノ、人、設備、技術、顧客ニーズが複雑に行き来しながら、最終的な価値を生み出しています。したがって、製造DXを進める場合も、特定の工程だけをデジタル化するのではなく、これらの連鎖全体を見渡す必要があります。

図表では、この全体の業務連鎖を「マニュファクチャリングチェーン」として示し、その中に複数のチェーンが重なり合っていることを表しています。これは、製造業のDXが、工場だけの問題ではなく、企業活動全体の変革であることを示しています。

エンジニアリングチェーンの位置づけ

図表の中で、青色の領域として示されているのが「エンジニアリングチェーン」です。下部の説明では、エンジニアリングチェーンについて「設計を中心とした技術と情報をモノづくり各機能に訴求する業務連鎖」と説明されています。

エンジニアリングチェーンは、製品開発・設計、工程設計、生産準備、技術情報の蓄積・管理などを中心とする領域です。ここでは、製品をどのようにつくるか、どのような仕様にするか、どの工程で加工・組立を行うか、どの設備や治工具を使うか、といった技術的な情報が生み出されます。

製造業において、設計情報は極めて重要です。設計段階で決まった内容は、製造コスト、品質、納期、調達方法、保守性、環境負荷などに大きく影響します。たとえば、設計変更が頻繁に発生すれば、生産現場では手戻りが増えます。部品点数が多ければ、調達や在庫管理が複雑になります。工程設計が不十分であれば、量産時に不良や作業負荷が発生します。

そのため、製造DXでは、設計情報をいかに正確に、早く、関係部門へ共有できるかが重要になります。CAD、BOM、工程表、設備条件、品質基準、過去の不具合情報などをデータとしてつなぎ、設計から製造、品質、サービスまで活用できる状態にすることが求められます。

エンジニアリングチェーンのDXは、単に設計業務を効率化するだけではありません。設計情報を起点として、製造プロセス全体の品質向上、リードタイム短縮、原価低減、変更対応力の向上につなげることが目的です。図表がエンジニアリングチェーンを大きく示しているのは、製造業の競争力において、技術情報の流れが極めて重要であるためです。

サプライチェーンの位置づけ

図表の中で、赤色の文字を中心に示されているのが「サプライチェーン」です。下部の説明では、サプライチェーンについて「最終需要者に商品供給するための、材料調達から商品納入までの『もの』を中心とした業務連鎖」と説明されています。

サプライチェーンは、需要予測、供給計画、リソース調達、量産製造、物流、納品・施工などの流れを含みます。これは、製品を顧客に届けるための「モノの流れ」を中心とした業務連鎖です。

製造業では、どれほど良い製品を設計しても、必要な材料や部品が手に入らなければ製造できません。また、製造できても、必要なタイミングで顧客へ届けられなければ価値は損なわれます。近年では、原材料価格の変動、国際物流の混乱、地政学リスク、災害、感染症、半導体不足など、サプライチェーンを揺るがす要因が増えています。そのため、サプライチェーンの見える化と柔軟性の確保は、製造DXの重要なテーマになっています。

図表では、需要予測から供給計画、リソース調達、量産製造、物流、納品・施工へとつながる流れが示されています。これは、需要情報と供給能力を結びつけ、必要なものを、必要な量だけ、必要なタイミングで供給するための業務連鎖です。

DXの観点では、需要予測の精度向上、在庫の適正化、調達リスクの把握、生産計画の最適化、物流状況の見える化などが重要になります。特に、需要予測と供給計画が分断されていると、過剰在庫や欠品が発生しやすくなります。また、調達部門と生産部門、物流部門が個別に最適化されていても、全体としては効率が悪くなる場合があります。

したがって、サプライチェーンのDXでは、部門ごとのデータをつなぎ、需要、在庫、生産、調達、物流を一体として管理することが重要です。この図表は、サプライチェーンをマニュファクチャリングチェーンの重要な構成要素として位置づけることで、製造DXが単なる工場内の改善ではないことを明確にしています。

サービスチェーンの位置づけ

図表の上部から右側にかけて、黄色の領域として示されているのが「サービスチェーン」です。下部の説明では、サービスチェーンについて「納入後の商品価値を維持するための業務連鎖、投入した商材を起点とした顧客へのサービス提供と新たな顧客ニーズの発掘を促す業務連鎖」と説明されています。

サービスチェーンは、製品を納品した後の活動に焦点を当てています。具体的には、顧客接点からの情報蓄積、サービス提供、回収・リユースなどが含まれます。また、販売促進や案件探索・商談とも関係しています。

従来の製造業では、製品をつくって納めることが主な価値提供と考えられがちでした。しかし、現在では、納品後の保守、点検、修理、部品交換、稼働データの活用、顧客への改善提案、リユースやリサイクルまで含めて価値を提供することが重要になっています。

たとえば、機械メーカーであれば、納品後に設備の稼働状況を把握し、故障の予兆を検知することで、顧客の生産停止を防ぐことができます。また、使用状況のデータを次の製品開発に反映すれば、より顧客ニーズに合った製品を生み出すことができます。さらに、回収・リユースの仕組みを整えれば、資源循環や環境対応にもつながります。

サービスチェーンのDXでは、顧客接点から得られる情報をいかに活用するかが重要です。顧客からの問い合わせ、クレーム、修理履歴、使用環境、稼働データ、保守履歴などは、単なるアフターサービスの記録ではありません。それらは、製品改善、新商品開発、営業提案、品質向上、収益モデルの変革につながる重要なデータです。

この図表がサービスチェーンを明示していることは、製造業が「売って終わり」のビジネスから、「使われ続ける価値を支える」ビジネスへ変化していることを示しています。製造DXでは、このサービス領域まで含めて考える必要があります。

プロダクションチェーンとの関係

図表の下部には、緑色の領域として「プロダクションチェーン」が示されています。下部の説明では、プロダクションチェーンについて「製造に焦点をあてた業務連鎖」とされています。

プロダクションチェーンには、リソース確保、人・モノ・設備、生産統制、製造、品質管理、現品管理などが含まれています。これは、いわゆる工場内の生産活動に近い領域です。

これまで多くの製造業では、このプロダクションチェーンを中心に改善活動が行われてきました。たとえば、作業改善、設備稼働率向上、品質不良削減、在庫削減、段取り時間短縮、5S、標準作業、設備保全などです。これらは非常に重要であり、製造業の競争力の基盤です。

しかし、この図表では、プロダクションチェーンはマニュファクチャリングチェーンの一部として位置づけられています。つまり、製造現場は重要ではあるものの、それだけを見ていては全体最適にはならないということです。

たとえば、生産現場がどれだけ効率的でも、設計変更情報が遅れて届けば手戻りが発生します。調達部品が不足すればラインは止まります。需要予測が外れれば、過剰生産や欠品が起きます。納品後の不具合情報が設計や製造に戻らなければ、同じ問題が繰り返されます。

したがって、プロダクションチェーンの改善は、エンジニアリングチェーン、サプライチェーン、サービスチェーンとの接続の中で考える必要があります。この図表は、工場内改善を否定しているのではなく、それをより広い価値連鎖の中に位置づけ直しているのです。

右側に示された「チェーン変革の流れ」

図表の右側には、「チェーン変革の流れ」が示されています。そこには、環境変化の認識、チェーン全体のパフォーマンス評価、現状と目指す状態とのギャップ認識、変革の必要性認識・方向性設定、チェーン全体の改善・構造変革という流れが描かれています。

この流れは、製造DXを進める際の基本的な検討プロセスを示しています。

まず、企業は環境変化を認識する必要があります。市場の変化、顧客ニーズの多様化、競争環境の変化、労働力不足、原材料価格の上昇、脱炭素要求、サプライチェーンリスクなど、自社を取り巻く外部環境を把握することが出発点です。

次に、チェーン全体のパフォーマンスを評価します。ここで重要なのは、個別部門の成果だけを見るのではなく、マニュファクチャリングチェーン全体として、どの程度うまく機能しているかを見ることです。たとえば、設計から量産までのリードタイム、需要変動への対応力、在庫水準、品質問題の再発率、納期遵守率、サービス対応速度などが評価対象になります。

そのうえで、現状と目指す状態とのギャップを認識します。現在の業務がどのような状態にあり、将来どのような状態を目指すのかを明確にすることで、変革すべき領域が見えてきます。

さらに、変革の必要性を認識し、方向性を設定します。ここでは、どのチェーンを重点的に変革するのか、どの課題を優先するのか、どのようなデータ連携や業務改革が必要なのかを決めることになります。

最後に、チェーン全体の改善・構造変革を進めます。これは、単なる部分改善ではなく、業務のつながり方、情報の流れ、部門間連携、システム構成、役割分担を見直すことを意味します。

この図表が示す製造DXの本質

この図表が伝えている製造DXの本質は、「製造現場だけではなく、価値創造の連鎖全体を変革対象として捉える」ということです。

製造DXは、設備にセンサーを付けることや、紙帳票を電子化することだけではありません。もちろん、それらは重要な取り組みですが、最終的には、設計、調達、生産、物流、販売、サービス、顧客情報の流れをつなぎ、全体として競争力を高めることが目的です。

特に重要なのは、3つのチェーンが相互に関係している点です。エンジニアリングチェーンは、技術情報を生み出し、製造やサービスに影響を与えます。サプライチェーンは、モノの流れを支え、顧客への供給能力を左右します。サービスチェーンは、納品後の価値維持と顧客ニーズの把握を担い、その情報は再び設計や営業に戻っていきます。

このように考えると、製造DXの成果は、単一部門の効率化だけで測ることはできません。企業全体として、顧客により早く、より高品質に、より柔軟に価値を届けられるかどうかが重要になります。

中小企業にとっての読み取り方

中小企業がこの図表を読む場合、最初から全てのチェーンを一度に高度化しようとする必要はありません。むしろ、自社の経営課題に照らして、どのチェーンに最も大きな問題があるのかを見極めることが重要です。

たとえば、設計変更の手戻りが多い企業であれば、エンジニアリングチェーンの見直しが重要です。部品不足や納期遅れが多い企業であれば、サプライチェーンの見える化が優先課題になります。納品後のクレームや保守対応に課題がある企業であれば、サービスチェーンの強化が必要です。工場内の作業負荷や品質ばらつきが大きい企業であれば、プロダクションチェーンの改善から始めることが有効です。

大切なのは、自社の課題を「どのチェーンのどの接続部分に問題があるのか」として捉えることです。問題は、単一の部門内にあるとは限りません。むしろ、設計と製造、営業と生産、調達と生産、サービスと開発といった部門間の接続部分に課題が潜んでいることが多いです。

この図表は、そのような接続部分に目を向けるための地図として活用できます。

まとめ

この図表は、製造DXのガイドラインが対象とする領域を、マニュファクチャリングチェーンという大きな枠組みで示したものです。マニュファクチャリングチェーンは、サービスチェーン、エンジニアリングチェーン、サプライチェーンの3つのチェーンを包含するものとして描かれています。また、工場内の製造活動に焦点を当てたプロダクションチェーンも、その中の重要な構成要素として位置づけられています。

この図表から読み取るべき最も重要な点は、製造DXを工場内の部分的なデジタル化に限定してはいけないということです。製造業の価値は、設計、調達、生産、物流、販売、サービス、顧客情報の連鎖によって生み出されます。そのため、DXもまた、この連鎖全体を見ながら進める必要があります。

また、右側に示された「チェーン変革の流れ」は、環境変化を認識し、チェーン全体のパフォーマンスを評価し、現状と目指す姿のギャップを把握し、変革の方向性を設定し、改善・構造変革へ進むという実践的な流れを示しています。

したがって、この図表は、製造DXを進める企業に対して、「自社の業務を部門単位ではなく、価値連鎖として捉えること」「3つのチェーンのつながりを意識すること」「環境変化に対応するために、チェーン全体を変革対象として考えること」を促している資料です。製造DXの出発点として、非常に重要な視点を提供している図表であるといえます。

(つづく)Y.H

-実践編・応用編

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