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実践編・応用編

中学学習指導要領 自己実現

投稿日:2025年2月24日 更新日:

文部科学省が発行している中学校学習指導要領(平成 29 年 7 月告示、令和 6 年 12 月 一部改訂総則改正)の中には「自己実現」が出てきます。

(3)キャリア教育の充実(第1章第4の1の(3))
生徒が,学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう,特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて,キャリア教育の充実を図ること。その中で,生徒が自らの生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう,学校の教育活動全体を通じ,組織的かつ計画的な進路指導を行うこと。本項は,生徒に学校で学ぶことと社会との接続を意識させ,一人一人の社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を育み,キャリア発達を促すキャリア教育の充実を図ることを示している。学校教育においては,キャリア教育の理念が浸透してきている一方で,これまで学校の教育活動全体で行うとされてきた意図が十分に理解されず,指導場面が曖昧にされてしまい,また,狭義の意味での「進路指導」と混同され,「働くこと」の現実や必要な資質・能力の育成につなげていく指導が軽視されていたりするのではないか,といった指摘もある。
こうした指摘等を踏まえて,キャリア教育を効果的に展開していくためには,特別活動の学級活動を要としながら,総合的な学習の時間や学校行事,道徳科や各教科における学習,個別指導としての教育相談等の機会を生かしつつ,学校の教育活動全体を通じて必要な資質・能力の育成を図っていく取組が重要になる。
また,自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら見通しをもったり,振り返ったりする機会を設けるなど主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を進めることがキャリア教育の視点からも求められる。さらに,本改訂では特別活動の学級活動の内容に(3)一人一人のキャリア形成と自己実現を設けている。その実施に際しては次の2点に留意することが重要である。
一つ目は,総則において,特別活動が学校教育全体で行うキャリア教育の要としての役割を担うことを位置付けた趣旨を踏まえることである。キャリア教育の要としての役割を担うこととは,キャリア教育が学校教育全体を通して行うものであるという前提のもと,これからの学びや人間としての生き方を見通し,これまでの活動を振り返るなど,教育活動全体の取組を自己の将来や社会づくりにつなげていくための役割を果たすことである。この点に留意して学級活動の指導にあたることが重要である。
二つ目は,学級活動の(3)の内容は,キャリア教育の視点からの小・中・高等学校のつながりが明確になるよう整理したということである。ここで扱う内容については,将来に向けた自己実現に関わるものであり,一人一人の主体的な意思決定を大切にする活動である。小学校から高等学校へのつながりを考慮しながら,中学校段階として適切なものを内容として設定している。キャリア教育は,教育活動全体の中で基礎的・汎用的能力を育むものであることから職場体験活動などの固定的な活動だけに終わらないようにすることが大切である。特に,中学校の段階の生徒は,心身両面にわたる発達が著しく,自己の生き方についての関心が高まる時期にある。このような発達の段階にある生徒が,自分自身を見つめ,自分と社会の関わりを考え,将来,様々な生き方や進路の選択可能性があることを理解するとともに,自らの意思と責任で自己の生き方や進路を選択できるよう適切な指導・援助を行う進路指導が必要である。ここでいう生き方や進路の選択は,中学校卒業後の就職や進学について意思決定することがゴールではない。中学校卒業後も,様々なことを学んだり,職業経験を積んだりしながら,自分自身の生き方や生活をよりよくするため,常に将来設計を描き直したり,目標を段階的に修正して,自己実現に向けて努力していくことができるようにすることが大切である。
学校の教育活動全体を通じて行うキャリア教育や進路指導を効果的に進めていくためには,校長のリーダーシップのもと,進路指導主事やキャリア教育担当教師を中心とした校内の組織体制を整備し,学年や学校全体の教師が共通の認識に立って指導計画の作成に当たるなど,それぞれの役割・立場において協力して指導に当たることが重要である。
また,キャリア教育は,生徒に将来の生活や社会,職業などとの関連を意識させ,キャリア発達を促すものであることから,その実施に当たっては,職場体験活動や社会人講話などの機会の確保が不可欠である。「社会に開かれた教育課程」の理念のもと,幅広い地域住民等(キャリア教育や学校との連携をコーディネートする専門人材,高齢者,若者,PTA・青少年団体,企業・NPO 等)と目標やビジョンを共有し,連携・協働して生徒を育てていくことが求められる。

【総則編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説(令和6年12月一部改訂)

キャリアコンサルタントとして活躍されているY.Hさんから「学校におけるキャリア教育」について投稿を頂いています。
キャリアコンサルタントの活躍の場の一つに学校があります。多くの中学校、高等学校で学生への進路指導を行っています。文部科学省の高校生への指導要領には「自己実現」を教えるという記述がされています。
一般に職業指導における自己実現は、次の意味で用いられています。「自分の持っている能力・個性などを、仕事の過程で、あるいは、結果として業績の中に示し、確認していくことである。」

■自己実現をどう果たしていくか
自己の能力、個性が仕事に発揮されていくことを実感すれば、人は充実感や生きがいを感じることが出来ます。しかし、現実の会社生活では、個性・能力の発揮がいちじるしく抑制されることが多く、人の多くは、画一化された仕事の中に自己を埋没させられ、自己を喪失した生活を毎日送らざるを得ない現実があります。

キャリアコンサルタントの方にはお分かりいただけると思いますが、当然のことですが、会社の生活だけが自己実現の場ではありません。人には人それぞれの人生の目標があり、会社での仕事はその一部でしかありません。組織である会社では、人の個性的な行動は制限して、知力、体力などを中心に持っている能力の一部分を機能させるよう組織の標準に基づいた行動を要求します。

会社での自己実現は、このように全人格の一部分でしかないのですが、それが部分的なものであっても、人生の目標と反していなければ問題はありません。人生には報酬を求める仕事(JOB)と、報酬を求めない仕事(WORK)とがあります。前者は会社での仕事であり、後者はボランティアとしての文化活動、音楽活動、環境保護運動、宗教活動、政治活動などです。前者と後者の目標の一致が高いほど両者で全人格を発揮しているということになり、会社での自己実現の達成が全人格の発揮で果たせれば、その人の「やりがい」は高いものになります。

■キャリア教育は進路指導と違うのか
キャリアコンサルタントが行う学校領域での活動の一つであるキャリア教育について、国立教育政策研究所の資料を参考にしながら説明します。旧文部省は、進路指導の概念として「卒業後の進路選択も含めて、どのような人間になりたいか、どのような生き方が望ましいか、という長期的な人間形成をめざす教育活動」と説明しています。一方、キャリア教育は一人ひとりがふさわしいキャリアを形成し、自立していけるよう、必要な意欲や態度や能力等を育てることを目指しています。つまり、キャリア教育は、一人ひとりの社会的・職業的自立に向けて必要な能力等を育てる教育ということです。したがって、この点では進路指導とキャリア教育の目指すものは同じであるということになります。

しかしながら、進路指導は中学校や高等学校における教育として位置づけられてきているのに対して、キャリア教育は幼児教育から初等・中等・高等教育段階にいたるまでのあらゆる教育機関において実施されるのみならず、成人も対象としています。この点は進路指導とキャリア教育の違いです。

■職業的(進路)発達にかかわる諸能力
キャリア教育を実践するための一つのモデルとして、「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議」は、国立教育政策研究所が提示した「4領域8能力の枠組み」をキャリア教育の取り組みの例として取り上げました。このモデルでは職業的(進路)発達段階と各段階において達成しておくべき課題を、進路・職業の選択能力および将来の職業人として必要な資質の形成という側面から以下のようにとらえています。

●小学校(進路の探索・選択にかかる基盤形成の時期
自己および他者への積極的関心の形成・発展/身のまわりの仕事や環境への関心・意欲の向上/夢や希望、憧れる自己イメージの獲得/勤労を重んじ目標に向かって努力する態度の形成

●中学校(現実的探索と暫定的選択の時期)
肯定的自己理解と自己有用観の獲得/興味・関心等に基づく職業観・勤労観の形成/進路計画の立案と暫定的選択/生き方や進路に関する変実的探索

●高等学校(現実的探索・試行と社会的移行準備の時期)
自己理解の深化と自己受容/選択基準としての職業観・勤労観の確立/将来設計の立案と社会的移行の準備/進路の現実吟味と試行的参加

【4つの領域と8つの能力】
4領域
・人間関係形成
・情報活用
・将来設計
・意思決定

8能力
・自他の理解能力、コミュニケーション能力
・情報収集・探索能力、職業理解能力
・役割把握・認識能力、計画実行能力
・選択能力、課題解決能力

■教育改革の一環としてのキャリア教育
キャリア教育を推進することになった背景には、教育改革という流れがあります。中央教育審議会は1999年の答申の中で、小学校段階からのキャリア教育の実施を求めました。その答申を受けて、2006年に「教育基本法」が改定され、2007年に「学校教育法」も改定され、2008年に「教育振興基本計画」が作られ、2009年には「学習指導要領」も改定され、中央教育審議会に「キャリア教育・職業教育特別部会」が設置されました。

本来のキャリア教育は内的キャリアの確立を目指す心理教育ですから、キャリア教育が教育改革の一環となるためには、キャリアコンサルタントがキャリア開発の支援であるキャリア・カウンセリングを学び、自分自身のキャリア開発に取り組んでいることが求められます。自分のキャリア開発ができていない人は他者のキャリア開発の支援はできないからです。
(つづく)Y.H

-実践編・応用編

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