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実践編・応用編

  ドイツの労働施策 3

投稿日:2024年10月5日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

前回に続き、ドイツの労働施策についてお話しします。日本とドイツは基本的価値を共有し、G7等において国際問題に対し強調して取り組むパートナーです。また、ドイツは日本にとって欧州最大の貿易相手国であり、21世紀に入って日独関係はますます重要なものとなっています。政治経済面での協力はもちろん、文化・学術分野でも市民レベルでの活動が活発に行なわれています。

■職業能力開発対策
ドイツの職業訓練は、①若年者に対する職業養成訓練(いわゆるデュアルシステム)を中心とした初期職業訓練、②初期職業訓練修了者や社会人等を対象とする継続教育訓練に大きく分類されています。継続教育訓練には、ドイツの伝統的な職業資格である「マイスター資格」取得のための職業訓練、企業内訓練といった主として職業的な教育を目的とする継続職業訓練のほか、一般教養的な成人教育などが含まれます。

●初期職業訓練及び助成制度
初期職業訓練には、職業養成訓練(いわゆるデュアルシステム)と全日制職業学校訓練があります。中核となるのは「デュアルシステム」です。
〇職業養成訓練
若年者に対し、職業学校における理論教育(週1~2日)と、事業所における実践的な職業訓練(週3~4日)を並行して行う制度で、通称「デュアルシステム」と呼ばれてます。義務教育の終了後、職業学校に生徒として通学しながら、同時に企業において訓練ポストを得て、訓練生として訓練を受けるものです。
訓練を希望する若者は、各職能団体から訓練機関として認定された企業と職業訓練契約を締結し、訓練生として手当を受け取りながら技術の習得に励みます。訓練期間は通常2~3.5年で、訓練修了後、所轄の職能団体が実施する試験に合格すれば職業資格を取得できます。職業学校での教育費用は州が負担し、企業での訓練費用は訓練生手当を含めて企業が負担します。雇用機関は訓練生の仲介及び相談支援を行っています。

〇雇用機関による支援策および助成制度
職業養成訓練に関しては、雇用機関による様々な支援プログラムや助成制度があり、主な内容は以下の通りです。
・義務教育課程における支援
義務教育課程における職業オリエンテーション実施を支援する「職業オリエンテーション」や、義務教育課程の修了が困難で、その後の職業養成訓練の開始に支障がある生徒への個別サポートを行う「職業養成訓練スタートアップ支援」があります。
・職業養成訓練志願者のための準備訓練
知識等が不十分、訓練先の企業が見つからないといった理由で職業養成訓練をスタートできない者などを対象とした支援制度。企業が該当者を受け入れ、基礎的な知識や能力の習得を目的とした訓練を実施する場合、雇用機関から実施企業に対し、訓練生1人につき月額39,500円(2022年8月1日以降は月額41,900円を上限とする訓練助成金が支払われます。
・職業養成訓練の受講段階での支援
職業養成訓練中、言語・学習面でのフォローなど追加的な支援が必要な訓練生に対し、教育機関による個別のサポートを行う「養成訓練同伴支援」があります。また、問題を抱える若年者が養成訓練を開始および継続できるように、雇用機関やジョブセンターが専門のアドバイザーを派遣し、それぞれの若年者および企業のニーズに応じた支援(若年者に対する応募手続や教育面でのサポート、企業に対する養成訓練実施のための情報提供や手続の支援、応募者とのマッチングなど)を行う「アシスト付き養成訓練」があります。
・職業養成訓練助成金
経済的に困難な状況にある訓練生に対する雇用機関の助成金制度。住居費および生計費等が助成される。助成金の上限は月額114,500円(2022年8月1日以降は月額124,900円)。訓練先の企業が両親宅から遠すぎる場合など一定の条件を満たした場合に支給され、支給額は住居や訓練報酬額、両親や配偶者の年間所得などに応じて決定されます。
・就学年齢を過ぎても職業養成訓練を開始できない若者等を対象とした支援
雇用機関の助成のもと、教育機関による個別のサポートを行う「職業養成訓練準備支援」があります。座学と実習を組み合わせたプログラムが組まれ、義務教育課程が未修了の者は、必要な教科を履修することで修了証(いわゆる卒業証明書)を取得できます。

●継続職業訓練
〇手工業マイスター
ドイツの伝統的な職業資格である「マイスター資格」取得のための職業訓練も、継続職業訓練に含まれる。マイスター資格は2種類あり、一つは手工業マイスター、もう一つは工業マイスターである。後者は工場等で監督者として働く技能労働者を指す。前者の手工業マイスター(Handwerksmeister)は、手工業者が職業養成訓練生及び職人の課程を経て、マイスター試験に合格することにより取得できる資格である。手工業の種類や手工業マイスターの資格、試験等については、「手工業規則法(Handwerksordnung: HwO)」で規定されている。
2004年に手工業規則法が改正され、独立開業時に手工業マイスターの資格が必須の職業は94職種から41職種に削減されたが、2020年に手工業規則法が再び改正され、12職種に再びマイスター資格義務が導入されたことで、マイスター資格が必須の職業は現在53職種となっている。マイスター資格を取得すると、職業養成訓練生を採用・教育する権利と、手工業の営業権を獲得できる。また、手工業事業所を創設及び継承するには、自らマイスター資格を有している必要があったが、2004年の法改正により、マイスター資格を有する事業所責任者を雇い入れればよいこととされた。マイスター資格取得の支援措置としては、向上職業訓練支援法による支援制度がある。マイスターを含む向上訓練資格の取得等を支援するため、同法に基づき、連邦政府及び州政府から資金が拠出されている。訓練受講費や生活費等に対する助成で、年齢制限はない。
〇在職者に対する継続職業訓練の支援
技能資格が十分でない在職者は、資格取得のための継続訓練受講に対して雇用機関から支援を受けることができる。職業養成訓練を修了していても、技能を十分発揮できない状態が少なくとも4年間続いている場合は支援の対象となる。支援は使用者に対する助成金という形で行われ、該当する労働者は、訓練受講中も継続的に賃金を受け取ることができる。デジタル化の進展等による労働市場の構造変化や、人口動態の変化等による技能労働者の深刻な不足に対応するため、国家継続訓練戦略が2019年に採択された。同戦略は、継続訓練に参加する機会が少ない低技能の労働者や求職者等を特に対象としている。
2021年6月に発表された中間報告では、新型コロナウイルス感染拡大によりデジタル主導の労働界の変革がさらに加速した点等を指摘しつつ、ドイツ経済の安定や成長、競争力強化に向けて継続訓練が担う役割の重要性を改めて強調しており、継続訓練に対する全体的な投資は今後さらに高まる見込みである。近年の具体的な支援策として、2019年1月に施行された「技能習得機会法」、および2020年5月に施行された「明日の労働法」により、継続職業訓練への助成が拡充された。デジタル化等の構造変化の影響を受ける労働者、および技能労働者が不足している業種の労働者を対象に、継続訓練費用と訓練中の賃金がそれぞれ助成される。
ただし以下の場合には100%まで支給する。
① 従業員250名未満の企業における、45歳以上の労働者と重度障害を持つ労働者に対する継続訓練費用
② 職業養成訓練未修了者が継続訓練を受講する場合の賃金(労働者の性別や能力、企業規模は問わない)
〇失業者に対する継続職業訓練の支援
雇用機関が、失業者に対する継続訓練の支援が必要と判断した場合、当該失業者に訓練クーポン(Bildungsgutschein)を支給し、訓練費用を負担する。クーポンには、訓練の目的や期間及びクーポンの適用範囲が明示されている。訓練クーポン所持者は、認定訓練機関の中から訓練機関を自ら選択し、そこでの訓練措置について訓練クーポンを使用することができる。支援内容には、必要に応じて、交通費や宿泊費、子の保育費なども含まれ、条件を満たせば訓練期間中も失業保険給付の支払いが継続される。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

〇看護・介護分野に係る専門人材の育成
看護・介護に携わる人材不足が深刻化する中、専門労働力を十分に確保するため、2017年に看護介護職の新たな法律「看護介護職法」が制定され、2020年から新たな教育プログラムがスタートしています。従来の制度では、看護師、小児看護師、高齢者介護士が別々の職業教育を履修し、独立した職業資格を取得していましたが、新制度では看護介護の教育課程を統合し、多面的な知識や技能を有するジェネラリスト的な「看護介護士」の育成を中心に据えています。ただし、小児看護や高齢者介護の専門資格も引き続き取得可能で、学生は自身の希望により職業資格を選ぶことができます。
(つづく)Y.H

-実践編・応用編

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