キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

実践編・応用編

不登校の子供たちにかける言葉

投稿日:2025年2月22日 更新日:

近年、我が国では、不登校、いじめ、子どもの自殺などの問題が深刻化しています。不登校については、文部科学省の令和4年度調査によると、小中学校で約 29 万9千人(全児童生徒の 3.2%)(中学生では 6.0%)と過去最高であり、過去5年間の傾向として、小学校・中学校ともに不登校の児童生徒数及びその割合は増加しています。
学校内外の専門機関等の相談・指導等を受けていない児童生徒は約 5.9 万人と報告されていますが、相談・指導等を受けていない不登校の児童生徒がどのような状況にあるのかは明確ではありません。
【最終版】不登校要因調査報告書240507

テクノファのキャリアコンサルタント養成講座を卒業し、キャリアカウンセリングの実践で活躍しているS.Sさんからの投稿です。

私たちは、子どもに向かって、こんな言葉を投げかけてしまいがちです。
【例1】
友人・「うまくできるかなあ・・」
私・「大丈夫、大丈夫!きっとうまくいくよ!」

おそらく、あなたは相手を励ましているつもりなのでしょう。あなたはきっと、不安に見える相手に対して元気づけることが「良い行い」であると思っているがゆえに、そんな言葉を放っているのだと思います。でも、そんなあなたの想いとは裏腹に、こういった言葉掛けはむしろ相手の不安を増大させるだけではなく、見放されたという感覚に陥ってしまうものです。

【例2】
何かを果たして帰ってきた子供に向かってあなたは言います。
私・「よかったね。うまくいったみたいじゃん!」
友人・「・・うん・・・」

子供はどこか沈んだ表情を変えません。いったい子供の心の中で何が起こっているのでしょう?そもそも、「よかった・・」とは、誰にとってでしょう? 子供の気持ちを勝手に決めつけてよいのでしょうか? 果たしてそれが「よかった」のか、「そうでなかったのか」は、あくまでも子供にとっての一人称的な主観であり、見ている側に在る私にとって・・ではありません。

もしかしたら、彼は(彼女は)結果に対して何か納得が得られず、腑に落ちないまま悶々としていたかもしれないのに、あなたの発した「よかったね」という言葉によって一方的に評価され、「よかった」という言葉で一色に塗られてしまったかもしれません。

【例3】
子どもが画用紙に絵を描いています。
その子は突然「ああ~、もお~!うまく描けないよ~!」とイライラした顔をしながら画用紙とクレヨンを放り投げたとします。

でも、その絵は大人の私から見てもなかなかの出来映えで、特にヘタだとは思えないとします。そんなふうに感じたあなたは、その子にどんな声をかけるでしょうか?
もしかして「そんなことないよ。うまく描けてるよ。きみ、絵が上手だね。」などと言いたくなりませんか?
でもきっと、そんな言葉を聞いた子どもは、「うまく描けないんだってば!」と、さらに声を荒げてしまうことでしょう。

子どもの内部で何が起こっているのでしょうか? きっと頭の中でイメージしたとおりに描けず、出来上がった絵に納得がいかないのでしょう。
この場におけるあなたも、もちろん悪気などあるはずもなく、むしろ良かれと思って励ましているつもりなのでしょう。でも、そこが大きな落とし穴なのです。

悪気などなく、良かれと思っていれば、人はこういった自分の言動に疑問を持ちません。
だからこそ問題なのであり、クセモノなのです。あなたは、相手が発している言葉の奥にある「心情的な背景」が見えていないまま、自分なりの主観を以て「決めつけ」を行っているのです。さらに言えば、「相手が今どんな気持ちでいるのか」ということに、あなたは全く関心がないと言わざるを得ません。関わる側の自分の内部から湧く「相手への興味」と、相手の今を知ろうとして意志的に持つ「関心」とは、まったく別のものなのです。

キャリアコンサルタントの目でひとつずつ振り返ってみましょう。
【例1】=相手の領域の問題に対して、なぜあなたは「大丈夫!」などと断言できるのでしょう? あなたが声を掛けたくなった動機はともかく、相手からしてみれば無責任な言葉に他なりません。

【例2】=よかったか否かをなぜ聴こうともせず、「よかった」などと決めつけてしまったのでしょう? 自分の内部に湧いた思いこみは、相手を観る目を曇らせてしまいます。相手の表情は?スッキリしていなかったはずです。
この場合も、関心をもって相手を観ていなかったということが言えます。

【例3】=子どもが発した言葉を、なぜあなたは否定してしまったのでしょう。
うまく描けなかったと主張していた子どもの言葉を遮って、言い聞かせようと
したあなたは何が分かっているのでしょうか? 年齢の割には上手だな・・と感じたのは、あなたの主観に過ぎません。ここでも、「誰にとって」という主語が履き違えられ間違えられてしまっています。

重要なことは、励ますことなどではなく、相手の気持ちを理解しようとする「姿勢」と「態度」であり、必要とされるのは、「あなたのことを知りたい」という姿勢から発せられる問いかけなのです。

子供に対して、「なんて声をかけてよいのやら・・」といった相談を受けることがあります。
相談したいという私の気持ちの奥には、相手を励ましたい・・または元気づけたいという想いがあるのかもしれません。
しかし、もしかしたら早く立ち直ってくれたら嬉しいとか助かるといった「私の都合」が隠されているかもしれません。

あたかも相手への慰めであるように思えても、自分側のエゴである場合もあるのです。きっと、何か考えて選んだ言葉よりも、「なんて声をかけていいか分からないんだけど、私はあなたに寄り添いたい気持ちでいます。」と、そのままを伝えるのがもっとも適切だと思います。少なくとも思いやる気持ちは伝わると思います。

最後にもうひとつ。
不登校児童を持つ母親が、「この子が学校にさえ行ってくれたら・・」よく聞く母親が発する「ため息混じりの言葉」です。おそらく、この言葉の後に続くのは「私が助かるんだけど・・」だと思います。児童の支援を仕事にしているキャリアコンサルタントの僕にとって、誰の支援なのかが分からなくなってしまう言葉です。

(つづく)K.I編集

-実践編・応用編

執筆者:

関連記事

日本における高齢社会対策の推進 5

キャリアコンサルタントの方が知っていると有益な情報をお伝えします。 前回に引き続き高齢社会対策の推進についてお話します。我が国は、既に超高齢社会に突入しており、高齢者の割合が大きくなっていく中で、高齢者が暮らしやすい社会をつくることは、他の世代の人々にとっても暮らしやすい社会の実現につながります。すべての世代の人々が超高齢社会をを構成する一員として、今何をすべきかを考え、互いに支え合いながら希望が持てる未来を切りひらいていく必要があります。 〇 安全・安心で快適な住生活と循環型住宅市場の実現 高齢者が、地域において安全・安心で快適な住生活を営むことができるよう、サービス付きの高齢者向け住宅の供 …

今日から始めるミドルシニアのキャリア開発

キャリアコンサルタントの皆さんに有用な情報をお届けします。 1.はじめに 「今の仕事に満足していますか」「あと何年働き続けますか」――本書は、こうした問いかけから始まります。著者は、法政大学教授の田中研之輔氏、NTTコミュニケーションズ人材開発課長の浅井公一氏、ミドルシニア研修講師の宮内正臣氏であり、第一線の研究者、大手企業で50代社員と数多く面談してきた人材開発の専門家、シニア層のキャリア支援を専門する研修講師といった、多様な知見と経験を持つ共著者たちです。 本書では、キャリアを考える出発点として「まず自分に視点を向ける」ことの重要性が強調されています。組織内の昇進や昇格に一喜一憂するのでは …

製造業を巡る 日本企業のDX活動の多様性

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。 前回に続き、経済産業省製造産業局が2024年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課題について今後の政策の方向性」からスライド21ページ「日本企業のDX活動の多様性」について、背景や課題も含めて解説します。 (出典)経済産業省 016_04_00.pdf ●全体の背景と趣旨 このスライドは、日本企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを 534件の「現場・ビジネス領域に関するDX(全体の9割)」 と、66件の「経営に関するDX(全体の1割)」 に分類・可視化したものです。 重要な指摘: 〇 日本企業のDXは主に現場業 …

最適なポートフォリオマネジメントとパーパスの関係

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお届けします。 出典 経済産業省 016_04_00.pdf 1.ポートフォリオマネジメントの定義と必要性 企業におけるポートフォリオマネジメントとは、複数の事業を全体最適の視点で管理し、経営資源の配分を戦略的に判断する考え方です。具体的には、成長市場や有望事業への投資を優先すると同時に、不採算事業や将来性の低い事業からは撤退・売却を検討します。こうした方針により、企業全体としての収益性を高め、企業価値の最大化を目指しますgce.globis.co.jp。近年の環境変化(市場縮小や新規参入、デジタル化など)により事業ライフサイクルが短期化しており、成長事 …

製造業を巡る現状と課題  CXの先へ組織経営能力

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。 前回に続き、経済産業省製造産業局が2024年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課題について今後の政策の方向性」からスライド29ページ「CXの先へ:組織経営能力を継続的向上」について、詳細な解説をします。 (出典)経済産業省 016̠04̠00.pdf 1.日本企業が抱える「官僚主義」と「現場主義」の両極構造 本スライドは、経済産業省が2024年にまとめた「製造業を巡る現状と課題 今後の政策の方向性」の終盤で示されたものであり、日本企業の組織能力をいかに持続的に高めるかを論じています。 背景には、日本企業特有の組織構造の歪みがあります。 …