キャリアコンサルティング協議会の、キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業報告書の、現段階でのスーパービジョンの基盤整理についての部分を、報告書から記述します。
ここではすでに記述した内容を踏まえた現段階でのスーパービジョンの基盤整理 (スーパービジョンの標準化に向けた考え方)を示すが、中心は既存のスーパーバイザー養成機関等が採用しているカウンセリングをベースとしたアプローチである。
しかし、今後はセルフ・キャリアドック等をはじめとする企業組織領域におけるスーパービジョンも重要性を増してくることから、これに焦点を当てた考え方は補章で示すこととする。
1.スーパービジョンの必要性
・キャリアコンサルタントの活動領域・役割の拡大
労働政策研究報告書「キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査」(平成 30年3月)によると、この10年間で、キャリアコンサルティングは大まかに需給調整機関から企業へ移行している、としている。これには、職業能力開発促進法の改正による国家資格化や事業主によるキャリアコンサルティング機会の確保等の明記、セルフ・キャリアドック制度の推進など、企業内キャリアコンサルティングを後押しする制度的な環境整備の影響が大きいと考えられるが、企業内キャリアコンサルティングでは個人のキャリアに関する悩み相談に加えて、組織の生産性向上への貢献が求められていると見ることもできる。
また、同調査によると、キャリアコンサルティング施策において「地域」領域と呼ばれてきた活動領域は、この10年間で医療関係、福祉施設、自治体等の様々な領域に活動を拡大させてきた、としている。具体的には、「障害者の就労支援・職業相談」「医療機関」「福祉施設」「矯正施設・更生機関(少年院・刑務所等)」「生活保護者の就労支援」「生活困窮者の自立支援」などであり、これらの領域においてキャリアコンサルタントが有する就労支援・就職支援に係る技能・スキルが有効に活用しうるといった期待がうかがえる。さらに、キャリアコンサルティングの現場における新たな課題として、発達障害等への対応の困難が各領域でー様に指摘されている。
このように、キャリアコンサルタントの活動領域及び役割は多様化、拡大してきており、 キャリアコンサルタントの質向上、能力向上は必須の課題といえる。
・あるべきキャリアコンサルタント像とスーパービジョンの重要性
厚生労働省「キャリアコンサルタントの継続的な学びの促進に関する報告書」(平成31 年1月10日)によると、あるべきキャリアコンサルタント像とスーパービジョンの重要性について次のように示している。
キャリアコンサルティングでは、クライアントのライフステージ・キャリアステージの重要なイベントに関わる支援や指導を行うが、その場はキャリアコンサルタントとクライアントの閉ざされた場になりがちである。加えて、ともすれば支援者と支援を受ける者という対等な立場とは言いにくい状況にあることも考えれば、自らの助言・指導等がクライアントに大きな影響を及ぼしうるということを常に心に留め、また、一つーつの面談が極めて個別性の高いものであることを自覚して、面談に臨む必要がある。
さらに、キャリアコンサルタントは常に自らの課題に気づくことに努め、主体的に自らの能力・態度等の課題解決に取り組むべく学びを継続していかなければならない。
また、キャリアコンサルティングにおいてクライアントを深く理解し的確な支援につなげていくためには、まずは自らの専門家としての姿と向き合い、自らの自己理解にも努めなければならない。キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングで何ができ、 どのような対応を行ったかという活動レベルでの個々の対応方法のみに目を向けがちであるが、その活動の基にある理論的根拠やキャリア形成・能力開発における意味づけなどを説明し、支援できる力が必要である。
したがって、個別面談の力量を向上させていくことに加え、キャリアコンサルタント倫理綱領を確実に体得するためにも、キャリアコンサルタントとしてのキャリアの初期段階にある者に留まらず、経験を積んだキャリアコンサルタントにおいても、積極的かつ定期的にスーパービジョンを受けるべきである。
キャリアコンサルティングのためのスーパービジョンは、事例の理解や対応方針・技法の検討を主目的とする事例検討の要素に加え、教育的介入を通じたスーパーバイジーの成長と、同時にクライアントのキャリア形成の支援等の要素を含むものであり、さらにはそれらを通じた組織活性化への貢献を図るものとして期待される。このため、指導を受けるべきテーマに応じて、面接技術だけでなく、組織の活性化等の多様な領域に関する知識や専門性に係る複数のスーパーバイザーに指導を受ける場合もありうる。
(つづく) A.K