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AIの進展に伴う新たな課題
AIは我々の社会生活・経済に関して利便をもたらす可能性がある一方、リスクも広範に及ぶ可能性があります。AIをめぐる技術革新に当たっては、イノベーション促進とリスクへの対応を同時に進めることが重要です。また、我が国は、技術面・産業面・利用面において、世界のAI先進国に遅れを取っている状況がみられます。このままでは、AIを起点とした様々な経済社会の変化に対して、立ち遅れるリスクも懸念されています。我が国の経済成長、社会経済における活用の推進のため、また、経済安全保障の観点からも、我が国においてAI技術の推進、AIを活用した産業の進展、社会生活におけるAI活用など、AIに関わるイノベーションの推進に資する取組が一層必要となっています。
AIによる便益が広がる一方で、利用の拡大及び新技術の台頭に伴い、それらが生み出すリスクも増大しています。「AIネットワーク社会推進会議・AIガバナンス検討会合同会議」及び「AI事業者ガイドライン検討会」にて議論の上、2025年3月に総務省及び経済産業省が公表したAI事業者ガイドラインには、技術的リスクのほか、社会的リスク(倫理・法、経済活動、情報空間、環境に関する各リスク)が示されています。
日本の存在感の低迷
日本のAI分野の研究開発は、米国等海外でAI開発をリードする企業等と比べると、十分に高い評価を受けていないのが現状です。 例えば、2024年11月にスタンフォード大学のHAI(Human-Centered Artificial Intelligence)が発表した、2023年のAI活力ランキングによれば、日本は総合9位でした。 この背景には様々な要因が考えられますが、海外のAI先進国がリードしている背景としては、例えば、投資とデータ、人材の面で言えば、米国では、膨大な資金力とデータ、先進的な技術開発力を活用できるビッグテック企業等が、スタートアップ企業等を含め長期的な投資をしてきたこと、また、生成AI関連市場を構成するアプリケーションからモデル、インフラ(計算資源、専門人材、データ)層に至る各層に対し、これまでの事業で構築した事業基盤を活用した優位性を持っていることや、中国でも、大型プラットフォーム事業者等による技術開発や投資が可能となる体制が存在していることが挙げられます。
AIに関するイノベーション促進とリスクへの対応を同時に進める上では、国内外におけるAIに関するルール形成や、リスク管理に向けた取組、国際連携とともに、AI技術開発や人材確保の推進、企業や社会におけるAI活用など、AIに関するイノベーションの一層の促進とその活用に資する取組が必要となっています。
国内外のルール形成
国内では、AI技術の急激な変化や国際的な議論を踏まえ、政府の司令塔として2023年5月にAI戦略会議を立ち上げ、集中的に議論を行っています。総務省及び経済産業省は、AI戦略会議で取りまとめられた「AIに関する暫定的な論点整理」(2023年5月)を踏まえ、2024年4月に「AI事業者ガイドライン」第1.0版の策定・公表を行いました。同年11月には時点更新(第1.01版)、2025年3月には、国内外の最新動向を踏まえた更新(第1.1版)を行いました。 また、国内外のAIに関するルール整備が進む中、日本では、2024年8月に、AI戦略会議の下で第1回AI制度研究会が開催されました。2025年2月には「中間とりまとめ」が行われ、この「中間とりまとめ」を踏まえた、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が第217回国会(常会)にて成立しました(令和7年法律第53号)。 さらに、政府の様々な業務への生成AIの利活用促進とリスク管理を表裏一体で進めるため、デジタル庁が総務省、経済産業省等と協力して検討を行い、「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」(令和7年5月27日デジタル社会推進会議幹事会決定)を策定しました。
生成AIの急速な発展と普及が国際社会全体にとって重要な課題となっていることを踏まえ、2023年に開催されたG7広島サミットにおいて生成AIに関する国際的なガバナンスについて議論を行うことを目的とした「広島AIプロセス」 を立ち上げることとなりました。この一連の流れの下、様々な国際連携の取組が行われています。
日本におけるAI研究開発
AI分野の研究開発について、様々な日本の組織・企業により積極的に進められているほか、LLMの開発やこれを活用したビジネス展開から、海外事業者と連携した汎用・大型LLM活用を目指す動き等、多様な動きが進んでいます。一方、海外事業者がAI開発で大きく先行する中、日本企業・組織における研究開発の向上に向け、様々な政策的対応が進められています。例えば、LLM開発支援に関する施策として、総務省は、AI開発力強化のため、NICTにおいて、LLM開発に必要となる学習用データの整備・拡充に向けた施策等を実施していますが、今後も、我が国のAI研究開発の促進・支援に資する施策が重要となります。さらに、AIの研究開発に加え、企業等での活用や事業への応用、社会実装を積極的に推進するとともに、これらの取組を支えるAIを開発・活用できる人材の確保、育成やリテラシーの向上が必要であ り、引き続き、AIに関するイノベーションの一層の促進とその活用に資する取組が求められます。
インターネット上の偽・誤情報
SNSや動画共有サービス、インターネットニュースサイトの利用率向上等を背景に、人々の情報収集手段においても、インターネットが重要な手段となりつつあります。とりわけSNSは、情報収集・発信、コミュニケーションにおける社会基盤としての存在感を増しつつあると考えられます。こうしたなか、インターネット上の偽・誤情報や誹謗中傷等の他人の権利を侵害する情報の流通・拡散などに代表されるデジタル空間の情報流通をめぐる問題も大きくなっています。 こうした課題に対しては、国際的な動向も踏まえつつ、表現の自由に十分配慮しながら、制度的対応、対策技術の開発やその支援、ICTリテラシーの向上も含めた総合的な対策を積極的に進めていく必要があります。
世界情勢や社会構造、技術変化等により、偽・誤情報の流通・拡大のリスクが上昇しています。世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書2025によりますと、偽・誤情報は現在、今後2年間及び今後10 年間の深刻なリスクの上位に入っており、特に、今後2年間では最も重視すべきリスクとされています。 例えば、2024年の世界各地で行われた選挙においても、真偽不確かな情報を巡る報道が相次ぎました。また、我が国では、誹謗中傷等の他人の権利を侵害する情報の流通についても問題が増大しています。例えば、違法・有害相談センターへの相談件数は近年高止まりしており、2024年度は6,403件でした。さらに、アンケート調査によると、インターネット上での他人を傷つけるような投稿(誹謗中傷)の目撃経験は、2024年調査では回答者の60.6%が「見たことがある」と回答しています。ある作品の画像や映像等の著作物を許可なく使用した投稿(著作権侵害)や他人の顔写真や名前を許可なく使用した投稿の目撃経験も4割を超えています。
サイバーセキュリティ
デジタル活用が社会のあらゆる面で拡大する一方、世界情勢の不安定化・緊迫化等も背景にしたサイバー攻撃の複雑化・巧妙化や、デジタル活用拡大に伴うシステムの複雑化やインターネットに面したアタックサーフェス(攻撃可能面)の拡大等により、ランサムウェアやゼロデイ攻撃等による機密情報の漏えい、重要インフラのサービス停止等のセキュリティリスクが拡大傾向にあります。 デジタルインフラへの社会の依存度が増す中、ひとたびサイバーインシデントにより被害を受けた際の規模・範囲もますます拡大すると想定され、安全保障上も懸念されます。デジタル空間におけるサイバーセキュリティ確保のためには、各ステークホルダーの水準の向上と連携が求められます。政府の対応、官民連携、国際連携、技術的対応、国民リテラシー向上等、すべての関係者による総合的な対応が重要となっています。
サイバー攻撃のリスクは、年々拡大傾向にあります。例えば、国立研究開発法人情報通信研究機構 (NICT)によれば、NICTERのダークネット観測網における2024年の1 IPアドレス当たりの年間総観測パケット数は、前年の2023年から更に増加しており、インターネット上を飛び交う探索活動が更に活発化していることがうかがわれます。 また、社会経済活動における重要インフラが、サイバー攻撃により被害・サービス停止した場合、大きな社会的な混乱が引き起こされるおそれがあります。2024年度中にも、重要インフラ等を狙った様々なサイバー攻撃事案等が発生しました。
デジタル空間におけるサイバーセキュリティ確保のためには、各ステークホルダーの水準の向上と連携が求められますが、ここでは最近の動きとして、政府の対応としての能動的サイバー防御に関する法整備について取り上げます。近年、サイバー攻撃による政府や企業の内部システムからの情報窃取等が大きな問題となっているほか、重要インフラ等の機能を停止させることを目的とした高度な侵入・潜伏能力を備えたサイバー攻撃に対する懸念が急速に高まっています。特に重要インフラの機能停止や破壊等を目的とした重大なサイバー攻撃は、国家を背景とした形でも日常的に行われるなど、安全保障上の大きな懸念となっています。 こうした情勢に対処するため、「国家安全保障戦略」(2022年12月16日閣議決定)に基づき、サイバー安全保障分野での対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させるべく、2025年の第217回国会 (常会)に「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律」及び「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の両法案が提出され、原案修正の上、2025年5月に可決・成立しました。
(出典)総務省
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/pdf/index.html
(つづく)平林良人