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我が国において、少子高齢化の問題は深刻さを増しており、更に地方・経済の疲弊・衰退や災害の激甚化に対する対応も重要な社会課題となっています。進展するデジタル技術の効果的な活用を一層拡大することで、こうした社会課題の解決、軽減に貢献することが期待されています。主要な社会課題やデジタル分野の課題を解決することの重要性と、それらの社会課題に対してデジタル技術の進展による解決への期待度について、アンケート調査をしたところ、すべての課題において、4割以上の人が、提示した課題について重要な課題と認識(「優先して取り組むべき重要な課題」と「重要な課題」の合計)と回答しました。このうち、特にデジタル技術の進展による課題解決への期待が高かったのは、「防災・減災等の自然災害への備え」「医療従事者の不足による地域間の医療格差」「少子高齢化に伴う労働力不足」や、サイバー攻撃やシステムトラブル等の抑止が挙げられました。また、地域格差がない大容量・高速デジタル基盤の整備・安定的維持は、デジタル技術による解決を期待していると回答した者の比率が最も高くなっています。 今回は、我が国の主要な社会課題解決に向けたデジタルの役割とその展望を概観します。
デジタル技術の更なる進展
AIやロボットをはじめとするデジタル技術が更なる進展をとげ、社会に浸透・活用されることで、少子高齢化や人口減少に直面する日本社会において、労働力不足の解消、生産性向上や競争力強化による経済活性化が期待できます。また、我が国の経済成長の観点とともに、不透明さを増す世界情勢に鑑みれば、経済安全保障の観点からも、我が国に基盤を持つ企業・組織によるデジタル分野におけるサービスの提供の拡大等による自律性の確保が重要な課題となる中、我が国のデジタル企業の国際競争力の向上に向けた取組の推進が重要です。
進展するデジタル技術を経済成長につなげる取組の方向性の一つは、我が国、あるいは、各企業や組織が強みを持つ分野において、進展するデジタル技術を活用することです。例えば、総務省が実施したアンケート調査の結果からは、デジタルの業務変革への活用や、AIの利用方針の策定状況において、日本は米国や中国、ドイツといった国と比較すると、相対的に遅れている状況が見て取れます。また、生成AIを活用する業務分野についても、これら諸外国の企業と比べると、広がりに欠ける状況にあります。DX・AI・ロボティクス等を通じた業務プロセス全体の変革や、多様な業務への活用により、省力化・効率化等に加え、自らの強みを生かしつつデジタルにより更に新たな付加価値をもたらすイノベーションに取り組むことが、引き続き重要となっています。
デジタル分野での競争力向上
デジタル分野における競争力向上に向けた取組も重要な課題です。デジタル分野では、技術革新に伴い、しばしば大きなゲームチェンジが起きており、主流のサービスや担い手が劇的に変わってきています。 このゲームチェンジの波を的確にとらえていくことがデジタル分野のビジネス展開において大きなカギを握ると指摘されています。デジタル分野の重要なサービス・インフラ等における我が国の自律性確保が重要な課題であることに鑑みれば、我が国の強みが生かせる形でアプローチするとともに、次のデジタル基盤・サービスのカギを握る分野で、我が国の国際競争力を確保することが望まれます。
例えば、AIは、しばしば大きな技術革新が起きている分野でもあります。「スケーリング則」という大規模投資が可能な者に有利な技術背景はありますが、その一方で、学習データや計算量がある程度限定的な小規模LLM開発は、個社へのカスタマイズなどモデルの多様性が求められる等、日本企業・組織が強みを発揮し得る分野と指摘されており、電力制約への対応、機密性の高い情報の取扱い等において、小規模モデルに優位性が出てくるケースも想定されています。さらに、新たなプレイヤーが技術革新を起こす可能性が存在し、幅広い応用が考えられる分野でもあります。技術革新による潜在的なゲームチェンジの可能性を踏まえれば、引き続き、国産のLLMの開発とともに、AIを活用した事業展開や社会実装を進めつつ、技術革新に伴うゲームチェンジの波をとらえていくことが重要と考えられます。既に、様々な日本企業がこうしたLLMの開発に取り組んでおり、国の施策もそれを後押ししています。
また、ロボットについても、AIの進展とも相まって、ゲームチェンジが起こりえる分野であり、日 本においても様々な研究開発や社会実装に向けた取組が行われています。
さらに、次世代通信分野で取り組まれている事例としては、NTTが提唱するIOWN構想があります。 IOWN Global Forumの組成・拡充や、海外での技術者育成への着手など、着実にグローバルでのエコシステム形成をはじめとした各種取組が進められています。
デジタル分野における競争力強化に向けた政府の取組としては、関係省庁において様々なレベルで対応がとられています。例えば、総務省においては、2023年3月にNICTに恒久的な基金を造成したうえで、新たに革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業を実施し、この中で、社会実装・海外 展開に向けた研究開発プロジェクトを実施する「社会実装・海外展開志向型戦略的プログラム」等の3つのプログラムを設けています。
地方創生
少子高齢化の問題は、地方においてより一層深刻な状況にあり、地方経済の疲弊、地域・社会インフラの維持等の課題に対する対策は、喫緊の課題です。デジタル・新技術の徹底活用により、地方の生活環境の維持・改善や、地域経済の活性化等に向けた取組の推進が重要となっています。こうした中、2025年6月に閣議決定された「地方創生2.0基本構想」では、地方創生2.0の基本姿勢・視点の一つとして、AI・デジタルなどの新技術の徹底活用と社会実装を掲げ、地域住民が安全かつ快適な生活環境を享受できる持続可能な地域社会の形成や、地域経済の持続的な成長と競争力の強化につなげていくこととしています。 総務省では、ICT技術を活用した地方創生2.0の実現のために、地域社会DX推進パッケージ事業を 実施しています。この事業では、デジタル人材/体制の確保支援、AI・自動運転等の先進的ソリューションや先進無線システムの実証、地域の通信インフラ整備の補助等の総合的な施策を通じて、デジタル実装の好事例を創出するとともに、必要な効果的・効率的な情報発信等を実施することで、全国における早期実用化を目指しています。
AIを活用したインフラの維持管理
我が国では、インフラの老朽化や従業者減少の問題が深刻化しています。この問題に対応するために、AI等の技術を活用したインフラ維持管理の高度化・効率化の必要性が高まっています。例えば、地域の鉄道では、利用者減少による事業継続性や、就労希望者の減少に伴う対応力低下の懸念がある一方で、自然災害の甚大化や構造物老朽化による事故発生リスク拡大の懸念を抱えており、従来の目視での巡視業務では、今後の運用・維持が難しくなるという課題があります。これに対して、電車の車両前方カメラ (車載器)で取得した高解像度映像データを、AIサーバーに伝送し、線路設備等の異常を解析することで、通常数時間かかる巡視業務をAIに置き換え、必要な箇所のみを現地確認することで業務負荷低減及び時間短縮する仕組の構築に向けた実証事業が、総務省令和6年度地域デジタル基盤活用推進事業(実証事業)により実施されており、汎用AIモデル構築に向け、都市鉄道とも連携して 全国鉄道30社と共同検証を実施し、地域鉄道向けのソリューション開発が行われています。
災害への対応
近年、我が国において災害は激甚化及び頻発化しており、今までより高度な災害対策を講じることが進展するデジタルによる社会課題解決に向けて重要になる中、デジタル技術の活用による防災・減災は大きな効果をもたらすと期待されています。また、度重なる震災等に対応する形で、通信・放送ネットワークの強靱化が進められてきましたが、更なるデジタルインフラの強靱化が引き続き求められています。
例えば、防災・減災にデジタル技術を活用するためには、強靱なデジタルインフラの存在が必要となります。このうち、放送ネットワークは、災害時における情報伝達方法として大きな役割を果たしていますが、2024年1月に発生した石川県能登地方の地震では、地上テレビ放送、ラジオ放送及びケーブルテレビにおいて、停電や中継局設備の被災、ケーブルの断線などにより停波が生じました。この教訓を受け、総務省は、放送ネットワークの強靱化に関する支援事業の内容の強化を行いました。また、災害に対応するため、放送事業者間の連携も進められています。さらに、通信ネットワークの強靱化に関しては、その支援のため、総務省は2025年度に「災害時における携帯電話基地局の強靱化対策事業」を行う予定です。また、通信ネットワークの強靱化と復旧体制の強化に関して、通信事業者において、移動基地局の整備、無人航空機や低軌道衛星等の活用などによる対応を拡充しています。
デジタル社会を支える重要なデジタルインフラの一つであるデータセンター・海底ケーブルに ついて、災害対策の観点からも地方分散の推進等が重要な課題となっており、対応が進められています。 引き続き、災害に対して強靱なデジタルインフラの構築が求められています。
(出典)総務省
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/pdf/index.html
(つづく)平林良人