基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 67-2 | テクノファ

投稿日:2021年5月29日 更新日:

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は3回忌になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に16年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。
横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。
今回はその中からキャリコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
第Ⅰ部 組織文化とリーダーシップを定義する
ここでは,次の3つのことを達成したい。(1)文化の概念を定義する,(2)文化とリーダーシップの間に存在する密接な関係を明らかにする,(3)過去10年間に,文化およびリーダーシップに関する研究がどのように進化してきたかを示す,の3点だ。この進化を完全に理解するためには,まずわれわれのすべてが合意できる,文化に関する定義を確立しなければならない。その結果,私が文化の形成,成長,進化について語るとき,読者は私が何を語っているかを理解できるようになるはずだ。同様にリーダーシップについての定義も進めなければならない。何故なら学術論文や一般向け文献であまりに数多くの定義が存在しており,さらに基本的なコンピテンシーの範囲においてリーダーはどうあるべきか,また組織の効果性を向上させるためにリーダーはどう行動すべきかについてあまりに数多くの処方箋が提供されているからだ。学者も実業家も何を信じ,何を無視すべきかが判断できにくくなっている。

これらの数多くのトレンドを解き明かすためには,全体の領域を示す,大規模な概念マップを作り,そのマップ上の位置を識別するためにはっきりしたラベルのセットが求められる。本書のメインの課題は,私企業,公共機関,行政,非営利組織のすべての組織にフォーカスした組織文化である。私企業について語るときには,われわれは「企業文化(corporate culture)」と呼ぶことが多い。しかし私は本書を通じて,国または民族ごとの文化にも言及するつもりであり,これらはマクロカルチャーと呼ぶ。また各組織を築き上げているさまざまな職業グループが存在するけれども,これらはサブカルチャーと認識するとよいだろう。医師,法律家,エンジニアといった職業は,組織の枠を越えた存在であり,目的によってはマクロ文化としてとらえることも可能だ。しかし彼らのメインの影響は自分たちの職業内で,全体組織のサブカルチャーとして及んでいる。さらに最近では,組織内の小規模で,ひとつにまとまった組織ユニット,たとえば外科医ティーム,あるいはさまざまな職業グループを横断する形で組まれたタスクフォース,したがって職業別のサブカルチャーとは異なった組織ユニットに対する関心も高まっている。これらの組織ユニットは最近マクロシステムと呼ばれることが多くなっており,したがってこれらのユニットにはマクロカルチャーが備わっていると解釈できる。

概念的アプローチ
私のアプローチは観察と臨床にもとづいており,学問的知識と私自身の人生の経験の両方に依存している。学問的な知識が有効であるためには,その知識が経験を解説し,またわれわれを惑わせたり,興奮させたりする,われわれの観察したことに対して説明を提供できなければならない。もし経験が,これまでの研究や理論化によって解明されたことによって説明できなければ,学者または実務家は自分自身で概念を生みだし,既存の理論を補強することが求められる。これからわれわれが理解するように,文化の領域では,新しい概念を生む数多くの機会が待ち受けている。というのはグループ,組織,職業の領域で,新しい理論を生むために文化が十分に研究されてきたとは言えないからだ。文化は今なお発展途上の領域なのだ。文化を学ぶものにとってこのアプローチから求められること,文化について文献を読むことに加え,フィールドに出て,文化を経験すべきことなのだ。いろいろな組織を訪れ,自分自身で観察できることをしっかり理解すべきなのだ。

文化は,「現在,そこに存在する」ダイナミックな現象であると同時に,さまざまな方法でわれわれに影響を及ぼす,堅固な基礎的構造とも言える。文化は,われわれとほかの人たちとの接触によってつねに再編成され,新たに生みだされ,またわれわれ自身の行動によって形作られている。われわれが,ほかの人たちの行動や価値観の形成に影響を及ぼしているときには,それを「リーダーシップ」と認識し,新しい文化の形成のための条件を生みだしているととらえることができる。同時に,文化は安定と不変を意味する。われわれが一定の社会,組織,職業においていかに考え,感じ,行動するかは,われわれのさまざまな社会化の経験から教えられ,さらに「社会秩序」を守る方法としてわれわれに指針を提供する。社会秩序に対する「ルール」は,われわれに社会的行動を予測させ,ほかの人と協調し,さらに自分たちの行動に意味を見いだすことを可能にする。また文化はわれわれに言語を提供し,さらにその言語はわれわれの日常生活に意義をもたらす。文化は,守るべきルールとともに生き,われわれが頼ることによって存続している社会秩序の基盤と考えることもできる。全体社会といったマクロシステムにおける文化(マクロカルチャー)は,それが存在してきた時間の長さ故に,より安定し,秩序立ったものになっている。組織文化のほうは,その誕生以降の実際の歴史に伴う時間の長さや感情的思い入れの強さに応じて,さまざまに変化する。職業文化(サブカルチャー)は,医療のように高度に構造化が進んだものから,マネジメントのように比較的流動性の高いものまでさまざまな形を示す。マイクロカルチャーはもっとも変動が激しく,ダイナミックなものになる。したがって文化の形成と進化を研究する際に,特別な機会を提供してくれるのだ。

文化とリーダーシップの関係は,組織文化とマイクロカルチャーにもっとも明確に現われる。このようなシステムでわれわれが文化と呼ぶ事柄は,創設者やリーダーがグループに対して導入し,うまくいったことを定着させてきた結果である。この意味で,文化は究極的にはリーダーによって創成され,定着が促され,育てられ,最終的には操作されるものなのだ。同時にそのグループが成熟してくると,グループメンバーに対して制約条件と安定をもたらし,さらに構造と意味をもたらす。ここでは最終的には,どの種のリーダーシップが将来において許容されるのかを特定する段階にまで達する。もし文化に含まれる諸要件が機能しなくなったら,リーダーにはその文化を乗り越えることが求められ,計画的な文化変容プログラムを実施して,通常の進化プロセスをスピードアップすることが求められる。このような文化創造とマネジメントのダイナミックなプロセスこそリーダーシップの真髄となるものであり,リーダーシップと文化は同じコインの裏表であるという理解を促す。本書ではリーダーシップについて書かれた文献のレビューを主な目的とはしていない。しかし文化とリーダーシップの関連性については各章で指摘され,とくに第3部,第4部,第5部で詳しく検討される。

この第4版を読み進むうちに,読者は基本的な概念そのものは以前の版とあまり変化していないことに気づくだろう。しかしその内容が提示され,分析されるコンテクストは過去7年間に著しく変化しており,職業サブカルチャー,国および民族のマクロカルチャー,そのほかのさまざまなマイクロカルチャーを包含して,その領域を拡大している状況を反映して,組織文化には新たな内容が付加されている。組織文化の領域が拡大していることの理由はいくつか挙げられる(表Ⅰ-2参照)。第1に,この世界が機能することに貢献している職業や教育のすべてがさらに技術中心に高度化しており,その職業文化は高度に区分化され,その結果これまでと異なった言語や概念を使うところまで至っている。この直接的な影響は,組織内に存在するさまざまなサブカルチャー間の協和を図ることが益々難しくなっているという点に明確に示されている。第2の理由としては,情報技術の爆発的な急増とそれに続く全地球規模のネットワーキングが,いかに仕事を定義し,仕事を遂行し,組織の境界線を設定するかについての本質を変えつつあるという点が挙げられる。もし文化の成長と進化が人間の交流の結果であり,人間の交流が基本的な変化を続けているとすれば,文化の創成や進化もわれわれの知らないうちに変化を遂げていることは間違いない。

第3に,私企業と公共機関の両方でグローバル化が進んでおり,多くのマクロカルチャーを包含する仕事を多元的文化に含むグループ(multicultural group)が遂行するようになっている。合併企業あるいはジョイントベンチャーといった組織,これらの組織はいくつかのマクロカルチャーの枠を越えて組織化されている。この種の組織がいかに機能しはじめるのかを理解するためには,われわれはマイクロシステム内のダイナミクス(力学)についてさらにすぐれた理解を進めることが求められている。たとえば途上国の危険地域に国連の医療ティームといった,多国籍の,さまざまな職業に就くプロジェクトティームを送り込む際に,いかに必要な訓練を迅速に実施すべきかについて,なお限られた理解しか得られていない。しかし組織文化に関する研究によって,いかにその種の訓練をとらえ,実施すべきかについてのガイドラインが導きだされてくるはずである。

第4に,地球の温暖化,気候の大変化,さらに接続可能性を巡る危機が,これまであきらかになった文化のすべてのレベルに影響を及ぼしている。これらの現象は,グローバルな課題に密接に関連するミッションを備えた,全く新しい組織のグループに影響を及ぼすに留まらず,そのほかの私企業にも,そのコアのミッションの考え方にこの環境に対する責任をいかに導入していくべきなのか,また企業文化にいかにこの責任を表明すべきかについて十分に考慮することを求めはじめている。

以上を要約すると,あるレベルの文化を理解するためには,すべてのレベルの文化についての一定の理解が求められるということである。国,民族,職業,組織,さらにマイクロシステムに伴う課題は相互に関連し合っている。第1章では,組織文化にフォーカスし,加えて何故より広範な文化領域に属する,この組織文化の理解が重要であるのかを例示する。第2章では,文化に関する一般的な概念が構造の視点から分析される。つまり文化とは,さまざまな観察可能なレベルで機能している複雑な現象であることを解説する。第3章では,ふたつの具体的な組織の文化を描写することによってこの複雑性を説明し,第4章では,これらの組織がマクロカルチャーに占めるロケーション(所在地)によっていかに影響を受けるかを示す。
(つづく)平林良人

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