基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 75 | テクノファ

投稿日:2021年6月18日 更新日:

横山哲夫先生の思想の系譜

横山哲夫先生が2019年6月に逝去されて今年は3回忌になります。テクノファでは2004年に先生のご指導でキャリアコンサルタント養成講座を立ち上げさせていただいて以来、今年まで実に16年もの間先生の思想に基づいたキャリアコンサルタント養成講座を開催し続けさせていただきました。

横山哲夫先生はモービル石油という企業の人事部長をお勤めになる傍ら、組織において個人が如何に自立するか、組織において如何に自己実現を図るか生涯を通じて研究し、又実践をされてきた方です。
横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるという鋭い分析のもと数多くの研究成果を出されてきております。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。
本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生はシャインが2006,7年頃(記憶があいまいですみません)来日した時の立役者(JCC:日本キャリア・カウンセリング研究会が招待した、彼と娘さんが来日した)で、東京、大阪でシャインが講演をする際にいつも同席し、そればかりか新幹線で京都案内までされて、ごくごく親しく彼の人柄に触れた唯一の日本人でありました。

横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索していきたいと思います。
<ここより翻訳:2010年シャイン著>
信奉される市場と価値観
グループによるすべての学習は究極的には,あるひとりの人が最初に作った信条や価値感を反映する。つまり実際にどうあるかではなく,どうあるべきかに関するその人物の感覚が反映されるからだ。グループが最近形成されたり,あるいはグループが新しいタスク,課題,問題に直面した時には,それに対応するために提案される解決策には,ある個人の「何が正しく,何が正しくないか」,「何が成功し,何が成功しないか」に関する前提認識が反映される。ここで皆を説得し,その問題に対してある解決法を採択するようにグループに影響を及ぼすことができる人物がのちにリーダーまたは創始者として認知されるのだ。しかしまだこの段階ではそのグループは,グループとして共有された知識を築いていたとは言い難い。何故なら,そのグループがどう行動すべきかに関して共通のアクションを取ったとは言えないからだ。何が提案されたにせよ,それはリーダーが望んでいることが認識されたに留まる。グループが共同のアクションを取り,そのアクションの成果を一緒に評価するまで,そのリーダーが望んだことが正しいものであったかどうかを判断する共通のベースが築かれたとは言えないのだ。

たとえばある発足間もない企業で売れ行きが落ち始めると,そのマネジャーは「広告は増やさなければならない」と主張するかも知れない。というのは彼女は広告はつねに売れ行きを増大させるべきという信念を抱いているからだ。これまでこのような状況を経験したことのない販売グループは,彼女の発言を彼女の信念と価値観の表明と受け止める。つまり「彼女は,われわれが困難に陥ったときには広告を増やせばよいと考えているのだ」というメッセージとして受け取る。したがって,このリーダーからの提案には何のステータス(権威)も認められておらず,質問し,議論し,チャレンジし,テストされるべき対象だという価値しか認められていない。

しかしそのマネジャーが自分の信念にもとづいて行動する方向にグループを説得し,その解決策が成功し,さらにグループがその成功について共通認識を抱くようになると,「広告が効果的だ」という共通的に認識された価値観が徐々に浸透しはじめる。まず共有される価値観または信条として,最終的には共有される前提認識として定着する(そのアクションが繰り返し成功に結びついたとき)。もしこの変換プロセスが回転しはじめると,グループのメンバーたちは,彼らが当初は提案に疑問を抱いており,提案されたアクションの数々は単に論議と挑戦の対象にすぎないと考えていた事実を忘れ去る。

すべての信条や価値観が上記の変換プロセスを経過するわけではない。まずある価値観にもとづいた解決案がつねに問題なく機能するとは限らない。実際にテストされ,グループの問題の解決につねに貢献した信条と価値観のみが基本的原則に転換されるのだ。第2に価値観の一部の領域,つまり環境に対しコントロールの及びにくい分野に対応する領域,または審美的な,道徳的なことがらに対応する領域はテストすることが全く不可能であることも多い。第3に,その組織の戦略や目標が信奉された信念のカテゴリーに属しているかも知れない。言い換えると,メンバーの全員一致のコンセンサス以外,これを検証する方法が存在しない場合だ。つまり業績と戦略目標との間の関係が証明しにくいのだ。

社会的認定(social validation)とは,ある種の信条や価値観がグループの共有された社会的経験によってのみ確認できる,ということを意味する。たとえばいかなる文化といえども,自分たちの宗教や道徳システムが,ほかの文化の宗教や道徳システムよりすぐれていることを証明することはできない。しかしもしそのメンバーたちがお互いの信念や価値観を補強し合っているときには,これらが当たり前のものとして認められる。またその種の信条や価値観を受けいれない人たちは「除名」,あるいはグループからの追放のリスクを背負うこととなる。ということは,信条や価値観が機能するか否かは,そのメンバーたちがそれらに従ったときに,彼らがいかに心地よく,かつ不安を感じずにすむか,によってテストされるのだ。

この領域では,当初,予言者,創始者,リーダーによって広められ,さらにグループの機能の重要な側面で不確実性を減らすことに「貢献」する確かな信条と価値観をそのグループは学び取る。またこれらの信条や価値観がグループメンバーに意味と安心を提供し続けると,これらはたとえ実際の業績とは相関していない場合でも,疑問を差しはさむ余地のない基本的前提認識(assumption)に昇格する。つまり信奉される信念や道徳的/倫理的ルールはつねに意識され,明確に表現される。何故ならこれらは,グループメンバーをガイドする規範的,道徳的機能を担っているからである。これらはメンバーたちが重要な出来事にどう対応するか,新人たちにどのように振る舞うべきかを教えるときにガイドとして機能する。これらの信条や価値観は組織の理念(イデオロギー)や哲学として定着することも多い。さらにこれらの理念や哲学は,本来的にコントロール不可能な不確実性や困難な出来事と対応するときにもガイドとして貢献する。

もしあるグループに対して意味と安心を提供している,信条や価値観が効果的なパフォーマンスと関連する信条や価値観と合致していないと,その組織で信奉されている価値観は,実際に観察された行動ではなく,望まれている行動を反映することが多くなる(Argyris and Schon,1978,1996)。たとえば企業の理念では,その企業が人材を尊重し,さらにその製品のクオリティーに高い基準を設けていると言いながら,実際の成果は言っていることとかなり異なっているケースにぶつかる。米国企業ではティームワークを標榜することが一般的であるけれども,実際には個人の競争心のほうを高く評価している。ヒューレット・パッカード社(HP)は,コンセンサスマネジメントとティームワークを標榜する「HPウェイ」を強く主張しているけれども,実際にそのコンピューター部門では,エンジニアたちは彼らが昇進を勝ち取るためには,競争心が旺盛で,政治的に動くことが重要だと認識している(Packerd,1995)。

したがって,信奉された信条や価値観を分析する際には,すぐれた業績を導く底を流れる信条と合致したもの,その組織の理念や哲学の一部を占めるもの,逆に,単に将来に対する言い訳または願望にすぎないものをしっかり区別しておかなければならない。多くの場合,信奉された信条や価値観がきわめて抽象的なものであり,お互いに矛盾することもあり得る。たとえばある企業が,株主,従業員,カスタマーには均等に関心を寄せていると宣言したり,最高のクオリティーと最小のコストの両方を主張したりするケースである。信奉する信条と価値観は,さまざまな行動について説明しがたい部分を残すことも多い。この結果われわれは,文化の一部は理解できても,文化全体を把握したと感ずることができないのだ。より深いレベルの理解に達するためには,基本的な前提認識の領域をさらに十分に理解することが求められる。
(つづく)平林良人

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