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実践編・応用編

  ドイツの労働施策 7

投稿日:2024年10月14日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。

ドイツの労働施策についての最終回です。日本とドイツは基本的価値を共有し、G7等において国際問題に対し強調して取り組むパートナーです。また、ドイツは日本にとって欧州最大の貿易相手国であり、21世紀に入って日独関係はますます重要なものとなっています。政治経済面での協力はもちろん、文化・学術分野でも市民レベルでの活動が活発に行なわれています。

■仕事と家庭を両立するための施策
●両親手当・両親休暇
〇19歳両親手当(Elterngeld)
子どもの出生前の所得を一定程度保障するための所得比例方式の手当であり、「連邦両親手当及び両親休暇法」により定められている。なお2021年には、育児と仕事の両立と早期の職場復帰を後押しする目的で、同法の改正が成立した。支給要件を緩和し、より柔軟性を持たせた新規定が同年9月1日から適用されている。

・支給要件
①ドイツ国内に居住していること、②自分の子と同一世帯で生活していること、③子の世話および養育を自ら行っていること、④就業していない、もしくは就業時間が週32 時間以下であること。(ただし④については、出生日が2021年8月末までの場合は週30時間以下。)
・支給額
子の出生前1年間の平均月額所得(手取り)の67%が支給される。支給率は、所得が高い場合は最低65%まで引き下げられ、所得が低い場合は最高100%まで引き上げられる。最低保障額は月額300ユーロで、上限額は月額1,800ユーロ。
・支給期間
子の出生の日から月齢14か月までの間、両親に対して支給される。両親の一方(母親又は父親)は最大で12か月分を請求できるが、両親ともに2か月以上子育てに参加し、就労所得の減少が生じる場合は、2か月分をこれに加え、2人合わせて最大14か月分を請求することができる。両親が交替で受給することも、同時に受給することも可能である。また、一人親の場合は、最初から14か月分を請求できる。なお2021年9月以降の新規定により、子どもが早産で生まれた場合、最大で4か月支給期間が延長される。2021年の同手当の平均受給期間(推計)は男性で3.7か月,女性で14.6か月である。また,2021年の両親手当受給者のうち、父親の占める割合は25.3%であった。

〇両親手当の拡充
仕事への早期復帰を希望する親のインセンティブを高める目的で、2015年に法改正が行われ、時短勤務をしても両親手当を満額受け取れる制度が導入された。時短勤務で両親手当の額が減るかわりに、受給期間が延長される仕組みである。
・両親手当プラス
時短勤務をする場合、両親手当の受給月額を通常の半額にし、かわりに受給期間を2倍に(通常14か月までの受給期間を28か月まで)延長できる「両親手当プラス」制度が導入された。
・パートナーシップボーナス
両親が同時に2~4か月間連続で時短勤務(週24時間以上32時間以下)をする場合、両親ともにパートナーシップボーナスとして、両親手当プラス(通常の両親手当の半額)2~4か月分を追加受給することができる。2021年8月末までは、両親が同時に4か月連続で時短勤務(週25時間以上30時間以下)をする場合、その4か月分が追加受給できる仕組みであったが、改正後の新規定では週労働時間が拡大されたほか、2~4か月の間で支給期間を変更できるなど、より柔軟性の高い制度となった。

〇両親休暇(Elternzeit)
子と同一世帯で生活し、その世話や養育を行う被用者は、子が3歳になるまで36か月間の「両親休暇」と呼ばれる育児休暇を事業主へ請求することができる。36か月のうち最大24か月までは、子が満3歳から8歳未満までの期間に持ち越すこともできる。両親休暇の取得は、両親が同時にまたは時期をずらして、あるいは一方の親が単独で取得するといった、家庭のニーズに応じた選択が可能である。両親休暇を取得する場合は、遅くとも休暇開始の7週間前までに、書面で事業主に申請しなければならない。休暇開始の8週間前から休暇終了までの期間は、解雇が禁止されている。また両親休暇の期間中は、週32時間までの労働が可能である。従業員が16人以上の事業所で、6か月を超えて勤続した被用者は、7週間前までに書面で事業主に申請すれば、両親休暇中の最低2か月間、時短勤務(週15時間以上32時間以下)をすることができる。
(出典)厚生労働省 2022年 海外情勢報告

●家族の介護のための休暇
2008年に「介護時間法」、2012年に「家族介護時間法」が施行されました。さらに2015年、仕事と介護の両立を可能にする柔軟な働き方を目指して、「家族と介護と仕事のより良い調和のための法律」が施行されました。主な内容は以下の通りです。
〇最長10日間までの短期休業制度
緊急に介護を要する事態が発生した場合、労働者は最長10日間の短期休業を事業主(事業規模の要件なし)に請求できます。休業期間中は介護支援手当として、従前の手取り賃金の9割が支給されます(支給額に上限あり)。
〇最長6か月間の介護休業制度
従業員16人以上の事業所で働く労働者は、一定期間の介護を要する事態が発生した場合、最長6か月間の休業か部分休業を事業主に請求できます。休業期間中、当該労働者は連邦の無利子貸付を利用できます。
〇最長24か月間の労働時間短縮制度
従業員26人以上の事業所で働く労働者は、より長期の介護を要する事態が発生した場合、最長24か月間、労働時間の週15時間までの短縮を事業主に請求できます。労働時間短縮期間中、当該労働者は連邦の無利子貸付を利用できます。

■サプライチェーンと人権を巡る施策
2021年6月に連邦議会で可決し、次いで連邦参議院の承認を得た「サプライチェーン・デューデリジェンス法」により、ドイツに拠点を置く一定規模以上の企業に対し、国内外のサプライチェーンにおける人権や環境に関するデューデリジェンスの実施が2023年1月から義務づけられます。「人権デューデリジェンス」では、強制労働や児童労働、ハラスメント等の「人権侵害リスク」を企業が特定し、予防・軽減策をとることが求められます。また、「環境デューデリジェンス」では、水質汚濁や大気汚染等の「環境汚染リスク」を企業が特定し、予防軽減策を探るよう求められます。デューデリジェンスの遵守義務に反した場合は罰金が科され、公共入札から除外される可能性もあります。

◆労使関係施策
■労使団体
●労働組合の組織率
労働組合の組織率は、長期的に減少傾向が続いています。

  • 労働者団体
    1949年に設立された「ドイツ労働総同盟」は、組合員数約572万9千人(2021年)のドイツ最大かつ世界でも最大規模の労働組合です。傘下にIGメタル(金属産業労働組合)、Ver.di(統一サービス産業労働組合)等8つの産業別組合を抱えており、ITUC(国際労働組合総連合)にも加盟しています。
  • 使用者団体
    ドイツ使用者団体連盟は全国組織の使用者団体であり、連邦レベルの47の産業別使用者団体と州レベルの14の使用者団体を擁しています。

■労働争議の発生件数
労働争議が発生および終了した場合、事業主は管轄の雇用機関に速やかに届け出る必要があります。なお労働争議の発生件数は、年によって大きな変動が見られます。
■協約単一法
ドイツでは伝統的に「1事業所1協約」が原則とされてきましたが、2010年、ドイツ連邦労働裁判所の「一事業所内に異なった労働協約が存在してもよい」とする判決により、協約単一性の原則が事実上放棄されました。こうした中、協約単一性の原則を取り戻すべく、2015年に「協約単一法」が施行され、事業所内に複数の労働協約の衝突が生じている場合、より多くの労働者に適用されている協約のみを適用することとされました。事業所内に多数決主義を導入した同法の施行により、「1事業所1協約」原則が復活することとなりました。
■企業経営における共同決定制度
労働者が企業経営の意思決定に参加する共同決定制度には、事業所組織法に基づく「事業所委員会」と、共同決定法に基づく「監査役会」があります。

  • 事業所委員会による共同決定
    選挙権(18歳以上)のある常勤職員が5人以上おり、そのうちの3人が被選挙権(18歳以上で勤続6か月以上)を有する場合は、その事業所において事業所委員会を設置することができます。事業所委員会は全従業員を代表し、従業員の利益のために、操業時間短縮や解雇等の重要事項について、使用者と協議し共同決定する権利を有します(ただし、法律又は労働協約上の規制がない場合に限ります)。連邦政府は2021年、事業所委員会の設置を後押しし、コロナ後も見据えた業務デジタル化を促進するため、設置要件の緩和やデジタル化関連規定を盛り込んだ「事業所委員会現代化法」を制定し、同年6月に施行されました。
  • 監査役会による共同決定
    従業員が2,000人超の大規模企業には、取締役の任免など企業経営の重要事項を決定する権限を持つ監査役会が設置されています。監査役会は、同数の株主代表と従業員代表(従業員及び労働組合から選出)により構成され、その人数は、従業員数の規模により、各6人(従業員数1万人以下)、各8人(同2万人以下)又は各10人(同2万人超)となっています。

◆最近の動向
■インフレ対策
ロシアのウクライナ侵略に伴う資源高や供給不安でインフレが加速する中、連邦政府は国民の負担軽減を図るため、大規模な財政措置を決定しました。労働関連の主な措置は以下の通りです。
・就業者、年金受給者を対象に48,000円の給付金(エネルギー手当)を支給
・学生や低所得世帯に対する給付金の支給
・暖房費補助金支給
・在宅勤務控除の恒久化と、上限額の引き上げ(年間96,000円から201,000円へ)
・遠距離通勤者に対する通勤費控除の引き上げ
(つづく)Y.H

-実践編・応用編

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