キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

実践編・応用編

製造業の現状と課題 日本企業にしか存在しない“経営企画部門”

投稿日:2025年8月28日 更新日:

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。

前回に続き、経済産業省製造産業局が2024年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課題について今後の政策の方向性」からスライド17ページ「日本企業にしか存在しない“経営企画部門”」について、背景・構造・課題・国際比較の視点から解説をします。

(出典)経済産業省 016_04_00.pdf

◆ 「経営企画部門」に対する問題提起の背景
このスライドは、**日本企業特有の「経営企画部門」**が持つ構造的な問題と非効率性を指摘するものです。多くの日本企業では、事業戦略・予算編成・計数管理・情報収集といった重要な経営機能が「経営企画部」や「財務部門」として独立的に運営されており、部門横断的な統合が弱いままに運用されていることが指摘されています。
また、この構造は急激なグローバル展開に対応しにくく、情報の分断、意志決定の遅延、責任の所在の不明確化など、多くの「組織的非効率性」の温床となっているとされています。

◆ 日本型「経営企画部式経営」の構造と問題点
図の左側では、「経営企画部(全社)」と「財務部門(全社)」という2つの管理部門が、企業全体の戦略・予算・会計・情報をそれぞれ分担して担っている構造が示されています。
この構造の特徴:
① 経営企画部門が戦略立案やモニタリングを担い、
② 財務部門が予算・予実管理・資金計画などを担当するが、
③ その間を結ぶシステムや言語の統一が進んでおらず、情報が分断されている。

さらに、事業部や現場では、これら2つの部門に対応するために企画部門と財務部門が並存しており、サイロ化した組織構造となっています。その結果、
〇情報が断片化され、全社最適ではなく部分最適に陥る
〇意思決定に必要な統合的視点が得られない
〇「全社経営」の俯瞰的議論が最終工程にしか現れない
という課題が浮き彫りになります。

非効率性の具体例:
〇予算編成が「積み上げ方式」で行われ、戦略的優先順位や資源再配分の議論が乏しい
〇各部署が経営企画・財務の両方に報告しなければならず、調整コストが増大
〇現場主導ではなく、**“調整のための調整”**が組織内で頻繁に発生する

◆ 「バケツリレー式経営」の問題構造(右図)
図の右側に描かれているのは、情報や意思決定プロセスがバケツリレーのように段階的に伝達される構造です。情報が縦方向(階層)にのみ流れるため、経営の意思決定に必要な情報が
〇必要なタイミングで
〇必要な精度で
〇経営層に届かない
という状況が頻発します。

この構造の問題点:
① 情報収集が人手主体・非デジタルであり、スピード・正確性に欠ける
② 意思決定のプロセスが属人的で、組織知としての蓄積がない
③ 各部門が自分の業務だけを最適化しようとし、全社的視野が持てない

このようなバケツリレー構造では、全社戦略の一貫性が保てず、環境変化に迅速に対応できません。また、部門間での目的や評価軸がずれることで、経営資源の重複や無駄な対立も起こりやすいのが特徴です。

◆ CxOファンクションの曖昧さ・混在
右下に指摘されている通り、グローバル企業においては、たとえば「CFO(最高財務責任者)」が戦略的資源配分の中心を担い、デジタル・人材・マーケティングなども明確にCxOレベルで役割分担が決まっているのが一般的です。
しかし日本企業では、CxO職が設けられていても、実質的な権限と責任の所在が曖昧で、「部門に聞かないと分からない」状態になっているケースが多く見られます。その結果、CxOの本来の役割(戦略執行・ガバナンス・リスク管理)が果たされず、個別最適な執行だけが進む形骸的な役割になっていることが指摘されています。

◆ 全体のまとめと問題提起
このスライドが伝えたい核心は、「経営企画部門」という名称そのものの是非ではなく、それを取り巻く組織構造と意思決定プロセスが日本企業特有の“連邦型・調整重視型”であり、全社最適・スピード・機動性に欠けるという点にあります。

つまり、
〇戦略と予算の一体化ができていない
〇部門横断のガバナンスが効かない
〇デジタルによる情報統合が遅れている
〇意思決定が属人的・間接的・遅延型である
といった一連の問題が、「経営企画部門」の存在形態に象徴的に現れているのです。
(つづく)Y.H

-実践編・応用編

執筆者:

関連記事

海外進出日本企業で働く人々_スウェーデン_社会保障施策 3

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 スウェーデンの社会保障施策の最終回です。スウェーデンは、「北欧の中の日本」と言われるほど両国の国民性には幾つかの共通点があります。例えば、几帳面で真面目・シャイな我慢強い性格のところです。また、グループ内の和の尊重や謙虚さも日本人に通じるところがあります。社会保障制度が手厚い北欧諸国の中でも、スウェーデンは特に育児に対する支援が手厚く、子供の大学までの教育費や18歳までの医療費が無料で、育児休暇などの制度も充実しています。スウェーデンに進出している日系企業の拠点数は、約160社です。またコミューンとは、日本の市町村に当たるものです …

キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業

キャリアコンサルティング協議会の、キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業報告書(令和2年)の、スーパービジョンのモデル実施及びアンケート・実施報告書の分析の部分の、キャリアコンサルティングの効果に係るアンケート(スーパーバイジー:キャリアコンサルタント)の結果から記述します。出典 R2年キャリコン実践力強化調査報告_cs5.indd 〇キャリアコンサルティングの効果に係るアンケート(スーパーバイジー:キャリアコンサルタント)の結果 スーパービジョンのモデル実施に係るアンケートに基づき、スーパーバイジー(キャリアコンサルタント)の回答に関して結果を示す。 本集計結果を理解する上で …

日本における文化芸術立国の実現3

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 前回に続き、文化芸術立国についてお話します。世界各国は、近年文化芸術が有する創造性を社会の活性化に生かし、また、文化芸術を発信することによって、国の魅力を高めようとする戦略が見られます。文化庁においても「クール・ジャパン」とも称される現代の日本の文化のみならず、古くからの優れた伝統文化と併せて魅力ある日本の姿を発信することにより、世界における日本文化への理解を深めるための施策を推進しています ◆博物館・劇場等の振興 ●博物館の振興 ○博物館法改正と博物館の活性化 改正博物館法が令和5年4月、約70年ぶりの大幅な見直しとなり施行され …

「キャリア・カウンセラー」からの近況や情報

活躍している「キャリア・カウンセラー」からの近況や情報などを発信いたします。今回の便りはキャリア・カウンセラー”鈴木秀一さん”です。 ================================================ 身を滅ぼす罠としての「プライド」 今回は「プライド」について考えてみたい。(※:あくまで個人や団体に向けた非難では無いことを予め断わっておく。) 先日、自動車メーカーである日産とホンダの経営統合に向けた協議が決裂し、破談になったというニュースが流れた。ホンダが日産に対して提案した「日産が子会社として統合を受け入れるのなら・・云々」との文言につ …

日本のスポーツ立国の実現

キャリアコンサルタントが知っていると有益な情報をお伝えします。 スポーツは、青少年の健全育成や、地域社会の再生、心身の健康の保持増進、社会・経済の活力の創造、我が国の国際的地位の向上など、国民生活において、多面にわたる役割を果たすものとされています。今回は、スポーツ立国の実現についてお話します。 ◆スポーツを通じた健康増進 我が国の国民医療費が年間で40兆円を超える中、運動・スポーツに取り組むことによる効果として、健康増進、健康寿命の延伸が注目されています。スポーツを通じた健康増進を図るためには、国民全体のスポーツへの参画を促進するとともに、年齢・性別・障害の有無等にかかわらず、国民の誰もが、 …