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前回に続き、経済産業省製造産業局が2024年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課題について今後の政策の方向性」からスライド17ページ「日本企業にしか存在しない“経営企画部門”」について、背景・構造・課題・国際比較の視点から解説をします。
(出典)経済産業省 016_04_00.pdf
◆ 「経営企画部門」に対する問題提起の背景
このスライドは、**日本企業特有の「経営企画部門」**が持つ構造的な問題と非効率性を指摘するものです。多くの日本企業では、事業戦略・予算編成・計数管理・情報収集といった重要な経営機能が「経営企画部」や「財務部門」として独立的に運営されており、部門横断的な統合が弱いままに運用されていることが指摘されています。
また、この構造は急激なグローバル展開に対応しにくく、情報の分断、意志決定の遅延、責任の所在の不明確化など、多くの「組織的非効率性」の温床となっているとされています。
◆ 日本型「経営企画部式経営」の構造と問題点
図の左側では、「経営企画部(全社)」と「財務部門(全社)」という2つの管理部門が、企業全体の戦略・予算・会計・情報をそれぞれ分担して担っている構造が示されています。
この構造の特徴:
① 経営企画部門が戦略立案やモニタリングを担い、
② 財務部門が予算・予実管理・資金計画などを担当するが、
③ その間を結ぶシステムや言語の統一が進んでおらず、情報が分断されている。
さらに、事業部や現場では、これら2つの部門に対応するために企画部門と財務部門が並存しており、サイロ化した組織構造となっています。その結果、
〇情報が断片化され、全社最適ではなく部分最適に陥る
〇意思決定に必要な統合的視点が得られない
〇「全社経営」の俯瞰的議論が最終工程にしか現れない
という課題が浮き彫りになります。
非効率性の具体例:
〇予算編成が「積み上げ方式」で行われ、戦略的優先順位や資源再配分の議論が乏しい
〇各部署が経営企画・財務の両方に報告しなければならず、調整コストが増大
〇現場主導ではなく、**“調整のための調整”**が組織内で頻繁に発生する
◆ 「バケツリレー式経営」の問題構造(右図)
図の右側に描かれているのは、情報や意思決定プロセスがバケツリレーのように段階的に伝達される構造です。情報が縦方向(階層)にのみ流れるため、経営の意思決定に必要な情報が
〇必要なタイミングで
〇必要な精度で
〇経営層に届かない
という状況が頻発します。
この構造の問題点:
① 情報収集が人手主体・非デジタルであり、スピード・正確性に欠ける
② 意思決定のプロセスが属人的で、組織知としての蓄積がない
③ 各部門が自分の業務だけを最適化しようとし、全社的視野が持てない
このようなバケツリレー構造では、全社戦略の一貫性が保てず、環境変化に迅速に対応できません。また、部門間での目的や評価軸がずれることで、経営資源の重複や無駄な対立も起こりやすいのが特徴です。
◆ CxOファンクションの曖昧さ・混在
右下に指摘されている通り、グローバル企業においては、たとえば「CFO(最高財務責任者)」が戦略的資源配分の中心を担い、デジタル・人材・マーケティングなども明確にCxOレベルで役割分担が決まっているのが一般的です。
しかし日本企業では、CxO職が設けられていても、実質的な権限と責任の所在が曖昧で、「部門に聞かないと分からない」状態になっているケースが多く見られます。その結果、CxOの本来の役割(戦略執行・ガバナンス・リスク管理)が果たされず、個別最適な執行だけが進む形骸的な役割になっていることが指摘されています。
◆ 全体のまとめと問題提起
このスライドが伝えたい核心は、「経営企画部門」という名称そのものの是非ではなく、それを取り巻く組織構造と意思決定プロセスが日本企業特有の“連邦型・調整重視型”であり、全社最適・スピード・機動性に欠けるという点にあります。
つまり、
〇戦略と予算の一体化ができていない
〇部門横断のガバナンスが効かない
〇デジタルによる情報統合が遅れている
〇意思決定が属人的・間接的・遅延型である
といった一連の問題が、「経営企画部門」の存在形態に象徴的に現れているのです。
(つづく)Y.H