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我が国の私立学校は、建学の精神に基づく教育方針に従い、それぞれが創意工夫した教育を実践し、個性豊かな、多種多様な人材を育成しています。今回は、私立学校の振興についてお話します。
◆学校法人制度の改善
学校法人制度について定める私立学校法は、私立学校の運営の自主性を重視するとともに、幅広い意見の反映を通じた公共性の高揚を目的とするものです。これまで、累次の私立学校法改正により、時代の要請に合わせてガバナンスの強化が図られてきたところ、令和5年4月には、「執行と監視・監督の役割の明確化・分離」を基本的な考え方としつつ、理事・理事会、監事及び評議員・評議員会の各権限を明確に整理し、建設的な協働と相互けん制の確立等 を目指した私立学校法の一部を改正する法律が成立しました。文部科学省においては、令和7年4月の新制度施行に向 けて、学校法人や都道府県の理解を促進し、新制度への円滑な移行に資するよう、積極的な広報等に努めるなど、引き続き着実な準備を進めていきます。
◆私立学校に対する助成
●私立大学等に対する助成
文部科学省では、昭和50年に制定された私立学校振興助成法の趣旨に基づき、①教育条件の維持及び向上、②学生等の修学上の経済的負担の軽減、③経営の健全性の向上を目的として、私立の大学、短期大学、高等専門学校における教育研究に必要な経常的経費(教職員の給与費、教育研究経費等)に対して補助を行っています。令和5年度予算では、約2,976億円を計上しています。この補助には、大きく分けて「一般補助」と「特別補助」があり、一般補助の配分に当たっては、①教育条件、②財政状況、③情報公開、④教育の質の客観的な指標に基づき補助金額を増減 し、効果的・効率的な配分を行っています。特別補助は、自らの特色を生かして改革に取り組む大学等を重点的に支援することとし、令和5年度には、特色ある教育研究の推進や、地域社会への貢献、研究の社会実装の推進など、特色・強みや役割の明確化・伸長に向けた改革に全学的・組織的に取り組む大学等を重点的に支援する「私立大学等改革総合支援事業」や、大学院生、優秀な若手・ 女性研究者、子育て世代の研究者の支援等を行っています。(出典)文部科学省 令和5年版 文部科学白書
●私立高等学校等に対する助成
私立の高等学校、中学校、小学校、幼稚園などの運営のために必要となる経常的経費については、都道府県が助成 しています。文部科学省は、初等中等教育の全国的水準の維持向上のため、都道府県が行う助成に対して国庫補助を行っています。また、都道府県に対して地方財政措置が講じられています。 令和5年度予算では、約1,020億円の国庫補助金を措置するとともに、地方交付税措置の充実が図られています。国庫補助金では、ICTを活用した教育の推進や外部人材の活用等を進める学校への支援拡充、私立幼稚園における特別な支援が必要な幼児の受入れや預かり保育への支援など、私立学校の特色ある取組を支援しています。
●私立学校の施設・設備等の整備に対する助成
私立学校の施設・設備等の整備に対しても補助を行っています。具体的には、学校施設の耐震化完了に向けた校舎等の耐震改築(建替え)事業及び耐震補強事業や、防災機能強化を更に促進するための非構造部材の落下防止対策等の整備のほか、教育・研究に必要な装置・設備の整備、私立高等学校等における端末更新も含めたICT環境の整備等に対する補助を行っており、令和5年度予算では約90億円、同年度補正予算においても約109億円を計上しました。また、私立学校施設の耐震化を促進するため、日本私立学校振興・共済事業団からの融資を受けて実施される私立学校の耐震改築・改修事業や私立大学病院の建て替え整備事業等について利子助成を行っています。令和5年度予算では約5億円を計上しています。
●私立専修学校に対する助成
文部科学省は、専修学校がその柔軟な制度の下で、社会の多様なニーズに対応した実践的な職業教育、専門的な技術教育等を行う教育機関として発展していくため、様々な施策を実施しています。 具体的には、教育装置・情報処理関係設備の整備、学校 施設や非構造部材の耐震化工事等、専修学校における教育 環境の充実や安全・安心な学校施設の整備に要する経費の一部を補助しています。また、専修学校教員の資質向上を 図るため、一般財団法人職業教育・キャリア教育財団が行 う教員研修事業等に要する経費の一部を補助しています。 さらに、専修学校等が産業界等と協働して、産業界の人材ニーズに対応した専門人材養成をするための教育プログラムの開発・実証等を委託するなど、専修学校教育の一層の振興を図っています。さらに、企業等と密接に連携し、最新の実務の知識・技術・技能を身に付けられる実践的な職業教育に取り組む課程として、文部科学大臣が「職業実践 専門課程」として認定した学科に係る追加的な経費への都道府県補助について、令和4年度から特別交付税措置を講じています。
●学校法人に関する税制上の措置
私立学校を設置する学校法人については、その公益性の 高さに鑑み、私立学校における教育の振興のため、収益事業を行う場合を除いて法人税・事業税等が非課税とされて います。また、収益事業から生ずる所得に係る法人税につ いても、軽減税率が適用されています。さらに、学校法人が自ら直接保育又は教育のために使用する不動産に関しては、不動産取得税・固定資産税・登録免許税が非課税とされているほか、一定の要件を満たした学校法人に対して寄附を行う場合について、所得税の控除が適用されるなど、様々な税制措置が設けられています。また、最近の税制改正においても、私立学校関係の様々な税制措置が認められてきたところであり、令和6年度税制改正では、学校法人が税額控除対象法人となるための実績判定に係る期間について、一定の要件を満たす場合には、5年間から2年間に短縮されることになりました(7年度から12年度の間に行われる申請に限る)。各学校法人においては、これらの税制措置等を積極的に活用して経営基盤の強化を図り、魅力ある教育研を進めることや学生等の経済的負担を軽減することが期待されているところ、文部科学省としても、これらの制度の一層の定着を図るとともに、その活用を促していきます。(出典)文部科学省 令和5年版 文部科学白書
●日本私立学校振興・共済事業団の事業
日本私立学校振興・共済事業団は、私立学校の教育の充実・向上と経営の安定を図るための助成業務、私立学校を設置する学校法人に対する経営等に関する相談業務、及び私立学校教職員の福利厚生を図るための共済業務を総合的に行っています。具体的には、私立学校振興のための助成業務として、文部科学省から私立大学等経常費補助金の交付を受け、私立大学等を設置している学校法人に交付するとともに、私立学校の施設・設備の整備等に必要な資金について、長期・低利の有利な条件で学校法人への貸付けを実施しています。特に耐震改築事業及び耐震改修事業に対しては、文部科学省からの利子助成(私立学校施設高度化推進事業費補助金)により、実質的には通常の融資よりも有利な条件での融資を実施しています。 また、学校法人に対する経営等に関する相談業務としては、私立学校の教育条件や経営に関する情報の収集を行うとともに、学校法人等の依頼に応じて経営相談を実施しています。この業務の一環として、理事長・学長等を対象と した「私学リーダーズセミナー」や将来学校運営の中核を担う若手職員を対象とした「私学スタッフセミナー」を開催しているほか、「専門家人材バンク」を設けて専門知識を有する人材を派遣しています。
●学校法人に対する経営支援
日本私立学校振興・共済事業団の調査による令和5年度 における入学定員の充足状況を見ると、入学定員の8割を満たしている私立大学は445校(74.2%)、私立短期大学は97校(35.1%)であり、入学者が入学定員の半分未満である私立大学は29校(4.8%)、私立短期大学は41校 (14.9%)となっています。また、4年度決算において、学納金、寄附金などの自己収入から人件費、教育研究経費などの支出を差し引いたものがマイナスの学校法人(大学を持つ学校法人)は38.5%となっています。 18歳人口の減少等、学校法人を取り巻く経営環境は全体として厳しい状況が続いており、各学校法人には、経営 基盤の安定のための努力を積極的に行っていくことが求められています。文部科学省では、学校法人の健全な経営の確保に資することを目的として、学校法人運営調査委員による調査を実施し、必要な指導・助言を行っています。また、経営が悪化傾向にある学校法人に対しては、個別に指導・助言を行い、日本私立学校振興・共済事業団と連携の上、学校法人の自主的な経営改善を一層推進するとともに、著しく経営 困難な学校法人に対しては、撤退を含む早期の経営判断を促す指導を実施することとするなど、経営改善に向けた指導の充実を図っています。さらに、学校法人がその自主性及び公共性を十分に発揮できるよう、学校法人の監事を対象とした研修会や、事務局長等を対象とした協議会を開催しています。(出典)文部科学省 令和5年版 文部科学白書
(つづく)Y.H