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実践編・応用編

製造業を巡る現状と課題  CXの進め方

投稿日:2025年11月12日 更新日:

キャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。

前回に続き、経済産業省製造産業局が2024年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課題について今後の政策の方向性」からスライド27ページ「CXの進め方」について、詳細な解説をします。

(出典)経済産業省 016̠04̠00.pdf

◆ 経営資源の可視化と動的再配分によるポートフォリオ最適化
パーパスを共有しコーポレート機能を統合しただけでは、複数事業を抱える企業グループ全体の最適運営は完結しない。肝要なのは、経営資源(ヒト・モノ・カネ・データ)を見える化し、戦略に沿って動的に再配分する仕組みを備えることである。経産省資料は「複数の事業を抱える場合、グループ全社戦略に照らし“コングロマリッド・ディスカウント”を超えて“コングロマリッド・メリット”を発揮できるかという観点でポートフォリオを最適化すべき」と述べ、そのためには経営資源のデジタル可視化と機動的な再配分が可能な仕組みが必須の要件になると指摘する。コングロマリッド・ディスカウントとは、多角化企業(コングロマリット)が個々の事業会社の合計価値より低い評価しか市場から受けられない現象を指し、グループ内部でシナジーが発揮されず非効率な場合に生じる。一方で、的確なポートフォリオマネジメントによって事業間シナジーを創出し、グループ全体の価値を各事業の総和以上に高められれば、それはコングロマリッド・プレミアム(メリット)と呼ばれる状態を生む。経済産業省が提唱するCX戦略は、まさにこの「コングロマリッド・メリット」を引き出す経営を目指すものであり、そのための手段として経営資源の見える化と柔軟な再配分が強調されているのだ。

経営資源のデジタル可視化とは、グループ各社・各部門に散在するヒト・モノ・カネの情報を統合し、リアルタイムで全体像を把握できるようにすることである。これには統合ERPの導入やデータレイクの構築、人材・設備・資本に関するダッシュボードの整備などが含まれる。見える化によって、経営陣は「どの事業にどのリソースがどれだけ投入され、どんな成果を上げているか」を一望できるようになる。その上で重要なのが動的なリソース再配分である。ビジネス環境の変化や事業間の機会発生に応じて、人的資源や資本を機動的に別の事業へ振り向けたり、新規領域へ再投資したりする決断を下せる柔軟性が、強いコーポレートには求められる。従来型の硬直した予算配分や人員配置では、成長事業への集中投資や不振事業の立て直しに迅速に対応できず、結果としてグループ全体の競争力を削ぐ恐れがある。そこで「経営資源をデジタルに可視化し、再配分を機動的に行う」仕組みを整備することで、経営トップはタイムリーかつ事業横断的な資源配分の意思決定を行える。例えば、好調な事業から上がった利益を即座に将来有望な新規事業に再投資したり、遊休人材を必要な部署へ再配置する、といった動きを年次計画に縛られず適宜実行するイメージである。

複数の事業ポートフォリオを持つコングロマリット企業にとって、このダイナミックな資源配分は極めて大きな意味を持つ。第一に、経営資源をグループ内で融通し合うことにより、個々の事業単位では困難な大規模投資やイノベーションを可能にする。グループ内のある事業が生み出したキャッシュフローや、人材育成で蓄えた優秀な次世代リーダー人材を、他の成長分野に投入できれば、グループとしての総合力が高まる。第二に、環境変化への対応力が飛躍的に向上する。市場の需要変化や技術革新が起きた際に、資源配分を素早くシフトできれば、外部環境への適応や戦略転換を機敏に行えるため、競合他社に先駆けて優位に立つことができる。第三に、株主・投資家に対して説得力のある経営が可能となる。可視化・最適化されたポートフォリオ戦略によって「この企業グループは資本と人材を最も価値の出る所に配分できている」と示せれば、市場からの評価(企業価値)も高まりやすい。裏を返せば、旧来型の「○○事業は各事業会社に丸投げ」「余剰資金が遊休資産化」といった状態では市場にコングロマリッド・ディスカウントを招きかねないが、CXの取組みによってそれを払拭しうるのである。

経産省資料のスライドでも、「グループ全社戦略に照らしてポートフォリオを最適化すべき」というメッセージと共に、経営資源配分の機動化が必須要件と強調されている。これは単なるITシステム論ではなく、経営陣が自らポートフォリオ全体を俯瞰して意思決定するマインドセットの改革でもある。パーパスによって統一されたビジョンの下、最適資源配分を追求する姿勢が経営トップから現場まで共有されてこそ、真の“One Company”経営が実現する。言い換えれば、デジタル技術を活用した見える化と経営者の大胆な意思決定が相まって初めて、複数事業体を束ねる企業はその真価を発揮できるのである。

◆ グローバル市場で競争力を高める構造的アプローチの意義
以上述べてきたパーパス駆動型の経営再編モデル(バーチャル・ワンカンパニー戦略とコア機能統合、資源動的配分の仕組み)は、日本企業がグローバル市場で競争力を高めるうえで極めて有効なアプローチと考えられる。その理由を幾つかの観点から整理する。

■ 第一に、経営の機動性(アジリティ)の向上である。グローバル競争の激しい市場においては、環境変化への迅速な対応や先手を打つ戦略転換が勝敗を分ける。従来、日本の大企業は縦割りの組織構造や本社・現場間の調整コストの高さから、意思決定のスピードが欧米企業に比べて遅れがちと言われてきた。しかし、バーチャル・ワンカンパニーの考え方に基づき組織境界を超えた統合経営が実現すれば、グループ全体で情報を共有しワンボイスで意思決定を下せるため、状況判断と対応のスピードが飛躍的に高まる。特にデジタル基盤上で財務・人事情報まで繋がっていれば、どの市場・事業に追加投資すべきか、どの拠点に有能人材を送るべきか、といった判断をリアルタイムかつ的確に行える。これはグローバル展開している企業にとって他国のライバルに先んじて動ける大きな強みであり、変化の激しい市場環境で持続的に勝ち抜くための必須条件ともいえる。

■  第二に、経営の一体性(統一性)とブレのない戦略遂行を担保できる点が挙げられる。パーパスとコアバリューが全世界の従業員に共有され、統合されたコーポレート機能の下でリソース配分がなされる体制では、企業グループ全体が同じ方向を向いて動くことになる。これは多様な国籍・文化の従業員を抱えるグローバル企業において、単一のアイデンティティとミッションで結ばれるという強力な統合効果をもたらす。結果として、各市場・各事業で戦略の一貫性が保たれ、企業ブランド価値の向上や顧客からの信頼醸成にも繋がる。極端な言い方をすれば、「どの国のオフィスでも社員が同じパーパスを語り、同じ優先順位に従って行動している」ような組織は、外部から見ても内側から見ても強固でブレがない。この一体感は、海外拠点に経営手法を横展開する際の障壁を下げ、グローバル標準の制度・プロセス定着も容易にする効果がある。その結果、ガバナンスの行き届いた統制と各現場の自律的な貢献とが両立し、巨大組織にありがちな非効率や官僚主義を抑制できる。

■  第三に、人材と知の最大活用という観点がある。グローバルで戦うには多様な才能や知見を結集することが不可欠だが、日本企業はこれまで人材の流動性やダイバーシティの面で課題が多かった。そこで人材プールをグローバル統合し、パーパスで従業員のエンゲージメントを高めることで、社内外から優秀な人材を引きつけ、かつ各人の持つ知識・スキルをグループ内で最大限に活かす土壌が整う。たとえば、ある国の成功事例やノウハウを迅速に他地域へ共有・展開したり、国境を越えてプロジェクトチームを編成して問題解決に当たるなど、知の循環が促進される。これはイノベーション創発にも寄与し、結果的に競争優位の源泉となる。また、パーパスに共感した従業員は主体性・当事者意識を持って業務に取り組むため、生産性や士気の向上が期待できる。こうした人的資本の活性化こそ、長期的に見て企業競争力の根幹を成すものであり、パーパス駆動経営の大きなメリットである。

■  第四に、資本効率と投資最適化の面での強みがある。先述の経営資源の動的配分によって、グローバルに点在する資本を高い収益機会へ機敏に振り向けることが可能となれば、グループ全体の資本効率(ROEやROICなど)は向上しやすい。投資家にとって魅力的な企業となれば、資金調達コストの低減や株価上昇といった好循環が生まれ、さらに成長のための原資を確保できる。また、事業ポートフォリオを常にパーパスとの整合性や将来性の観点で見直すため、不要な事業からの撤退やM&Aによる事業入れ替えも機敏に行える。グローバル市場では事業環境の変化が激しく、変化に対応できない企業は淘汰される運命にあるが、CX戦略により常にポートフォリオを最適化し続ける企業は環境変化への適応力で一歩先んじることができる。

以上のように、パーパスを軸とした構造的アプローチは競争力の源泉たる組織能力そのものを強化する取り組みであり、製品開発やマーケティングといった表面的な戦術以上に企業の存続と成長を左右する戦略と言える。特に日本の製造業大手は歴史的に硬直的な組織慣行や国内偏重の人事・経営手法をとってきた背景があり、それを刷新してグローバル水準の経営OSへと生まれ変わることが急務となっている。CXによる企業変革はまさにその処方箋であり、パーパスで全員のベクトルを揃え、デジタル基盤で機能を繋ぎ、データドリブンに資源を配分する経営モデルは、変化の激しい国際市場で日本企業が持続的に「稼ぐ力」を発揮するための強力な武器となるだろう。

◆ おわりに
パーパス駆動型の経営再編モデルは、一言でいえば「企業の存在意義を羅針盤として組織を再構築し、全社最適の経営を実践する」ことである。その実現にはトップのコミットメントと大胆な改革が必要だが、経産省の提唱するようにリファレンスモデルを活用しながらFinance・HR・Digitalの基幹機能を磨き上げ、グループ全体をバーチャルに一体化する取り組みは、日本企業の潜在力を引き出す大きなカギとなる。このような構造的アプローチによるCX(Corporate Transformation)は、単なる部分最適な効率化策ではなく、企業のOS(基本構造)そのものをアップデートする壮大な試みである。パーパスという不変の軸があるからこそ大胆な変革にもブレない芯が通り、変革によって得られた機動力があるからこそパーパスを具現化する戦略を迅速に展開できる。まさに「Purpose Driven」の旗印の下、企業がバラバラの木片から一本の大樹へと生まれ変わることで、激動のグローバル市場においてもしなやかかつ力強い経営が可能になるのである。このパーパス駆動型CXモデルは、日本企業が直面する構造的課題への解答であると同時に、企業本来の存在意義を再定義し未来へ繋げる経営の新たな地平を切り拓くものだと言えよう。
(つづく)Y.H

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