実践編・応用編

キャリコンサルタント実践の要領 65 | テクノファ

投稿日:

このコーナーは、テクノファキャリアコンサルタント養成講座を卒業され、現在日本全国各地で活躍しているキャリアコンサルタントの方からの近況や情報などを発信しています。今回はS.Sさんからの発信です。

「生涯発達から捉える”人生の午後”」
一昨年前、フェイスブック上で高校時代の同級生と再会した。彼は、大学を卒業した後に某一流企業に就職が決まり、これまで誰もが羨む順風満帆な人生を送ってきた。

しかし、5年前に重い病に侵され入院して以来、彼にとって人生そのものであった仕事に就けない体となってしまった。さらに、そこに追い打ちをかけるように、一流企業の社員としての彼を選んだ妻が再起不能の夫の姿に落胆し、子どもたちを連れて去ってしまったというのである。

そんな彼が、半年ほど前からネット上に姿を現さなくなった。別の友人からの情報によると、彼は現在、極度の鬱状態に陥っており、その様子を見て放っておけないと判断した親族が、彼を実家に連れ帰ったという。

そのようなわけで、何か彼に関する情報が他にないかと、同じ地元に住む同級生たちに電話をかけてみたのだが、なんとその中の一人がこれまた鬱病で寝込んでいた。聞けば、働く意欲がまったく湧かず、35年ほど続けてきた会社を辞めて静養中だという。

じつは、かく言う僕も50歳の誕生日を迎えた翌日から、自分が自分でないような言いようのない虚しさに苛まれた体験を持っている。自殺念慮に襲われ、一時的ではあったが、まったく動くことができなくなった。幸いなことに、僕の周囲には多くのカウンセラー仲間がいてくれたし、敬愛する師に頼ることができたおかげで、今もこうやって生きていられる。

日本における自殺者の数は、年間3万人前後で推移していることが知られているが、その内訳を見れば、40代後半以降の男性が圧倒的に多い。心理学者ユングは、「人生の午後」という表現で、いわゆる「中年の危機」について語っている。
多くの男性たちは、40代後半から60歳の定年に向けて徐々に残りの人生を意識し始め、先細りの未来に不安と焦りを感じつつ、何とも言えない虚しさと虚脱感に襲われることがある。

それは、これまでひたすら頑張ってきたことが、じつは全く無駄ではなかったのか・・、いまの自分に果たしてどんな価値があるのだろうか・・、または生きていることの意味が分からなくなった・・という実存的な不安感と絶望である。
子にとっての父親、親にとっての息子、妻にとっての夫、そして仕事上における役職・・これらはどれも「役割」にすぎないのだが、そういった役割に同化していた自分に突然気づき、いったい自分が何者であるのかが分からなくなってしまうのだ。

「仕事人間」という言葉があるが、役割に埋没し、自己と役割とが不明瞭なまま区別がつかないとなれば、定年退職した翌日から自分という存在に対する疑問に悩むことになるだろう。女性の場合は、子育ての終焉によって生じる「空の巣症候群」が、身体的変化としての更年期傷害を酷く悪化させる場合が多いと言われている。

いすれにしても、これらは役割と自分について曖昧なまま、区別せずに生きてきたことに起因している。キャリアを語る場合、「私は何者か?」という命題が常につきまとう。自分にとってのアイデンティティが、名刺に書いてある役職や所属に在り、それに無自覚的に依存しているならば、定年後の私は存在の拠り所を失うことになるだろう。

ところで、「還暦」の解釈のひとつに「人生の始まり」というのがあることをご存じだろうか。つまり、「還暦までに何とか大人になろう」という意味であり、六十歳に至るまでに出会う諸々の出来事や果たすべき役割は、大人になるために必要な試練だというのである。

人は、社会人や子育てを務めた経験から多くのことを学ぶ。還暦に至るまではあくまでも修養期間でしかなく、還暦を過ぎてようやく一人前の大人として初の人生が始まるということらしい。となれば、その準備期間でしかない還暦前に絶望するなどということが、いかに不自然なことであり、未熟な証であるかをじっくりと再考してみる必要があるだろう。

生涯発達という言葉が一般化して久しいが、そもそも「第二の人生」などという捉え方自体に問題があるのかもしれないし、社会人である自分が既に完成された大人であるという認識は、誤認というより先に、単なる奢りでしかないのかもしれない。

私は何者だろう?
いま、何を為そうとしているのだろう?

「真の大人」になるために、いまいちど自分に問うてみる必要があるのではないだろうか。
(つづく)K.I

-実践編・応用編

執筆者:

関連記事

キャリアコンサルタント養成講座6 I テクノファ

「職業訓練校におけるキャリアコンサルティング」 前回では若厚生労働省が推進する若者就労支援の1つ、として「地域若者サポートステーション」の内容とキャリアコンサルタントの仕事についてご紹介させていただきました。 今回は職業訓練校におけるキャリアコンサルタントの仕事内容について触れてみたいと思います。職業訓練校には「国・都道府県の運営する職業訓練校」と「民間が運営する職業訓練校」がありますが、公的職業訓練は、無料で就職に役立つ知識・スキルを身に着ける公的制度であり様々な職業に就くために必要な訓練プログラムが用意されています。 Webで「職業訓練」検索をすると、詳細な内容が紹介されており、失業保険を …

キャリアコンサルタント実践の要領 85 | テクノファ

前回に続き、キャリアコンサルティング協議会の、キャリアコンサルタントの実践力強化に関する調査研究事業報告書の、組織視点を組み込んだキャリアコンサルタントの役割り拡大に対応するスーパービジョンについて説明します。 (3) 長期化するライフキャリア支援では 長いライフキャリアの中で、クライアントは様々な人生経験を通して、キャリア開発・キャリア形成を実践している。思い通りになる場合も、思い通りにはなかなかならない時もあり、様々な人生経験が存在している。そのプロセスの中で、私たちは節目、 トランジションを通して、さらなる成長を繰り返している。成長には連続的な成長と非連続的な成長があり、連続的な成長はス …

キャリアコンサルタント実践の要領 114 | テクノファ

キャリアコンサルティングの社会的意義 キャリアコンサルティングを学ぶ前提 キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティングを学ぼうとするとき、日本の産業社会においてはキャリアという言葉も概念も、つい最近まで正しく存在していなかったという点をふまえておかなければならない。キャリアコンサルティングはキャリア開発の支援活動であり、キャリア開発のためのコンサルティングであるが、キャリアコンサルティングを学ぶということは単にキャリアコンサルティングを技法としてとらえるのではなく、キャリアコンサルタントが果たさなければならない役割など、キャリアコンサルティングの前提や背景、あるいは周辺についても正しく理解 …

キャリアコンサルタント実践の要領 126 | テクノファ

新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。ここでは厚生労働省の白書からキャリアコンサルタントが知っておくべき情報をお伝えします。これからキャリアコンサルタント養成講座を受けようとする方、キャリアコンサルタント国家試験を受けようとする方、キャリアコンサルタント技能試験にチャレンジする方にもこのキャリアコンサルタント知恵袋を読んでいただきたいと思います。 新型コロナウいますス感染 …

キャリコンサルタント実践の要領 27 I テクノファ

今回はキャリコンサルタントの活動において、相談実施の包括的な推進と効果的な実施能力について説明します。 ■キャリコンサルタントがひととおりの相談実施のためのスキルを理解したうえで求められる「より効果的に進めるための能力」について説明します。キャリアに関わる教育・普及活動をはじめ5つのポイントがあります。 ■1.キャリアに関する教育・普及活動 キャリコンサルタントは、個人や組織だけでなく、社会一般に対しても、さまざまな活動を通じてキャリア開発・形成の重要性やその支援活動としてのキャリアコンサルティングの重要性、必要性などについて教育・普及することが求められます。先に説明したように、日本の社会では …

2021年12月
« 11月    
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031